19. 1ピース
8月下旬、猛暑日が続いていた
ジェイは日が高くなる前にボードのメンテをしようと、少しばかり早めに階下のボード置き場に降りて行った
好きな日課だが気温が30℃を超えてくると苦行になってしまうので、眠くてもできるだけ早い時間帯にすませることにしている
しばらくするとジャリジャリという足音が背後から聞こえてきた
(あれ? あいつは)
振り返るとおよそ朝の空気に似合わない、金髪アロハの男が坂道を下りてくる
(えーっと、確かヨシキの舎弟のヒロだったっけ
何の用だ?)
「ジェイ、さん」
( "さん" のとこに間を入れるなよ)
「バイトのチビいますか?」
「もう出かけたぞ
最近は張り切って海でナンパしまくってる
アイツになんか用か?」
ジェイは作業の手を止めずに言った
「手癖が悪いのは知ってますよね」
「ああ、あんまり育ちは良くねえな
俺が言えやしないけど
なんか盗られたのか?」
「ヨシキさんが財布落としたことがあって、アイツに掏られたって言ってたんすよ」
「間抜けな野郎だ」
「そんとき、財布に入れてたハッパを盗られたって
財布はマリーンさんが俺に届けてくれたんすけど、ハッパなんて入ってなくて」
「良かったな、マリーンが気を利かしてくれて
交番だと取りに行けねえだろ」
「女とヤルときに使うヤツで量は少ないんすけど、マリーンさんが盗るわけないからたぶんあのチビだろうって」
「なるほどな」
(あれ? カイラが持ってたマリファナってもしかして)
ジェイはパズルのピースが一つ嵌った気がした
「おいおい、それで取り返そうとしたヨシキが返り討ちにあったとか言うなよ」
「まさか、ヨシキさんをやったヤツはわかってます
あんとき銃の取引があって、その相手が組の人だったんす」
「あっぶねえことしやがる」
「ただ日本海から運ぶだけでそんなに危ない仕事じゃないんす」
(組が絡んだとこで危ねぇんだよ)
「俺はまだ関わらせてもらってないんすけど、現場でブツの数が合わなくて揉めたらしいんすよ。そんで、ヨシキさんが他の組に横流ししたんじゃって疑われて」
「なにやってんだ」
ジェイはさすがに呆れて作業の手が止まった
どう考えたってそんな下手打てば報復されても仕方ない、何故あらかじめ確認しないのか
「でも、ヨシキさんがそんなことするわけないんで、もしかしてあのチビが抜いたんじゃねえかなって」
「銃はちゃんと隠してたんだろ?」
「そうなんすけど、あの頃ってアイツが俺らに言ってきてたんすよ、薬の売人なんかやめろって
相手にはしなかったすけど、そんとき俺らをつけてたのかも…」
「そんで、アイツに確かめようとしてんのか?」
「まぁ、いちおう」
「ふぅん」
ジェイはポリポリと耳の後ろを掻きながら聞いていたが、普通ならウィンのような子供ができることとは思えない話だ
普通ならばだが
「やめとけ」
ヒロの話を聞いてジェイの出した答はこれだった
「なんでですか?」
「その話が本当ならアイツは銃を持ってることになる、下手に問い詰めたらお前がやられるぞ」
「う、それは」
「もし持ってればの話だけどな
アイツの部屋に銃があったらすぐ気が付くはずだ、マリーンが毎日掃除してんだから」
「確かにここには置かないすよね」
「いまさら銃が見つかってもヨシキは帰らない
おまえはもう、足を洗え」
「な、なんでそんな」
「おまえはこういうのには向かねえよ
死んだヨシキのために動いてるなんて優しすぎんだろ」
※イチピースと読みます




