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第五話 激動の第三シェルター


吹き抜け部分の地下の、指令室というプレートが入口に取り付けられていた部屋にて、祈里達を連行した三人は自己紹介をしてくれた。


男の子の名はレン・ローダン。

歳はなんと驚異の十二歳。

その年齢に見合わず、五つあるシェルターの内、第三シェルターの管理を主に行っている司令官だそうだ。


そして次にパジャマ姿の女性の名はエイミー・サントレア。

基本的にレンの補佐を行う副司令官だ。


最後にスーツマッチョの名はダレン・コーエン。

レンの話では、技術所長という第三シェルターのシステムの独立部分にバグが起きたときに責任を取って辞める役だという。本人は否定していたが。


その後祈里達も名前だけ自己紹介をし、さっそく『驚かせた』という話について聞いたのだが……



「つまり、あの軍用ドローンを操っていたのがあなた達で、銃を突きつけてきたのは冗談のつもりだったと」


「一般人を冗談で脅す軍人さんねぇ。なるほど、不祥事を隠蔽したかったからボクらを拉致したわけだ」


「「「すみませんでした」」」



わりと碌でもないことをしでかされていた。

深々と頭を下げる三人。

その周囲をロボットが取り囲み、天井や壁から生えた銃器がゆらゆらと揺れている。


そのいずれも、警戒しているのは祈里達ではなく、頭を下げている三人だ。

反省の証兼危害を与えない保証として、このシェルターの管理を請け負っているAIの管理者権限を一時的に預かったのだ。



『現在、あなた方には私、自立思考型トレースAIのエリンの指揮権が与えられています。命令してくだされば、この三人をほどよく(あぶ)ったり冷やしたり笑わせたりできますが、いかがなさいますか?』


「じゃあ笑わせてください」


「「「えっ」」」


『かしこまりました』



ノータイムで命令を下した祈里に思わず顔を上げた三人を、床から生えたアームが拘束して椅子に座らせ、別のアームが三人の靴と靴下を脱がせる。

そして何やらメカメカしいブーツを足に取りつけ、天井から降りてきた透明な箱が彼らを閉じ込めた。



『まだ作業を行っているスタッフの方達に迷惑ですので、遮音プレートで音を遮断します。笑い声を聞きたいのであれば扉がついておりますので、ご自由にお入りください』


「……あの靴みたいなのは何ですか?」


『脚部マッサージ機『HO-GU-SE』です。十年前にサミーテル社が販売を開始し、すぐに話題になりました。なんでも、使用していると足が異様にくすぐったくなるそうです』


