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夕幽事務所  作者: シンキ
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重いやつとオモイヤツ

「客が来ないな」

「な」

 前回の幽霊事件解決から五日経った。

 その間一度も客は来ていない、ちくしょう。

「なあ、ここで客をただ待つより外に出て除霊とかしたほうがいいと思うんだけど」

「その間客が来たらどうすんだ」

「来ないだろ」

 この会話もすでに五十二回はしている。

 もうこの会話の繰り返しだけで一生を終えそうな気さえする。

「よしじゃあ賭けをしようぜ、俺は今日も客が来ない方に賭ける」

「何を賭けるんだ?」

「えーっと、じゃあ」

 コンコン

 朝日が喋ろうとした瞬間に、ドアがノックされた。

 足音が聞こえなかったから少し驚いたが、朝日の方は二つの意味で驚いた顔をしている、ざまぁみろ。

「どうぞ」

 客は音も立てずにドアを開け、音も立てずにドアを閉めた。

 中性的な顔をしているが、骨格的に男性だろう、ただその表情は風に吹かれれば崩れてしまいそうなほど不安な顔をしている。

「こちらにおかけください、本日はどのようなご用件で?」

「じ、実は、ストーカーの被害に遭っているんです」

「えっと…それは」

「あっ違います、人間じゃなくて幽霊のストーカーなんです」

 良かった、また探偵事務所と勘違いされてるかと思った。

 危うくニヤついてる朝日の顔を殴るところだった。

「信じてもらえますか?」

「勿論です、そう言った事件は珍しくないですしね。5日前も似たような事件を解決しましたし」

 男の表情が微かに和らぐ、そして事の詳細を喋り始めた。

「一週間くらい前から誰かの視線を感じるようになったんです。最初は気のせいだと思っていたんですが、視線だけでなく激しい息遣いも聞こえるようになったんです。最近では身の回りの物がいつの間にか無くなる始末で、でも監視カメラとか使ってみても僕の周辺には誰も写っていないんです。だから僕怖くなって、このままだと自分や自分の知り合いに被害が及ぶんじゃないかって」

