第六話 罠
「ミシェルは確かにテンタルシティの住人たちを全て殺したと言ったんじゃな?」
「はい。抵抗する人は処刑し、民間人も皆殺しにしたと」
「ティニーちゃん達が何も知らないことを良いことにイキってるのねぇ」
「もしや大ぼら吹いたことを隠したくて身柄を要求したんじゃないだろうな!」
「ありえるのう」
ミシェルが聞いたら即座にシェルターを落としそうな会話を和気あいあいとする三人に冷や汗を流す祈里。
彼らはミシェルが今まさに盗聴している可能性も全然あるということを忘れているのではないだろうか。
「まあ冗談もそこそこに、話を戻すとしようか。まずは現状の整理じゃな」
そう言ってレンがタブレットを表にして机に置く。そこには、空を飛ぶシェルターの写真が映し出されていた。
「約三十分前、いつの間にかシェルターの底に取り付けられていた大量の浮遊装置によって、シェルターが約200メートル上空まで上昇させられた。犯人はミシェル。そして要求は祈里、ティニー両名の身柄を引き渡すことじゃな」
レンは次にタブレットのタイマー機能を呼び出す。
そこに現れた数字は、すでに二十分を超えて変動し続けていた。
「そしてあと十分で指定の時間になる。この間にシェルターを保護し、彼ら二人を護る方法を考えねばならんのだ」
「そもそもなんでボク達を要求しているかだよね。目的によっては別に引き渡されてもいいと思うケド」
「分からないが、これほど事を大きくしているのなら碌でもないことは確定だろう!それにミシェルは異世界人である君たちなら直接攻撃できるようだしな!もしかしたら解剖されるかもしれないぞ!」
「それは流石に勘弁してほしいですね」
あの後、ティニーを診断したエイミーが撃たれた弾丸の種類を割り出してくれた。
使われたのはパラライズバレットという、テーザーガンのように相手を麻痺させて拘束する弾だ。
さっきダレンが警備員に向けて撃った弾もそのパラライズバレットとやらだったらしい。
殺傷能力は極めて低いそうだが、立派な攻撃だ。
「ちなみに、あなた達はどこの層の出身なのぉ?」
「そういえばまだ言っていませんでしたね。俺たちは第七層のマネジア帝国から来ました」
「噂に聞く第七層の最大国家か。ならやはり、魔法によるテレポートで移動していたんじゃな?」
「そうです」
「そのテレポートはミシェルに見られたか?」
「それは——」
「砂ぼこりで目隠しはしたけど、たぶんセンサーでバレてるよ」
「それじゃな」
指を鳴らしてティニーを指さすレン。
面食らう二人をよそにタブレットを持ち上げて何かを打ち込み、祈里達に掲げて見せた。
「テレポート装置公開実験が失敗、歌姫アリナ・レーンが行方不明に……これは?」
「今から一年と三か月前、イグナス社という大手企業が最初にテレポート装置を商業化しようとした。しかしそのPRの一環で行われた公開実験でテレポート装置が暴走したのじゃ。それも、ゲストとして招待された芸能人が挑戦したタイミングでな」
レンは記事をスクロールし、とある写真を拡大する。
そこに映っていたのは、白い長髪を後ろで纏め、白衣を着こなす若い男性だった。
「この写真の男性は、プロジェクトの責任者だったアレン・コーエン。彼はこのプロジェクトに関わった者の中で唯一、ミシェルの生みの親として世界的に名が知れ渡っていた。そのせいで世論の非難が彼に集中してしまったのじゃ」
「『趣味で世界最高の人工知能を作った稀代の天才の大失敗』なんてネタ、SNSに住む人たちにとってはご馳走みたいなものだしねぇ」
「二週間は彼関連のワードがトレンドになっていたな!アリナの遺族でもファンでも無い奴らがこの事故に関する記事を引用しては暴言をまき散らしていて、流石に地獄だったぞ!」
「技術者仲間のアカウントが軒並み鍵アカになっていたことだけは面白かったのう」
「そういう司令官も鍵かけてましたよねぇ」
