35. 3Years Later(3年後)Day-3 海に吹く風
「まったく、情けねえことになっちまったな」
青空が抜ける病院の屋上でぼやいたのはジェイ
彼の車椅子を押しているのは場違いなほど目立つ風貌のウィンだった
「ガキに介護される羽目になるとはな
マリーンの親戚ってことにするから、誰かに聞かれたらそう言っとけよ」
干してあるシーツやタオルの影から看護師たちがのぞき見してクスクス笑っている
ウィンは彼女たちにウィンクし、きゃっと声が上がったのを聞いて笑みを返した
手足を包帯で巻かれたジェイは"ちっ"と舌打ちをしたがどうすることもできない
「おい、聞かれるとまずいから見通しのいい端っこまで行ってくれ」
「Yes, Daddy」
冗談にならないジョークにジェイは苦笑いをした
人の気配がない角まで行くと車椅子を海が見晴らせる方へ向けストッパーを掛ける
背後の低い山からオフショアの風が吹き抜けていたが波は穏やかだった
(風がぬるいなあ、いい街だ、なんて違うんだろう)
彼の育ったジャングルの熱気が、まるで違う惑星のことのように思えた
「僕を見ても驚かなかったね、マリーンから聞いてた?」
「ああ、話は聞いた
ぶっ飛ばされただろ」
「うん、すごい本格的なパンチだった」
ウィンは笑いながら右の頬を撫でた、まだ少し腫れている
「ボクシングジムに通ってんだ、ダイエットと護身用と、おまえをぶん殴るためにな」
「それは光栄だね、タバコやめたの?」
ウィンはフェンスに寄りかかってジェイを見つめた
「あれきり吸ってない
おまえ、本当にサラに似てきたな」
風に吹かれるウィンの顔はもう少女に間違うことはないが、母親の面影がより濃くなっていた
それは今もなおジェイに若い日の拙さと失敗を思い起こさせる
「今ならすぐに母さんを思い出した?」
「忘れてたわけじゃないんだがな、あそこまでする必要あったか?」
「僕も意地になってたから…やりすぎたと思ってる
ごめんなさい」
しおらしく謝ったその言葉を心から言ってるとは思えなかったが、ジェイは自分がしたことを考えるとウィンを責めることはできなかった
「サラを幸せにできなくてすまない」
「いいよ、母さんを命がけで助けてくれたのは本当だし
ずっと聞かされてたんだ、正義のヒーローみたいだったって、どんだけカッコイイんだろうってすげー期待してた」
「悪かったな、ただのおっさんで
それでも、もうちょっと早くサラのことを言ってくれれば」
「僕がジェイの息子だって言ったら、マリーンに捨てられちゃってたかもね
隠し子だなんてサイテーじゃないか」
「隠し子って、俺は知らなかったんだから」
「マリーンが許してくれたら、今度は僕を養子にしようって言い出すよね
そしたらもう絶対絶命、弟どころか息子なんて最悪の展開だ」
「おまえ、本気でマリーンとどうにかなると思ってたのか」
「ずっと本気だって言ってたケド」
頬を膨らませたウィンは不意に子供の顔になる
(本当にコイツが…そうなのか?)
ジェイにはもうひとつ確かめねばならないことがあった