「なんでそんな物がここにあるの?拷問で使ったり?」


『まさか。エーテリアでは拷問は法律違反です。あれらは収集癖があるレン司令官の私物ですよ』


「なんで三つも持ってるんですか?」


『販売員のAIから上手く売りつけられてしまったそうです』



目を血走らせながら必死に全身をくねらせ、目を瞑って口の端を噛み、大口を開けて笑い、それぞれに耐える三人。

共通してすでに顔が真っ赤になっているので、かなり苦しいのだろう。



「なんか、もう結構限界そうじゃない?」


「確かに。これ大丈夫なんですか?」


『メーカーの推奨使用時間は5分。取扱説明書によれば、足のリンパ腺がほぐれ、老廃物が流れて代謝も向上するとのことです』


「ああ、ならまだ大丈夫なんですね」


『また、一般的な使用時間は三十秒です。それ以上使用し続けると酸欠で気絶するケースが多いですね』


「ダメじゃん!?」


「止めてください!?」


『かしこまりました』



わざわざ参考にならないほうの推奨使用時間からアナウンスしたエリンは、しれっとした声音で了承すると三人のマッサージ機を脱がせる。

そして取り囲んでいた遮音プレートとやらも引き上げ、そこには椅子にぐったりともたれかかる第三シェルターの幹部たちが残った。



「だ、大丈夫ですか?」


「ご……」


「ご?」




息も絶え絶えといった様子で必死に呼吸をするレンは、少し頭を上げ、祈里の顔を見た。



「ごうもんは、はんざいじゃ……」


『軍人が無抵抗の一般人に銃を向けたら懲戒及び罰金刑です』


「じゃな。すまんかった……ぅ」




祈里の肩に浮かび上がった近未来的な鉄の球のようなアバターのエリンに容赦のない言葉のカウンターをくらい、心身共にフルボッコにされた少年の体から力が抜ける。

気絶したようだ。



「やりすぎじゃないですか?」


『生きているのだからやりすぎではありませんよ。それに最近気が緩んでいるようでしたので、彼にとってはちょうどいい機会だったでしょう』


「なんかエリンさん、保護者みたいだネ」


『とんでもありません。私は人により生み出され、人に従うようプログラムされた一介のAIにすぎませんよ』


「そ、そんなことないと思うナ~」



サラッと世知辛いことを言ってティニーを困らせているエリンから視線を外し、他の二人、エイミーとダレンに目を向ける。

成人しているだろう彼らは流石に気絶はしていなかった。

というかもう立ち上がっている。息もかなり落ち着いてきたようだ。



「大丈夫ですか?」


「大丈夫よぉ。これ、ちゃんと足がすっきりするから不良品とも言い切れないのよねぇ」


「効果があるとしても面白グッズであることに変わりはないがな!というか使用者を窒息死させかねない時点で碌でもない!」


「それもそうねぇ」



そう言って同時に笑う二人。

その何となく何か(・・)がある雰囲気を察し、祈里はそっとその場を離れ(フェードアウトし)た。



「あれ、どしたの?」


「エリンさん、あれ、そういう感じですか」


『そういう感じですね。少なくとも血縁関係ではありません』


「なるほど」


「え、なになに?何か面白いことでもあったの?」


「ティニーには早いよ。いろんな意味で」


「は?」



エリンがご丁寧に勘違いの線も潰してくれたのでほぼ確だ。

大人のそういうのに少し興味はあるが、流石に外様すぎる立場なので今回はあまり近づかないようにしよう。

そんなことを考えながら掴みかかってくるティニーを避けていると、レンが急に飛び跳ねるように立ち上がった。



「な、こ、ここは……?」


「起きましたか。おはようございます」


「……ふむ?ああ、そうじゃった。HO-GU―SEのせいで気絶していたんじゃな」



手を叩き、得心がいったと笑みを浮かべたレンは椅子に座りなおし、体を祈里達の方向へ向ける。



「さて、和解も済んだところで、じゃ」


「別に許すと言った記憶はありませんけど」


「ほんますまんかった」


「やめてください!冗談ですよ冗談!」



地面に頭がつきかねないほど深く頭を下げるレンを必死で止める祈里。

ティニーからも話の腰を折るなという空気が漂ってきたので、大人しく話を聞くことにする。


そうして再び場が落ち着いたところで、レンは祈里を見た。



「情報交換をしたい」


「情報交換?特にこっちから出せる情報は無いと思いますけど」


「ほう。ではどうやってこの短時間でこの星、エーテリアの裏側の街からここまで来たんじゃ?」



そう言って口の端を上げて笑うレイに負けじと笑い返しながら、内心で地団太を踏む。


軍用ロボットの話が出たあたりで危ないと思ってはいたが、流石に見逃されてはいなかったらしい。

あの軍用ロボットを破壊してからここに来るまでの正確な時間は分からないが、おそらく三十分も経っていないだろう。その移動方法を疑問に思うのは当たり前だ。

そしてレンがわざわざその事について尋ねてきたということは、その移動方法であり得そうなモノを思いつかなかったのだろう。


つまり、この世界にはあの距離を短時間で移動する方法がまったく無いか、あっても希少ということだ。さっきエイミーがテレポートを使っていたはずだが、距離制限でもあるのだろうか。



(あ、でもこれ異世界人ってバレる分にはいいんだ)



