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エレノネーラ帝国物語   花の咲く国に

覚醒したエフィはエレノネーラ国を救うべくヴィンチセオリと駆け付けます。友の傷つけられ、師を真の敵を倒しました。それはセオルドではなかったのです。エフィはエレノネーラ国を救うことが出来るのか。アニスやクリスの運命は?セオルドの目的は?

その瞬間、どこからか水が大きな渦を巻いて敵を身動きのとれないようにしたのだ。 エフィは薄れる意識の中で馬にのった人影をみた気がした。

その少し前、ヴィンチセオリはもうすぐ村に着こうかという距離まで来ていた。

{どうにかギデオンを説得しなければ}

馬上で、今向かっている村の事を考えると、ヴィンチセオリは気が重かった。

湖が見えてきた。と、同時にきな臭さと、湖の水が天高く渦を巻いて村の方へ飛んで

いくのが見えた。

ヴィンチセオリは水の後を追いかけて見たのが、黒装束の集団に囲まれている3人の子供たちだった。エフィ以外は座り込んでいる。アニスか?ケガをしているようだ。

{遅かったか!大人たちはドコダ。ギデオンは?}

ヴィンチセオリは周りを見渡した。所々火の手が上がり、木造の家が崩れ落ちようとしている。

「死ね!」

黒装束がエフィに刃を下した。エフィの周りには水の名残がエフィを覆っているが、

黒装束を倒す勢いはないようだ。ヴィンチセオリは杖を取り出し呪文を唱えた。

「アーラスラ・ダム」

杖から水の渦が黒装束達とエフィ達を隔離した。ヴィンチセオリは、エフィ達の側に

駆け付けた。それを見て黒装束達は驚いた。

「くそ!!なんだ、この水は・・・。あっ!奴は・・・。ヴィンチ・・・!引き上げるぞ!」

黒装束の数名は、相手がヴィンチセオリと知るとチリジリに逃げていった。

黒装束達が居なくなってから、ヴィンチセオリは、気を失っているクリスとエフィを、火の手がとどいていない村の空き小屋に寝かせ、首に深い傷を負ったアニスに回復魔法を施した。村は焼かれこの3人以外、生存者はないようだった。

村はやっと炎が消え、煙のくすぶっている無残な姿となった。

ヴィンチセオリは3人を寝かせたのち、急いで長老の家に向かった。長老は家の外で息絶えていた。

「ギ、ギデオン。わが友よ。儂が遅くなったばかりに、すまない」

ヴィンチセオリは長老の体を抱きかかえながら、頬に当たる涙を抑えることなく嗚咽を上げた。

{殺したのは黒装束の者共。決して許さない、お主の敵は必ず儂が・・・。子供たちは任せてくれ。}

長老を埋葬してヴィンチセオリは誓った。そしてエフィたちがいる小屋へ向かった。

エフィは夢を見ていた。いつものあの夢を。いつもと違うのは、女の人が何か指しているのだ。あれは木?この村の神木のようだが、炎で燃え尽きたはずの木が、

緑豊かに茂っている。こんなことありえない。

女の人はまた、空を指した。空は青く澄み切っている。暖かい風が心地良い。

ここはどこだろう。聞こうとするエフィに女の人は笑顔で笑いかけ消えていった。

エフィは目を開けた。隣にはクリスがまだ寝ており、アニスは、首に包帯が巻かれ

た状態で、静かな吐息を立てて寝ている。

エフィは2人を起こさないようにソーとベッドから出て、外に出てみた。

焼かれた村は無残な姿でエフィは心が痛くなった。

{僕のせいで・・・}

エフィは神木を見に行こうと思った。あの夢のことが気になり、確認したかったのだ。

エフィは神木に向かった。村はずれにある神木は、そのままの姿でエフィを迎えた。焼けることなく、昔のままの姿で。エフィは神木を見ているうちに頬に涙が流れてきた。

「うわーん、僕は何も出来なかった。長老も村の人も、誰も助けられなかった。僕の力は役には立たない。大切な人を守れないようでは」

エフィは神木にしがみついて嗚咽した。神木は何も語らないが、暖かい温もりを感じた。エフィはそっと涙を拭いた。そして、神木を見上げた。不思議でならなかった。

やはりこの木には何か不思議な力があるのか。そう考えていた時、後ろで声が聞こえた。

「もう、起きて大丈夫なのか。少年よ」

エフィが後ろを振り向くと、白髪の長い髭をたくわえ、マントを羽織った見慣れぬ人物が立って、同じように神木を見上げていた。エフィはこの人物が、自分たちの危機を

救った人物とは知らず、身構えて

「あなたは誰です?さっきの黒装束の仲間なら出て行け。僕はついていかないし、脅したって無駄だ」

エフィはもう一度、さっきの力を使おうと体に力を込めた。が、体はまだ回復していないのか、眩暈を起こして、ゼイゼイと息が乱れただけだった。

それを見たマントの男は

「まだ、無理はするな。あれだけの魔力を使った後だ。私が駆け付けなかったら

お前たちの命はなかったぞ。あの娘も傷は深いが、何日かすれば起き上がれるだろう。それにお前たちは、長老が命をかけて救った者たちだ。命を大切にするのだ」

そう言われて、エフィは始めて、この人物が自分たちを救ってくれた恩人だと知った。老人は静かに語った。

「長老と私は昔からの友であった。間に合わなかったことは残念だ。しかし、長老は最後まで私との約束を守ってくれた」

「約束?」

エフィはこの老人と長老の関係が分からずキョトンとした。

「そうだ。長老はお前エフィを守ると儂に約束してくれた」

「何故?僕を・・・」

「それはエフィ。儂がそなたを探していたからだ。会いたいと願いここに来たが、奴らの方が先に村を・・・。残念だ」

エフィは戸惑いながらも長老の最期の言葉を思い出し

「僕を探していた?・・・でも僕は長老様の最後の言葉に従い、人を探さないと・・・。僕の道標になってくれる人を」

「エフィ。長老の最後の言葉も大切だろうが、この国をどうか救ってほしい」

しかしエフィの耳には入らなかった。エフィは村を失い長老を失い、自暴自棄になっていた。

{なんで僕が・・・?僕に何ができる?国の事なんてどうでもいい。僕の大切な人が、場所がなくなった。僕はこれからどうすればいいの?}

エフィは早くこの場所から逃げたかった。長老のいない村、何もかもから逃げ出したかった。そんなエフィに老人は思い切って言った。

「エフィ。そなたは予言の子だ。我々が長年探していた運命の子」

「えっ?」

エフィは、ただただ驚いた。

「僕が予言の子?・・・僕はただのエフィで孤児です。そんな僕に何が出来るっていうのですか!」

エフィは最後の言葉を振り絞るように言い切った。老人は根気よく

「エフィ。そなたは確かに孤児だ。でもそれと魔法が使えない理由にはならない。

今は使えなくても何かのきっかけがあればきっと・・・」

エフィも、神木を見上げながらそうあってほしいと願った。

「そろそろクリスが目を覚ますかもしれませんから、僕は行きます」

エフィは老人に一礼をして小屋に向かって歩き出した。

小屋に着くとクリスは目を覚まし、アニスの傍らにいた。そして入ってくるエフィともう1人の人物を見た。

「エフィ無事だったか。良かった。その人は?あっ!」

クリスにはこの人物が誰だか分かっていた。長老様の友人であり、エレノネーラ国の

魔法省トップの人。以前来た時アニスと少し会話をした・・・。

エフィは

「クリス。この人が僕らを助けてくれたの」

「ヴィンチセオリ様、ありがとうございます。貴方が助けてくれなかったら、

僕たち全員殺されていたでしょう」

「えっ!ヴィンチセオリ?様?」

エフィはまじまじと目の前にいる人物をみた。

長老が言っていた名前も確かヴィンチセオリという名前だった。エフィはまじまじと

ヴィンチセオリを見ると

「長老様は、ヴィンチセオリ様を訪ねるよう僕に言い残しました。それが貴方ですか?」

「いかにも儂は魔法省のヴィンチセオリだ。この村の長、ギデオンの友であり

エレノネーラ国を追放された男。そうか・・・。ギデオンが、儂を訪ねるように言い残したか」

ヴィンチセオリは、長老の最後の言葉が重すぎて声にならない寂しさを感じた。

2人は、アニスを起こさないように注意しながら、長老が生前言っていた、エフィの

生い立ちについてヴィンチセオリに説明をした。ヴィンチセオリは始終驚きっぱなしで、エフィの顔をまじまじと見て

{15年前に捨てられた子、やはりエフィは予言の子だろう。しかしまだ少年ではないか。あの水を操る魔力は高度な魔法のはず。この子には魔力を感じないが、なにか

理由があるのか。まだ謎が多い}

それから3日後、ようやくベッドから起きられるようになったアニスに、ヴィンチセオリのことや、襲撃後のことなどを長老たちが眠る墓の前で説明をしたエフィたちは、村で唯一残っている神木に行き、今後どうするかの話し合いを始めた。

アニスやクリスは

「村を離れたくない。ここにはみんなのお墓もあるし、神木もあるし」

「うん。僕も育ててくれた村を離れるのは嫌だけど、奴らがまた来たら危険だよ。

ヴィンチセオリ様を入れても4人しか居ない。それに僕は魔法が使えないから、皆の足でまといになる。ヴィンチセオリ様も言っていたけど、隣国で身を隠すのはどうかと

思う。ここよりかは安全だと思うよ。それに隣国には、ヴィンチセオリ様の友人もいるらしいから、しばらくは寝泊まりに困らないし」

アニスは少し迷っていたが

「そうね。ここに留まるのは危険だわ。都にいくとしても、黒装束の正体がわからない限り、近づくのは得策ではないと思う。エフィのことがわからない以上、今はあの人について行くしかないと思うの。ねえ、クリス」

「アニスがそう言うなら、僕も構わないけど。でも本当にあのヴィンチセオリという人は、信用できるのかい?」

クリスは少し不安げでエフィを問い詰めた。

「うん、信用できると思うよ。長老様が生前、残した言葉がそうだから。あの人の所へ行けって」

エフィの言葉を聞いてクリスも覚悟を決めたように頷いた。

「わかったよ。エフィを信用する」

3人は意見が一致したところで、かすかに笑いあった。

小屋の中ではヴィンチセオリが、魔法でアリオンと連絡を取っていた。

杖で呪文を唱えると、水晶にアリオンの姿が映っていた。

「アリオン、わが息子よ。国に変わりはないか?予言の子が見つかった。しかし、すぐに帝国には帰らず、まず危険を避けるため、隣国へ行こうと思う」

ヴィンチセオリは目の前に映し出された息子、アリオンの懐かしい顔と無事な姿を見て、安堵しながら言った。

「父上、ご無事でなりよりです。しかし残念なことに、都はセオルドたち闇の魔法師に完全に掌握されてしまいました。セオルドが今や国を支配し、国王の意見も通らぬ有様、民の者も不安と不満がたまっており、騎士団の職務がふえております」

アリオンは久しぶりに見る父親の顔をみながら、苦渋な表情で答えた。

「やはり、そうか。セオルドは初めからこれを狙っていたのだ。王様はどうだ。お元気か」

「王様はお元気です。王妃様共々にわれらがお守りしておりますゆえ、安心なさってください」

「そうか。それは何よりだ。アリオン、どうか私が帰るまで、国と王様たちを守り抜いてくれ。頼むぞ」

「承知しました。父上」

アリオンは目の前の父親に敬礼するように一礼した。そして、こう聞いた。

「それで、父上。父上がおっしゃった子供が見つかったというのは、やはりあの子供だったのですか?」

「うむ。詳しくは言えぬが、お前が以前、話していた村の子供で、今は少年の年齢だ。黒装束の者たちに襲撃されていたのを、私が助けたのだが、確かにその子の魔力も確認した。やはりあの子が運命、予言の子だろう。私は確信しておるのだ。この子がわが国を救う予言の子供だと」

ヴィンチセオリはそう言うと自分の長い髭を触りあの日のことを思い出した。

「そういうことで、アリオン、私はしばらく、身を隠す。そして、その子は魔法が使えない、なのでその子に魔法を教えるつもりだ。あまり時間もないゆえ、どこまで出来るかはその子自身にかかっておるが・・・」

「分かりました。父上。どうかその子を一人前の魔法師に、そして我が国を救う救世主へと育ててください。私はその日まで、この国を守ります」

「十分、気をつけるのだ。あやつはどこに手下を潜ませておるかもわからぬゆえ、

行動には十分気を付け、私が帰るまでどうか無事でいてくれ」

ヴィンチセオリは、アリオン1人を敵中に置いておくことの不安で胸が熱くなり、

涙をこらえながら、そう言った。

「父上もお元気で。それでは」

アリオンはもうそれ以上、ヴィンチセオリと話をすることができなかった。

慌てて水鏡を消すとアリオンは堪えていた涙が頬を伝うのをぬぐい、声を震わせ泣いた。

ヴィンチセオリも消えた息子の姿を涙ながらに見ていた。元魔法省のトップとはいえ、

1人の父親たるヴィンチセオリは、息子アリオンが亡くした妻の面影とだぶって見えた。

「アリオン、もう少し待っていてくれ。私は必ず帰る。我が祖国エレノネーラ国に」

そう自分に言い聞かせるようにヴィンチセオリは涙をぬぐい、小屋を後にした。

外では、エフィと傷の完治したアニスやクリスが、ヴィンチセオリが出てくるのを待っていた。ヴィンチセオリは慌てて涙の痕がないか、頬を拭った。

そしてわざと明るい声で

「お前たち、どうした?私に何か用か」

エフィは先頭に立ち

「ヴィンチセオリ様、僕たち3人で話し合ったのです。そして決めたのです。僕たち

3人はヴィンチセオリ様に付いていこうって。アニスとクリスは僕の友人です。置いていくわけにはいきません」

エフィはヴィンチセオリとアニス、クリスの顔を見渡しながらきっぱりと言った。

ヴィンチセオリは、エフィとこの友人達を引き離すことに後ろめたさもあり、またエフィのいい修行仲間なるかもしれないと考え

「そうか。わかった。アニスとクリス。私たちはこれから、隣国のインスタラ国へ

向かう。そこは穏やかな国で、わが国の姉妹都市でもある。この村にいるよりはマシだろう。私はエフィに魔法を教えようと思っているのだが、そなた達も一緒に修行するというのは、どうだ?」

アニスとクリスは顔を見合わせ、同時に

「はい、お願いします。もっと高度な魔法が使えるようになりたい。そして大切な人をもう失いたくない」

2人の熱い気持ちを聞いたヴィンチセオリは頷き、エフィにも

「そなたは何の為に、私についてくる?友と同じ思いか。それとも違うか」

エフィはしばらく下を向いて黙っていたが

「僕は、自分の過去を知るため、そして長老の、村の人たちの仇が打ちたい。

そのためなら何だってします。僕は自分の生い立ちを知りません。皆のように魔法も使えません。それが何故か、その理由もきっとヴィンチセオリ様と一緒に行けば分かるような気がします。だから・・・」

「分かった。お前たちは私が責任をもって、隣国へ連れてゆき、そして自分の希望が叶うように手助けしてやろう。辛いことや、厳しいこともあるがお前たちなら乗り越えて行けるはず。共に行こう。私のことは何と呼んでくれても構わん。ヴィンチセオリでも

よいし、師匠でもいいぞ」

そういってヴィンチセオリは笑った。

3人は少し考えていたが

「はい、し・・・師匠」

「師匠か・・懐かしい響きだ。ワハハハハ」

ヴィンチセオリはこういうと嬉しそうに3人を見つめ、眼を細めた。

それから2日後、4人は村のみんなの墓に別れを告げ、国境を越え、隣国の

インスタラ国へと旅を始めた。国境を超えるまでの間、魔物が数匹現れたが、

ヴィンチセオリの魔法とアニス、クリスの魔法で撃退出来た。

そして3日後、無事にインスタラ王国に到着した。

都のエレノネーラよりも穏やかで、住みやすい場所であった。ここで、4人はインスタラ国から少し離れたところに小屋を作り、そこを修行の場とした。

小屋の中はヴィンチセオリの魔法で、いつでも奇麗な水が確保された。インスタラ国の市場で仕入れた野菜や肉で、アニスがスープを作ってくれ、夜にはクリスとエフィは

一つのベッドで寝た。アニスには個人の部屋が与えられた。クリスとエフィはアニスだけずるいと文句を言ったがヴィンチセオリの人睨みで静かになった。

4人での生活は楽しかった。エフィは今まで1人で暮らしていたから、誰かと一緒にいるという、体験は始めてだった。一緒に食事することやお風呂に入ること、眠ること全てがエフィにとって、新鮮なものだった。このまま、時がすぎてもいいと、エフィは何度か思うことがあったが、そのたびに長老の言葉や、夢に出てくる女の人が頭をちらついて、エフィを叱咤するのだ。

こうして昼は修行、夜は団らんといった生活が2か月近く続いた。修行は辛いものだった。何もわからないエフィに、魔法力の話や実践を見せたところで、呆然とするばかりであった。

アニスやクリスは徐々に高度魔法を身につけ始めた。特にアニスは元来の真面目さで今までの魔法に加えて回復魔法と木を操る魔法を習得した。木を自由自在に変形させたり、動かしたりできるのだ。また、思念をビジョンとして、相手に送る技も身につけた。

クリスは飛行魔法を得意としたが、元来、お調子者のため、高度魔法をなかなか習得できず、ヴィンチセオリを困らせていたが、アニスの激励が効いたのか、高度魔法の

一つである火の魔法を習得した。クリスは火を操り、火の渦や火の塊を投げる攻撃技を身につけた。ヴィンチセオリは、時には厳しく、2人を指導したが、2人は決して弱音を吐くことはなかった。

