36. 3Years Later(3年後)Day-3 セキュリティ
ウィンは潮の匂いのする柔らかな風に心地よさげに吹かれている
糊の効いた白いシャツにネイビーのジャケットとデニムを合わせた清潔感のある服装は、病院という場所柄への配慮だろう
マリーンはホストみたいに胡散臭いと言っていたが、ジェイは自分の息子にしては上出来だと思っていた
「ずいぶん立派になったな、会社勤めでもしてるのか?」
「うん、日本で言うと情報分析の会社ってとこかな」
言葉を濁した言い方は気になったが、それは知りたいことではない
「訊いておきたいことがある」
「DNA鑑定でもする?」
「そんなことはどうでもいい、おまえがサラの子なら俺の子だ」
ウィンは目元だけで笑い、変わらないねと呟いた
「おまえ最初に俺の店に流れ着いたとき何も言わなかったが、俺の素性を知ってのうえってことは偶然じゃねえよな」
「流れ着いたんじゃない、ジェイに拾ってもらうための小芝居さ」
「俺のことを調べて、密入国でもしたってか? おめえみたいなガキができることかよ
クスリも銃もずいぶん器用に扱うじゃねえか」
ウィンは首をかしげるとゆっくりとジェイの後ろに回った
甘える猫のように顎を肩に乗せたが、その顔から笑みは消えていた
「僕のこと、心配してくれてるんだね
でも日本の常識を当てはめないで欲しい、僕らにはそれなりのやり方がある」
「それくらいのことはなんでもない組織なんだな」
「確かに僕はある組織で働いてるけど、ゲリラやマフィアなんかじゃないから安心して、母さんに恥じるようなことはしない
むしろ逆だよ」
「マフィアに追われる立場ってことか? それで俺はこんなことになってんのか?」
ジェイは包帯で巻かれた左手を上げた
「ごめん、僕の実家みたいなところと勘違いされてるようでさ、やつらが動く前になんとかするはずだったんだけど」
言い終わる前にジェイは右手が素早く動きウィンの襟元を掴んだ
「おいっ! どうすんだよ、マリーンも危ないんじゃないのか?」
「ちょっ、ギブギブ」
奥襟を掴む手に力が入り、ウィンは首が閉まってむせたがジェイは放さない
「うるせえ、答えろ!」
「待っててば、遠目にはイチャついてるように見えるよ」
背後のシーツの影にまだ看護師たちの姿が見え隠れしている
忌々しそうに舌打ちをしてジェイは手を放した
「さすが元ボクサーだね、おじさんでも力強いや」
ウィンは車椅子の調子を見るかのように傍らに跪いた、風に乗って声が漏れるのを恐れたらしい
「いま警察に頼めないか佐久田刑事に聞いてる」
「佐久田さんが? おまえいつの間に」
「僕らの会社は日本の警察とも取引あるんだよ、アジア圏で詐欺グループが捕まってるだろ、ああいう奴らの情報提供を頼まれてる」
「警察が直に手を出せないところか」
「そういうこと
ただ、今はまだ事件が起きてないから警察は動けない、せいぜい見回りを増やすくらいで
だから佐久田さんに頼んでるんだけど、もう少し時間がかかるって」
「この疫病神! マリーンはどうすんだよ、俺はこんなで」
「それは僕が」
「だめだ!」




