12. 昔話
マリーンの叔母カイラは日本語が達者なうえ、気さくで明るい性格で客たちともよく馴染み、うまくやっているように見えた
滞在が長くなったこと以外はとくに問題はないのだが、ときどきマリーンとこそこそ話しているのがウィンは気になっていた、そして
あるとき、マリーンがけっこうな額の札束を渡しているのを見てしまった
「ありがと、マリーン
あのことは誰にも話してないからね」
(あいつ、マリーンを脅しているのか?)
「マリーン」
カイラが去った後、ウィンはマリーンに声をかけた
「ああウィン、なんでもないの
叔母さんがちょっとおカネに困っているんだって
少しの間、用立てただけだから」
「ふうん」
ウィンはマリーンを見つめた
「あのことって?」
「大したことじゃないのよ」
そう言われたウィンだがマリーンからじっと目をそらさない
マリーンは仕方なく話し始めた
「昔のことよ、ジェイも知ってる
子供の頃ね、うちが火事になっちゃったの
それが私のせいだったのよ、花火の後始末が悪くて…」
「それはマリーンが悪いわけじゃ」
「そのとき小さかった弟が死んじゃったの
それ以来、両親がうまくいかなくなっちゃって、とうとう別れることになって家族がバラバラになっちゃたの」
「ごめん、余計なこと訊いて」
「叔母さんは、おカネが欲しいときになんとなくその話をほのめかすの
でも、小さかった私や他の兄弟がお世話になったのは本当のことよ、いまだって感謝してる
別に脅されてるわけじゃないわ」
(そうかな?)
「日本では困ったときはお互い様って言うのよ
そんなに大きな金額じゃないし
ウィンが気にするようなことじゃないから」
言葉とは裏腹にマリーンは屈託ありげだったが、ウィンはそれ以上言うことはできなかった
そんなことがあった後、資金ができて商売に精を出しているのだろうか
カイラはよく出かけるようになり、夜遅くなることも多くなった
そして数日後
「おい、ジェイ」
店の前で煙草を吹かしていたジェイに声をかけてきたのは、知り合いの刑事で組織犯罪対策課の佐久田だった
部下らしい男と制服の警察官を連れている
「なんすか、佐久田さん」
「おまえんとこに、ハワイから来た女がいるよな」
「ああ、マリーンの叔母さんだったかな
うちをホテル代わりに呑気にやってますよ」
「ちょっとタレコミがあってな
調べさせてもらうぞ」
「いいすけど、本人は出かけてますよ」
「そうだろうな、いまウチの署にいる
容疑はクスリだ」