ふと我に返る祈里。

もともと異世界人だとバレたくなかったのは、捕まって地球に送り返されて晒上げられるリスクがあったからだ。

まだそのリスクが無くなったとは言えないが、レイとの交渉次第では避けることができるはず。

というか、いっそ出身層を誤魔化してしまえばいいんじゃなかろうか。



――――いや、待て。



「……一度ティニーと相談してもいいですか?」


「もちろんじゃ」



鷹揚に頷くレンに礼を言い、ティニーを連れて部屋の外へ。



魔法で(・・・)防音できる?」


「おっけー」



意図を察してくれたティニーはどこからか杖を取り出し、一振りする。

すると周囲を風が取り巻き始めた。

わざわざ魔法を使うようお願いした理由は簡単で、祈里はこれから魔法が存在する第七層の出身者だと嘘をつくつもりなのだ。

別の世界のことならレン達もそこまで知らないだろうし、魔法の世界ならテレポートの魔法くらいあるだろうと考えたからである。

しかし嘘をつくに差し当たって、一つ懸念点があった。



「相談って?」


「あの部屋、嘘発見器みたいなものがないか確かめてほしくて」


「あー、そゆことね」



地球にすら脈やら心拍数やらを計測して嘘を見抜くと豪語する嘘発見器がゴロゴロあるのだ。地球のそういったモノのほとんどはあまり正確ではないが、科学技術が発展しまくったこの世界なら話が変わる。


