お遊び部部長と代打ち女子高生
麻雀用語とかがポンポン出てますが、麻雀が中心の小説ではないです
お遊びが中心です。
春。
私、平瀬ひとみは光里高校に入学した。
この辺では、ランクは中くらい。結構がんばった末の合格発表では嬉しさに姉と抱き合ったりしたのもまだ記憶に新しい。
入学式からまだ3日、慣れない校舎を私は1人で歩いていた。
友達といえる友達もあまりいない。いることはいるんだけど、私よりも友達を作るのが上手みたいで、すでに新しい友達と一緒だ。
まぁ、私はちょっと友達作りは苦手だったりする。だから、ちょっと退屈。
別に話しかけたりできないわけじゃないけど、やっぱりなかなか友達、というのは作れない。
今は放課後。
家にまっすぐ帰ってもいいんだけど、ちょっと部活動でも見てみようかな、と思った私は校内を歩き回っている。
ちなみにグラウンドや体育館には用がない、なぜなら私は運動が苦手だから。
中学時代は、体育の持久走ですでに必死、それ以上の運動なんてしてこなかった。
「……お遊び部?」
変な名前だな……
私はその教室の前で立ち止まった。『お遊び部』のプレートがついた部屋は、授業に使う教室よりはちょっと狭いくらいの広さみたいで、中を覗ける窓が存在しない。
手作りにしては妙に完成度が高い、『誰でも歓迎』と書かれた怪しすぎる看板が立てられている。
ほんと、なにこれ?
入ろうか、やめておくべきか、迷っていた。
どう考えても怪しいのだが、お遊び部というものに興味がある。
迷っていると、突然教室のドアが開いた。
まさか、立っているのがばれた!?
「うわああああああ!」
そして教室の中から、なぜかトランクス一枚の男子生徒が飛び出してきた。
……え? そういう部活……?
ダッシュで私はその場を去ろうとした。だがしかし、それをなぜかトランクス一枚の男子生徒に阻まれる、なんで!?
――命の……危機……!
「あ、あの……」
逃げないと……
「助けてくださいぃっ!」
「は、はい?」
男子生徒はいきなりその場に座り込み、頭を下げた。
いやいや、こっちが助けてほしい。でもこの人もなにか尋常ではない事情がありそうだ。というか尋常じゃない目にあった後っぽい。
パニックになりかけた私に、教室の中から声が掛けられた。
「あ? てめぇがそいつの代打ちか?」
「へ? 代打ち……?」
「じゃあさっさと入れ、そんでそこのボケ……途中で逃げてんじゃねえよ……」
「ひぃっ!」
ついに私は、そのドアをくぐってしまった。
お母さん、私、死ぬかもしれません。
教室の中は、異様な状況だった。まず、ごちゃごちゃしている。あちこちにトランプやら、花札やら、チェス盤など、確かにお遊びに使えそうなものがいっぱいある。
そして教室の真ん中では、1つの机に3人の生徒が向かっていた。
1人は髪が長い、男子の制服を着た……女子だよね? という感じの美少女? でも態度がものすごくでかくて、声も質は高いんだけど怖い。
そしてその横に2人。いずれもなぜか上半身は裸で、顔面は蒼白。尋常ではないことが起きようとしているらしい……
「座れ」
「え、でも……」
「座れ。犯すぞ」
ひぃっ! 怖すぎます!
今すぐ帰りたいですが、とにかく座らないとマジで危なそうなので、とにかく机に座ることにした。
「あ、あの……」
「あん?」
「女の子……ですよね?」
プチン、と何かが切れる音がした。
それと同時に、三人の顔面蒼白の男子生徒の顔が、さらに真っ白になる。
まさか、まずいこと言っちゃった……?