それに比べてエフィは、木や風などの初歩魔法すら習得できずにいた。ヴィンチセオリはなにかきっかけがあれば、何か感じるはずだと確信はあった。

村でのあの魔力はまぎれなくエフィのしたことだ。ただ、何かが彼の魔力を封じていると感じていた。今までエフィが力を発揮したのは、自分や周りに危険が及んだ時だけだった。

ヴィンチセオリは焦っていた。定期的に連絡を取る息子アリオンからは、いい情報が得られないことが多くなっていた。今や、エレノネーラ国はセオルドの支配下で、従わない者に対しては厳しい処罰や牢屋送りが慣例化しているのだというのだ。アリオンも

何度か危険な任務を与えられ、命の危険に晒されたこともあったという。アリオン直属の部下も歯向かった行為で処罰された。その恐怖からセオルドに忠誠を誓う者まで現れる始末であった。

何回目の交信中にアリオンは、ヴィンチセオリに

「父上、この国はもはや我らの祖国ではなく、奴の支配された国となりました。

恐怖で支配された国です。王様はふさぎ込みまれ、王妃さまは床に臥されています。父上、もう一刻の猶予もありません。どうかお早いお帰りを」

ヴィンチセオリは息子のこんな弱気な声を聴いたのは始めてで一瞬、狼狽したが

「アリオン、我が息子よ。いましばらく待つのだ。耐え忍んでくれ。順調に進んではいるが、エフィにまだ徴候がみられないのだ。何かきっかけさえあればと思うのだが、

それが分らぬ」

ヴィンチセオリはしきりに顎髭に手を当てている。アリオンは思い切って

「父上、本当にその子がこの国を救うと予言された子どもなのでしょうか?予言の子ならばなぜ、国の危機に何の魔力も発揮できないのか。もしかしたら、予言の子ではないのかも・・・」

アリオンはエフィが予言の子だと確信できないでいた。

{以前見たときは3人いた。隠し事をしているように感じたのは自分の間違いで、本当に頭が弱い何も知らない子供だったのかも。もしかしたら別の2人のどちらかもしれない。だとすると、父は時間の無駄をしていて本当にこの国を託す相手は、別にいるのかも・・・}

アリオンは父親の過ちを認めたくなかったが、エフィが、何の魔力も示さないということが、何よりの証拠になるのではないかと感じた。

ただ、それを口にするほどアリオンは愚ろかではなかった。

自分の父親を信じていたし、なにより自分は騎士団長である。この国を守る使命がある。予言の子がいないのであれば、自分でこの国を守るしかないと、アリオンは決心した。

「分かりました。父上。こちらのことは心配されず、その子を頼みます。騎士団長の名誉にかけてもこの国は父上がお帰りになるまで、守り通します」

ヴィンチセオリはアリオンの並々ならぬ決心と言葉を聞いて

「すまぬ。もう少し、もう少しだ。なにかきっかけがあればエフィは目覚める。それまで、国を頼む」

と、声にならぬ思いでアリオンとの会話を切った。

あくる日、ヴィンチセオリはエフィを呼び出した。

なにかヒントになるものをエフィ自身がもっていないか確認するために

「エフィよ。お前はこの数か月、魔力の鍛錬をしてきたが、大きな収穫はないままである。そこでお前に確認したいことがあるのだが、お前自身に何か思うことはないか。たとえば、魔法に関する出来事やそれに関連する夢、神木にいたときの記憶や不思議な夢など何か示すようなことはなかったか?」

エフィはずっと夢のことを黙ってきた。

{夢だし、言っても笑われるだけだろう}

そう思っていたからだ。だがヴィンチセオリは信頼できる師匠だ。夢の話がでた以上、エフィはヴィンチセオリに話す決心をし、切り出した。

「師匠、僕は幼い頃から夢を見てきました。数日の割合で、そしてその夢は段々

鮮明にはっきり見えるようになってきました。最初は拾われた時の記憶で泣いている

女の人が見えました。次に見たのは、王女様が襲われたとき、同じ夢を見ました。

同じ女の人が泣いていて、何かを示している夢でした。

3度目は村が襲われた日の晩のことです。やはり同じ女の人で今度は泣いていませんでした。

笑顔で僕に、何かを示したのです。そこは村の神木でした。まわりの景色は温かくまるで春のような日差しでした。空は高く青く澄みきっていました。僕は夢だろうと思い、だれにもこのことは話さずにいました」

エフィの言葉にヴィンチセオリはしばし言葉を忘れ、愕然とした。エフィの夢の意味は分からないが、この夢は何かの意味を成している。

女の人はなにかエフィと関係があるのか、そしてヴィンチセオリがもっと驚いたのは、

エレノネーラ帝国ではありえない風景をエフィが口にしたことだ。エフィが何十年も前のエレノネーラ国の春の温かい日差しや青い空などは知りありえないからだ。

村の神木もなにか関係しているかも知れない。そうヴィンチセオリは考えた。

「エフィ、このことは誰にも話さずにいてほしい。お前の友人にも。危険に晒される

ことも考えねばならぬからな。良いか。私はしばらく、留守にする。その間、2人を頼むぞ」

「師匠、どちらに行かれるのですか?付いていってはいけませんか」

「危険な場所ゆえ、小人数の方が身動きとれやすいのだ。なあに、ほんの1週間ほどだ。それまで、皆で鍛錬に励むのだぞ」

「・・・分かりました。師匠どうかご無事で御早いお帰りを」

「ウム、分かった」

ヴィンチセオリはエフィの頭をなでながら頷いた。

翌日ヴィンチセオリは、3人を残し、馬に乗って出発した。むろん、ヴィンチセオリが向かうのは、母国エレノネーラ帝国で、王と秘密裏で謁見しようと考えているのだ。

国王に会って、予言の子についての確認と国の情報を得るためであった。

そのため、行動は誰にも知られぬようにアリオンにも内緒で潜入した。

久しぶりの母国はヴィンチセオリが去ったころとは全く異なり、空は黒く稲光がとどろき、国民はマントで顔を隠し、みんなセオルドの恐怖支配におびえ、疲れてきって

いた。

いつもは活気のある市場や酒場も、シーンと静まり返り、まるで悪魔の行進を恐れているかのようであった。ヴィンチセオリは城の地下から潜入し、王の玉座の間に入り込んだ。

丁度、そこではセオルドが王に意見をしているところであった。ヴィンチセオリは2人に見えないように魔力の気配を消しつつ、カーテンの後ろに隠れ、会話を聞いた。

「王よ。我が国の民はあなたを愚弄し、貢ぎ物が極端に減っております。これをどうお考えですかな。しかも騎士団のあの追放になったヴィンチセオリの息子、アリオンがこの私に歯向かう始末。魔法省のトップとして見過ごすわけにはいきませんな。今では黒魔法師殲滅の長となった、我が弟子のレオンに反逆者の処遇を一任してはどうかと。いかがかな、王よ」

王は玉座で力なく座り込み、セオルドの話を聞いていたが

「セオルドよ。魔法省のトップとはいえ、そこまでの権限はお前にはないはずじゃ。国民は窮しておる。そこに貢ぎ物など暴動が起きてしまう。また、騎士団についても何の反逆罪が値するというのだ」

弱弱しく王はセオルドを問うた。

「王。騎士団は魔法省が統括する部署であるゆえ、この私が処罰することになんの不満がおありか。大体、騎士団がこの異常事態を招いたのではありませぬか」

王はセオルドの言葉には返答なく

「今日はもう疲れた。この件はまた考えることとしよう。それでよいな。ならば、下がるがいい」

セオルドは王の言葉に一応敬意は示しつつも、不満気な表情で玉座の間を後に

した。

セオルドがいなくなると、王はフーと大きなため息をつき、

「ヴィンチセオリ。お前はいつ戻ってくるのじゃ。私ではもうあの者を制御することは困難だ」

疲れた青白い顔でこぼした。

ヴィンチセオリは、ここまで王が追い詰められていたことに驚愕し、やつれた王の顔をみて、たまらずカーテン奥から王に声をかけた。

「王様、ヴィンチセオリでございます。戻ってまいりました。王様」

その声を聴いた王は驚いた。そして声がしたカーテンの方に向いた。

そこには都を追われたままの姿のヴィンチセオリが立っていた。

「おお、ヴィンチセオリそなたなのか?幻ではあるまいよな。余の願いが届いたのか、わが友よ。こちらに来て、その顔をよく見せてくれ」

ヴィンチセオリはゆっくり王のそばに近づき、涙を流しながら王に

「王様、なんとおやつれになったことか。ただただ、このヴィンチセオリの不徳の

致すところ。申し訳ありません。しかし、お喜びください。王様、予言の子が見つかりました」

王はそれを聞き驚いた。そしてヴィンチセオリに

「なんと!それは真か。それでその子はどこにおる。早く会わせてくれ」

王は興奮のあまり、王座から身を乗り出しヴィンチセオリの周りをきょろきょろと見た。

ヴィンチセオリはそんな王を落ち着かせるように

「王様、予言の子は今ここにはおりません。今やこの都は大変危険なため、ある場所にいます。しかし、その子はまだ魔法が使えないのです。簡単な魔法でさえ使えません。なにか理由があると思い、私は王様をお訪ねしたのです」

「余に?」

王はヴィンチセオリのいっていることが理解できず聞き直した。

「はい、王様。以前王様は予見者から予言されたと、私はお聞きしておりますが、

その時のこと、まだ覚えておられますか?」

「覚えておるぞ。あまりにも不解で謎解きのような不思議な言葉だったからな。

それがどうしたのじゃ?」

「その予言の言葉、すべて私に仰いましたか?」

「ウーム、お前に伝えたことが全てじゃと思うが、しばし、待て。思い出してみよう」

王はそう言うと、手を額に当て数分考え込んでいた。

しばらくすると王は何かを思い出したかのように

「そうじゃ、ヴィンチセオリ。あの予見者はこうも言っておった」

そういって語りだした


‘予言の子、不遇の子。その力、ある女によって封印されたし。封印を解くには、その女の名によって、封印から解放される。‘

王はそう言うと、ヴィンチセオの反応を待った。

「予言者はそう言っておった。余はあまりに恐ろしい言葉ゆえ、心の奥底にしまい込んでおったようじゃ。ヴィンチセオリその子が魔力を発揮できないのは、封印のせいか?」

ヴィンチセオリはやはり・・・。と、いった納得した顔で

「はい。王様、予言の子は3度夢の中である女と出会っております。その女が封印したのかもしれません」

「ヴィンチセオリ、だとすると今度はその女を探すことになるのか。しかし、それでは遅すぎる。この国は一刻の猶予もならぬ。おぬしも知っている通り、国民は絶望し、国は荒れ果て、魔物が都にまで現れる有様」

ヴィンチセオリは苦渋な表情で

「しかし、その女を見つけ出さなければ、予言の子は魔力を発揮できないままで、

この国は救われません。騎士団も頑張っております。魔法省の中には、私の直属の部下もおります。どうか、王様、今しばらくのお時間とご辛抱を」

王は苦渋の顔で、それしか方法がないと分かると、

「うむー。そうでしか方法がないのなら仕方がない。だがヴィンチセオリ、時間は待ってはくれぬ。どうか、急いでくれ」

ヴィンチセオリは膝を折り、王に敬礼しながら

「王様。必ずやこの国をお守りします。このヴィンチセオリ・ダガンの名にかけて」

王はそのヴィンチセオリの言葉に安心した様子で

「分かった。頼むぞ。ヴィンチセオリ・・・。ところでその子の名は何という?」

王は予言の子の名前をヴィンチセオリに聞いてきた。

「名前でございますか。エフィといいます。隣国との境の村に置き去りにされていたのを村人が見つけ育ててきたようです。」

その時、カーテンの奥から小さな叫び声が聞こえた。ヴィンチセオリは身構えながら

「誰だ!姿を見せよ」

カーテンの後ろから姿を見せたのは、王妃であった。わなわなと震える姿で目には涙を溜めており、王に向かって

「王様。お許しください。わたくしが、わたくしが・・・。ああっ」

と、叫びその場に泣き崩れてしまった。王は、慌てて

「王妃。どうしたのじゃ。何故、泣いておる。なにか理由でもあるのか」

王妃は、泣き崩れた姿のままで、15年前に起こした、ある出来事を話し始めた。

それは、王ならず、ヴィンチセオリにとっても驚愕すぎる内容であった。

王妃は

「15年前、私は王様の御子を身ごもっておりました。ある日、臨月の日に御付きの

者を連れて都に出かけました。我が子に何か贈り物をしたいと思ったのです。

その時、マントを羽織った見知らぬ旅人に、こう言われたのです」


“お前の子は不吉な運命を持った子。この国に災いをもたらすであろう。”


私は驚きました。そして慌ててその旅人に

「どうすればよいか。どうすればこの国の災いを止めることが出来るか」

すると、旅人は


“お前は双子を生むであろう。一人は金髪、もう一人は緑髪。この緑髪の子が不吉な影を背負っている。この国の危機を救うには、その子を殺すしか道はない”

王妃は両手を組み祈るように

「わたくしは、あの話を聞いてから、子供の誕生が怖くなりました。でも、誰にも相談

出来ず、出産の日を迎えました」

王は、黙って王妃の話を聞いていたが

「王妃よ、しかし、あの日、誕生したのは、王女だけであったはず。そうであったろう」

王妃の言葉を遮るように言った。

王妃は王の顔を見ながらハラハラと涙を流し

「王様、私は偽りを申しました。誕生したのは双子でした。それもあの旅人に言われた通り、双子の一人は緑の髪をした男児でした。

わたくしは、恐ろしくなって、付き人の乳母にその男児を、どこかに置き去りにするように命じたのです。しかし、わたくしは、いつかその子が、国に危害を加えるのでないかと不安で、私の魔法で我が子の魔力を封じ込めたのです。

しかし、月日が経つにつれ、我が子に会いたい気持ちを抑えることが出来ず、我が子の夢に入り成長を見守ってきました。もし、我が子が予言の子ならば、封印を解くことが出来るのは、私だけです。早く、あの子に会わなければなりません。王様、あの子に会って私の罪をどうか償わせてください」

ここまでの話を王は大変驚いた顔で聞いていた。しかも予言の子が自分の子であることに、息がつまるほど驚いた。それはヴィンチセオリにとっても同じだった。

{あのエフィが王様の子供。王子だったとは・・・}

王は額に手を当てたまま、ヴィンチセオリに

「ヴィンチセオリ、私は今動揺で判断できぬゆえ、そなたに一任する」

今まで沈黙を守っていたヴィンチセオリは、フーと呼吸を整え、王からの命令通りに

「王妃様。エフィ・・様はネックレスを身につけておられました。あれは?」

「あれは私の代わりにエフィを守ってもらえるように魔力を付加させたものです」

「しかし、ネックレスには何の特徴も紋章もついていませんでしたが」

「私の魔法で見えないようにしました。たとえ魔法省トップのあなたでも・・・。

もし身元が必要な時には私が解除するようにしていました」

ヴィンチセオリはここでようやくすべての謎がとけたように決意を新たにした顔で

「王様、王妃様の告白で私は、今はっきりとこれからなすべきことが分かりました。

エフィ、いえ王子さまは今、隣国のインスタラ国に仲間とともにいらっしゃいます。

インスタラ国は王女様の嫁ぎ先。王妃様には、王女様を訪ねるという名目で来て

いただき、王子様に会っていただくことに致します。勿論、騎士団が護衛に付くという正式な形で」

王妃はヴィンチセオリの提案を聞いて、王に

「王様、そうさせてください。それならば、私が隣国を訪問しても怪しまれません」

王は落ち着きをみせ、ヴィンチセオリの話に納得した。

「なるほど、ヴィンチセオリのその案、許可しよう。すぐにでも立つのだ。隣国までは早くても2日はかかる。インスタラ国には、早馬で知らせることとしよう」

王の話を聞くとヴィンチセオリは頭を下げて

「それでは王様、私は先に出発し準備をしておきます。王妃様、どうぞご無事でお会いできますように」

ヴィンチセオリはそう言うと、2人に一礼し、カーテンの後ろに消えた。

王は泣いている王妃を優しく抱いた。

「儂に王子が・・・。この国を継ぐ者がいたとは・・・。王妃よ、そなたは騙された

のじゃ、そなたの落ち度ではない。この国を憂いてしたこと。

後はヴィンチセオリに任せよう」

「王様・・・」

翌日、騎士団の護衛で王妃はインタラ国へと向かった。

それはセオルドの耳にもすぐに入ってきたが、セオルドは王妃がインスタラ国に行くことに不信感を抱いていた。

{なぜ、今、慌てて王女の元に行こうとする。この国を捨てたか?それともなにか

企てがあるのでは。まさかな、今や王は私に逆らうことは出来ず、この国は私の支配下だ}

セオルドは部下の一人を呼んで、

「密かに王妃の後を追え。何かあればすぐ知らせるのだ。また、予言の子らしき者がいれば、殺せ!」

セオルドはもう予言の子を掌握しようとは考えていなかった。むしろ、敵とみなし、抹殺することに切り替えたのだ。ヴィンチセオリは、早馬でインスタラ王国に戻った。

3人は喜んでヴィンチセオリを迎え、旅の話を聞きたがった。

「師匠。旅はどうでしたか。何か良い情報がつかめましたか」

クリスはウズウズしながら、ヴィンチセオリの答えを待った。それは、アニスやエフィに

とっても、同じようで、4人は暖炉の囲み、ヴィンチセオリの話を今か今かと期待しながら、待った。

ヴィンチセオリは、

「そう慌てさせるな。急ぎ旅で疲れた。話は明日することにし、今日はもう休もうではないか」

「えー、残念」

3人は残念そうに答えた。

「分かりました。師匠。明日ですよ」

クリスは最後まで未練たらしく振り向きながら、自分のベッドへ行った。エフィも行こうとしたが、ヴィンチセオリに呼び止められた。

「エフィ、そなたには大事な話がある。そなたの生い立ちや過去の事がわかった。夢を見ていた理由も・・・」

エフィは驚いたように

「師匠、それはどういうことですか?」

ヴィンチセオリは少し考えた様子であったが

「いいや。それも明日話すとしよう。さあ、休むといい」

そのままヴィンチセオリは優しい顔で小屋を出て行った。

エフィはベッドへ入ったがなかなか寝付くことができずにいた。師匠のあの言葉。

大事な話とは何だろう。僕の生い立ちになにかあったのだろうか。

エフィは期待と不安で胸が押しつぶされそうになり、やっと眠りについたのは朝方であった。

翌日、ヴィンチセオリは3人を居間に集めて、テーブルの上にお茶とワインを準備しながら、切り出した。

「まず、お前たちの報告から聞こう。私が居ない間、問題なかったか?アニス

どうだ?」

聞かれたアニスは元気よく答えた。

「はい、師匠。特に問題はありませんでした。エフィと私は日々、師匠から学んだことを復習しながら、過ごしました。食事も3日に1回の割合で市場に赴き、食料を手に入れていましたから」