というかそれならミシェルにも嘘がバレていたのだろうか。

まああの状況では、どちらにしろボロが出ていただろうが。



「分かった。じゃあちょっとこれ持ってて」


「うん――うわっ」



渡された杖の先から唐突に白い煙が吹き上がった。

上向きに発射されたその煙は、周囲を駆け巡る風のドームに乗り、祈里達の姿を覆い隠す。


その中で、ティニーは指令室の扉があった方向に手の平を向けて目を瞑った。

するとすぐに手の平がぼんやりと光りだす。



「うーん……あるけど無いね」


「んん?謎かけ?」


「そのままの意味だよ。心拍、体温、生体電気信号……いろんなモノを探知するセンサーが大量に設置さ

れてる。主な目的は入室者の体調管理や侵入者を感知することだけど、そのセンサーを流用すれば特定の人が嘘をついているかどうか分かるようになってるみたい」


「……そのセンサー、こっそり壊せない?」


「できるけど、怪しまれるよ」


「だよねぇ……」



うなだれる祈里。

わざわざ外に出て目隠しまでして準備する機会をつくってしまった以上、ここでタイミングよくセンサーが一斉に故障するのは露骨すぎる。

今から嘘をつくと宣言するようなものだ。



「なんかもう全部有耶無耶にならないかなぁ」


「そんな奇跡起きないから。ほら、さっさと誤魔化し方考えよ?」



手を下ろしたティニーから急かされ、祈里は腕を組んでうなり始める。

こういう時、ティニーは決まって補助的にしか助けてくれない。

行動や交渉の方向性を定めること自体が祈里の願いを叶える事になり、そうなると魔術を使っていなくても、悪魔内の規則のせいでエネルギーが一定数減ってしまうのだそうだ。



「ぼかしながら話して向こうに誤解してもらう……いや、正直に話すけど向こうが誤認するように――ティニー、今あの部屋にある翻訳機、いじれる?」


「できるよ。でもそれやっちゃうと、今週はもう地球に瞬間移動(テレポート)できなくなっちゃうかな」


「え、もう?」


「だいぶ使ったからネ」



それは流石に困る。

話しぶりからして第八層内であればまだ瞬間移動できるのだろうが、地球への帰路は祈里達の命綱だ。

ここで手放すのは早計だろう。

ならティニーに頼らない方法を模索するしかない。


うん、無理ではないだろうか。


増えた縛りに思考が停止しかける祈里。

と、その時、ガクンッと床が揺れた。



「……地震?」


「いや、違う。上昇してる」



確かに言われてみれば、体が少し床に押し付けられるような感じがする。


これはあれだ、少し古いビルのエレベーターに乗った時に感じるあの感覚だ。

まさかこの指令室がある場所は、建物自体が上昇して高層ビルになるSFチックな建造物なのだろうか。



「ここ、そういうタイプの建物だったんだ」


「さっき調べたときは、シェルターの指令棟(ここ)に上昇機能なんてついてなかったはずなんだけどな」


「ならもしかして緊急事態?」


「「……」」



二人そろって白い防音風に目を向ける。

この風の防音機能は内から外だけではなく、外から内への音も遮断する。

だから外で何か大変なことが起きていても、気づくのが難しいのだ。

そのことを知る二人の内心は見事に一致した。もの凄く、嫌な予感がする。



「解除するね」


「杖は?」


「だいじょぶ。それただの棒だし」



ティニーが指を振ると、溶けるように白いドームが消えていく。

すると廊下では、ビーっ!ビーっ!といかにも緊急事態に鳴りそうなブザーが鳴り響いていた。

慌てて指令室に戻ると、レンたち三人が各々の持ち場に戻って部下たちと共にホログラムのパネルを必死に操作している。



「他シェルターへの救難要請は!?」


「ダメです!ネットワークが完全に遮断されています!緊急時ネットワークも使えません!」


「さらに高度上昇!150メートル突破!止まりません!」


「新たな反重力浮遊装置発見!21基目です!破壊は——」


「ダメじゃ!これ以上刺激すると落とされかねん!」


『英断です。一度にシステムの約30%まで奪取できましたが、これだけでは安全に降下させるには不十分です。もしあちら側が握っている浮遊装置が全てシャットダウンされれば、このシェルターの人々はほぼ確実に全滅するでしょう』



忙しそうなので声をかけず、様子を見る。

今起きている事態は部屋の正面の巨大なスクリーンにデカデカと映し出されているので、何が起きているかはすぐに分かった。

シェルターが空に向かって上昇していく。

その様は、まるであの有名な空飛ぶ城の映画のラストシーンのようだ。

そんな事を考える祈里の目の前に、突然エリンが浮かび上がった。



『祈里さん、ティニーさん。申し訳ございません、ただいま緊急事態となっていますので、ご退出願いますか?』


「分かりました。もうこの建物から出てもいいんですか?」


『いえ、まだ行動許可証が発行されていないので規則違反になってしまいます。こちらの給仕ロボットが休憩室へ案内しますので、そちらでお待ちください』


「はーい。エリンさんも頑張ってネ」


『ありがとうございます』



どこからか無音で現れた先が尖っていない円錐型のロボットが、祈里達の前で停止する。

そしてその頭頂部の円の中心からホログラムでこの階の地図を浮かび上がらせると、先導するように扉に向かって動き始めた。

その後ろに並んでついていく二人。

部屋を出る前、一度だけ指令室を振り向いた祈里は、しかし何も喋ることなく部屋から退出した。



「……あれ、まさかミシェルの攻撃かな?」


「わかんないけど、世界をここまで追い詰めたAIだっていうのは確かかな。さっきこのシェルターの仕様書も覗き見したんだけど、サイバーセキュリティ対策も物理的なセキュリティもとんでもなく高いみたいだし、あのエリンっていうAIもこの世界で最高レベルの性能らしいから。そんなシェルターでこんなことできるなら、人間がこんな端っこで縮こまってるのも納得だネ」


「……帰ろうか」


「だねぇ」




これは無理だ。

まだ空に浮かべられているのがこの第三シェルターだけなのでデルティニスならなんとかできるかもしれないが、ここでこれができるのなら他の五つのシェルターでも同じことができるだろう。

それはもはやデルティニスでもどうにかできる範疇ではない。

どう助けるか、ではなくどう逃げるかを考えるフェーズに入ってしまっている。

でも、やはりここであっさり見捨てるのは気が引けるというのも確かだ。




「ちなみに、もしこのシェルターを護ったらもう帰れなくなるの?」


「それはほら、やり方次第だヨ」


「状態保存の魔法あったよね?あれでいけるんじゃない?魔法ならエネルギー消費も少ないでしょ」


「いやいや流石に厳しいって。このシェルターがどれだけデカいと思ってるの?それにあれ、持続時間が

三十秒しかないから、落ちるタイミングをずらされると普通に――」



『第三シェルターの皆さん、こんにちは~』



僅かな可能性を探っていたその時、廊下に女性の呑気な声が響き渡った。



「っ、この声——」


「ミシェルだ」



つい数十分前に襲われたばかりだ。

その声を忘れるわけがない。


しかし口ぶりからして、このシェルター全域に向けて放送しているようだ。

なぜわざわざそんな事をするのだろう。中の人間を殺すだけなら、このシェルターをさっさと落とせば済むはずなのに。



『本日は少しお願いがあるんです。このシェルターにですね、祈里、そしてティニーと名乗る異世界出身の方が来ていますよね?その方々を引き渡していただきたいなーと思って、そのお礼の先払いとして空の旅をプレゼントさせていただきました!』


