37. 3Years Later(3年後)Day-4 モーニングサービス
まどろむマリーンの鼻をくすぐるのはコーヒーの香り
薄目を開けた彼女はぼんやりと天井を見ながら記憶を辿った
>朝ごはん作りにいくよ
昨夜スマホに連絡が入っていたが、たしか『いらない』と返したはずだ
しかし、階下のキッチンからは鼻歌が聞こえてくる
(鼻歌でもきれいな声なのね)
仕方なく起き上がり身支度を始めることにした
(めんどくさいわ、だからいらないって言ったのに)
ずっと年下の、しかも絶賛くどかれ中の男に「オバサンになったなぁ」なんて意地でも思われたくなかった
だからと言って、朝から気合入れてると思われるのは問題外
シャワーを浴びて髪をブロー、さりげなくこざっぱりとしていて、男を誘ってるなんて絶対に思われない服を考える(前はTシャツにショーパンだったから…)そこで気が付いた
(チビのウィンに取り繕ってどうするのよ、いつもと同じでいいじゃない)
「おはよう、マリーン」
店のキッチンで腕まくりした白いシャツのウィンが、バリスタのように気取った手付きでコーヒーを淹れていた
テーブルにはハムエッグとサラダとトーストが並んでいる
「おはよう、ステキな朝ごはんね」
「ルームサービスしても良かったのに」
言ってウィンは恭しく椅子を引いた
(どこで覚えてくるんだか)
「ジェイがデートしてもいいってさ」
「嘘でしょ」
「ホントだよ、寝室に入るのはNGだって」
「それだけ? ずいぶんと寛大ね」
「後でいっしょにお見舞いに行こう
病院では僕はマリーンの親戚ってことになってるけど、ジェイの恋人だと思われてるみたいで笑えるよ」
「それじゃ誤解を解いてあげないと可哀想ね」
(この子が母親似だとすると案外誤解でもないのかもしれないけど)
「お荷物でーす」
食事の後片付けをしていると、店の入口から声が掛かった
「僕が行く」
出ようとしたマリーンを制してウィンが入口へ向かった
「やっぱりそうだ、僕が頼んだ荷物だよ」
「何を頼んだの?」
ウィンはダンボールのガムテを手早く剥がしだした
「マリーンが僕に服をたくさん買ってくれたことあったよね」
「あの時は好みがわからなかったから買いすぎちゃった」
「すごく嬉しかった、誰かに服の心配なんてしてもらったことなかったもの
だから今日は僕がマリーンにプレゼントするよ」
ウィンはダンボールの中に手を突っ込むと、マジシャンがマントを翻すかのようにワンピースを引っ張り出した
「あらっ!」
マリーンが両手で口元を覆って小さく叫んだのを見て、自慢げに彼女の後ろから手を回し胸元にあてがった
「すごいわ、とっても素敵、でもこれってお高いんじゃ…」
「気にしなくていいよ、この前ちょっと手柄をたててボーナス貰ったんだ」
(まったくこの子ときたら)
ショーウィンドウで見かけるだけでため息が出るようなハイブランドのドレスが、無造作にダンボールから出てくる
こんなことをされて喜ばない女はいない
(ジェイのために爪の垢でももらっとこうかしら)