アニスはそう言いながら、チラリとクリスの方を見て

「でも、ひとつだけ、報告があるとすれば、クリスは修行にあまり身が入らかったようです」

そう言われて、クリスは反論しようとしたが、無駄だと判断し、苦笑いでヴィンチセオリの方を気まずそうに見た。エフィはクスクスと笑いながら、それを眺めていた。

実際、ヴィンチセオリの居ない間、子供たちはうまくやっていた。

リーダーはクリスだが、脱線することが多いため、かじ取りは主にアニスだった。

アニスの一声に、2人は頭が上がらないようで、特にクリスは、アニスの言いなりだった。しかし、クリスもまんざら嫌そうではなかったが・・・。

ヴィンチセオリはそんな3人を見ながら

「そうか、ともかく、何もなくて良かった。どれ、次は私が話すとしよう」

今まで優しげ表情だったヴィンチセオリが表情を変え、真面目でいかに困難な旅であったかを象徴するかのような語り方で話し始めた。

「最初に言っておくが、お前たちは何があっても、私の弟子には変わりないから。

そのように、みんな心してくれ。」

エフィやアニス、クリスは当然のように頷いた。それを見た、ヴィンチセオリは満足し

「まず、私は都の王様や王妃様に会ってきた。秘密裏なことで詳しくは言えないが、王様と王妃様は大変困難な状況にいらっしゃる。都はある人物に牛耳られ、黒魔法術が都を支配している状況だ。これを打破するには簡単なことではない。それは、残っている魔法省の者たちと協力しながら都を奪還する。

そして、ここが一番の大切なことだが・・・」

ヴィンチセオリはここで一旦言葉を切るとエフィをチラリと見てから

「今から15年前、王はある予言を聞かれた。ある子供の出現により、エレノネーラ

帝国は救われるという予言だ」

クリスはここで、質問を入れた。

「師匠。では、私たちはその予言の子を探す旅にでるのですか?」

その問いにヴィンチセオリは首を横に振って言葉を続けた。

「いや。予言の子を探す必要はない。なぜなら、予言の子はここにいるからだ」

2人は、同時に

「えっ!」

「話を続けよう。その子は、以前から不思議な術を見せてきた。最初は王女を救った時、そして2度目は村が襲われたときお前たちを救った力。その予言の子は・・・」

おもむろにヴィンチセオリは立ち上がり、エフィの前に膝をついた。

「エフィ王子」

「えっ!エフィが王子?どういうことですか?」

2人はヴィンチセオリが膝をついているエフィを見た。ヴィンチセオリはクリスの質問の多さに苦笑いしながら続けた。

「・・・・エフィは身寄りがないのではなく、理由があって、15年前、シュジュ村に置き去りにされたのだ。エフィは双子の兄として生まれた。エフィには妹がいる。この国に嫁いだ王女様がエフィの妹なのだ」

これには、エフィも驚いた。

王女様が僕の妹。ならば僕は、王子?流石に、この話には、アニスやクリスも驚愕した。

「エ、エフィがエレノネーラ国の王子?まさか・・・」

2人とも言葉を失ってただただ黙りこくった。シーンと静寂が部屋の空気を包んだ。

「エフィ、お前は以前から不思議な夢を見ると言っていたな。女性出るという夢」

「は、はい」

エフィは急に声をかけられて戸惑いながらも返事もした。

「その夢は、そなたの母親が見せていた夢。そなた会いたさに見せた夢だそうだ。赤子のそなたを捨てた罪を悔やんで、王妃様は自ら、王様に告白された。

王様はそれを許された。だから、王妃様を恨んではいけない」

エフィは下を向いていたが

「僕は、その方を恨みません。むしろ、感謝しています。僕が凍死しないように

人のいるところを選んでくれたこと、こんな良い友人を与えてくれたこと、父代わりの

長老に会わせてくれたこと。感謝しかありません」

エフィは皆と過ごせた日々を思い出しながら答えた。


「エフィ・・・。そうだな。エフィが王子でも何者でも俺たちは友達だ。それはこれからも変わらない。すまない、あまりにビックリして何も言えなくて・・・」

アニスとクリスは、エフィの言葉を聞いてやっと口を開いた。2人はエフィが急に遠い人になった感じがして狼狽していたのだ。

だが、エフィの言葉で今もこれからも3人の友情に変わりがないと確信し、安心した。

クリスはいつもの調子に戻って

「エフィこの、野郎。お前、王子だったのかよ。びっくりだぜ」

エフィの肩を小突いて、エフィを笑いながら睨みつけた。アニスもそんな2人を見て

安堵している。ヴィンチセオリはそんな3人を暖かいまなざしで見つめながら、

今は亡き友を思い出していた。

{長老はエフィの正体を知っていたのか?今となってはもう知る由もないが・・・}

「そうしたら、師匠、エフィのことは様付けで呼ぶべきなのかな。なんだかおかしな気もするけど、命令なら従うよ」

クリスは冗談っぽく言った。

「よしてよ、クリス。僕はなんの変わりのないエフィだよ。今までと同じようにエフィと呼んでよ」

ヴィンチセオリはエフィの言葉に顎に手を当てながら

「そうだな。急に呼び名を変えるのもエフィ困惑するだろうし、他の者に知られるのも不味い。このままエフィでよかろう」

ヴィンチセオリはエフィの顔を見ながら、そう判断した。

「あー。良かった。様付けなんて俺、恥ずかしくって言えないからさ」

クリスは助かったー。と、胸を撫でおろしている。

「師匠、それならエフィが魔法を使えないことも何か理由があるのですか」

ヴィンチセオリは、いつも冷静なアニスが身を乗り出して聞いてくることに驚いた。

「アニス、よかろう、話してやろう。エフィ王子が魔法を使えないのには、これまた

理由があるのだ。エフィ王子は魔法が使えないじゃない。すべての魔力を封印されていた」

それを聞いてエフィも驚いた。自分の力が封印されていたなんて・・・。

アニスはヴィンチセオリに食って掛かるように続けた。

「誰に。ですか?そんなことができる人がいるなんて・・・。確か、魔力を封じることは超高度魔法で、できる魔法師は何十年も前に途絶えたとか」

アニスは高度魔法のことは勉強して知っていた。魔法の訓練をする傍ら魔法書を読み漁っていた。ヴィンチセオリはアニスの勤勉ぶりに感心しながら

「それは・・・王妃様だった。エフィ、そなたの母が魔力を封じた。もちろん

理由はある。先ほど話した、双子の事、覚えておるか。王妃様は生まれてくる赤子の内、緑髪の子が国を亡ぼすと聞かされ、そなたの魔力を封じた。

だが、それでは、この国で生きることが困難と考え、危険に晒された時や、感情が

高まったときのみに、魔法が発動する仕掛けを施していたのだ。

だから、そなたは、魔法は使えなくても、不思議な力は使えたのだ」

エフィはこの師匠の話で全て合点がいった。不思議な力は、いつも身近な人が

危険に晒されたときだった。

王女の時も、村が襲われた時も、そうだ。妹を守るため、友を守るため、あの力は発動したのか。

「じゃあ、エフィはもう魔法は使えないのですか。予言の子がエフィならこれから

エフィの力が必要だというのに」

クリスは口惜しそうにヴィンチセオリに食いついた。

「いいや。一つ方法がある。王妃様が言われるのには、王妃様自身がその封印を解くことが出来るそうなのだ。明日、王妃様はこのインスタラ国に王女様に会いに来られる手はずになっておる。そこで、秘密裏に王妃様と会い、封印を解くことが出来れば、エフィは魔法が使えるようになる。それも高度魔法が。手の痣と共鳴して、強力な魔力を引き出すことが出来るはずだ。そうすれば、エレノネーラ国の危機を救うことも

できるはずなのだ」

「王妃さまが・・・。僕の封印を解く」

エフィは少し戸惑っていた。15年ぶりに初めて会う母親、それも王妃様。

そして封印を解いてもらう。その時、僕はどんな顔をするのかな・・・。

長いヴィンチセオリの話は終わり、皆それぞれベッドに入ったが、3人とも寝られるはずはなかった。

{エフィが王子、それもこの国の次期王。そんなことなんて知らず今まで付き合っていたけどこのままの関係で私たち居られるかしら・・・}

{すごいよなー。エフィが王子だったなんて。魔力が開放したらどんな事ができるようになるのだろう。あっ、その前に封印解除されなくちゃならないか。明日が楽しみだ}

{王妃様が僕の母、王様が父。なんだか夢を見ている気分だ。一変に僕の周囲が変わっていく。僕は僕でいられるだろうか。魔力の開放でおかしくならないかな}

それぞれの思いで明日を迎える。それでもいつの間にか深い眠りについていた。

ヴィンチセオリは、エフィたちに話し終えたことでホッとしていた。

明日、なにもかも上手くいく。仇敵、セオルドが王妃とエフィに狙いをつけていることも気づかずに、ただ、安堵の中でため息をついた。

「これで、上手くいく。なにもかも・・・。母国は救われる」

そんな、ヴィンチセオリの願いをあざ笑うかのようにカラスがかん高く鳴いた。

翌日、朝早く目が覚めたエフィは窓の外を見ながら、期待と不安でいっぱい

だった。今日会う王妃がどんな人か、封印を解くにはどんなことをするのか、封印を解かれたら自分はどうなってしまうのか。変わってしまうのかそれとも変わらないのか、

むしろ期待よりも不安の方が大きかった。

アニスやクリスはそんなエフィとは少し遅れて起きてきたが、2人は至って楽観的に、

昨日のヴィンチセオリの話に興奮醒め上がらない感じで喋っている。

クリスに至っては

「これは、これはエフィ王子。ご機嫌いかかですか」

などと、からかってくる始末。エフィはそんな2人に自分の不安を読まれまいと、笑顔で平静を装っている。

「そろそろ行くぞ。準備は出来たか」

ヴィンチセオリがエフィたちの小屋に入ってきた。3人のリラックスした表情をみて一応の安堵は見せたが、エフィの笑顔に少し不安が帯びていることに気づき

「王子。大丈夫ですかな?今日は忙しくなります。しかし、我々も側に居る故、

安心されよ」

アニスもエフィの肩を持ち、

「そうよ。私たちがついているわ。私たちがエフィを守るから」

「アニス・・・。ありがとう。心強いよ」

「俺だって。エフィを守るよ」

クリスも慌てて、アニスに同意した。その行動に、みんなは大笑いして、その場が和んだ。エフィも力強い味方を得て、嬉しそうだった。

同日、王妃は予定通り、インスタラ国に騎士団と魔法省の同行を伴って、無事到着した。王妃は、嫁いだ王女に王宮内で会い、王女が幸せでいることや再会を喜んだ。王妃はしばらく王女と会談し、義理の息子の王子のことなど、話は尽きなかったが、

王妃がなにかソワソワして落ち着かないことに王女は

「お母さま、どうされたのです。なにか気になることがあるのですか?」

「なんでもありませんよ。王女。他国に来たので落ち着かないのでしょう」

「そうですか。それならばいいのですが。ところでお母さま、夜の晩さん会には出席できますでしょう。王様や王妃様も楽しみにされていますの」

王女は、母親の説明に納得したのか、今夜の事を話し始めた。

「勿論。そうさせてもらいますが、これから少し、都内の散策に出ようと思っています。勿論、お忍びで。だから、その用が終わってから、晩さん会には出席させてもらいます」

王妃は自然な言い方で王女に説明すると

「そうね、早く、帰れるようにこれから参ろうと思います。王女の案内は無用ですよ。お忍びでいくのですから、アリオンを護衛に連れて行くので」

王妃はそう言うと、王女を安心させるようにニコッと笑った。王女も、

「アリオン団長ね。それなら安心ですわ。あの者は、騎士団の中でも群を抜いて力もありますし」

王妃は王女との会談のあと、アリオンを連れて、急いで都から離れ警戒しながら、

ヴィンチセオリとの待ち合わせの場所に急いだ。フードで顔を隠し警戒しながら進む

2人。

「王妃様、今のところ怪しい者は、付いてきておりませんが、ご用心されますよう。

ここを抜けると、障害物がないため、身を隠す場所がございません。待ちあうところまではもう少しかかります」

アリオンは周りに警戒しながら王妃から目を離さなかった。

「分かりました。十分に注意しましょう。アリオン、私が向かっている場所はそなたも知っていると思いますが、国の命運がかかっています」

アリオンは、王様から、王妃様の護衛と、ある場所でヴィンチセオリに会うということ

しか命令を受けていなかった。父上が何故ここに王妃様を呼ばれたのか。

アリオンは久しぶりに会えることを大変楽しみにしており、心躍っていた。

それゆえ、気がつかなかった。2人の後ろから距離を開けながら尾行していた人物に・・・。

その人物は黒装束を身につけ、見えないようにしているが腰に刀を差している。

顔はフードで見えず、付かず離れず王妃とアリオンの後を追っていた。

「あの二人はどこに向かっているのだ?セオルド様は、王妃の行動に何を

不振がっておられるのだろう。まぁ私は命令に従うだけだ」

黒マントの男は、2人の後を追いながらセオルドの命令に疑問を持っていた。

雪が積もっている木々の間を1時間かけて、王妃とアリオンは、ヴィンチセオリの

待つ小屋の前にたどり着いた。

まず、アリオンが警戒しながらその小屋のドアをギィーと音を立てながら開けた。

小屋の中は暗く暖炉の火だけが小屋の中を照らしていた。

アリオンは部屋の中に異常がないか確認し、王妃に声をかけた。

「王妃様、大丈夫なようです。こちらに」

アリオンは王妃を小屋の中に促すと暖炉の前に椅子を置いて座らせた。

「王妃様、ここが待ち合わせの場所でございますか?誰も居ないようですが・・・」

王妃はヴィンチセオリから、この場所を伝えられたことに間違いはないと思いながら、少し不安を感じたので周りを見渡していた。

すると、暗闇の中からランプの明かりが、こちらに向かってくるのが見えた。

その数は3つ4つと増えていく。光は入口からではなく反対側の方からである。

アリオンは剣を手に身構えた。

「久しぶりだな。アリオン、元気でいたか?」

聞きなれた声が返ってきた。その声に、アリオンは反射的に

「父上!父上なのですか」

光から現れた4つの影は、ヴィンチセオリを先頭にエフィ、アニス、クリスだった。

3人は始めてみる王妃に恐縮しながら、ヴィンチセオリの後ろに隠れ、様子を伺っている。

ヴィンチセオリはひざまつきながら

「王妃様、ここまでお出でいただき申し訳ありません。人里離れた場所の方が安全かと判断いたしました」

ヴィンチセオリは続けて後ろのいる3人の子どもたちを紹介するように

「この者たちは私の弟子でございます。アニス、クリス、そしてエフィでございます」

ヴィンチセオリから説明を受ける前から、王妃には分かっていた。

夢で何度会った我が子が今、眼の前にいることに涙を流し

「エフィ。我が子よ。よく顔をみせてちょうだい。ああ、よく王様に似ておられる」

涙を流しながら、エフィを抱きしめた。エフィはされるままで立っていたが

「王妃様、私は感謝しています。こうして命があったのも、私が生き延びてこられたのもあなたの愛情のおかげ。それに国を憂いしたまでの事です」

そう言いながら自然に涙が溢れ

「母上様。会いたかった・・・。会いたかったです」

嗚咽を漏らしながら、王妃としっかり抱きあい、嬉し涙を流した。

ヴィンチセオリら4人は、静かにその光景を見ながら、アニスは涙した。クリスは鼻が痒いのか、しきりに鼻を触っている。

しばらく、時が流れ、ヴィンチセオリは王妃に切り出した。

「王妃様。時間がございません。速やかに王子様の封印を解かねばなりません」

王妃は我にかえりエフィに

「・・・。そうでしたね。エフィ。ヴィンチセオリ殿から聞いていると思いますが、私は

あなたの魔力を封印しました。そのせいで、母国は今、危機的な状況に陥っています。これを打開できるのは、予言の子である、あなただけ。これから、私はあなたにかけた封印を解きます」

そう言うと、王妃は床に杖で魔法陣を描き、その中にエフィを立たせた。そして、魔法で空間から一冊の本を取り出し

「封印の書よ。我が願い聞き入れよ。永い時を経て、我が望み叶えし。この者の封印を解き我が命の代わりに・・・。アンシアリング!」

王妃は両手を天に上げ呪文を唱えた。すると、魔法陣の中が光輝き、その中にエフィは飲み込まれた。光は痣に吸収され、体を覆っていたオーラが消えるのをエフィは感じた。それを、見届けた王妃は優しく笑うと、よろめくように倒れた。

