32. 3 Years Later(3年後)Day-2 ピーターパン
夕焼けが広がる海は強く光を返し、すでに夏の予感を見せていた
入院することになったジェイの見舞いから戻ると、マリーンは汗ばんだ体にシャワーを浴び、バスローブを引っ掛けて冷蔵庫からビールを取り出してリビングへと向かった
ビールのタブを開けながら海側の窓を見上げた
眩しく差し込むはずの夕陽を遮る影がある
目を細めてその影をしばらく見つめると「おや、ピーターパンが来た」と少し首を傾けて微笑みかけた
「マリーン、久しぶり
会いたかったよ」
記憶の中より少し低い声で返事があった
マリーンはビールの缶をテーブルに置くとバスローブのベルトを締め直し、首にかけていたタオルを取ってもじもじと捻りながら左手に巻く
微笑みはそのままに、窓枠からひらりと降りてきたその影に向かってすたすたと近付いてゆき、右手の拳を真っ直ぐに突き出した
「おっと」
その拳を右掌で受けた瞬間、左フックが飛んできて右頬にヒット
「いたっ、痛いよマリーン」
床にひっくり返った男を見下ろしてマリーンは仁王立ちになった
「はぁぁあっ?
よくもまぁ私の前に顔を出せたものね!」
刺々しさを込めたつもりだったが、相手は懐かしそうに笑顔さえ浮かべている
頬を押さえて床から見上げているのはウィンだった
背が高くなり、髪を切り、身なりもずいぶん良くなっていた
「ごめん、ほんとに悪かったと思ってる、ちょっとしたドッキリのつもりだったんだ」
「ドッキリ? あれからどんだけ大変だったと思ってるのよ!」
「本当にすまなかった、まさかあんなことになるなんて…あの、子供のことは本当に申し訳ないと」
「あれはあのせいじゃないわよ、別に撃たれたわけじゃないし、私の不注意でもあるから
問題はジェイよ、せっかくまともになったと思ったのにぶり返しちゃって、また中毒のリハビリに通う羽目になったのよ」
「そんなにひどいと思わなかったんだ…」
「すっかり自信なくしちゃって、もう別れようとかめんどくさいこと言いだして」
「えっ、別れたの?」
嬉しそうに聞き返したウィンをマリーンは睨み返した
「そんな状態でほっとけるわけないでしょ
とりあえずリハビリが終わるまでは一緒にいるからって、やっと落ち着いたと思ったら今度は交通事故で」
「事故?」
「昨日、轢き逃げされたの…ちょっと」
「え?」
「まさか、あんたじゃないでしょうねっ」
「そんなヒドイことしないよぉ
でも良かった、重症じゃないんだね」
「どうして、わかるのよ」
「だって、マリーンがここにいるもの」
なるほどね、とマリーンは頷いた
確かに重症だったら付き添うはずだ、ウィンはそういうことに気が回るコだったなと思い出した
「手足を骨折したけど安静にしてろって、あとは念のため検査で1週間くらい入院だって」
マリーンは溜息をつきながらテーブルのビールを手に取った
「それで、何しに来たの?」
「もちろんマリーンに会いに、僕、大人になったでしょ」
言って3年前よりさらに怪しげな笑みを浮かべた
「そうね、あんなに可愛かったのにすっかり胡散臭くなっちゃって」
「男前になったってみんな褒めてくれるんだけど」
「ふん、歌舞伎町のホストみたい」
ウィンはぷぅっと膨れて下唇を突き出した
(まいったなぁ、やっぱり可愛い)
心の揺らぎ、ジェイならば気付く小さな揺れを知られまいと目をそらし、マリーンはソファに座ってビールをあおった




