34. 3Years Later(3年後)Day-2 甘くないパンケーキ
マリーンが吹き出すのと同時にウィンもゲラゲラと笑い出した
「良かった、いまのギャグがすべったらどうしようかと思ったよ」
(こういう男が一番嫌いだったのに)
美男で口が上手くて調子いい
遊びの癖に平気で「アイシテル」なんて言える
3年経って何もなかったようにヘラヘラ笑って会いに来る
(それでも私はどこかでそれを待っていた)
「晩御飯はこれからでしょ、僕が作るから一緒に食べよ」
「あなた作れるの?」
「ジェイに教わったし、そうだパンケーキだけ焼いて、甘くないやつ」
Tシャツとショートパンツに着替えたマリーンが店のキッチンに降りていくと、ウィンは懐かしがってあちこちの扉を開けていた
「冷蔵庫に魚があるからさ、傷まないうちにアクアパッツァにしちゃおうか
あとはサラダを作ってパンケーキにベーコンを添えよう」
「シェフに任せるわ」
どうせ店はしばらく休みにするしかないのだから食材は使い切るつもりだ
ウィンに魚をさばくのをまかせ、マリーンは大きなボウルで卵白を泡立て始めた
「パンケーキのコツはなあに?」
後ろからウィンが覗き込んだ
「メレンゲをとにかくふわっふわにすること、ここは手を抜いちゃダメ」
「わぁ、すごいほんとに雲みたい」
言いながらマリーンの腰に手を回してくるので、マリーンは「こらっ」とスナップを利かせて泡だて器を顔に向けて振り下ろす
ウィンの顔中にメレンゲの雫が飛び散って水玉模様になりマリーンは笑いが堪えられなかった
「子供のフリをするのは通用しないわよ」
「ちぇ~」と懲りない様子でウィンはタオルで顔を拭いている
「コロンを付けるようになったのね」
「大人のたしなみだよ、気になるなら洗ってくる」
「いいえ、いい香りだわ」
ウィンがしてやったりと笑うのが目の端に入り、少しだけイラッとした
マリーンが好きな香りなのを知っていたのだ
二人はアクアパッツァをはさんでテーブルに座り、夜風に吹かれながらパンケーキを頬張った
ウィンの記憶の中と同じ、ナイフが皿に届くまでたっぷり3秒かかるけれど、口に入れると1秒で溶けてしまうなめらかさ
子供の頃はホイップを鼻に付けて食べていたのが、優雅にナイフとフォークで切り分けて口に運んでいる
「なんだか不思議な気分ね、すごく歳を取って孫が遊びに来たって感じ」
「マリーンは全然変わってないよ、ていうか僕が想像してたより100倍も綺麗だ」
「はいはい、ありがと」
マリーンが真に受けないのも仕方ない、20代の女にとって3年はことさらに長い
「ねぇ、僕とデートしてよ」
「ええっ?」
(このコはさっき殴られたのを忘れちゃったのかしら)
「僕はもうマリーンより背が高くなったし、ちゃんと仕事しておカネも稼いでるんだ、子供なんて言わせないよ」
「その前にジェイに会ってきて」
「え~、会わなきゃだめ?」
ウィンはいかにも気まずそうに言ったがマリーンは首を横に振った
「だめよ、ちゃんと話さなきゃ
ジェイはずっと気に病んでたの、あなたを撃ってしまったんじゃないかって」
「佐久田さんに伝言頼んだつもりだけど」
「タイでウィンって子供がウクレレ弾いてたから、たぶんあの子じゃないかとは聞いたけど、そんなの伝言にならないわ」
「じゃあ、ジェイと話してオッケーもらったらデートしてくれるよね」
マリーンはとりあえずという顔で頷いた
そう、とりあえずだ
ジェイが許すはずはない




