31. 3 Years Later(3年後)Day-1 アクシデント
その5日前
「姐さん、お疲れっす」
今はもう金髪ではなくなったヒロが病院裏の駐車場に車を停めた
「姐さんはやめてよ」
居心地悪そうにマリーンが笑うと、ヒロはペコペコと頭を下げながらドアを開けた
「すんません」
「せっかくタクシーの運転手なんていい仕事に就けたんだから、変な誤解されないようにね」
「ジェイ、さんにはお世話になりやした」
ヨシキの舎弟だったヒロは半グレから足を洗っていた
それは簡単なことではなかったが、ジェイの口添えがあったらしい
「ジェイ、さんって本気出したらヨシキさんより強かったらしいすね」
「ホントかしら」
「ボクシングやってて、怪我しなきゃプロデビューもあったかもってヨシキさんが言ってました」
「若い頃はね」
マリーンは曖昧な笑顔を浮かべた
元カレと今カレの話はかなりバツが悪い、とくに若いヒロに二人を比べられるのは返事に困る
しかし意外なようだがヨシキとジェイはそれほど仲が悪かったわけではない
マリーンを取り合って決闘したということになっているが、実際はジェイが一方的に殴られただけだった
「あんときだって最後の一発でジェイ、さんが言ったんですって『これ以上やると2年じゃ出られなくなるからやめとけ』って」
「かっこつけてたけどあれで2ヵ月入院したんだから」
ここらのワル仲間の間では伝説の一戦らしいが、マリーンにとっては照れ臭い昔話だ
「ヨシキさんの猛攻をしのぎ切っただけでもすごいっすよ、あれ?」
駐車場から病院の入口へ歩く途中で、目の前の国道に立っている人影を見つけた
「あら、ジェイだわ
今日は早く終わったのね」
「今日で最後なんすよね」
「ええ、これでリハビリ終了…フラッシュバックがなければ年に1回の検診でいいそうよ」
マリーンが手を振りながら声を掛けると、ジェイも振り返って「よぉっ」と答えて手を振った
その時、遠くでキュルルッとタイヤのスリップ音が聞こえた
ジェイが国道の方を振り返ると、猛スピードでシルバーのセダンが走ってくるのが見え、あっという間に目の前に突っ込んでくる
「きゃああ!」
マリーンの悲鳴が上がるのと同時に、ジェイの体が宙に浮き地面に転がった
「ジェイ!」「ジェイ、さん」
慌ててマリーンとヒロが駆け寄るとジェイは苦し気な呼吸をしてうつ伏せに倒れていた
車はとっくに見えなくなっている
「いやぁ、しっかりして!」
「ジェイ、さん、すぐ医者を呼んできます」
「てめぇ、ヒロか」
ジェイが掠れた声で訊いてきた
「はい」
「"さん"の前に間を入れるんじゃねぇ」
「さーせん!」
一声謝って、ヒロは病院に向かって駆け出した




