美少女研部長とワイルドロー4
「……では、新入部員を歓迎する」
「え? 誰か入部する人いたんですか?」
「あ? なに寝ぼけてんだ、てめぇだよ。平瀬ひとみだよ」
「え、えぇ!?」
新入部員歓迎と書かれた足跡っぽい横断幕が、制服を取り戻した男子生徒たちによって持たれている。
ちなみに制服については、私が大勝ちしたので救済措置として持ち主に返還した。
それで、なぜ私が入部を……
「お前の引きの強さは必要だ」
「で、でも……」
「安心しろ。入部届けなら提出済みだ」
「全く安心できません!」
私の言葉はあまりに無力だった。
学園は社会の縮図だという。私のように、権力の無い人間は、あぁやって上の人に無理やり言うことを聞かされるんだ。
私が諦めに入っていると、男子生徒たちはぞろぞろと退出して行った。
「あれ、あの人たちはお遊び部じゃないんですか?」
「当たり前だ。俺があんなのを入れるわけが無い。あいつらは確か……エアホッケー部だったか」
「そ、そんな部活が……」
ちょっと楽しそうかも。
「そういえば他の部員はいないんですか?」
「いや、いる。今日は来てないみたいだが」
内心ほっとした。
不動さんと2人きりでやっていく自信は全く無かった。
なんか性格は、ちょっと……ではなくものすごく怖いんだけど、容姿で言えば美少女といっても過言ではないほど、なのに男子。
というか本当にどっちなんだろう……
肩くらいまでの綺麗な髪、それに肌も男子とは思えないほど綺麗な白。
まあ胸は、一応自称男子みたいだから無いけど、もしかしたら控えめなだけかもしれないし。
男子だといわれても、目の前のそれを私が男子だと認められない……
「……なに見てんだ」
「えっ、いや、なんでも」
「そうかよ」
不動さんは立ち上がると、教室の中を歩いていき、かばんの前で立ち止まった。
そして中から、携帯電話を取り出した。
「誰か呼ぶんですか?」
「あぁ、そうだ。うちはこういう部活なんだよ」
携帯を操作し、携帯を耳につける。
「おい、美少女研究部」
そんな部活まであるんだ……
「あ? 俺だ、分かれボケ。
……そうだ、今日は……どうすっか、3人よこせ、ちゃんと勝ったら景品持ってくるから、つかもう居る。
……あー違う。今日入ったバカだ、勝ったらそいつやるよ、メイド服でもスク水でもなんでも着せてやれ、じゃあ今すぐな」
不動さんは携帯をかばんに放り込んだ。
おかしいなぁ、足が震えて止まらないよ。今すぐ走ってこの教室から去らないと、何かやばいことになる予感……
「おい景品……じゃなく平瀬」
「いっ! 今景品って言わなかったですか!?」
「あぁ、そうだ」
認めたぁー!
この人やばいよ、隠されるのもそれは嫌だけど、そんなストレートに酷いこといわれるとは……
「大丈夫だ、勝てば向こうもそれなりに失う。てめぇはそれを丸ごと受け取るだけだ。まあ少しは部に回すがな」
「そこじゃないです! 私が言ってるのは、私が負けたときのことで……」
「あー」
「あー、じゃないですよ! こっちの都合も考えて……」
「だって負けるとかありえねぇだろ」
当然のように、なんて無責任な。
思わずため息が漏れる。
廊下を誰かが歩く音が聞こえる。
パタパタとどんどん近づいてくる。ああ、来た……
心臓はものすごく速くなっている、どうしよう。まぁ学生なんだし、負けたってそんな無茶は……
やりかねない気がしてきた。
「きっ、来たでござるよ!」
露骨にオタクっぽいのがやってきた。
黒ぶちめがね、ぼさぼさの髪、ぽっちゃり体系。そしてなんか息が荒い……
なぜか学校内なのに、ジーンズの上にTシャツ。そしてシャツにはなんか美少女のイラストが書かれている。
そしてその露骨なオタクの後ろには、大人しそうなクラスの男子A,Bみたいな普通の男子生徒が2人ついていた。
「おー、来たか。まあ突っ立ってろ」
客を全くもてなさない不動さん。
うーん、同じ男子でもこうも違うんだなぁ……
「ま、まさかこの子が今日の……!」
「そうだ、勝ったら約束どおり、バニー服でもウエディングドレスでも着せてやれ」
「最後のはダメぇ! ていうか全部嫌ですよー!」
私の抗議は全く聞いてくれない……
「だがてめぇらも、負けたらちゃんと負け分払ってもらうぞ?」
「当然! 今日は我が部の超お宝ですぞ!」
露骨にオタクっぽい人が言うと、後ろの男子生徒2人が、教室の外から何かを抱えて入ってきた。
マネキン、だろうか。
「ミクたんの等身大フィギュアですぞ!」
不動さんが舌打ちし、「いらねぇよ……」と呟いたのは多分私にしか確認できていないはず。私も同感です、でも不動さんはしきりに換金すれば、とぶつぶつ何かを考えている。
「……まぁ、いいだろう。それで勝負だが……」
不動さんは、立ち上がり教室内のごちゃごちゃの中から、四角いケースを取り出してきた。プラスチックのケースだ。
「UNOというカードゲームだ」
「そ、そんなもので私の命運が……」
「そうは言うが、これは奥が深いゲームだ」
不動さんはカードを慣れた手つきで配っていく。