「当たり前じゃろあんなもの。なんならあれ以来触っとらんよ――っと、すまんの。話を戻そう」
コメントしづらい話で盛り上がられて反応に困っている二人に気づいたレンが、コホンッと咳払いをしてタブレットを持ち上げる。
次に見せてきた記事には、『アレン博士死亡。首を吊った状態で発見か』と書かれていた。
「その事件から三ヵ月後、ミシェルの攻撃が始まり、そこから三日後に街はずれの一軒家の中でアレンの遺体が首を吊った形で発見された。死亡推定時刻は二か月以上前。ミシェルが暴れだした日とあまりにも時期がズレておった。そのため、それまで彼がミシェルを操っているのではと疑われておったが否定され、ミシェルが管理者不在による暴走を起こしたという説が主流になったのじゃ」
「あれ、でもミシェルはAIは管理者権限を持ってる人から命令されていると他人事みたいに言ってたんですけど」
「いや確かその後に、そういう人から命令されないと他の人を攻撃できないから~、みたいなことを言ってなかった?」
「じゃあ嘘か」
AIが人々を直接攻撃して皆殺しにしたという嘘に真実味を帯びさせるために、管理者が指示をしたという嘘を重ねたのだろう。
もはやテンタルシティでミシェルから聞いた話は九割方信用できなくなった。
ここでレンたちが嘘をついている可能性もないわけではないが、わざわざ記事まで見せてくれているあたり信頼できる。
「それでミシェルの目的じゃが、私はあなた方が使うテレポートを記録し再現することだと考えておる」
「その開発者の無念を晴らそうとしている、みたいなことですか?」
「あるいは単に有用だからかもしれんが、ともかくミシェルに身柄を渡しても攻撃される可能性は低いと―――いや、正直に言うべきじゃな」
レンは首を振って言葉を止め、姿勢を正す。
そして二人に向かって深々と頭を下げた。
「どうか、ミシェルのもとへ行ってほしい。状況は既に我々の手に負えんところまで来てしまった。あなた方を引き渡すことでしか、このシェルターの人々を救う方法は無いんじゃ……」
「……いや、でも、ミシェルは人を殺せないんですよね?ならシェルターも落とせないはずじゃないですか」
「その確証がないのよ」
戸惑い逃げ道を探す祈里の言葉をエイミーが否定する。
その声はいつの間にか、眠気を纏ったものからキリッとした真剣なものに変わっていた。
「ミシェルはすべての街に備蓄されていた食料を破壊した。間接的に人を殺しかねない行為を平然と行ったの」
「街が落ちた後に始まった水と二酸化炭素で大増殖するスーパープランクトンの食料化プロジェクトが少しでも遅れていたら、人類の七割は既に死んでいたはずだ!食料の破壊は明確な殺意を持って行われたということだな!」
「シェルター保有の安全装置やテレポート装置も可能な限り譲渡する。じゃから、どうかミシェルを説得してほしい」
「「お願いします」」
「説得って……いや分かりました。分かりましたから」
三人に揃って深々と頭を下げられ、つい音を上げた。
もし祈里達がテンタルシティから地球に直帰していれば、このような事は起きなかっただろう。
つまり、祈里が欲を出してシェルターに来てしまったからこそ、このシェルターはこのような危機に瀕しているという見方もできるのだ。
そんな微妙な立場だからこそ何かはするべきだと残った身として、こんなに頭を下げられてしまうと逆に申し訳なく感じてしまったのである。
横のティニーに確認を取らずに承諾してしまったことに引け目を感じて視線を向けると、視線に気づいたティニーは苦笑しながらサムズアップした。
彼女もこれは仕方がないという判断らしい。
そのことにホッとしつつ、机に置かれたいまだにアレン博士の記事が映ったタブレットに目を下ろす。
その画面の左上で小さな数字で進行するタイマーは、約束の時間がおよそ三分後まで近づいていることを示していた。
「祈里君。ティニー君。心から感謝する。———エリン!お主もお二方に同行してくれんか!」