ヴィンチセオリたちは王妃に駆け寄った。

「エフィ。近くにきてちょだい。・・・。どうか、・・・許してね。愚かな母を。そして国を、・・・エレノネーラ帝国を救って・・・」

「王妃様の魔力が尽きようとしている。生命も・・・だ」

慌ててアニスが回復魔法を施したが、未熟な魔力しか持たない、アニスの力では、王妃の命を留めることは不可能だった。エフィは

「駄目です。母上。やっと会えたばかりなのに・・・。僕を置いて行かないで。僕は、僕は、まだ、何もしていない。すべてがこれからなのに・・・。僕は、まだなにもしていなのにー!」

泣き叫ぶエフィの感情に呼名するように、エフィの体が金色に輝いた。

それは、小屋全体を光らせ、あまりの眩しさに4人は目を逸らした。

エフィは倒れている王妃に近づき、その体に手を当てた。手からは温かい光が、王妃の中に流れ込み、生気のなかった王妃の顔色が戻った。

スーと目を開けた王妃は自分が生きていること、目の前にエフィがいることにすべてを悟り

「エフィ・・・。封印が解けましたね。これで我が国は救われます。・・・頼みますよ・・・」

そう言うと、気を失った。

窓の外ですべてを見ていたあのセオルドの部下は

「これは・・・。どういうことだ!早く、セオルド様に報告せねば」

踵を返すと、雪の風の中に隠れ、消え去った。

アリオンは王妃をベッドに寝かせると、側で見守るヴィンチセオリに

「父上。では、この方が王子、エフィ様ですか?まさか、魔力を封印されていたとは・・・。予言の子であるならば、王様がどんなにこの吉報を待たれていることか。私は、先に出発しこの事を王様に知らせなければなりません」

アリオンは立ち上げると、腰に剣を差し、ヴィンチセオリとエフィにお辞儀をして出て

いこうとした。しかし、ヴィンチセオリに止められた。

「待つのだ。今お前が1人で動けば、王妃様はどうするのだ。我々はインスタラ国の王宮には入れぬ。王妃様には休養が必要だ。少しここで休んでいただき、王宮へお連れせよ」

「しかし、父上。その間にも、わが国は滅亡してしまいます。以前、お話したように魔法省は敵の手に落ち、上層部も機能していません。抵抗しているのは、騎士団と父上の旧友の方数名のみです。いま、動かなければわが国は滅亡してしまいます」

国に置いてきた部下や王様の安否が気になると同時に、母国の惨状を少しでも

早く救わねばならない。焦っても仕方がないのは百も承知だ。でもこのままここに居てもなにも変わらない。むしろ、悪化するだけだ。そんなアリオンの焦りはヴィンチセオリも同じだった。一刻も早く母国に帰り、セオルドの暴走を止めなくてはならない。

だが、今帰っても全滅することは火を見るよりも明らかだ。

今は耐え、エフィの魔力を上げることが、母国を救うことにも繋がると、ヴィンチセオリは冷静な判断をした。

「よいかアリオン。お前の使命は王妃様を無事にエレノネーラ帝国にお連れすることだ。余計なことは考えるな。王の命に背いてはならない。分かるな」

ヴィンチセオリは、そうアリオンに念を押して、部屋を出て行った。残されたアニスとクリスは、何も言えず黙ってお互いの顔を見渡した。

エフィは王妃の側で王妃を守るように離れなかった。

翌日、眼を覚ました王妃はエフィと別れる際にこう助言した。

「あなたの魔力は無限大で感情によって左右されます。使い方を間違えば、国1つ滅ぼすこともできる力です。誤った使い方をしてはなりません。いいですね」

「はい、母上。肝に銘じ鍛錬を怠りません。先に国に御帰りください。必ず国を救うため私も参りますから」

「王様と待っていますよ」

その日から、ヴィンチセオリは集中的に、エフィの訓練を行った。エフィの力は杖や呪文を必要とせず、感情が高まると発動することは依然と変わらなかった。痣から光の剣を出すことが出来、それで空間や闇を切ることが出来た。

高度魔法もお手のもので、四大魔法はもとより、回復魔法や物体をあげること、飛行

魔法も可能となった。高度魔法の中でも、エフィが特に得意にしたのが、水魔法で、

水を自由自在に操り、渦や滝、氷の形に変えることが出来た。ただ、感情の起伏によっては、コントロールを失い、失敗することもあったが・・・。

アニスやクリスは各自の魔法力を上げる訓練やコントロールする訓練を自主的に

行った。あの日、エフィの封印が解けた日から、2人は遊ぶこともなく、いつもはお調子者のクリスでさえ、真剣に訓練に励んでいる。

それは、自分たちの敵がどんなに強大だということを、昨夜アリオンから聞き、危機感を持ったからだ。昼食も静かな中で黙々と進み、一言二言世間話をしては、すぐに訓練を再開する毎日だった。そんな中、師匠ヴィンチセオリが

「明日は国境近くの森に行く。訓練の成果を見ておきたい」

翌朝、朝早く4人は薄暗い中、小屋を後にした。まだ、日は上っておらず、4人ともマントに身を隠しながら、無言で前に進んだ。国境近くに着いたのは、昼前だった。

以前、住んでいたシュジュ村にも立ち寄った。村はあの日のままで、中央にある、神木は枯れることなく存在していた。

3人はしばらく神木の前で立ち止まり、その力をもらうかのように両手を幹に当てた。雪が積もるその中で、神木はわずかな温もりを3人に与えた。

食事はエフィが住んでいた小屋でとった。

「これから、国境の魔物退治に向かう。今のお前たちにはいい成果を見せる相手になる。それぞれの特性を生かし、協力して臨むように」

3人は魔物退治に行くことでヴィンチセオリが、3人がどこまで強くなったかを知ることが出来るのだと思った。魔物が倒せないようならば、都の闇の魔法師の力には遠く及ばない。むしろ、味方の足手まといになる恐れがあった。もし、魔物を倒すことが出来なければ、ヴィンチセオリは迷うことなく3人を置いていくことを考えていた。

でもそれは、3人にとって屈辱的なことだった。村が焼かれたあの日、何もできなくて、誰も助けられなくて、辛い記憶だけが残っている。それを忘れるためには、あの黒装束のやつらを倒し、エレノネーラ国を救うことが自分たちの救いにもなることを、3人は誰よりも知っていた。だから、やられるわけにはいかなかった。

3人は次々と出没する魔物を、ある時は自分だけの魔法で倒し、ある時は連携して倒した。エフィは自分の感情がコントロールできず苦戦したが、自分に敵意を向けて向かってくるものには容赦なかった。

30分後には、10頭すべての魔物は殲滅され、雪の上は魔物の血で汚れた。

3人も汗だくになりながら、弾む息を整え、ヴィンチセオリの反応を待った。

「よくやった、お前たち。アニス、そなたは冷静に物事を見ることが出来るが、反射反応や決断力にまだ不足な面がある。全体的にみるのなら、周りの味方の行動にも目をやる必要がある。クリス、お前は先行型で突っ走ることが多い。もっと周りを見て、順応できる力を身につけるのだ。突っ走ることだけがお前の能力ではないはずだ。

エフィ、そなたは感情に流されるときがある。そのため、魔力のコントロールが出来ず、他の者の力を借りなければならなくなるのだ。精神力を鍛えて、自分の感情をコントロールできるようにしなさい」

ヴィンチセオリは、厳しい評価はしたが、弟子たちが十分に訓練の成果を出していることを認めた。

3人はヴィンチセオリに言われた各々の課題に今しばらく時間を費やす覚悟であった。その日のうちに4人はインスタラ国に戻った。

決戦の日は近づいていた。

その頃、王妃を追跡していた部下から一部始終話を聞いたセオルド・ドメチは

「なに!王妃が何者かに魔法を施していただと」

「はい、我が王よ。王妃はインスタラ国に着いたのち、すぐに都から離れ、ある小屋に入りました。遠くて確認できませんでしたが、1人の子どもに何か魔法のようなものを与えていました。その子供は光に包まれ、しばらくすると子供の体が光始めたのです。私は、このことをセオルド様に早くお知らせせねばと、早馬で戻ってまいりました」

周りのマントの群衆がざわめく。セオルドの表情に次に起こるであろう事が容易に想像できたからだ。

「それで、お前は何もせず、そのまま帰ってきたのか」

セオルドは冷酷な表情で男を見つめた。男は、慌てて

「私は、この情報をセオルド様が欲しがると思い・・・セオルド様?何をされます!

私は、あなた様のご命令に従った・・・」

後は言葉にならなかった。セオルドは怒りに燃える目で、剣を抜き、顔色一つ変えずに男の首をはねた。

セオルドは、王妃が何をしたか理解してはいなかった。

だが、なぜか不安な気持ちを拭い去ることは出来なかった。

{王妃はなぜ、インスタラ国に出向いた?王女に会うためだけか?いや、違う。王妃はなにか別の目的があって危険を冒してまで向かったのだ。それはなぜだ・・・。いや、今や私には恐れるものなど存在しない。予言の子など見つかるわけもない}

セオルドはニヤッと笑いながら、闇を見た。

ある晩、ヴィンチセオリはエフィたち3人を、部屋に集め切り出した。

「これから1週間後、エレノネーラ国に向けて出発する。そこで騎士団と合流し、

王様に謁見をする。情報は随時、息子から届いているがまだ不足しているところもあるため、行動は秘密裏に行う。アニス、クリス、エフィそなた達の修行を見ていたが、上達は著しい。だが、まだ闇の魔法師には遠く及ばないだろう。アニスには防御力を上げる魔法をもっと上達してもらいたい。クリスは炎の魔法を私が知る限り伝授しよう。そしてエフィ、そなたは感情コントロールが出来るようになってきた。しかしもっと安定する

ように、感情をコントロールすることを覚えるのだ。いかなることが起ころうが、自分の感情に流されることなく、水のように静かに波打つことなく穏やかに・・・良いな」

「はい。師匠」

3人はヴィンチセオリにそれぞれ言われたことを、これから1週間で会得しなくてならないことを緊張な表情でうなずいた。

部屋に戻った3人は、硬い表情ではあったが、3人共、村の皆の仇が打てる日が近づいたことに緊張とは違う気持ちもあった。

アニスとクリスは両親を失い、エフィは父親代わりの長老を殺された。

これからの1週間がそのポイントになる。クリスは、無理に笑い

「また明日から、師匠にしごかれると思うと今からため息が出るなー。あーあ、今夜はゆっくりしたいよ。ほんと」

アニスもクリスに同調しながら、

「そうね。私たち、この何か月頑張ったわ。とくにエフィはとても上達したと思うわ。四代元素の火、水、風、土が使えることもすごいけど、自然の力を自由に操れるなんてほんとすごい。あっ、もちろん、クリスもとても上達したわよ。でも四代元素の魔法は師匠も使えないわ。それもこれもエフィが運命の子だからなのね。エレノネーラ国に着けば、王様や王妃様にも会えるし、良かったわね。エフィ」

クリスは、ややふくれた顔で

「僕は、ついでかよ・・・。まあ、いいけどな。でもほんとに良かったよなー。エフィ。親にも会えるし、・・・でも親っていっても国王だけどな。そうするとエフィは王子。えっ?そうだ、エフィは王子様だー。わあー、大変だー。僕たちエフィの事、エフィ王子と呼ばないといけない」

クリスは半分真面目、半分おふざけといった顔でエフィにひざまつき、アニスに笑い

かけた。アニスもクリスの言うことも最もだと、言わんばかりに頷いて

「そうよね。エフィは王子様だから様をつけなくちゃならないわ」

「やめてよ。2人共。ぼくは今までと同じエフィがいいよ。王子って柄でもないし」

エフィは慌てて手を振り払いながら2人に言った。クリスは

「分かっているって。エフィはエフィだもの。王子だろうとなかろうと僕たちの仲間だ」

「ありがとう。クリス」

「そう?エフィがそう言うなら仕方ないわ。でも、クリス、エフィは王子様には変わりないのだから、エレノネーラ国に着いたら、ちゃんと王子様と呼ばなくちゃ」

アニスはクリスを軽くにらみながらそう言った。

翌日から新たな訓練が始まった。アニスは防御力をあげて、外傷の傷や毒、麻痺に対抗でき、皆のサポートに回れるように回復魔法の精度を高めた。

クリスは、ヴィンチセオリ自ら、火の魔法を伝授し、炎の柱や炎の塊を投げる魔法。

そして剣に火の属性をつけて、敵に熱傷を負わせる魔法などいくつか伝授された。

エフィは1人で森に入り、穏やかな風や大気を感じながら、自分の感情をコントロールできるように訓練をした。

3人とも毎日がクタクタになるまで訓練し帰ると食事も摂らず、眠ることが多くなった。訓練と睡眠だけで毎日が過ぎ、自然と体力もつくようになってきた。

もともと細身のエフィの体も訓練とともにたくましくなってきた。

その頃エレノネーラ国では、アリオンがヴィンチセオリの指示の元、セオルドの行動を監視していた。信頼できる部下を使い、調べてみると、ここ数か月の間にセオルドは勢力をあげ、今や国王よりも支配力を持つ存在となっていた。

そして部下より、ここ数日、黒装束の者の国への出入りが一層増大している。と、報告を受けた。

アリオンは、それを水鏡でヴィンチセオリに報告して、一刻の猶予もないこと、

早く戻ってきてほしいことを何度も頼んだ。ヴィンチセオリは、1週間の猶予が欲しいとアリオンに伝え、必ず戻るから、なにかあれば、持ちこたえてほしいと指示を出した。

アリオンは騎士団とヴィンチセオリの旧友、信頼できる幹部の者を招集し

「1週間後、父がエレノネーラ国に戻ってきます。それまでは、何かあればこちらで対処してほしいとのことです。皆さんの力が必要です。この国を守るため、力をどうか貸してください」

「アリオン殿、水臭い。我々はヴィンチセオリの友。そして、この国と民を守るのが我らの役目。黒魔法師どもをこのままには出来ないことは、皆、同じ意見。微力ながら力を貸しますぞ」

ヴィンチセオリの友の1人、ジンはそう言うと、剣を取りだし、上に掲げた。

そして

「この剣に集いし、国王の名のもとに我がエレノネーラ国に幸あれ!」

「オー!!!」

地が割れんばかりの声が響いた。アリオンは、それをみて

「父上、私たちはなんとか父上がお帰りになるまで持ち堪えます。どうか、王子を連れてお戻りください」

アリオンはそうつぶやくと、歓声の輪に入った。

1週間の日がたった。ヴィンチセオリとエフィ、アニス、クリスの4人は、エレノネーラ国に向かって出発するため、インスタラ国の王女に挨拶に向かった。

「王女様、我々はこれよりエレノネーラ国に向かいます。そして闇の魔法師を殲滅するため、戦いに赴きます。最後の別れになるかもしれません。どうぞ、お体をご自愛ください」

王女は、ヴィンチセオリの後ろにいる3人の顔を見ながら

「ヴィンチセオリ殿、どうぞ父上、母上を頼みます。あなたに再び会えること信じています。そして母国の未来を頼みますよ」

エフィは初めてみる妹を、何も言わず見つめた。

{双子の妹。お前はなにも知らず、ここで幸せに暮らしてほしい}

アニスとクリスはそんなエフィの表情を複雑な顔で見守った。

ヴィンチセオリ一行は、エレノネーラ国に、最後の決戦に出発した。どんな過酷な運命が待ち受けているともこの時は誰も知らなかった。

エフィは雪の間から見える景色を、もう何時間も見ていた。エレノネーラ国に向かう途中、エフィたちは故郷の村で一休憩をとっていた。

村はあの惨劇からあのままの状態で、神木だけが前と変わらぬ姿でエフィたちを出迎えた。焼け残った小屋で一夜を過ごすことになったヴィンチセオリたちは、

食事をとりながら今後の事を話し合った。

ヴィンチセオリはアニスとクリスに向かい

「そなた達はこのままエレノネーラ国に連れては行くが、戦いは騎士団や魔法省の大人たちに任せるのだ。お前たちには民の安全を守り、避難の手伝いをしてほしい。闇の魔法師に従う者たちとの戦いは困難を極める。おそらく1人の黒魔法師は魔法省

3人に匹敵するほどの力を持っているはずだ。エフィはともかく、アニスやクリスお前たちでは歯がたたまい。それよりも民を守ることに専念してほしい」

ヴィンチセオリの言葉にアニスやクリスは不満気であった。

「師匠、僕等も戦えます。ここまで厳しい訓練をした僕たちの魔力では役に立ちませんか?どうか戦わせてください。僕たちは村のみんなの無念を払いたいのです」

アニスは何も言わなかったが気持ちはクリスと同じだった。

エフィはクリスを静止しながら

「2人共、師匠は2人の身を案じて危険だと言っているのだから。ぼくだってどこまで役に立つかわからない。けどもし、僕が本当に運命の予言の子ならこんな試練は乗り越えて見せる。だからアニスやクリスは危険から離れて師匠の言うとおりに動いてくれ」

「エフィまでそんなこと言うのかよ。見くびるなよ。ぼくたちだってきっと役に立つ。

どうか師匠、僕たちも戦わせてください」

クリスの真剣な表情を見てヴィンチセオリはため息をつきながら

「分かった。しかし、私が危険だと判断した時は指示に従うようにするのだぞ。

よいな」

そう言うとアニスとクリスの頭をなでた。そして

「さあ、明日は早い。もう休みなさい。私は少し用があるからちょっと出てくる」

ヴィンチセオリは、3人をそれぞれのベッドに休ませると、自分は用があると言って出ていった。

ベッドに入っても3人は興奮してなかなか寝付けなかった。明日着くエレノネーラ国や戦いについていろいろ話が盛り上がった。しかし日が変わるころには3人の寝息が聞こえてきた。