UNOは1人7枚の手札を持ってスタートする。そしてカードの種類は大きく分けてまず赤、青、黄、緑の4色に分けられ、さらに色ごとに数字のカードと、ドロー2、スキップ、リバースの記号カードが存在する。
そしてそれ以外の例外カード。ワイルドカードと呼ばれて、いつでも出せて、色を自由に指定できる。さらにそのワイルドカードと同じ効果に加えて4枚のカードをドローさせる、ドロー4というカードがある。しかしドロー4は、他に出せるカードがあればそちらを優先しなくてはならない。
まあドロー4を持っていればそこそこいい手といえるかもしれない。
そして私の手札。
ドロー4が3枚、緑のスキップが2枚、赤と青で3が2枚。
周り順は……
「俺からスタートで、部長、平瀬、A、Bの順な」
「「俺はA(B)ですか!?」」
思わず、私は吹き出しそうだった。
「ドロー4」
いきなりドロー4……でもそんなことしたら……
「チャ、チャレンジッ!」
チャレンジとは、ドロー4は他に出せるカードがあれば使ってはならない、というルールを破っていると思えば、その次の順番の人が使える権限。
この場合だと部長が不動さんの手札を確認し、実際にルール違反なら不動さんにペナルティ、でも、
「なっ、ふ、不覚……」
ルール違反ではなかった場合は、チャレンジを使った人がペナルティ。ドロー4の4枚に加え、追加で2枚引くことになる。
「色は赤だ」
「くっ……!」
赤は手札に無かったらしく、部長はさらにカードを引いた。
次は私の番だ、とりあえず赤の3を出す。
A、Bはそれぞれ数字のカードを出し、黄色の7で不動さんに回る。
「ドロー2」
そして部長も、
「ドロー2!」
私は、この場合は絶対にチャレンジされないから、ドロー4を1枚出す。
色指定だから……
「緑で」
「ドロー2」
「ドロー2」
「ドロー2」
とんとんと、ドロー2が出されていく。そして部長は、唸りながら、合計14枚のカードを引いた。
そして部長は緑の2を出した。
「スキップ2枚」
私は手の中の緑のスキップを2枚出す。
「「飛ばされた!」」
A、Bが全く同じリアクションを取っているときに、不動さんもスキップを1枚出した。
「ぬおっ!」
ということは、また私だ。
えっと、青の3は出せないから、ドロー4を1枚。
「青」
「くっ」
Aは4枚のカードを引いた。そして青の5、赤の5、緑の5の3枚を出す。
そしてBは緑の7。
その直後に間髪入れずに、不動さんはドロー4を出した。
「まっまた!」
「青だ、さっさと出せ」
「なんて引き……」
部長は黄色の9を出す。それなら次の私は。
「ドロー4、ウノ」
「またかよ!」
Aは4枚のカードを引く。
……あれ? ドロー4って4枚しかないはず。なのに5回出たような……
Aはカードを引いた後、ドロー2を出した。
そしてBもドロー2、色は青。不動さんはドロー2で返す……のではなく、カードを4枚引いた。そして青のスキップを出す。
と、いうことは。
「上がりっ!」
良かった……
なんとか、自分の体を守ることができた。
「くっそぉおおおおおおお!」
部長はその場に崩れ落ち、床を叩いた。
目からは涙がぽろぽろと零れ落ち、床を濡らす。木でできた床は、すぐにその涙を吸い込んでしまう。
A、Bも、崩れ落ちてはいないが、その場で体を震わせ、涙を流している。
……あのフィギュア、凄く、大切なものだったのかな……
「スク水……バニー……ブルマァアアアアア!」
「同情の余地も無いよ!」
「ううっ、メイド、服……」
悔しがり方が爽やかじゃない……
不純だ、不純極まりない。
「おいおい、敗者は失せろよ。この無駄にごついマネキンは貰っとくから」
「ミクたん……ごめんよ、また会いに来るでござるから……」
「は? 即行売却に決まってんだろうが」
「「「バカな!?」」」
3人が立ち上がり、不動さんを睨む。
「あなたは、愛する人を売るというのですか!?」
「うっせーよ、ちょっと綺麗っぽいセリフ使ってんじゃねえ。てめぇらは愛する女をギャンブルに使ったんだぞ?」
「ぐっ! ……そうだ、確かに我等が間違っていた……」
3人はとんでもないことを言った。
「「「仕方ない……こっちは3人、強硬手段に出る!」」」
「なに言ってるんですか!?」
「ほぅ……来いよ」
「えぇ!?」
言ってはなんなんだけど、不動さんは体の線は女の子みたいに細いし、どう見ても腕力があるほうには見えない。
それに相手は平均的な男子高校生A、Bに、ガタイはぽっちゃりながらガッチリだと思われる部長。なんか、この図柄嫌だ……
しかし事は、私の予想とは全く別のほうに進んだ。
「ぐはっ!」
「うわっ!」
「うわっ!」
一瞬にして、部長とA、Bは吹き飛び、教室の扉の近くまで飛んでいった。
「……え?」
私は言葉が出なかった。
何が起こったのかは全く分からない、ただ不動さんに詰め寄った3人が一瞬にしてあそこまで吹き飛んだのだ。
「さて、強硬手段だな……?」
「「「ひぃっ!」」」
ここからは不動さんの後姿しか見えない、でも……
どんな顔をしているのか、なんだか想像がつく。
「二度と笑えなくしてやる……」
「「「ひぃやああ!!」」」
一目散に逃げ出した3人を追って、不動さんが教室を飛び出していった。
……私、どうしよう。