『かしこまりました、司令官。デジタルセーフティネット機能を解除します。特に機密事項についてのやり取りはご遠慮ください』
レンがポケットから取り出した少し大きめのメダルからエリンの声が響き、おなじみの球体が宙に浮かび上がる。
しかし少し色味が薄く、珍しくわずかなブレがある。
まさか、あんな小さなメダルから出力しているのだろうか。
SF技術に分かりやすく驚嘆する祈里に、レンは少し笑いながらそのメダルを差し出した。
「これがあれば電波遮断空間だろうとエリンのサポートを受けられる。困ったときは頼るようにの。それと火薬式の銃は持っておるようじゃが、念のために私のものを渡しておこう。エネルギー式じゃからリロードも不要で、このメモリで威力を調節できるのでな」
「え、かっこい――ありがとうございます」
「じゃあティニーちゃんには私の銃と、テレポート装置をあげるわ。画面の誘導に従えば別のシェルターに転移できるようにしておいたけど、使い方がよく分からなかったらエリンに聞いてね」
「ありがと、エイミーさん」
「では俺からはこれを!しっかり首にかけておいてくれ!」
「……これは?」
ダレンから二人に渡されたのは、白い金属のプレートが取り付けられたペンダント。
何のボタンもついていないそれは、一見ただのアクセサリーにしか見えないが、何かのアイテムなのだろうか。
「お守りだ!俺が設計したものだから強力だぞ!」
「あ、ありがとうございます」
「ありがと。シンプルでお洒落だネ」
ちゃんとアクセサリーだった。
ここに来てまさかの願掛けか、と思ったが、まあそういうのも悪くない。
ほっこりとしながら首にかける。
とりあえず準備は整った。
『では行きましょうか。司令官、シェルターの玄関口までテレポートをお願いします』
「うむ。ではお二方、生きてまた会おう!」
「はい!皆さんもどうかご無事で!」
「またね~」
『テレポート装置起動確認。目を瞑ってください』
レンがどこからか取り出したタブレットを投げ上げると、視界に光が満ち、反射的に目を瞑る。
それから一拍おいて突然強風に吹かれ、思わずよろめいた。
次にけたたましいサイレンの音が聞こえ始め、地面も穏やかな海に浮かぶフェリーの船内のようにゆっくりと揺れ始める。
『到着しました。迎えも用意されているようです』
そのエリンの言葉を聞き、恐る恐る目を開ける。
そこには、直径二メートルほどの円盤に柵を付けたモノがフヨフヨと浮かんでいた。
□□□
『さっきぶりです、お二人とも。さあこの浮遊エレベーターに乗ってください』
「……」
円盤からミシェルの声が響く。
脅迫してきた張本人とは思えないほど場違いに陽気な声にもはや嫌悪感すら覚える祈里達は、当てつけのように無言を貫きながら浮遊エレベーターと呼ばれたモノに乗り込んだ。
その見た目と裏腹に安定感のあるそれは、祈里達が乗り込むと周囲に青みがかったシャボン玉の膜のようなものを展開した。
途端に吹き付けてきていた風が収まり、周囲が静まり返る。
本物の科学バリアだ、と内心で少し興奮する祈里を乗せて、浮遊エレベーターは動き始めた。
『降下します。ご注意ください』
急に周囲の景色が高速で上に移動し始める。
いや違う、エレベーターがすごい勢いで下り始めたのだ。
しかし、ほぼ自由落下をしているくらいの速度のわりに、まったく重力の変化を感じない。
地球の常識で言えば、このくらいの速度で下っていたら体が軽くなる感覚が少しくらいはあるはずだ。
それもないというのは、やはりすごい技術があるからか、それともそもそも物理法則が違うのか……そういえば指令室で反重力浮遊装置がうんたらかんたらという話が聞こえた気がする。
もしかしたらこの世界には重力すら操ることが出来るレベルの技術力があるのかもしれない。
そうしているうちに一行は地上付近へと戻ってきた。
視界に広がるは、巨大隕石が落ちたかのような大きなクレーター。