夢の中でエフィはいつもの夢を見ていた。女の人は、母親で王妃であることはもう分かっていたが、母の側に1人の老人が立っていた。

その老人は、村の長老のような面影でエフィの方を優しい眼差しで見ているが、その視線はエフィを通り抜けエフィの後ろの人物に向けられていた。エフィは振り向き、

その人物を見ようとしたが黒い影で見えなかった。だが、3人いるのは確かだ。

エフィはまた前の老人を見た。老人はエフィを悲しい気な表情で見つめると、スーと

消えていった。

エフィは後ろを振り向き、どうにか影に隠れた人物を見ようとした。背格好がなんだか

アニスとクリスに似ている。もう1人は師匠に・・・。

エフィは3人に声をかけてみたが、返答はない。そのうち3人が炎に包まれはじめた。

エフィは叫び声をあげて目を覚ました。額の汗を拭き、目を覚ましたエフィは隣で静かな寝息を立てて寝ているクリスをみて

「いやな夢だ・・・」

エフィは首を振り、ヴィンチセオリの寝床を見た。まだ帰っては来ていない。

エフィはしばらく待っていたが、反対に目が冴えてしまい、しばらく夜の闇を見ていた。

この村に入ることはあの惨劇からしばらくたつ。神木は、皆が眠るお墓はどうなっているかな。

エフィは急に神木の姿が頭によぎり、見に行くことにした。寝床をソーと抜け出し、

雪の中、神木に向かうエフィ。地面は雪に覆われているが所々雪を踏んだ跡があり、そこには神木に祈るヴィンチセオリがいた。

ヴィンチセオリは両膝を地面につけて一心に祈っている。ヴィンチセオリの着ている

コートには雪がたくさん積もっている。エフィは声をかけようとしたが、ヴィンチセオリの邪魔をしたくないと思い、そっとその場を離れそのまま、村の長老の墓に向かった。

長老の墓の前もしばらくだれかいたのか雪が積もっていない場所があった。

ヴィンチセオリがしばらくここに留まっていたのだろう。エフィは長老の墓に向かい

「長老様、明日僕等はエレノネーラ国に向かいます。アニスやクリスも一緒です。

なにが出来るかわからないけど僕たちのできることをします。ここでもらった恩を少しでも返せるようにこの国を守り抜きます。どうか僕たちを見守っていてください」

しばらく長老のお墓の前に居たエフィは神木の方へ向かったヴィンチセオリは帰ったのかもう居なかった。

エフィは神木に向かい両手を広げて

「神木よ。どうか僕に力を。皆を守れる力を分けてください。この国を守れるように力を貸してください」

エフィは神木に祈り天を仰いだ。そんなエフィの心を知る由もなく雪は降り続いている。

翌日、雪が少しおさまるのを待って、エフィたち4人はエレノネーラ国に向けて馬を走らせた。馬は白い息を吐きマントの中でもエフィたちは寒さに震えた。エレノネーラ国まであと少しという所で急にヴィンチセオリが

「皆、止まれ!前を見ろ」

ヴィンチセオリの声に驚いた3人は馬を止め、前を見ると同時に口を押えた。

「なんだ!あの煙は・・・。エレノネーラ国が燃えている」

クリスは肉眼で見える、少し遠めのエレノネーラ国から炎が出ているのをみて叫んだ。

ヴィンチセオリは馬から降りアリオンとの連絡方法である水鏡を使った。

「アリオン、アリオン、何があった?答えてくれ」

水鏡はゆらめき波立ち声だけで何の返答もなかったが、いろんな声が聞こえてくる。

騎士団が何かと戦っている。その声は怒号で王を守れと叫んでいる。アリオンの声だけでなくいろんな声が混ざり合い聴き取りにくい状況だ。ヴィンチセオリは国でもっとも恐れていた事が始まったと感じ

「急ぐぞ。エレノネーラ国で異常事態だ。王様や王妃様を守らねばならない。」

そう言うと、馬に飛び乗りスピードを上げた。

3人も顔色を変えながらヴィンチセオリに付いて行こうと馬を走らせた。

4人がエレノネーラ帝国に着いた時、都は火に包まれ、騎士団が民を誘導して帝国の外に避難させていた。ヴィンチセオリたちは王宮に向かった。しかし王宮は煙に包まれ所々小さな火で煙がくすぶっていた。

王宮の中では所々で剣と剣の打ち合う音が聞こえてくる。ヴィンチセオリをはじめ皆

一瞬呆然と立ち尽くした。いつの間にこんな状況に陥った?

ヴィンチセオリは王座の間へ急いだ。王と王妃の安否を確かめなくては。

王座の間は装飾品が床に落ち粉々になっている。カーテンは裂け、ところどころ煙が

くすぶっていた。昼間なのにうす暗い中で剣のなり響く音と聞き覚えのある声が聞こえてくる。それを聞いたヴィンチセオリは

「アリオン!そこにいるのか?!私だ」

剣の音が消え、煙の中から

「父上!」

「何があったのだ!」

「敵の一味が強襲を図りました」

「王様と王妃様は?」

「御無事に避難されています」

「よく凌いでくれた。アリオン。ここからは私に任せなさい」

ヴィンチセオリは王の間に居る敵に雷をおとすと、アリオンにかけよった。

「父上、敵の首謀者セオルドは闇に属する者たちを集結させ、王宮に攻め入りました。騎士団や魔法省の幹部で応戦しましたが多勢に無勢。

しかし、セオルドは今私の部下が追っています。闇に属する者たちも数名側にいるため、セオルドをなかなか捉えることが出来ません。高度な火の魔法を使う彼にかなう者がいないのです」

「アリオン、セオルドは私に任せておけ。お前は王様たちをお守りし騎士団で都の民を隣のアナガイア国へ避難させるのだ。王様には話は付いている。向こうの魔法師も力を貸してくれるはずだ」

「分かりました。では私は王様と王妃様の護衛に参ります」

ヴィンチセオリはエフィたちの方を向き

「私はセオルドを追う。エフィそなたはついてこい。アニスとクリスは騎士団と共に民を避難させよ」

しかし、クリスもアニスもヴィンチセオリたちに付いて行くと譲らず言うことを聞かない。仕方なくヴィンチセオリは2人を連れていくことにした。

ヴィンチセオリとエフィ達は、セオルドを追いかけて都の大広場に来た。

そこではセオルドが、アリオンの部下や魔法省の幹部に囲まれながらも余裕な顔で、炎の魔法で幹部たちを圧倒していた。セオルドの側にはレオンもいて、アリオンの部下イアンと対等に戦っている。イアンが繰り出す魔法にレオンが炎の魔力を纏わせた剣で、お互い拮抗した戦いだ。

エフィの存在に気づいたレオンが炎の球をエフィに向けてぶつけてきたが、エフィは

それを間一髪で避けると、水の柱で応戦した。アニスやクリスもエフィに協力しながら

3対1で戦う。

その間、ヴィンチセオリはセオルドの姿を捉えると

「セオルド!お前の悪事もここまでだ。観念するのだ。お前の仲間は魔法省で

すべて捕らえた。もう抵抗せずに降参しろ」

するとセオルドは

「ふふふ。愚かな奴。この私が降参だと・・・。闇の力を手に入れた私にかなう者は

いない。お前もそうだ、ヴィンチセオリ。長年の恨みここで晴らしてやる。レオン、

子供を狙え」

「はい、我が主よ」

レオンはアニスに狙いを定めると火を覆った剣でアニスに向かって突っ込んできた。

「アニス、危ない!」

アニスは防御力を上げかわそうとしたが、炎の剣が体をかすめ軽い熱傷を負った。

クリスはアニスを守るため、炎の塊をレオンに投げつけた。だが、炎の魔力は、レオンの方が上のため簡単によけられ、レオンはクリスに業火の炎を浴びさせた。

クリスがひるんだ隙に、アニスに向けてレオンは炎の剣でアニスに攻撃を仕掛けた。

アニスは熱傷の回復を図るため反応が一歩遅れた。剣がアニスの体を貫こうとする

瞬間、クリスがアニスの前に立ちはだかりその剣を自ら背中に受けた。

「うっ。・・・アニス・・・大丈夫か」

クリスは炎の剣で背を切りつけられ、酷い熱傷を負った。そしてアニスの目の前でゆっくりと倒れた。

「キャー、クリスしっかりして・・・。待って、今、治療するから」

それを見たエフィはレオンを睨み

「なんてことを・・・。許さないぞ」

「ふん。なにが予言の子だ。なんの力もないくせに」

エフィとレオンは互いに剣をぶつけながら戦った。魔力が上のレオンが、エフィを圧倒している。エフィは攻撃を避けるのに精一杯だ。

その時、クリスを治療しているアニスが

「エフィ!エフィ!クリスの側に来て。私に力を貸して。私ではこの傷は治せない。

どうしよう。クリスが死んじゃう」

「アニス、落ち着いて」

エフィはアニスの声にクリスの倒れたところに行こうと、レオンから一瞬目を反らした。

レオンはその一瞬を見逃さず

「甘い奴らだ。戦場で敵に背中を向けるとは、死ね!」

エフィに向けて炎の塊を投げつけた。エフィはクリスの傷に手を当てて回復に力を注いでいたため、自分の防御に気がいかなかった。

やられたと思い振り向くと、目の前にアニスが立ちはだかっていた。

まともに炎を受けたアニスは、その場に崩れ落ちた。そしてうっすら目を開けてエフィを見ると

「エフィ・・・。クリスをお願い。・・・私・・・もうダメみたいだわ」

「アニス、気をしっかりもって。君がいなくなったらクリスが悲しむ。僕だって・・・」

アニスは苦しい息の中で

「いいの。エフィを守れて死ねるのだから後悔はない。・・・私たちいつまでも友達よ・・・」

「アニス・・・? ・・・アニス?」

目を閉じ意識の失ったアニスは、かろうじて息はしているが顔色は青白い。

側で倒れているクリスも傷が深く呼吸は弱い。それを見たエフィは体中の血が沸騰するような感覚に襲われた。体中が熱い。

エフィは怒りで我を忘れた。エフィはアニスの体をそっと置くと、レオンを睨みつけながら

「お前・・・。お前は許さない!」

次々と攻撃してくるレオンの技を、手で軽く払いのけると、レオンに水の濁流を浴び

させた。そしてレオンが体勢を整える間を与えず、ふらつくレオンの背中に炎の剣を振り下ろした。レオンは口から血を吐き、信じられない顔でエフィをみると

「ガハっ。なぜ急に・・・。お前にこんな力があるとは・・・」

信じられないと言った顔でエフィを見ると、その場で絶命した。

それを見届けると、エフィはすぐにアニスとクリスの元に駆け寄った。

エフィはアニスの体に金のオーラを当てた。呼吸はまだ弱く体は熱傷でくすぶって

いる。服は破れ体のいろんなところから出血している。

「アニス、アニス。しっかりして」

エフィは神に祈った。友達を連れて行かないで。と、

「ぐふっ、はあはあ」

クリスはうっすら目を開けた。エフィはアニスにオーラを当てたままクリスに向かい

「クリス!」

「エフィ・・・?アニスはどこだ。目がよく見えなくて・・・アニス返事してくれよ。

側にきて」

「クリス。・・・アニスは無事だよ。今手当をしているから」

「そうか、無事か。・・・なら安心だ。・・・エフィこれ・からも・・僕の代わりにアニスを・・・守ってくれ・・・」

クリスは意識が混濁してきており目の前のアニスが見えていないようだ。

「クリス。ダメだ。君も側にいなくちゃ」

エフィはクリスの意識がなくなるのを防ぐように声をかけ続けた。

「エフィ・・・僕たちは・・・これ・からも・・友人・・だ。・・・そうだろう?・・・」

「ああ、友達だよ。また村に帰って一緒に遊ぼうよ。アニスとも・・・。だから、1人に

しないでよ」

「馬鹿だな。・・・僕たちはいつも・・一緒・・・だろ。・・・・小さい時からずっと、アニスと・・・エフィ・・と僕・は・・・・」

クリスはそういうと目を閉じた。

すぐにエフィはクリスの体にもオーラをあて、騎士団の回復魔法師に、アニスとクリスを安全なところに運んでもらうように伝えた。

アニスとクリスが運ばれ連れていかれてからエフィは周りをみた。

ヴィンチセオリはセオルドと剣を交えている。たくさんの屍。傷ついた兵士たち。

エフィは体の力が急に抜けていくのを感じた。エフィは自分を責めた。

自分は予言の子なのにみんなを救えなかった。アニスやクリスたちさえも・・・。

なりより2人をもっと強く止めることをすれば2人は傷つかずに済んだのに。

そもそも自分がアニスたちの村に捨てられなければ、2人は今でも元気でいれたはずだ。僕が2人を傷つけたようなものだ。

エフィは怒りや悲しみが体中を駆け巡り、感情をコントロールすることが出来なかった。

次第にエフィの体から黒いオーラが、渦を巻いて上空へ上がっていく。

ヴィンチセオリはそれを見て

「いかん!エフィ、自分の心に負けるな。感情をコントロールするのだ。アニスや

クリスはお前を庇って倒れたのだ。それを無駄にするな」

だがヴィンチセオリの声はエフィには届かない。悲しみで感情を抑えることが出来ないエフィは、エレノネーラ国そのものを滅ぼすような勢いで力を増大させていく。

その姿をみてセオルドは

「予言の子がこの国を滅ぼす。これも予言の通りではないか。予言の子よ、自分の感情のままにこの国を滅ぼせ。ワハハハ」

今やエフィの体はドス黒いオーラで覆われていた。

「ウオー」

声をあげると意識を失って倒れた。

意識を失ったエフィは、何もない真っ暗な世界の中で子供の姿にもどっていた。

自分の殻に閉じこもり、誰の声を届かない世界の中で子供のエフィは泣いていた。

誰もいない世界の中で1人きりの自分。悲しくて体を丸めて泣いた。

すると、しばらく泣いていたエフィの前に一筋の光が見えた。エフィは顔を上げた。暖かいオーラを感じる。その光はエフィの黒いオーラさえも包み込み殻を壊してエフィ自身に触れた。

「・・エフィ、しっかりして。あなたは予言の子よ。私たちの祖国を守る運命の子。

そして私たちの友達」

「そうだよ。エフィ。ここであきらめたら、僕たちのしてきたことは無駄になる。僕たちのことは気にしないで。エフィはみんなの希望だ。負けないで、忘れないで、僕たちはいつもエフィを見守っているよ」

その声はアニスとクリスの声だった。光に包まれている2人は優しく笑いかけ、エフィの頭をなでた。その表情に安心したエフィは2人の方に手を伸ばし、共に光の方へ歩いて行った。クリスやアニスに手を引かれながら・・・。

「もう大丈夫だね。エフィ。がんばれ」

エフィは光の中にいるアニスやクリスの方を振り返ると

「2人とも見ていて。僕は負けない。この国を・・・世界を守るから・・・」

現実の世界では倒れ動かないエフィの体を守るように、ヴィンチセオリがセオルド

からの攻撃に耐えていたが、エフィを守ることが精いっぱいで体はセオルドの攻撃を受けて体中に無数の傷を受けていた。

「グハッ」

その時、うっすらと目を開けて現実の世界に戻ってきたエフィ。

ヴィンチセオリの傷をみると

「師匠!ごめんなさい。僕のせいで」

ヴィンチセオリは弱々しくもにこりと笑うと

「エフィ。お前のせいではない。友を失ったお前を誰が責めようか。存分に泣くが

よい。そして泣いたその後は友のためにもこの国を守るのだ。それができるのはエフィお前だけだ」

エフィの手を握りヴィンチセオリは頷いた。

「はい、師匠」

ヴィンチセオリの言葉を聞いたエフィにはもう迷いはなかった。僕の側にはいつだってアニスやクリスが近くにいてくれる。僕は1人ではないのだ。ヴィンチセオリとエフィは

2人で協力し、技を合体させた水と風の共闘魔法で、セオルドの炎の魔法を封じて

優位に立った。

「クソ―、小童共がこの儂に楯突くとは・・・」

エフィ達はセオルドを追い詰めていた。が、すでにヴィンチセオリは、体に無数の傷を負っており、疲労もピークで、なかなかセオルドにトドメをさすことが出来ずに

拮抗状態が続いた。

そこにアリオンの騎士団や、魔法省の魔法師が援護に集結した。

これで敵はセオルドのみとなった。

皆が集結したことでヴィンチセオリは力が抜けたのか、ガクっと膝を地につけた。

その姿にアリオンとエフィが駆け寄った。ヴィンチセオリの傷は体中にあり、主に腹部

からの出血が酷い。

エフィはクリスやアニスにしたようにヴィンチセオリの体にオーラを当てた。

セオルドの炎の刃がヴィンチセオリの腹部に突き刺さっている。

セオルドは高笑いで

「わははは。これでヴィンチセオリも終わりだな。その刃には毒が仕込んである。

いずれ息もできなくなるだろう。しかし我は心が広い。時間を与えてやる。しっかりと

最期の別れを交わすのだな」

ヴィンチセオリは地面に倒れながら息絶え絶えにアリオンを呼び

「アリオン・・・、よいか。私が・・・いなくてもお前は騎士団の団長として・・・みんなを導くのだ・・・。この国は若いお前たち・・・にかかっている。決して弱音を吐いてはならぬ。この国を・・・母国を守れ・・・」

