18. ランウェイ
マリーンはパンケーキを焼かなくなった
それどころかコーヒーも淹れてくれない
ウィンは早々と謝ったおかげで3日後にはパンケーキにありつくことができた
ジェイは不機嫌な顔で毎朝ハムエッグを作っていたが、ウィンのパンケーキを横取りしようとして小競り合いをするのをマリーンは呆れた顔で見ていた
いつもならすぐに白旗を上げるのだが、今回はすっかり意固地になっている
「早く謝ればいいのに、勝ち目はないよ」
ウィンにまでからかわれる始末だ
「うるせえ」
「マリーン、今日のワンピすごく似合うね、散歩に行こうよ」
「偉いわ、お洒落するとちゃんと褒めてくれる」
ウィンは不貞腐れているジェイに舌を出すとマリーンを連れ出した
いつもの散歩コース、朝日の差す堤防の上を並んで歩き出す
ウィンはレトリバーのようにまとわりついてマリーンの腰に手を回した
「ほんとに綺麗だ、モデルさんみたい!」
「それは言い過ぎ」
「ねぇねぇ、僕たち恋人同士に見えるかな」
「よくて姉弟、下手すると親子かな」
「ちぇ、もっと背があればなぁ」
ウィンはまだマリーンの肩ほどしかない
「身長のせいじゃないわ」
ぴょんぴょんと飛び跳ねるウィンの頭を撫でながら言った
「はぁ、また子供扱いだ」
マリーンはほっと息をついて堤防に腰かけるとウィンを隣に座らせた
「ね、ちゃんとした暮らしをする気はない?」
「ちゃんとした、暮らし」
「私たち、家族になるのはどうかなと思って」
「僕は死んだ弟の代わり?」
「いいえ、あなたは誰かの代わりなんかじゃないわ」
マリーンはウィンの手を取ってその甲をぽんぽんと叩いた
「あなたを見ていると危なっかしくて
年相応の楽しみってあるでしょ、例えば学校へ行ったり、友達を作ったり」
「学校、友達
僕がそんな暮らし出来ると思う?」
「できるわよ、ほら、ビーチバレーは楽しかったでしょ
無理にとは言わないけど、私たちがそういうことも考えてるって覚えていて欲しい」
「私たちってジェイもそう思ってるってこと?」
「ええ、賛成してくれてる」
「そっか」
ウィンはにっこりと無邪気な笑顔を浮かべて立ち上がった
「わかった
でも、僕は家族よりマリーンの恋人になりたい」
そう言うと、飛び立つ鳩の素早さで駆け出して行った
麦わら帽子を飛ばしてあっという間に堤防の端へと遠ざかってゆく
振り返って手を振り叫んだ
「愛してるよマリーン!」
(可愛いなぁ
でも違うよ、こんなのは愛じゃない)
忘れていたくすぐったさは心地いい、しかしマリーンは遠ざかっていく背中を追わなかった
そのときウィンは笑っていた
肩を震わせ、声が漏れないように口を押えて笑い続けた
誰にも聞こえなかったけれど、低く引き攣るような笑い声は子供のものとは思えない獣じみた声だった