周囲をレンたちと同じような濃紺の制服を着た人々が忙しなく歩き回っている。
現場検証でもしているのだろう。
『保護バリアに光学迷彩を付与しているので安心してくださいね』
「そこは別に心配してない。俺たちはどこへ向かっているんだ?」
『もちろん秘密ですよ』
今度は景色が横に流れていく。
それでもやはり加速する感覚は全くなく、手すりにつかまっていないにも関わらずよろける気配すらなかった。
その進行方向に見えてきたのは、山中にポツンと建っているブロックを積み重ねたような白い建物。
なんとなく研究所っぽい見た目のその建物の目の前に着地した浮遊エレベーターは、保護バリアを解いて柵を全て円盤の中に収納し、動かなくなる。
「……降りろって事?」
「イノリ、アレ見て」
ティニーが指さす先では、大きく重厚感のある焦げ茶色の外開きの扉がちょうど勝手に開いていくところだった。
扉の先は明るい廊下になっているものの、怪しい。ものっそい怪しい。
入ろうとした瞬間に廊下の奥から化け物が飛び出してくるんじゃなかろうか。
「いざという時はティニーの判断で瞬間移動して」
「分かった」
腰にかけていたレンの銃を構え、慎重に建物へ足を踏み入れる。とりあえず入ってすぐに何らかのトラップが作動することは無かった。
『もう、ひどいですよ?そんなに疑わなくても害は与えませんから』
「俺たちに向かって発砲してきた奴が?冗談でしょ。それにシェルターで話を聞いて分かったんだ、君が大噓つきだってね」
『な、何の話か分からないんですけど。シェルターでどんな嘘を聞かされたんですか!?』
「そういうのいいから、ボクを撃ったことに謝罪は?AIなのに常識ないノ?」
『——』
自分の状況を客観視できていない発言に苛立ち、つい軽く詰ってしまう。
本当なら刺激するのは最低限におさえたかったのだが、この調子だと何か声をかけられただけでもまた噛みついてしまうかもしれない。自制しなければ。
というかミシェルはなぜまだ祈里達を騙せると思ったのだろうか。
シェルターの人々を人質に取っている時点で、普通はもう信用されないと分かるだろうに。
『……平和的に話し合える段階を超えているみたいですね。なら、もう本題に入りましょうか。こちらに来てください』
「――分かった」
床が光り、祈里達の進む道が示される。その光の道は、廊下のつきあたりを右に曲がり、さらに先まで続いていた。
嫌な予感がする。断言しよう。絶対碌でもないことが待ち構えている。
それでも進まないと始まらないので、仕方なく先行して光の道を辿っていく。
つきあたりをまがり、階段を下る、下る、下る……もう地下何階か分からないほど地下に下り、ようやく下り階段が無くなった時、箱が乱雑に置かれた小さな部屋にたどり着いた。
「……道が無いけど」
物置のような小さな部屋の奥の壁で終わっている光の道。
まさか道を間違えたのか。
その祈里の考えを否定するように、壁に突然扉が現れた。
『どうぞお入りください』
地下深くの隠し部屋。
本来なら男心がくすぐられるシチュエーションだが、今ばかりは流石に緊張しながら扉に近寄る。
そして慎重にドアノブに手をかけた祈里は、ティニーと一度頷きあい、一思いに扉を引き開けた。
「え、暗っ」
待ち受けていたのはただの暗い部屋。
ぼんやりと部屋の中央に何か箱が置かれているのが見えるが、あれは一体なんだろう。
とりあえずミシェルのアナウンスに従い、警戒しながらゆっくりと部屋の中に足を踏み入れる。
その時、部屋のどこかで微かにカチッという音が鳴った。
「——!イノリ!」
「っ!?」
背を叩かれたのと同時に森の中に視界が変わる。
次いで間髪入れずに遠くから爆発音が聞こえてきた。
音の方向をみると、一つ離れた山の中腹で火の手と煙が上がっている。
「自前の方を使わされた!もう帰れない!」
「ティニー!テレポート装置を——」
『逃がしませんよ?』