アリオンは涙でくしゃくしゃになった顔で

「父上・・・。このアリオン、必ずや父上のご命令に従います」

ヴィンチセオリはアリオンの頬に手を当てながら

「お前は亡くなった・・・妻によく似た私の・・・・自慢の息子だ。・・・なにがあろうと狼狽えるではないぞ・・・」

ヴィンチセオリはエフィも側に呼んでから、その手を握り、

「エフィ。王子よ・・・。よく聞いて実践しなさい。・・・あなたにはすべてを教えることが・・・出来なかった。だが王子なら・・・この国を守れると信じています。怒りでは・・・

なく、水や風のように冷静でありなさい。・・・決して自分の感情に流されてなりません。

・・・よいですか」

ヴィンチセオリの教えにエフィは嗚咽した。自分の大事な人が次々いなくなることに

エフィは負けそうだった。

だがヴィンチセオリの言葉やアニス、クリスの笑顔がエフィをこの世界にとどめてくれる。エフィは誓った。セオルド・ドメチ!今日ここでお前を倒す。

エフィは立ち上がりセオルドを睨みつけた。

「別れは済んだかな。ヴィンチセオリ、お前もさぞかし心残りだろう。しかし安心しろ。お前の息子も弟子も、すぐに我が後を追わせてやるから」

セオルドはそう言うと、炎の塊を連続でアリオンやエフィに向け攻撃してきた。

エフィはそれを、そよ風をかわすように手で払いのけた。これにはセオルドも驚愕した。エフィの周りには怒りのオーラではなく、静かな波のせせらぎのような風が吹いていた。

セオルドはそんなエフィを見て

「おのれー。これならどうだ」

セオルドは両手を天に向け、黒のオーラの塊をエフィに投げたが、これもエフィは片手で破壊した。セオルドは焦った。予言の子の力がここまでとは考えていなかったのだ。エフィの緑の目はセオルドに近づきながら金色に輝いた。

その姿も金のオーラで包まれている。1歩1歩歩くたびに地面は揺れエフィの感情と

共鳴している。

突如セオルドは恐怖を感じた。このような力は知らない、見たこともない。

なぜこのような人間が存在するのだ。私が長年あんなに欲しがったのはこの力。

これがあれば世界中はすべて自分のものになるのに。セオルドは苦笑いで

「予言の子よ。その力で世界中を支配したいとは思わないか。私がうまく使ってやろう。思いのままに支配できるその力、私とともにこの世界を支配しようではないか。悪い話ではあるまい。どうだ?」

「セオルド・ドメチ、お前はまだそんなことを言っているのか。もうお前の味方は誰もいないのに、そんな世界を支配してどうしたいのだ」

金のオーラを身にまとったエフィが同情するような瞳でセオルドを見る。

「やめろ!我をそんな目で見るな。我はこの国の支配者となるものだ。お前など我の足元にも及ばない小さな虫けら同様のくせに!」

セオルド・ドメチは無駄な攻撃をエフィにかけるが、エフィには効かない。

「ではセオルド・ドメチ、お前の足元にはなにがある?お前の周りには破壊したものしかない。そんな世界を欲しがって、お前は孤独の王になるのか」

エフィはそよ風のような穏やかな顔でセオルドを見た。セオルドは焦った。

何だ、この子供は。今までと雰囲気がまったく違う。エフィの体を纏うオーラはどんどん大きくなっていく。

セオルドはズリズリと後ずさりを始めた。エフィのオーラは、どんどん大きさを増していった。

その姿にセオルドは頭を抱えたと思うと、急に苦しみだした。

「我は、この世界の王となり・・・世界を・・・闇に・・・。・・・やめろ、出てくるな」

「・・・・私は、そんなこと望んで・・・いない。私から・・・私から出て・・・行け・・・!」

セオルドから、二つの声が聞こえたと思うと、突然セオルドは地面に膝をついた。

汗をかき何かぶつぶつ言っている。

エフィはセオルドの異変に身構えた。周りの騎士団はアニスやクリス、ヴィンチセオリを運び出した後、エフィの援護に回るためセオルドを囲んでいる。

エフィは皆に

「油断しないで。彼には何かある」

セオルドは頭を振りながら両手を空に上げ叫んだ。

「ヴオー」

セオルドは体をのけぞった。するとセオルドの後ろからなにか黒い煙が出てきた。

その煙は人間の形をしている。煙は薄くなったり濃くなったりを繰り返している。

「エフィ。奴はどうしたのだ?」

アリオンが剣を構えたまま、エフィに聞いてきた。

「分かりません。でもあの影・・・もしかしたら・・・」

エフィはセオルドの後ろで苦しんでいる影をよく見ようと目をこらした。

そして分かったという表情で

「彼は操られていたのかもしれない。あの苦しみようからみると闇の魔法師本体と、

セオルド・ドメチが彼の中で戦っている。でも確かな事は言えません。もう少し様子を見ましょう」

その間にもセオルドは苦しみ、体中から汗を流し、もがいていた。

煙のようなものも次第に人の形になりかけている。

セオルドは両手を地面につきながら息絶え絶えに

「私の・から・だから出て・いけ。私は・セオルド・ドメチ。この・・・国の・・・黒魔法師殲滅・・・の長だ・・・。負ける・・・ものか・・・」

エフィは今度こそ確信した。セオルドはやはり闇の黒魔法に操られていたのだ。

エフィは迷うことなく、手の平から金色に輝く弓を出すと、セオルドの後ろの影に向けて弓を放った。弓は反れることなく影をつらぬいた。

「ギャー」

影はセオルドの体から離れまいとのたうち回っている。

「おのれ。予言の子、やはりお前は15年前に殺しておくべきだった。王妃をうまく騙したつもりが生き延びるとは。忌ま忌ましい奴」

「お前が母上を騙し、この国を乗っ取ろうとしたのか」

「そうだ・・・。この男は負の感情に飲み込まれそうだった。いい器だった。こやつの体を乗っ取り、もうすぐ復活できるはずだった」

「セオルドは関係なかったと?」

「・・・愚かな者たちよ、聞くがいい。我が滅びても黒魔法は滅ばぬ。いずれ再び

この世を暗黒の世に変えるべく現れるだろう。それまでしばし、この平和な世界を楽しむがいい」

影はそう笑いながら、段々薄くなり消えていった。

影が消えた地面には、セオルドが倒れており、その姿からは闇の気配も消えていた。一体が静寂に包まれた。

「終わったのか?なにもかもすべて」

アリオンは膝をつき、剣を地面に突き刺して言った。

周りの騎士団や魔法省の幹部も一斉に声を上げ、喜んだ。

しかし、エフィはそんなアリオンらに

「まだ、終わっていません。国の再生はこれからです。騎士団の方は民を安全な場所へ、そしてアリオンは僕を師匠たちの元に連れて行ってください」

エフィはアリオンに連れられ、ヴィンチセオリやアニスたちが横たわる部屋に来た。そこには戦い傷ついた大勢の兵士が、うめき声をあげながら横たわっていた。

回復魔法の魔法師は懸命に治療にあたり、少しずつではあるが傷が塞がり回復する者もいる。薬草や栄養スープで体力が取り戻りつつある者もいる。

アリオンはエフィをそことは違う場所へ連れていった。

そこは息を引きとった者が眠る場所。回復魔法を施されたが間に合わなかった者たちがいた。

エフィはその中に、王妃の姿を見つけた。王妃は息のない兵士に、最後まで回復魔法を施していた。周りの兵士は王妃を気遣い止めようとするが王妃は

「この者たちは死んではならぬ者たちです。回復魔法を続けて下さい。私も微力ながら手を貸します」

王妃はあきらめずに息を引き取った兵士に、何度も回復魔法を施した。

王妃の回復魔法はエフィと同じ金色のオーラで、兵士の体を纏い続けた。

しばらくすると白かった兵士の顔にわずかながら赤みが差してきた。

「さあ、今です。回復魔法を」

回復魔法師たちが回復魔法を使う。弱かった呼吸は次第にしっかりと息をはじめ

うっすらと目を開けた。周りの回復魔法師たちはどよめき驚いた。

エフィは王妃の姿を見て、ヴィンチセオリとアニスとクリスの元に走った。

3人を並べると3人の体にエフィの手を当てていく。目を閉じ意識を統一させると、

エフィの体が金色で覆われ、手から出るオーラがヴィンチセオリたちの体に流れ込む

ように光った。ゆっくりゆっくりとエフィの力が3人の体に吸収されていく。最初にうっすら目を開けたのはクリスだった。

「くっ。はあはあ。ここは?俺は・・・死んだはずじゃー。ア・・・アニ・・・」

クリスは横で静かに呼吸をしているアニスを見て、ほっとすると再び気を失った。

アニスは呼吸が正常に出来るようになり、顔色も赤味を帯びてきた。

そこでエフィは2人を回復魔法師に任せ、一番重体で腹に傷をおったヴィンチセオリに意識を全集中させた。

エフィは魔法で腹の傷を塞ぎ、そこから金色のオーラで生命の源を注いだ。が、高齢でもあるヴィンチセオリの回復は、アニスたちのようにスムーズにはいかない。

エフィは全魔法を両手に集めてヴィンチセオリに与えた。

「ごふっ。はあはあ、・・・ここは?エフィ王子・・・?どうして。私はなぜ生きて

いる・・・?戦い・・・は。奴は・・・どうなったのですか?」

「父上!」

アリオンがヴィンチセオリに駆け寄った。エフィはもう大丈夫とアリオンに声をかけ、汗を拭きながら王妃の元にいった。

そこでは王妃が、魔力を使いすぎて意識を失い倒れていた。回復魔法の魔法師たちが懸命に助けようとするも王妃の体力、魔力、生命力は尽きかけようとしていた。

エフィはもう一度全神経を研ぎ澄まし、体から金色のオーラを放出させた。

するとそのオーラは部屋全体を照らし、王妃だけでなく瀕死の状態であったすべての兵士の回復をも促した。それでもエフィの魔力は尽きることなく、城全体を金色の温かいオーラが照らし皆その光に癒された。

だがエフィが助けられたのはそこまでだった。エフィが怒りに任せ倒したレオンは、若い命を散らした。また闇の魔法師に属した者たちの命も助からなかった。

エフィの力で意識を取り戻した王妃は声途切れ途切れに

「我が息子よ、・・・王様を・・王様を頼みます」

エフィは回復魔法師に王妃を託すと、アリオンが王を避難させた場所へ急いだ。

アリオンは部下のジースに王様の護衛を任せていた。

王の間に入ったがいないため、王宮の外に出てみると王は多少の傷はあるものの元気に兵士たちに命令を出していた。

「急いで、火を消すのだ。騎士団は隣国に行き援助を求めよ。我が民はどこにいる?民を王宮へ集めよ」

「王様。ご無事でしたか。王妃様もご無事ですからご安心を」

王はエフィの顔をまじまじと見て

「そなた、エフィか?我が息子の・・・」

王はエフィが王妃によく似ていることからそういった。

「はい、エフィです。父上、この国は救われました。皆のおかげです」

それを聞いて王は安堵した様子を見せた。

「そのようだな。で、この国を滅ぼさんとした張本人のセオルド・ドメチはどうなった?」

エフィは王にひざまつきながら

「父上、セオルド・ドメチも被害者でございます。闇の魔法師に意識を乗っ取られ、操られていました。彼のせいではありません」

その言葉に王は驚いていたが、フーと息をつき

「そうだったのか。ではその闇の魔法師は」

「もう2度と現れることはないでしょう。この国は新しく生まれ変わるのです」

エフィは両手をあげて、温かい緑のオーラで空一面を照らした。

すると雪が止んで氷はゆっくりと溶け湖へと変わっていった。

日差しは温かく木から新芽がでて温かい風も流れてくる。芽が花を開き葉は茂り世界を緑へと変えていった。

それを目のあたりにした王や兵士は言葉が出ず、ただ驚いた。ヴィンチセオリはアリオンにつかまりながら、アニス、クリスたちはベッドの中で変わっていく景色を見た。

「驚いた。これ・・・もエフィがしたことか。もうついていけないな」

「クリス、私たち・・皆、生きていて良かった。こんな景色が見られるなんて・・・」

「・・・そうだね。アニス」

アニスとクリスは手を繋いでこの景色を見た。

「エフィ、お前の力はどこまで強大なのか。私ではもうお前の師は務まらないな」

ヴィンチセオリはアリオンに肩を借りながら、少し寂しそうにつぶやいた。 

1週間後、すっかり傷の癒えたヴィンチセオリが、王様の元に杖を突きながら向かっていると、庭園でセオルド・ドメチと会った。あれから、お互い話すことはたくさんあったが、ヴィンチセオリは雑務に。セオルドは操られていたとはいえ、国への反逆罪の罪で投獄されていて今日、放免されたのだ。

ヴィンチセオリとセオルドは新しくできた池のほとりに座った。

「ヴィンチセオリ。お前は私を恨んでいるだろうな。そうであっても仕方がない。私はお前に酷いことをしてきた。許してくれとは言わないが、私のせいで死んでしまった

レオンは許してやってくれ、あれは私の命令に従っただけだ」

それをきいたヴィンチセオリは

「セオルド、私は今こう考えている。いろんなことがあって傷ついたもの、亡くなった者がたくさんいるが、彼らの為にこの国を立て直すことが、お前の罪を償うことだと。

お前は闇の魔法師を探すあまり、奴の奥深くにまで入り込んでしまい、自分が操られていたことにも気づかずにいた。それはお前の怠慢が招いたことだ。しかしお前をそこまで追い詰め苦しめたのは私なのだ」

「・・・ヴィンチセオリ。私はずっとお前に勝ちたかった。魔力でも地位でも。だがお前はいつも私の先を行く。それを闇の魔法師に見透かされ操られた。潜在意識の中で、私は時に自我を保っていた。が、お前に勝ちたい一心でこの国をもう少しで滅亡させるところだった。それをお前の弟子が防いでくれたばかりか、私を苦しみからも解放

してくれた。あの予言の話は本当だったのだな」

ヴィンチセオリは遠くを見るように

「ああ、王妃様は昔、闇の魔法師にだまされて王子を手放した。だが殺さずにいてくださったことでこの国は救われた。もしあの子がいなければ、この国は滅亡し、お前の体は闇の魔法師に乗っ取られたままであっただろう。そうなればもう誰もお前を止めることは出来なかった。本当に良かった。さあ、もう終わったことを悔いても仕方ない。

死んでしまった者たちのためにもこの国を再建させよう。手伝ってくれるな」

「勿論だ。これから自分の犯した罪を償うためにも一からやり直す考えだ」

ヴィンチセオリはそんな友の顔を嬉しそうに見ながら

「セオルド、私も手を貸そう。幼き時代のように共に行こう」

「・・・ヴィンチセオリ。ありがとう。魔法省も壊滅状態だ。私は一魔法師として魔法省に仕えよう」

そのころ、エフィは王様、王妃様に会うため、アニスとクリスとともに王座の間に

居た。2人共緊張した表情で

「俺緊張するな。アニスは大丈夫?」

「私も緊張はするけど光栄なことで胸がいっぱいよ。エフィの御両親に謁見できるなんて。それも王様と王妃様よ。信じられる?」

アニスはクリスを見て目を見開いて笑った。エフィは笑いながら

「アニス、クリス、僕だってみんなと同じで緊張しているのだよ。母上には封印解除の時に会ったけど、父上はさっき会ったばかりでまともに話もできていないのだから」

「そうよね。私たちはおまけだから、緊張しなくてもいいわ。主人公はエフィだもの」

そんな会話をしていると、王と王妃が、アリオンを伴って現れた。

慌てて3人はひざまつき頭を垂れた。

「よい、そのままで。アリオン、そなたは席をはずしてくれ」

「王様。父から王様の護衛をするよう命令を受けています。私は廊下で・・・」

「融通のきかないやつだ」

王は苦笑いしながら3人の方を向いてエフィに

「お前の友人を紹介してもらえるかな。王妃と私は気になって仕方ないのだ」

「はい、父上。アニスとクリスです。幼い時から2人には助けてもらってばかりで

私が今無事にいるのは2人のおかげなのです」

王と王妃はアニスとクリスを交互に見ながら

「そうか。アニス、クリス、息子が世話になったな」

「い、いいえ、王様。エフィ、いえ、王子様には僕たちの方が助けられました。今回の戦いでも王子様が命を救ってくれたのです」

「そうです。王様。私たちが育った村でも、王子さまは皆に好かれていました。

私たちは仲のよい友人です。私たちは今でもそう思っています」

アニスとクリスは緊張した声で答えた。

「ありがとう。アニス。王子は良い友人に恵まれたようですね」

王妃が目を細め涙ながらに笑った。

「時に息子よ。この度の戦いでセオルド・ドメチはどういう役割をしたのだ。詳細を聞こうとヴィンチセオリを今日こちらに呼んではいるのだが、そなたに聞くほうが良い。と、思うのだが」

