13. 海に降る雨⭐️
「佐久田さん、まさか俺のせいじゃないですよね」
佐久田はジェイが世話になったことのある刑事で、そのときの容疑も同じ薬物だった
ジェイは捜査協力したため執行猶予が付き立ち直ったが、同時に検挙されたヨシキは懲役刑を喰らっている
そんな過去からカイラが目を付けられたなら彼女に申し訳ない話だ
「いや、そうじゃねえよ」
佐久田の話によると、匿名の通報いわゆるタレコミがあってカイラの持ち物を調べたところ、ごく少量だがマリファナが出てきたという
「あの人、そんな風には見えないんすけど」
「まぁ、俺もそう思う
マリファナは合法な国もあるから、外国人がうっかり持ち込んじまうことはあるわな
検査しても出そうにないし、持ってた量も少ないから逮捕まではいかんよ」
「そうか、よかった」
「でも、国内退去はやむをえんだろうなあ」
「そうなんすか?」
「おまえだって知ってるだろ
例え間違いやイタズラでも薬物はマズイ
外国籍だし、しばらく日本には入れなくなるな
マリーンの親戚ならうまく説明してやってくれ」
結局、カイラの他の持ち物からは何も出てこなかったし検査も陰性だったので、早々に身柄は解放されとくにお咎めはなかった
「まったく、失礼しちゃうわ!」
出国命令を待たず、憤慨したカイラは自分から荷物をまとめて帰国してしまった
マリーンはおろおろして、私は信じてるからと繰り返していたが、カイラはマリーンを疑っているようだった
ジェイはマリーンを慰めていたが、ひとつだけ気になることがあった
この騒動の間、ウィンがほとんど家に居つかなかったことだ
まるで警察が来るのがわかっていたかのように
また3人の時間が戻ってきた
店は雨で開店休業状態なことが多くなった
カネをせびられてはいても、やはり身内がいなくなるのは寂しいものなのか、窓辺で海を眺めるマリーンは所在なさげに見えた
「マリーン、コーヒー淹れたよ」
「ありがと、ウィン」
そんな寂しさが伝わるのか、ウィンは猫のように寄り添って座る
「ねぇ、マリーン
死んじゃった弟って生きてたらいくつくらいなの?」
「7つ下だったわ」
「じゃあ、僕くらいだね」
マリーンは吹き出した
「私はあなたより10コは上、もう少しオバサンよ」
「マリーンはオバサンじゃない」
囁いてマリーンにキスをした
以前は唐突にキスしてくるウィンに戸惑ったが、いまは挨拶程度だと流すことにしている
しかし、このときは
とても子供とは思えない舌使いに驚きながら、彼女は少しだけ待ってみた
やがて唇を離しウィンのおでこを人差し指で小突くと、よくできましたと頭をなでた
「やっぱり僕は弟にしか思えない?」
マリーンは頷いた
彼女もこの不思議な子供に惹かれているのは気付いている、それでも彼が期待するような答を出す気はない
その気持ちは変わらなかった
「でも、ちょっとは感じてくれた?」
「それは体が勝手に反応するだけ
寒いときに鳥肌が立つようなものよ」
ウィンはがっくりとうなだれた
「鳥肌かぁ…」
「私がジェイと付き合ったのはキスが上手いからじゃないわ
どちらかというと下手くそだし」
「えー、そうなの?」
「キスの上手い男は嫌いよ、遊んでいるのが丸わかり」
「それでジェイが好きなんだ」
二人はくすくすと笑いだした
いつものようにジェイはキッチンでデミソースをかき混ぜながら、楽しそうに笑う二人を見守っていた
まさか、自分のことをディスられているとは想像もしていなかったけれど
雨が降っていた
静かに静かに海に降っていた