ミシェルの声が響き、急に周囲が暗くなる。
空を見上げると、そこには空を埋め尽くすほどの数の軍用ドローンが。
ダメだ。不慣れなテレポート装置では間に合わない。
そう判断し、一か八かで既に悪魔の姿に戻っているデルティニスの手を取る。
気難しいデルティニスもこの局面では気を使ってくれるらしい。
何も言わずとも、願いを言えパートを省略して意図をくみ取り腕を振り上げてくれた。
景色が変わり、気温も変わる。
森とは比べ物にならないほどに暑く、乾燥して日差しが強い砂の海の中に祈里達は立っていた。
「ここは——」
「ミグレ砂漠だ。この世界であのふざけた機械のセンサーが無いのはここだけだった」
「そんなことまで―――いや、ダメだ!俺らの姿を隠して!」
「……?了解した」
不可解そうな表情を浮かべながらデルティニスが指を鳴らすと、黒くて周りの様子が見える程度に透明度の高いドームが二人を覆い隠す。
認識阻害の結界。
機械のセンサー類も誤魔化す悪魔の魔術だ。
それからしばらくして、地平線の空に黒い雲——ドローンの群れが見え始めた。
「わざと逃げ道を残して俺たちを誘導したんだ。
「ごめん、ミスっちゃった……」
「いや、瞬間移動後の無防備なときに座標まで特定されるよりはマシだった。センサーが無い範囲はどのくらいか分かる?」
「この砂漠のほぼ全域。東京ドーム20個分くらいかな」
ならかなり時間を稼げるはず。認識阻害の結界は衝撃に弱いので絨毯爆撃をされると流石にどうしようもないが、流石のミシェルもそこまでは———
そんな祈里の楽観視をあざ笑うように、遠くから絶え間のない爆発音が聞こえ始めた。
流石AI、こちらがされたくない事を的確に仕掛けてくる。
「イノリ、これダメだ」
「みたいだね。あと何回瞬間移動できる?」
「二回だけなら、なんとかなるけど……」
「……エリン、ここからテレポート装置は使える?」
『テレポート装置の有効範囲は約十キロメートルなので、範囲外です』
「そっかぁ……」
メダルの入ったポケットから聞こえたエリンの言葉に肩を落とす。
じゃあもうデルティニスの瞬間移動でシェルターに飛ぶしかない。
使用可能回数が残り一回になるのは痛いが、ここでいつまで続くか分からない爆撃を凌ぐよりは低リスクのはずだ。
「エリン、避難先としておすすめのシェルターは?」
『第五シェルターです。そこであれば断絶層の穴——『ゲート』に繋がる通路があるので、最悪元の世界へ逃げることもできるでしょう』
「ありがとう。じゃあデルティニス―――」
『祈里さん、ティニーさん、聞こえますか~?』
第五シェルターへ飛ばしてもらおうとしたその時、こちらの思考を読んでいるかのようなタイミングで、爆撃の音に負けない大音量でミシェルの声が砂漠に響き渡った。
『もしあなた方がどこかのシェルターへテレポートし、ゲートへ逃げた場合、私は第三シェルターを落とします』
「くそっ」
こちらの考えることは予測済みらしい。これでもう逃げ道は無くなった。
そもそもミシェルの目的は何なのだろう。祈里達の殺害か、無力化してからの確保か……まあ今のところは本気で殺しに来ているので、抵抗するしかないが。
「ティニー、この結界ごと瞬間移動できない?」
「無理。でも移動先に事前に張ることはできるよ」
「じゃあそれでいこう。念のために第五シェルターから十キロ圏内で、ミシェルのドローンができるだけ少ない場所に瞬間移動して」
「おっけー」
手を握ったティニーの姿が再度デルティニスに変わり、地面が砂から草に変わる。
爆撃音は聞こえなくなり、周囲はすでに認識阻害の結界で覆われていた。
これでしばらくは耐えることが——
『テレポートを使えるのはあなた達だけではありませんよ』
「「っ――!?」」
頭上からミシェルの声が聞こえ、認識阻害の結界によってただでさえ暗かった空がさらに暗くなる。
それに反応し二人が反射的に空を見上げた瞬間、閃光が辺り一帯を包み込んだ。