「父上・・・。セオルド・ドメチ様は正義感の強い騎士です。そのあまりの正義感から

この惨劇を起こしてしまいましたが彼に罪はありません」

「それはどういうことだ」

「セオルド・ドメチ様は騎士団の中でも、高い魔力を持った人物です。それゆえ

黒魔法師殲滅の要でした。

セオルド・ドメチ様は闇に近づきすぎたため、逆に自らの欲望を闇の魔法師に見透かされることになってしまいました。

闇の魔法師は、彼の弱い心の部分を引きずり出し、彼を操ったのです。

15年間、彼は闇の魔法師の誘惑と戦いましたがついに屈してしまいました。

それが今回この国に起こった惨劇です。

しかし、逆にいえば、彼だからこそ15年間耐えることが出来たのです。

ほかの者ならば一瞬で闇の魔法師に屈していたかもしれません。

そうなれば赤子の私ではこの国を助けることなど出来なかったでしょう」

「うーむ。なるほど。で、闇の魔法師は滅びたと考えてよいのか?」

「完全に滅んだとは言えないでしょう。しかし、何百年は動きが取れないはずです。器を失くしましたから、復活するまでには相当時間がかかるはずです」」

それを聞いて王は安堵した。

「そうか・・・。よくやってくれた。エレノネーラ国はこれから先しばらく安泰であろう」

「しかし王様、闇の魔法師は人の心に住み着く者、油断はなりません」

「そうか。分かった。しかし王子はそこまで考えるように成長したのだな。私もそなたに跡を継いでもらい隠居するかな」

王は嬉しそうにエフィに問いかける。エフィは困った感じで

「父上、僕はいろんな国の事をなにも知りません。友人といろんな国に旅に行きたいのです。そしていろんな経験をしたい」

王妃は

「エフィ、あなたの魔法は無限だと言いましたが、それは民を慈しみ、民に寄り添う

ことで発揮されるものです。困った人に手を貸す力ですからそれを忘れないように」

「はい、母上」

しばらくエフィたちは王と雑談をしていた。

アリオンが

「王様、魔法省のセオルド・ドメチ様とヴィンチセオリ様がお着きになりました」

と、報告に来た。

「おお、通せ。アリオン、そなたも父親に会いたいだろう。ここに居るといい」

ヴィンチセオリとセオルド・ドメチは王と王妃にお辞儀をして

「王様、王妃様。この度は魔法省の内部の失態、このセオルド・ドメチが起こした

謀反です。どうか私に厳罰をお与えください」

セオルドは王に膝をついて懇願した。ヴィンチセオリはそれを見て

「王様、私はこの国を追われた身ですが、一言言わせていただきたく存じます。

このセオルドは闇の魔法師に操られていただけのこと。彼の本心ではありません。

どうか罪には問わないでいただきたいのです」

「ヴィンチセオリ。しかしセオルドの為に命を落としたものもいると聞くが・・・」

「それは間違いありません、王様。その処罰は私も一緒に償います。

元魔法省トップとして部下の罪は上部の罪でもあります。王様、どうか」

そこにエフィが

「師匠、父上にはこの度の事は全て話してあります。セオルド・ドメチ様の罪は問われることはないでしょう。彼の力がこれから必要になります。ねえ、父上」

王はニヤリと笑うと納得したように

「うむ、今エフィからセオルドのことは聞いた。私も彼に罪を問うことはしない。元は魔法省でヴィンチセオリの片腕として働いてきた男だ。これからはヴィンチセオリと共にこの国の再建に努めてほしい」

「王様・・・。このセオルド・ドメチ感謝に堪えません。この命ささげても失った命は返りませんが、せめて少しでも償えるように、今後ヴィンチセオリ殿の元で国の再建に尽くしたいと思います」

王はそれを聞き頷いた。

「分かった。ヴィンチセオリもそれでよいな」


その話を近くで聞いていたクリスは、納得がいかなかった。クリスはエフィの耳元で

「エフィ、あの男の命令で村の皆は殺された。それを許すっていうの?

僕は納得できない。」

「クリス・・・。君の気持ちはわかる。でも村の長老や皆がそれを望んでいると思う?皆、僕たちの幸せを願っていると思う」

「エフィ・・・。君にはわからないだろうけど、僕たちは村を失くした、帰る所もない。

君にはこうして父親や母親に会えて幸せいっぱいだろうけど、僕たちの戦いはまだ終わっていない・・・。アニス、行こう」

クリスはエフィを軽蔑した顔でアニスを連れて出て行った。

「クリス・・・」

その姿をエフィは途方に暮れた表情で見送った。

2人が去った後をヴィンチセオリとセオルドは、複雑な表情で見ていた。

それに気づかない王は

「話は変わるがエフィ、王子よ。お前が生きていてくれた事を妹に知らせたいのだ。そして国が再建出来たあかつきにはお前のお披露目をしたい」

「父上、僕は・・・・。普通のエフィでいたい。それは叶いませんか」

「エフィ、お前は今まで孤児として育ってきた。だが本当の事がわかった以上、お前はこの国と民を守る義務がある。それを放棄することは出来ないのだ」

「・・・」

エフィは2人の去った後をみながら悲しそうな顔で

「父上、しばらく時間をください。僕は僕なりに答えを出したいのです」

「エフィ、しかし」

「王様。王子様にしばらく時間を与えてはいかがでしょうか。王子様もまだ自分の力に目覚めたばかりで混乱しています。色々考えたいことがあるはずです」

ヴィンチセオリがエフィに助け舟を出した。

「ヴィンチセオリ、そなたまで・・・。まあよかろう。しかしエフィあまり時間はないぞ」

「分かっています。・・・それでは僕はこれで失礼します。」

エフィは下がろうと一歩下がろうとした。するとセオルドが小声で

「王子様。友人どのの事でなにかありましたらご遠慮なく私にお伝えください。

私は友人の村を破壊した者ですから」

「セオルド・・・。分かった」

「セオルド、アニスやクリスもわかってくれる」

ヴィンチセオリはセオルドの肩に手をおいた。エフィは無言でその場を去り、慌てて

2人を探した。

2人は園庭にいた。クリスが大声でアニスに説明をしている。エフィが近づくと、ハッと会話を止めてエフィの方をじっと見てきた。

「アニス、クリス、辛いだろうけど、敵討ちはやめて」

「違うの、エフィ。私たちが今相談していたのは、これからどうするかってこと。

このまま都にいても、ここは故郷じゃないから落ち着かないのよ。村に帰って村のお墓も守らないといけないしね。今日これから帰ろうと相談していたの」

アニスが引きつった顔で答えた。

「今日?じゃあ、僕も一緒に行くよ。長老にも会いたいし」

クリスは手でエフィが近づくのを止めると

「エフィ。いや、王子様。ここがあなたの故郷であなたが居るべき場所です。

僕たちとは生きる世界が違う。ここでお別れです」

アニスはそんな2人を悲しそうな顔で見ると

「エフィ・・・。クリスを誤解しないで。彼は、セオルド様を恨みたくないからこの国を去るの。ここに居たら自分が爆発しちゃいそうで駄目だから。私たちの故郷は村よ。皆が待っている。帰らないと・・・」

「でも、これからも一緒だって言った。なんで僕だけ置いて行っちゃうの?ずっと友達だって言ったのに・・・」

エフィは狼狽えながら2人に近づこうとした。

「エフィ。ずっと友達よ。ただ住む場所が違うだけ。私たち、エフィが立派な王様になることを祈っているわ」

アニスはそういうと師匠であったヴィンチセオリに何も言わないまま、クリスの後を追って行った。エフィは

「君たちがいなけりゃ僕は立派な王様にはなれない。アニス!クリス!」

叫んでみたが、2人には届かず声はこだまするだけ、エフィは涙を流しながら2人の消えた方角を眺めた。

鳥の鳴き声が聞こえるだけ・・・。

王座の間に戻ると王はヴィンチセオリと話し込んでおり、側にはセオルドもいた。

ヴィンチセオリはエフィの顔を見るとすべてを悟ったように

「エフィ王子、お辛いでしょう。しかし友は永遠のもの、必ず2人は帰ってきます」

「・・・。師匠、でも僕は2人が居ないと・・。」

エフィのそんな姿を見て王は

「王子よ。そなたはこの国の王子だ。いずれ私の後を継いでこの国を統治しなければならない身」

「父上、分かっています。でも2人は僕にとって大事な友人です。2人がいる事は

僕にとって一番大事なのです」

「エフィ・・・」

王妃は2人のやり取りを見ているだけしかできなかった。

王宮の、エフィの部屋の中でエフィは、色々昔の事を思い出していた。

アニスとクリスとシュジュ村の湖で遊んだこと、長老や村人に囲まれて食事をした事や祭りに参加して焚き火から上る煙をじっと見たこと。

ケガをしたエフィを、アニスが心配してくれたこと、クリスの笑う顔、3人で走り回ったあの光景。

忘れるはずはない。でも今はもう2人はいない。僕はまた、知らないところに捨てられたようなものだ。師匠のヴィンチセオリやアリオン、父や母はいる。

セオルドも自分の罪を償うように、国の再建に力を貸してくれている。

でも自分の心の中に生まれる虚無感は誰にも晴らすことは出来ない。あの2人に僕は捨てられた。エフィは自分の心がどんどん闇に近づいているような気がして怖かった。周りは大人ばかりで、王子ということもあって気さくに声をかけてくれるものいない。

エフィは今初めて本当の孤独を知った。

しかし王は、そんなエフィの思いも知らず王国が再建された時、国中の民を集めて祭りをすることを決めた。

それはエフィのお披露目でもあった。諸国にエフィの存在を知らしめる催しでも

あった。隣国のインスタラ国やアナガイア国に招待状を送り、嫁いだ妹にも参列して

もらう予定だった。

勿論、アニスやクリスにも招待状は出したが返事は返ってこなかった。

エフィはだんだん部屋から出てこなくなった。王子としての義務もわかっていた。

するべきことも。だが体が言うことを聞かない、食欲もなくエフィは王や王妃が心配するほど衰弱していった。回復魔法で体力は回復しても気力までは回復しない。

笑顔もなくエフィはただ外が見える窓から2人が現れるのを待ち続けた。

そんなエフィを見るに見かねてある晩、王妃がエフィの部屋を訪ねた。王妃はエフィの痩せた姿を見て

「王子。アニスやクリスはあなたにとって、とても大事な友人だったのですね。あなたが王子でなければこんな苦しむことはなかったでしょう。

母はあなたが悲しむ姿をこれ以上見ることは出来ません。いいですか、エフィ。

お披露目日は明後日、それまでに帰ってこられますか。私がそれまで護衛の者や王様を欺きます。どうか2人の所に行ってらっしゃい。

ただあなただけで行かせることはできませんから、ヴィンチセオリを護衛に頼みました。ヴィンチセオリは3人の師匠でもありますからね。だからよく話し合ってきなさい」

それを聞いたエフィは少し笑顔を見せ

「・・・母上。ありがとう」

エフィはベッドに座りながら王妃に感謝した。

翌日、王妃の手はずどおりに、エフィはヴィンチセオリと共にシュジュ村に

向かった。雪で覆われていた道には草が茂り、木には鳥が歌い穏やかな日だった。

ヴィンチセオリは

「王子よ。どんな結末になろうと自分で決めて後悔しないようにしてください。

自分の道や未来は自分でしか作れないのですから」

と、優しい口調でいった。

「師匠、僕は王子になんて生まれたくなかった。あの村でみんなと暮らしていけたらそれで幸せだった。でも僕は王子。それが許されるはずはない。僕の気持ちをアニスやクリスはどう思っているのか、僕は不安なのです。

戦いが終わったら皆幸せになって、一緒に暮らせると思っていた。僕は叶うはずのない夢を見ていました」

「王子・・・。長年一緒にいたアニスやクリスは、そんな薄情な者でしたか?私はあの者たちとは王子ほど長く付き合いがありませんが、気持ちの良い子供です。

それを王子が信じてあげなくては」

「師匠・・・」

半日ほどで村に着いた。エフィはまず村の皆が眠る墓地へ向かった。

そこは誰かが毎日来ているように花が手向けられ、静寂な時間が流れていた。

次に長老のお墓に向かうと、人影があった。よく見るとアニスが1人でなにか祈っていた。声は小さいが聴き取れる。

「長老様、エフィは元気でいるでしょうか。幸せに王子様の役目を果たしているで

しょうか。私たちはあそこで関係を絶ってしまいましたが、エフィの幸せを祈って

います。どうかエフィが立派な王子としてこの国を王様と一緒に治めることが出来ますように長老様も見守っていてください」

アニスはそういうと立ち上がり、涙を拭いて振り向いた。そして目の前にエフィが居ることに気づき驚いた。

「エフィ・・・・。いえ、王子様、どうしてここに?」

「アニス、僕は君たちの気持ちを知りたくてここまで来たの。どうか話を聞いてほしい。クリスにも。クリスは今どこ?」

「クリスは、今住んでいる家の修繕を・・・。・・・師匠まで!」

「アニス、久しぶりだな。変わりはないか」

アニスは急に現れた2人に驚きながら

「はい。どうにか暮らしています。お二人ともどうぞこちらに」

アニスはエフィとヴィンチセオリを前エフィが住んでいた小屋に案内した。エフィは久しぶりに見る小屋を懐かし気に見た。あれから何年もたったような気がした。

「アニス。お帰り。・・・・誰だか来たのかい?お客なんて始めただな。・・・エフィ!」

「・・・久しぶり、クリス。元気にしていた?」

「ああ・・・いえ、王子様。・・・こちらには見回りで?」

「いや、僕は君たちと話がしたくてここに来た。話を聞いてほしい」

「話なんて僕たちは別に。なあアニス」

クリスはアニスを見ながら同意を求めた。

「・・・クリス。王子様。師匠。とりあえず中にどうぞ」

アニスは2人を中に案内してくれた。クリスはため息をつきながら

「エフィ・・・なんだって今更」

小屋の中はエフィが居た頃と変わらない様子だった。暖炉に椅子が二つ。

奥の方にはカーテンで仕切られた別の部屋があった。エフィはアニスが入れてくれたお茶に手も付けずに

「アニス、あれからどうしていたの?大人がいない村で生活は大丈夫かい?」

「それは大丈夫なの。インスタラ国に、クリスが買い出しや物を売りに行ってくれて

いるから、どうにか生活できているのよ」

アニスは笑顔でエフィを心配させまいと返事した。

「そう。でも都にいた方が安全だし、物も手に入りやすいのに」

「そうかもね。でもクリスはこの村に帰りたがっていたから・・・。ここには長老様や皆のお墓もあるし。それにもう危険なことはないでしょう?魔物も闇の魔法師もあなたが倒したから」

「何をしにここまで来たのですか。王子様」

突然クリスが会話の間を破って小屋に入ってきた。少しの怒りも感じる。エフィは

部外者のような感じがした。

「クリス・・・。この前君たちが都を去る時、きちんと話ができなかったから気に

なって・・・」

「それはどうも。でも別に話すことはありませんよ。アニスと僕はここで穏やかに

暮らしています。王子様には王子様ですることがたくさんあるのではないですか」

「クリス、失礼よ」

アニスがクリスをたしなめた。

「クリスよ。お前たちの気持ちも分かる。仇が打てなかった苦しみや怒りがあるのは。しかし、セオルドも被害者で苦しんでいる。今彼は自分の罪を償うため国の再建に努めている。彼を許せとは言わない。ただセオルドに償う時間を与えてやってほしいのだ」

ヴィンチセオリの言葉にクリスは怒りを露わにして

「被害者?・・・あいつが?だから許せと。許せば村の皆は・・・長老様は生き返るのですか。師匠!奴は許されて何のお咎めもなくのうのうと生きている。そう考えるだけで僕は、頭がどうにかなりそうです」

「クリス・・・」

ヴィンチセオリは言葉を失った。

{これほど強い憎しみをクリスが持っていたとは・・・}

憎しみは負のオーラだ、闇の魔法師が好む力だ。

憎しみ、妬み、恨みは闇魔法の餌になる。ヴィンチセオリはクリスを見て、その表情に驚愕した。あの人懐こいクリスの姿ではなく、憎しみだけで生きている男の顔だった。

その姿にしたのは無力な大人である自分たちだ。

ヴィンチセオリはクリスにかける言葉もなかった。ただエフィに

「王子よ。ここに長居は無用のようだ。都に帰りましょう」

「師匠、僕はクリスとまだ話をしていない。クリス、僕の話を聞いて。僕たちは友人

だろ。いつまでも何があっても・・・、そうだろ?」

「・・・」

クリスはエフィの問いには答えず、修繕道具を持ち出て行った。

「クリス・・・」

エフィは出て行ったクリスの姿を目で追った。

「エフィ。クリスにもう少し時間を頂戴。彼はいま苦しんでいるの。村に帰ってきて

から毎晩のように悪夢にうなされて・・・。時間が解決してくれると、私は信じて待つ

つもりよ。また都には会いにいくわ。クリスと一緒に。大丈夫、きっとクリスは立ち直ってくれる。そう信じましょう」

「アニス・・・。分かった。僕は待っているよ」

エフィとヴィンチセオリはそう言うと小屋を出て、馬に乗り都に帰って行った。

エフィたちが出ていくとクリスが戻ってきた。

「クリス、エフィは私たちに会いに来たのよ」

「アニス、僕たちはエフィにはもう必要ない。だって都には師匠や王宮の騎士団、兵士が大勢して、家族もいる。幸せに暮らしているよ」

「違う。エフィは私たちを頼ってきたのよ。王宮は大人ばかりで、エフィは孤独だわ。家族といっても王様や王妃様よ。私たちの家族のように気軽に接することは出来ないわ」

「でもエフィは王子だ。僕たちとは身分が違う」

「それがどうしたの?私たちは友人でしょ。いつまでも友達だわ。それは変わらない。その友人が助けを求めてきたの。私たちよりもずっと大きな孤独を抱えて。それでもエフィを放っておくつもり?」