「死にたいらしいな……」
「い、いえっ! そんなことは……ただすっごく可愛らしいお顔を」
「へ、へぇ……お前はどうも自分を追い込むのが好きらしいな、マゾか? 調教してほしいのか?」
「ひぃっ! ごめんなさい!」
美少女、改め美少年。というかもうなんでもいい、怖い。
「で?」
「はい?」
「お前麻雀打てるの?」
「あ、いえ……2,3回やったくらいで」
「OK、大丈夫だな」
「ちょっと!? おかしくないですか!?」
「なにも、ただ負けたらこいつらと同じ目にあうぞ」
「わ、私は女子ですよ!?」
「知るか」
やばい、お怒りだ……
麻雀なんて、親戚のおっちゃんと少しやったことがあるだけで、ルールも基本的なことしか知らない。
あの時はなぜかおっちゃんが泣いていたけど、多分運が良かっただけだし……
ううっ、どうしよう。
考えている間にも、牌は自動で並べられていく。
全自動だ、すごい。だけど今はそのハイテクいりません。
もう、勝とう! 決めた。
平瀬ひとみ、ここで勝てなきゃマジで殺される! 気合を入れるんだ!
とにかく自分の牌を確認する。
全自動だから、相手がイカサマしてくるってことは無いと思うけど、それで圧勝してるんだから、相当強いということなんだろう。
こっちは素人なのに。
牌を並び替える。その動きも、美少年? に観察されてそうで怖い。
私の手は、マンズ1色だ。そして1と2のコーツができている。
後は345のシュンツにマンズの3,4,6,8。
……勝てる気がしてきた。
最初のツモは、マンズの8だ。
ということは、6を捨てて、8が頭の……2面待ち。えっと、確か全部同じ色だったらチンイツだったっけ。あとドラ表示牌がマンズの9だから、ドラ3だ。
「よしっ! リーチ!」
「はぁ!? ダブリー!?」
よし、想定外というリアクションだ。
案外勝っちゃうかもしれないなぁ。
「ちっ、どうなってんだ?」
美少年は私の顔を睨みながら牌を捨てた。北だ、全然関係ない。
他の可哀想な男子高校生もみんな字牌を捨てて、かすりもしない。そして私のツモが回ってきた。
――マンズの5だ。ということは、
「ツモ」
「はぁ!?」
「おぉっ! 凄いですよ!」
後ろでトランクス一枚の男子生徒が声を上げた。
うん、お願いだから視界に入ってこないでね。でもこの手はやっぱり凄いみたいだ。
「ダブリー、一発、イーペーコー、チンイツ、ドラ3。えっと裏……乗ってドラ6。ほんと凄いな……」
「ちょっと待て! なんだそりゃ!?」
「数え役満……俺も初めて見る……」
ジャラジャラと私のほうに点棒が流れてきた。
勝てた! とにかくめちゃくちゃ勝てた、これで少しは大丈夫なはずだ。
牌は回収され、また全自動で並び始める。
そして私の牌、えっと……うわ、全部2つずつだ。確かこれ、チートイツってやつだ。あとは東だけで和了だ。
私の最初のツモ……来た! チートイツだ!
「ツモ!」
「……は?」
「チートイツ」
「じゃなくてチーホーですね……うわぁ、テンション上がってきた!」
後ろから男子高校生が解説してくれる、チーホーってなんだっけ。
「また役満……」
点棒が私のほうへまた流れてきた。
さっきから凄いな、私。今日はすごく運がいいみたい。今度は私が親だ。
牌を並べ替え、確認する。
白と發が3枚ずつ、中が2枚か。ということは小三元がすでに成立している。
後ろから覗き込んでいる男子学生は、「なんなんだこの麻雀は……」と、ものすごくテンションが高くなってしまっていた。
お願いだから立ち上がらないでね……。
「ふぅ……」
「おや、そろそろあきらめですか」
「いや? 違うけど?」
美少年はその目を、鋭く尖らせて私をにらみつけた。
背筋に、何か冷たいものを感じて私は一瞬震えた。
「殺しに行く……」
……焦ってはいけない、どんなに怖くても平常心を保たないといけない。
とにかく、いらない牌を捨てていこう。まずは西……
「ポン」
前に座っている美少年が鳴いた。しまった、向こうの風だ……
今度は場に南が捨てられる。
「ポン」
また鳴くのは美少年。
回ってこない……
今度は白が捨てられた。カンすべきか、しないべきか。この辺の判断はいまいち分からないな、素人には。
でもおっちゃんは基本的には鳴かないほうが良いって言ってたからやめておこう。
ツモは、東……
風だけど、これ1つしかないし、もう後ちょっとで大三元テンパイだし、捨てちゃおう。
私は東を捨てた。
「ロンッ!」
「はひぃっ!」
「ツーイーソーシャオスーシー! ダブル役満!」
「やはり不動さんも強い……神がかり的に」
ここまで勝った分全部取られてしまった、ダブル役満ってなに……?