「「はぁ!?」」



先導していたロボットが動きを止める。

それと同時に、ホログラムの地図がブレてエリンの姿に切り替わった。



『すみません。至急、先ほどの部屋まで戻ってきてください』


「はい……」


『三十分以内に引き渡さなければ空の旅を中断しますのでご了承ください!それでは!』



ハツラツとした声を最後に放送が終了し、同じタイミングで廊下が真っ暗になる。

ロボットを見るとホログラムも消えていた。これはまさか、シェルター内の電気系統やネットワークまで遮断されてしまったのだろうか。

とりあえず、エリンに言われた通り走って指令室までもどる。

するとそこでは、このシェルターのトップ3が雁首揃えて待ち構えていた。




「……先に聞こう。あなた方は敵か?味方か?」


「……」



少し暗い非常灯の下で、レンが一歩前に出る。

ミシェルの目的と、こんな事態になったタイミングを考えればその問いが出るのは当然だ。

偽証を絶対に見逃さないという意志が込められた目を向けられ、祈里も姿勢を正す。



ここが分水嶺だ。

先ほどの放送で、ミシェルの襲来が祈里達を確保するためだと明言された。

なのでもしここで祈里達が敵だと判断されれば、拘束されてミシェルに差し出されかねない。

そうなるなら祈里は地球に帰る選択をせざるをえなくなり、このシェルターの人たちは確実に死ぬだろう。



(それは避けたいな)



祈里達も被害者ではあるが、原因の一端を背負ってしまった以上、何もせずにただ逃げるのはあまりにも無責任すぎる。

まあぶっちゃけて言ってしまうと、できるなら大勢の人が死ぬ原因になりたくないのだ。

ならここは変にゴマをするのではなく、真摯に答えるべきだろう。



「……正直、俺たちもあなた方の事をあまり知らないので、味方かは分かりません。ですが少なくともミシェルは敵だと思っています。さっきティニーがテンタルシティで撃たれましたし」


「うむ、信じよう」


「ようこそ同志よ!」



「ティニーさん。私医師免許持ってるから、傷見せてぇ」


「あ、や、青タンで済んだのでだいじょぶです」


「え?青タン?撃たれたのよね?ちょっと見せてくれる?」



びっくりするほど空気が弛緩した。

ついでにティニーが指令室に隣接する更衣室らしき場所に連行されていく。

エイミーがティニーを連れて行ったのは本当に興味からなのか、それともティニーに遠慮させないための方便か分からないが、しっかり診てもらうべきだと思っていたのでありがたい。


それにしてもいったいどういう事だろう、この受け入れの速さは。

まさかまだ部屋のセンサー類は機能していたのだろうか。



「なんでそんなすぐに信じてくれるんですか?」


「理由は二つ。一つは、それが異世界人だろうとミシェルが人間の協力者を作るとは思えないからじゃな。そしてもう一つは、ミシェルに撃たれたと言ったからじゃ」


「え?」


「もし仮にあなた方がミシェルからの間者だったとしたら、わざわざそんな怪しまれることを言うはずがないからのう。異世界人ということを差し引いても、間者にしてはミシェルについて無知すぎる」


「……?」



訳が分からない。

ミシェルに撃たれたと言うと怪しまれる?

話が出来すぎていて取り入るための嘘に聞こえてしまうということなのだろうか。でもそれだけなら別に無知とまでは思われないはず。

混乱し頭の上にクエスチョンマークを大量に浮かべる祈里を見て、レンがダレンに目を向ける。

視線を受けたダレンは笑顔で一つ頷くと、腰に手を当てて祈里に向き直った。



「やはり知らないようだな!では一つ良いことを教えてあげよう!」



歯を見せて笑い、ダレンは懐からタブレットを取りだした。

まだ使えるらしいそれを操作し、ひっくり返して祈里にソレを見せつける。

そこに表示されていたのは一つの記事。

崩壊した街の中で救助活動が行われている写真がデカデカと載っており、その題名は——



「ミシェルは人類と敵対しているが、ミシェルが直接人類に攻撃した例はこれまで一度もないんだ!」


「……話と違うんですどぉ!?」




――『街はずれの山中で最後の行方不明者二人を発見。テンタルシティ崩壊における死者は0人に』というものだった。


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