「エフィが孤独?僕たちに助けを・・・?そんな。僕は怒りに任せてエフィになんてことをしてしまった」

クリスは途端に泣きそうな表情になった。そんなクリスをアニスは落ち着かせると

「クリス、大丈夫よ。エフィは友人ですもの。きっとわかってくれるわ。このままエフィたち追いつくことは難しいから明日、早朝にエレノネーラ帝国に行きましょう。行って

エフィと話すの。自分の気持ちをすべて」

「アニス・・・・。そうだね。わかった。明日出発しよう。じゃあ、今のうちに村の皆に挨拶してこないと。長老様にも」

2人は村の人が眠る墓に赴き、花を手向けた。長老にも花を供えて

「長老様、明日都に行ってエフィと会ってきます。ここに帰るのは当分先だろうけど今度帰る時はエフィも連れてくるから待っていて」

小さな声でクリスは長老に報告した。


早朝、アニスとクリスは荷物を背負って、エレノネーラ帝国に向けて出発した。

エフィに会って話したいことや謝りたいことがたくさんあった。

森を抜けもう少しで広い場所に出る所でクリスは何か嫌な気を感じた。

それはアニスも同じだった。木の影に誰か隠れており殺気を感じる。

エレノネーラ国を去ってからも2人は魔力を高める訓練を怠ることなく続けていた。

そのため、少しの殺気でも感じることが出来るようになっていた。

「誰だ!」

クリスが叫んだ。その声に木の陰からでてきたのは意外な人物だった。

あの戦いで闇の魔法師についていた魔法省の幹部だ。2人はセオルドだと思っていた。

「見つけた。そう、お前たちだ。あの予言の子どもと一緒にいた子供は。お前たちのせいで闇の魔法師様の復活が阻止された。口惜しいが王子には手が出せぬゆえ、お前たちに代わりに死んでもらう。そうすれば王子は、悲しみ負の穢れを生むだろう。

それが闇の魔法師様の復活につながるのだ。何より王子の悲しむ顔が見たい」

男は剣を持ち2人に迫ってくる。

「そうたやすくやられないぞ。いくよ、アニス。業火の炎!」

「濁流の柱!」

2人は自分たち独自で編み出した魔法で相手に先手をうった。

しかし、2人の魔法は赤子をひねるように簡単に押し戻された。

「くふふふ。このような魔法が私に通用するものか。今度はこちらが行くぞ。炎の魔法はこうやるのだ。炎の柱」

2人の魔力よりも大きな力が迫ってくる。どうにか2人で防御したがこのままではやられてしまう。

クリスはこのまま、自分たちはエフィに会えないまま、謝ることもできないまま死ぬのかと考えた。助けは来ない、クリスは観念して目をとじた。

すると攻撃している男のほうからうめき声が聞こえた。

相手は2人を見ずに違う方を睨みつけていた。そこに居たのはセオルド・ドメチだった。

「2人とも無事か?」

アニスやクリスは驚いた。どうしてこんなところにセオルド・ドメチが?男はセオルドを見て

「お前か、セオルド。この裏切り者。あのまま黒魔法師様に吸収されていればよかったものを」

「・・・お前は私の最初の部下になったジーナだな」

ジーナと呼ばれた男は、元セオルド・ドメチの部下で魔法省の幹部だった男だ。

闇の魔法師に傾倒し、最初に部下になった人物だ。あの戦いの最中、いったん身を隠したジーナは、警戒が少なくなったのを確認し国を出てきたのだ。

そしてエフィの友人であるアニスやクリスを殺そうとここまで追ってきた。

「フン。お前の魔力が高いことは知っていた。またヴィンチセオリに競争心をもっていたことも。だから私が主にすすめたのだ。お前の体を乗っ取るように」

「ジーナ。お前が闇の魔法師と繋がっていたとは・・・」

「セオルド、お前は昔から一本木な奴だから、主の情報を与えれば必ず罠にはまると思っていたぞ。もう少しで主の復活がかなったものを。忌々しい奴。最後の最後で

自我に目覚めるとは。 まあいい。ここでお前も倒し都をもう一度火の海にしてやろう」

「それは出来ない。都にはヴィンチセオリも騎士団も魔法省もある。ジーナ、お前の企みは上手くいかないだろう」

「しかし、子供を守りながら私の攻撃をかわせるかな。お前までとはいかなくても私も魔法省の幹部。力はあるぞ」

セオルドはふっと笑い

「ジーナ。私がここまで1人で来ると思うか。そこまで信用されてないのでな」

セオルドがそういうと、周囲の木からアリオンたち騎士団が姿を見せた。

「セオルド様。信用されていないとは心外です。私たちは父上の命令で、あなたを護衛していたのですよ。まだ残党がいると情報があって、あなたの身が危険と判断

された父の命令で」

木の陰から出てきた騎士団を見てジーナは少し後ずさりをした。

「ヴィンチセオリ。余計な事をする」

と、苦笑した。アリオンはジーナを見て

「ジース、この者を拘束せよ。アニスとクリス二人の子供も保護せよ。

王子様のご友人だ」

「はっ!」

ジースは部下に命じながら残党の一人を捕らえた。

「団長、国に帰ったらこの者に残党の情報を吐かせます。情報があれば一網打尽にできるでしょう」

「そうしよう。だがお前たちは先に帰るように。私は子供を乗せて王宮に向かう」

「承知しました」

ジース達騎士団は一足早く帝国に向かった。


「ではアニスは私の馬に乗りなさい。セオルド様の方にクリス乗れるかい?」

クリスはセオルドの方を見て

「あなたは操られていたとはいえ村の皆を殺した。とても許すことは出来ない。

今、ここで僕と勝負してください。それで負けたら僕もあきらめます」

「クリス」

「よかろう。私も贖罪のため、ここで死ぬわけにはいかぬ」

クリスとセオルド・ドメチは向き合って、お互いを見据えた。

お互い、術を出し合うタイミングを計ろうとしている。

「業火の刃!」

「薙ぎ払え、風よ」

クリスもセオルドも1歩も引かぬ様子だ。アニスは2人をハラハラと見ながら

「アリオン様、どうか2人を止めて下さい。クリスが勝てっこないわ」

「それはどうか?君たちは父の元で修行をしていたはずだろう。セオルドさまにもきっとひけはとらないさ」

「でも・・・」

こうしている間にも、2人はお互いの魔力を出し合って戦っている。

{この人の魔力はなんて温かい気なのだろう。すべてを許し癒される気がする}

クリスはセオルドの本心を覗いた気がした。クリスは技を出すのを止めた。

「セオルド様、僕の負けです。貴方は本当に自分の罪を悔いている。僕は怒りだけで貴方を殺そうと・・・。そんな自分が恥ずかしいい。エフィも村の皆もそれは望んでいないはず」

「・・・。子供たちよ、私を許すことなどしなくていい。いつでも剣を向けていいのだ。

お前たちにはその権利があるのだから」

クリスの言葉にアニスは少しほっとした表情をしてアリオンの馬に乗った。


エレノネーラ国ではエフィがジースから、2人がこちらに向かっていると報告を受け、

バルコニーから今か今かと待っていた。

遠くの方から馬のいななきや、土埃が見えるとエフィは居ても立っても居られない様子で、外まで降りて行き2人が馬から降ろされるのを見た。先ほどの襲撃で2人とも軽いけがはしているものの、魔法で回復させるほどでもなくいたって元気そうであった。

馬から降りたアニスはエフィの姿を見ると笑顔を見せた。クリスは気まずそうな表情でいったん目を逸らしたが、エフィの

「クリス・・・」

という声に、エフィの方を振り向き

「エフィ。昨日は僕が悪かった。エフィには関係のないことなのに、イラついて

八つ当たりして。エフィは何も悪くないのにこの国を救ってくれたのに、僕は・・・」

クリスは少し涙がでそうになりながらゆっくりと話した。

「クリス。関係ないなんて言わないでよ。僕も村で育った長老様や村の人に助けられたのだから」

「エフィ・・・。」

そこにアリオンが

「王子様。とりあえず2人には護衛をつけることにします。まだ残党が居る可能性もありますから。」

「ありがとうアリオン。頼みます。アニス、クリス後で会おう。」

「ああ、またな。」

エフィは騎士団に連れていかれる2人を見とどけるとセオルドに

「セオルド様、2人を助けてくれてありがとう。」

「いいえ、王子よ。私の罪を考えればこのくらい、本当は仇を打ちたいだろうに、

あの少年は私を許してくれた。私はそれに答えなくてはならない」

翌日、エフィのお披露目を兼ねたお祭りが催された。国中の民や隣国からも人が集まり王宮のバルコニーには大勢の人が集まった。王は集まった人々の前で

「よく来てくれた民の者よ。今日は皆に2つの喜びを与えたい。まずは私の息子を紹介したい。わが息子エフィだ」

側にはインスタラ王国に嫁いだ妹姫も祝いに駆け付けてきてくれた。

「母様、私にお兄さまが居て、本当に嬉しいわ。それも国を救ってくれた恩人だなんて、2重の喜びよ」

エフィは父王の横に立ち、集まってくれた民に手を振った。そして

「ありがとう。今日は楽しんでください。皆さんの幸せを祈ります」

「王様、王子様バンザーイ。バンザーイ」

集まった民からは大きな歓声が聞こえた。

「次にこの国の危機を救ってくれた者じゃ。ヴィンチセオリ」

王の隣からヴィンチセオリの姿が見えると、国民は更に声を上げて歓喜した。

「ヴィンチセオリ様。よくぞお戻りを。エレノネーラ国の魔法省のトップはヴィンチセオリ様でなくては」

「民よ。この度の国の一大事。その首謀者は黒魔法師であった。セオルド・ドメチは操られていたにすぎぬ。儂からの頼みだ。セオルドを責めないでほしい」

「ええ!そうだったのか。悪いのは闇の魔法師でセオルド様は操られていたから」

「そうだわ。セオルド様はヴィンチセオリ様の友人だもの。その方が悪いことなんて・・・。」

「ヴィンチセオリ様がそう言われるなら・・・」

ヴィンチセオリは国民の声を聞いて感慨深く

{セオルド、お前の罪は一緒に背負って行こう。我が友よ。}

広場の木の下でアニスたちはエフィのお披露目を見ていた。アニスは嬉しそうに手を振っている。エフィは微笑み次いでクリスを見た。クリスはどこかを見ているようで、

その視線を追っていくと騎士団に指示を出しているセオルドの姿があった。

エフィはアリオンに、2人とヴィンチセオリを呼んでくるように指示した。

「クリス、君はここまで来てくれた。とても嬉しかったよ」  

クリスはエフィの顔を見ると、顔をクシャクシャにして

「エフィ。・・・僕は、よくわからなかった。確かにみんなの仇は打ちたい。でもエフィも言ったように皆がそれを望んでいるとも思えない。セオルド様と話す機会があってね。セオルド様も苦しんでおられた。悲しいのは僕だけじゃない。分かってはいたのさ。

頭の中でね。だからセオルド様を許すことにした。でも・・・・。村の皆が居ないことを考えると心が苦しい。こんな気持ち忘れてしまいたい」

「クリス・・・」

アニスは涙を拭きながらクリスの肩に手を置いた。

ヴィンチセオリもエフィもどうすればいいか悩んだ。

するとドアを叩く音が聞こえた。

「エフィ。母です。開けますよ」

王妃が供を連れずにやってきた。

「母上。どうされましたか?」

王妃にはアニスとクリスがここに来ることを知らせてはいなかったはずなのに。

「エフィ。そう驚かないで。私にもあなたほどではないけれど多少の魔力はあるのよ。それに息子の考えていることくらい分ります。・・・クリスといいましたね、あなた」

王妃はおもむろにクリスを名指しした。クリスは驚きながら

「はい、王妃様」

「クリス、私ならあなたたちの苦しみを取り除いてあげることができると思うのです。

エフィにもできますがエフィはあなたたちと一緒にいた分、気持ちが同調していて難しいのでしょう」

「母上、まさか」

「そのまさかですエフィ。私なら2人の記憶を消すことが出来ます。辛い記憶だけを・・・」

「母上。それは僕も考えました。でもそれをすると・・・」


クリスがエフィの言葉を遮って

「エフィ、いえ王子様、それをするとどうなるのですか。記憶を消すということとは」

「クリス・・・。母上は君たちの記憶、つまり村の皆が死んでしまった記憶を消すことが出来ると言っている。でもそれは村の皆の記憶すべてになり、昔の思い出も失くすということになる」

クリスとアニスは同時に

「!それは出来ません、王妃様。僕らの記憶は辛いこともありますが、たくさんの

思い出があるのです。それがなくなるということは長老や親や村の皆を忘れるということ、それを僕らは望んでいません。現実から逃げてもなにも変わりません。前に進む

しかないのです」

王妃はその言葉を聞いて笑顔を示した。

「クリス。よくわかっているではありませんか。よい記憶も悲しい記憶も、すべて自分の中の大事な思い出。それをなくすことの方が何倍も辛い。あなたたちはまだ若い、

これから何倍も苦しい、悲しいことが起こるかもしれません。それに耐えていくことが

生きるということ、きっと長老たちもそれを望んでいると思いますよ」

「王妃様」

アニスは王妃の温かいまなざしにエフィを重ねた。

「セオルドも苦しんでいるのです。自分の犯した罪に。殺してしまった民、自分を信じて逝った弟子のこと。彼もその苦しみに立ち向かいながら、それに負けまいと前を

見ています。あなたたちも未来を見ましょう。自分の未来は自分で決めるもの。決して後悔のないようにしなければなりません。あなたたちの幸せを皆、願っているのですから」

「王妃様」

クリスは王妃をみて力強く頷いた。

「クリス・・・」

クリスはしばらく考え込んで

「・・・僕は・・・・・エフィ、この国に残るよ。この国でエフィが作る国を見届ける。村には時々顔を見せにいくことにする。この国でもっと魔法の力を上げて自分にできることをしたい。エフィの力になれるようになりたい」

「クリス!あなた、笑っているわ」

エフィは恐る恐るクリスに

「まだ僕は君たちの友達かな?」

アニスとクリスは顔を合わせながらニコリと笑い

「当り前じゃないか。エフィ。前に言っただろう。いつまでも友達だって。それは

エフィが王子でも変わらないよ。こんなこと言ったら不敬かもしれないけど、ねえ

師匠」

「いや。クリス、アニス。王子に必要なのは強い魔力でも武器でも兵士でもない。ただの友達だ。それは王子が王になったあとも変わらぬ。2人が王子を支え、王子が2人を支え、助け合っていくことが大切なのだ。分かるな」

「はい、師匠。僕たちはエフィを助けるためにここに残ります。僕たちに、また指導

してください。魔力をもっと上げてエフィの足手まといにならないようにしないといけないから」

「うむ。私がいない間も訓練を続けていたと見える。魔力がまた上がっているな。

よかろう。クリスは騎士団に入るがよい。私の息子アリオンの元、訓練するがよい。

アニスは回復魔法のチームに入りレベルを上げてゆくのだ」

エフィは嬉しかった。また2人が側にいてくれることを。そしてクリスの笑顔が見られたことを・・・。

あれから10年。王はエフィに王座を譲り、隠居生活をゆったりと送っている。

ヴィンチセオリやセオルドも国の発展に力を注ぎ、アリオンは魔法省トップとして多忙の生活を送っている。

インスタラ国に嫁いだ妹には、王子と王女が誕生し、エフィもお祝いに駆け付けた。

アニスは回復魔法のリーダーとして活躍し、クリスはアリオンの片腕として、多忙の日々を送っている。

セオルドは、あれから自らの罪を償うため、諸国を渡り歩き残党の殲滅の旅に出ていた。驚くことにそれに同行したのは、クリスであった。クリスの方からセオルドに申し出たらしい。

旅の途中、2人はある村に立ち寄った。誰も住む者はいないこの村は、花であふれかえり村の中央にある神木は青々と茂っている。

その下で眠る今は亡き長老にクリスは手を合わせた。セオルドは、手は合わせていないがずっと墓をみて、なにか思っていた。

「長老様、僕たち3人は元気でやっています。エフィは王として国と、この美しい景色を守っています。アニスと僕は、それぞれ国の役に立てるように日々努力しています。この国は平和になりました。でもいつ闇の者が復活するかわかりません。僕たちはそれに負けないように努力し、この国を守っていきます。どうか見守っていてください」

クリスは目を閉じ祈り、神木をみた。

ここから何もかもが始まったのだ。エフィが捨てられていたあの時から、3人の運命は廻り始めていた。不思議な運命、アニスの母がエフィを見つけなければ・・・。エフィが予言の子でなければ・・・。

王妃がエフィをこの村に捨てなければ・・・。

すべての運命は変わっていたはずだ。それを考えると、この運命は偶然ではなく必然だったとクリスは思えてきた。クリスはニコッと笑った。

「さあ、セオルド様、行きましょう。まだ残党が残っているはずです。それをすべて殲滅しなければこの世界は本当の平和にはなりません」

「よし。行こう、クリス。」

セオルドはクリスと2年かけてすべての残党を捕らえ、エレノネーラ国に送った。

王宮ではエフィは王として、隣国との友好な関係を保ちながら忙しくも、平和な日々を

送っている。エフィは、どんなに多忙の中でも村の事を忘れてはいなかった。

夢に出てくる長老や村人は、笑顔でエフィに笑いかけてくる。

その中央で神木が光輝いている。神木は大きくすべての者を照らすように永遠に光る。

まるで世界樹のようだ。

エフィはバルコニーに立ち、エレノネーラ国をみた。民は幸せに暮らしている。エフィは昔、夢の中で見た花や鳥、暖かな風、すべてが今現実のものとしてあることを感じていた。

エフィにとって幸せな事は、アニスやクリスが傍にいてくれること、この国を守れたこと、自分に家族がいたこと、すべて村で夢見ていたことだ。

エフィは今、とても幸せだった


これでこの物語は完結です。このストーリーを書く間、クリスやセオルドの悲しみや痛みが伝わってくるほどでした。しかしエフィのおかげでハッピーエンドを迎えホッとしています。本来、魔法などのお話や映画には大変興味があり、夢があると思っています。本来、使えない魔法であんなことやこんなことができたらいいなー。ハリーポッターを見ながら思ったものです。それを私なりの言葉とストーリーで言語化することが出来、自己満足ではありますが、大変うれしく思います。ファンタジーバンザイ!

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