そういえばあの人不動っていうんだ。
また牌が集められ、つまれていく。
ガラガラと牌が回る音がする中、私のツモのせいで点棒を失っている横の上半身裸の男子生徒2人の顔はどんどん青ざめている。
牌を確認する。
えっと……うーん、いまいちよくないなぁ……
「いや、あの……相当の良い手ですよ、これ」
私の気持ちが分かったのか、後ろから男子生徒が私に耳打ちする。
そう、なのかな。中が2つあって、後はバラバラなようにも見えるんだけど。
「三色同順が狙えますね」
三色同順……?
分からない。とにかく全部そろえるために、ソーズの9から捨てよう。
「なぜそれをっ!?」
あれ、間違えてる?
疑問をちょっと残してしまったが、麻雀はどんどん進んでいく。
とにかく、色をそろえるために牌を捨てまくっている。パチパチとしばらく静かに牌が動く音だけが響いている。
7巡目、私の手牌もだんだんまとまってきた。
中が頭で、残り全部マンズまできた。あとは……
「中切るの!?」
「え?」
「ロン」
「あぁっ!」
不動さんのロン。しまった……
「小三元トイトイで親っ跳ねだ」
「うぅ……」
やばいよ、結局点数では不動さんに負けてしまっている。
そして、次の私の手牌は、
最初からソーズの3,4,5,6のコーツ。そして待ちは南。とりあえず第一ツモのマンズの5は捨てる。
「……お前リーチ掛けないのか?」
「え!?」
なんでテンパイだとばれたんだろう。
「ちっ、なんなんだよこいつ……」
不動さんは大きなため息をつくと、自分の手牌に目を落とした。
そして、しばらく考えた後に捨てたのは、私の待ちの南だ。
「ロンっ」
「ぬあああ! なんなんだお前は!」
「スーレンコー」
「おかしい! そんなことが起こってたまるか!」
最後の私の役満で点数はひっくり返った。
また私の大勝。よし、このまま進めば勝てる、生きて帰れるよ……
それにしても不動さんは、かなりいらいらしているみたいだ。まあ私みたいなド素人に負けてるんだから、しょうがないといえばしょうがないのかな。
もう、ほんとに。いつ麻雀卓をひっくり返して強硬手段に出るかと思うと冷や汗が止まらないよ。
そして次の私の配牌。
白、發、中のコーツ。つまり大三元、しかも東のコーツもできている。後1つ、頭になるのはマンズの9だ。
「ちっ、また強いんだろ?」
「あ、ツモ」
「なんなんだお前! ほんとどうなってんの!?」
マンズの9を頭にした、えっとこれは……
そんなときは、後ろのトランクス一枚の男子学生が解説をしてくれる。
「えっと、スーアンコー単騎、大三元、ダブル役満ですね」
「ぜっ、全員……ハコったじゃねえか……」
この麻雀はどうやら箱下ありというルールらしいので、点棒が無くなっても続く。そして借金分は、身包みを剥がれることとなるみたいだ。
いつの間にか、横の2人もトランクス1枚になっている。なんか、目のやり場に困る。
ついにマイナスに突入してしまった不動さんも、かなりいらつきながら制服のブレザーを脱ぎ捨てた。
「くれてやる!」
「いりませんよ」
「いや、受け取れ! 奪い返す!」
不動さんは、もう私しか見ていなかった。
怖すぎる……
そして私が親で、この配牌……
「国士無双、天和」
お遊び部のこの教室に、怒号が響き渡った。