 よほどその幽霊に参っているんだろう、話していくうちに目に涙が溜まっていく。

「心当たりなどはありますか?」

「いえ……特には」

「恨みを持たれたりとかは?」

「ない…と思います」

「なるほど」

手口はストーカーと同じだが姿が見えない、幽霊でほぼ間違いないだろう。

 というか、そうでなきゃ困る。

「分かりました、引き受けましょう」

「本当ですか!」

「今回は幽霊絡みの案件なので料金5万円をいただきますが、よろしいですか?」

「はい、よろしくお願いします」

「それでは、作戦を立てましょうか」

「作戦?」

「えぇ、相手は幽霊、作戦も無しに突っ込んではこちらが消耗するだけでしょう」

「なるほど」

「話を聞く限り、幽霊はあなたに対し恨みではなく興味、もしくは恋愛感情を持っている。でなきゃ、物を盗んだりしないでしょう」

「そうですね、僕も最初はストーカーかと思いましたから」

「ストーカーにとって1番許せないのは対象に恋人がいること」

「なるほど」

「なので、デートをしてください」

「はい!?」

「デートをしていれば、幽霊も現れるはずです。いわゆる囮捜査ってやつですね」

「いや、僕彼女いないですよ!?」

「そうですね、誰かが女装するしか…」

 朝日のほうをチラリと見る。

「朝日」

「嫌だ、黒野がやれよ」

「嫌だ」

「自分が嫌なことを人にやらせんのかよ!!」

「うるさい!社会なんてそんなモンだ!」

「あ、あの、落ち着いてください!女装なら僕がしますから!」

「「それじゃ本末転倒でしょうが!!」」

 コンコン

 朝日と言い争いをしていると、またドアがノックされた。

 ドアを開けると、少し驚いた顔をした鳥津さんがいた。

「どうした、なんか用か?」

「あ、いや5日前のお礼を…」

「あぁ、それはどうも」

「なんの話をしてたんですか、すごく怒鳴ってましたけど」

「あぁ、朝日がじょそう」

 その時、俺に電流が走る。

「助走?」

「なぁ、鳥津さんは彼氏とかいる?」

「ふぇ!?いいいいきなりなんですか?」

「いない?」

「い、いないですけど……」

「じゃあちょっと付き合ってくれ!」

「ふぇ!?」

「黒野!ステイ!一旦ステイ!」

「あわわわわわわわわ」

「落ち着いて、トリツカレちゃん。とりあえず状況説明するから」

 その後、朝日の口からこれまでの経緯が説明された。

「ということなんだけど、わかった?」

「まぁ、はい」

 さっきまで真っ赤になっていた顔は落ち着きを取り戻したが、さっきからなぜか俺を睨んでくる。

「あの、嫌だったら断ってくれてもいいですから」

 依頼者が申し訳なさそうな声で言う。

「やります」

「えっ?」

「私、やります」

「ほんと?」

「はい!」

「よっしゃ、じゃあ作戦会議だ。」

 その後、デート場所は近くのズィオンモールに決定し、決行は明日となった。



翌日



「皆、位置についたか?」

「はい」

「大丈夫です」

「オッケー」

「よし、じゃあ、なんかいい感じにデートしててくれ」

 デート組を後ろから朝日とともに追跡する。

「怪しい奴がいたら教えてくれ」

「おう」

 30分ほど若者のデート姿を眺めながら尾行したが、依然として状況は変わらなかった。

「怪しい奴、いないか?」

「いる」

「どこだ?」

「あの真っ黒な服着てる女の人、さっきからずっとトリツカレちゃんたちについていってるんだよ」

 朝日が指をさす方向には全身真っ黒な服に身を包んだ女性がいた。

「確かに怪しいが、俺でも見えるぞ?」

「じゃあただのストーカーかぁ…」

「そうだな…」

「いや、ただのストーカーでもやばくね?」

「……確かに」

急いで黒服に近づき、肩を叩く。

「なにヨ?」

「あんた、さっきからあの2人を尾けていないか」

「だったら何ヨ?」

「俺たちはあの2人の……あれだ、ボディガード的なやつだ」

「あんたが例のストーカーかと思ってな」

「失礼ネ!私は彼を守ってあげてるのヨ!」

「皆そう言うんだ、ストーカーは」

「あの人には幽霊がついてル!」

「そりゃわかってるよ」

「私が助けてあげないト!」

「いやここは幽霊退治の専門家の俺たちに…」

「おい黒野!なんかデート組の様子がおかしい!」

「何!?」

 デート組の方を見ると、依頼者が地面に伏しているのが見えた。

 慌ててデート組に駆け寄る。

「朝日!なんか見えるか!?」

「なんか変な子供みたいなのが乗ってる!!」

「やめなさイ!!あれに関わってハ!」

「うごぁっ!?」

 突然、足が重くなる。

 柔らかく重い見えないなにかが足にしがみついているのを感じる。次第に骨が耐え切れないほどに重くなってくる。

「ぐっ、あぁっ!」

「黒野!うわっ!なんだ!?」

朝日の服に、誰かに掴まれたかのような皺ができる。

「朝日!」

「うぉっ!?あれ?」

 依然として服に皺ができているが、朝日は地面に膝をつくことなく真っ直ぐに立っている。

「……いけぇ!朝日ぃ!」

「おうよ!おらぁっ!!」

「グェッ!?!」

 朝日の蹴りが依頼者の背中の上にいると思われる幽霊にクリーンヒットする。

 子供の教育に悪い音が聞こえるとともに重くなっていた足が嘘みたいに軽くなった。

「はぁ、イテテ」

「トリツカレちゃん、大丈夫?」

「は、はい」

 朝日がデート組の介抱をしている間に、ストーカー女の下に行く。

 ストーカー女は左頬を真っ赤に腫らしたまま気絶していた。

「やっぱりな」

 ストーカー女をずるずると引きずって依頼者の前に出す。

「この女、見覚えあったりしないか?」

「えーーっと、確か…面塀さん?」

「めんへい?」

「変わった名字だな」

「蘭子って呼んでヨ」

 いつのまにか目を覚ましていたストーカー女が口を挟む。

「面塀 蘭子…メンヘラ?」

「やめろバカ」

「ど、どうして面塀さんが?」

「私はあなたを助けようとト」

「嘘つけ、あの幽霊はお前の生き霊だろ」

「え?」

「生き霊?」

「そうだ。朝日が蹴った幽霊、ありゃこいつの生き霊だ。朝日、幽霊のどこの部分蹴った?」

「左頬」

「この女はどこが腫れてる?」

「左頬」

「じゃ、じゃあほんとに面塀さんが?」

「大方、幽霊に襲われてるところを助けて気を引こうと思ったんだろ」

「うるさいわネ!私の顔こんなにしておいテ!許さないわヨ!」

「言っとくけどな、生き霊傷つけられてそんだけならマシな方だぞ」

「エ?」

「生き霊ってのは自分の魂の分身だからな、場合によっちゃ魂が壊れて抜け殻状態になるんだぞ」

「ぬ、抜け殻」

「そもそも生き霊出すには相当技術がいるんだからな生半可な力で出すと出したまま体に戻れなくなることだってあるんだ。」

「…………」

「いつから生き霊なんて出せるようになったんだ?」

「2週間前くらイ」

「今までに何回出した?」

「30回くらイ」

「お前、それ以上出したらもう二度と戻れなくなるからな」

「………………」

 青い顔したまま黙り込んでしまった。

 流石に自分の命の方が好きな人より大事らしい。

「まぁ警察には言わないでやるが、今度生き霊出したりしたらお前の生き霊すり潰すからな」

「ヒェッ……!」

「ほら、もうどっか行け」

 ストーカー女はものすごい速さでどこかへ逃げ去った。

「よし、これで事件解決だな。どうした?お前ら」

「いや」

「なんというか」

「怖えよお前」

「あぁでも言わないと大変なことになるんだよ、お互いにな」

「そ、そうなんですか。とにかく、ありがとうございました。これで安心できそうです」

「いえいえ、仕事ですから」

 去って行く依頼者の背中を見ながら考える。

 生き霊なんて素人がそうホイホイと出せるモンじゃない、長い間修行を積まないと駄目なはずだ。

 考えたくはないが、あのストーカー女に生き霊を出せる力を与えた奴がいるかもしれない。

「どうしたんですか?」

「ん?あぁいや、別に」

「なんだよ、気になるな。教えろよ」

「昨日の賭けの内容決めてなかったなって」

「賭け?」

「そういやお前賭けに負けたよな?」

「そ、そうだっかなぁ?」

「さて、何をしてもらおうか」

「ひ、昼飯奢るからさ!それで勘弁してくれ!」

「お、やりぃ。鳥津さんもどう?協力料として。朝日もちろん奢ってくれるよな?」

「……ハイ」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

「何食べよっかなぁ」

「あんまし高くないやつで頼むよ」

 財布を見ながら渋い顔をしている朝日を見ているとさっきまでの考えがどうでも良くなってきた。

 まぁ、そんなヤバい奴がいたとして、俺たちには関係のない話だよな。

「なぁ今1500円しかないんだけど」

「じゃあお前は食うな」

「そりゃないぜ!」

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