22. かくしごと
マリーンはまたパンケーキを焼くようになり、表向き何かが変わることはなかった
マリーンの踊りが少しばかり色っぽくなったと評判になったくらいで
店の片付けが終わり、バルコニーでタバコを吸っているジェイの隣に、ふらりとウィンが現れた
彼もタバコをくわえている
「間抜けな話だな
タバコの数が合わないのはおまえのせいか
気付かなかったよ」
ウィンは顔を傾けてジェイから火を移し取ったが、ほとんど煙を吸わずふわっとふかしているだけだ
(なんだ、ガキの吸い方だな)
ジェイは少し安心した
「ジェイは引き算が苦手なんだね」
ウィンがいじってきたのでジェイは左の拳の背で額を小突く
ニヤッと笑う顔はやはりまだ幼かった
「マリーンと仲直りしたんだ、残念」
「元はと言えばおまえのせいだろうが」
「変な誤解するからだよ、まだ何もしてなかったのに」
(まだって)
「僕が子供じゃなかったら絶対、落とせた」
「子供だからベッドに入れたんだ
マリーンはああ見えて保守的で信心深い、子供には手を出さねえよ」
「僕の方が上手いのに」
「大人なめんな、体だけの問題じゃねえんだ」
「そんなの知らないよ、誰も教えてくれなかった」
その言葉はウィンのすべてを表しているように思えた
「まだ遅くねえ、俺らが教える
弟でいいだろ」
「それさぁ、僕には一個もいいことないじゃないか
学校に行かされて、ベッドでおあずけくらって」
「そこを我慢できるのが大人なんだと」
ウィンは返事の代わりにフンッと鼻を鳴らした
「ねぇ、ジェイ」
「なんだ?」
「どうやってマリーンとくっついたの?
あのヨシキってゴリラが元カレだったんでしょ」
「知ってたのか
もちろん正々堂々と決闘したんだ」
「すげぇ」
「一方的にボコられたけどな」
「な~んだ」
「俺は病院送り、ヨシキは傷害罪で2度目の懲役喰らった
おかげでマリーンは自由になったってわけだ」
「へぇ、取り返しに来なかったの?」
「あいつは自分の女に平気でマリファナ使うようなヤツだし、女を金蔓くらいにしか思わないクソだ
マリーンも相当追い詰められてそれこそ風俗に売られそうだったんだ」
「そんなヤツなのによく見逃したね」
「もうマリーンには飽きたって言ってたけど、取られたのを認めたくなかったんだろ
それとも本当にマリーンを幸せにしてやりたいと思ったのかもな」
「1ミリくらいまともなとこが残ってたんだ」
「おまえが言うか
ヨシキんとこからクスリをくすねただろ」
ジェイはタバコをもみ消して振り返った
ウィンはその言葉を聞きながらまだ子供のような笑顔を浮かべている
「ヨシキをやったのはおまえか?」
「まさか、あんなデカいやつ
どうして僕がやったと思うの?」
「おまえが子供じゃないと仮定するといろいろと辻褄が合う」
「仮定すればね、でも僕は見ての通り子供だ」
ジェイはウィンの口からタバコを取り上げた
「もうちっと子供らしくしろや」
ヒロには探りを入れると言ったが、いまは無くなった銃のことは言わなかった
もしウィンが持っているとしても目的がわからない
何よりマリーンを巻き込むことになるのを恐れた
「おまえがアヴェ・マリアを歌うのはなんの冗談だ?」
「僕を育ててくれた女の人たちはみんな歌ってたよ
いつか神様が救ってくださるって」
「そういうことか」
「バカみたいだね」
日没は確実に早くなっていた
夏は終わろうとしている




