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70,私が落ちたらみんな落ちるね

 モーショボーから出るのはまだ人の少ない早朝にした。

 そうしないとモーショボーに集まっている冒険者たちに囲まれてしまって動けなくなるからだ。

 わざわざ早朝に出発準備をしていれば、誰かしらに出会っても用事があるのだろうと買い物などは遠慮してもらえることが多い。


 そんなわけでまだまだ眠そうな団員たちを馬車に詰め込み、まだ人の少ない通りを抜けてモーショボーを出て外海側へと向かった。

 普段ならばこのまま少しの間は第一大陸を進んでいくが、何せ今は魔物が多いので出来るだけ早く第一大陸を出たいのだ。


「ふぁ~……」

「大丈夫かいカタリナ、落ちないでね?」

「私が落ちたらみんな落ちるね」

「怖いなぁ……」


 眠そうに御者台に座っている怖いことを言うのでそのすぐ後ろでひやひやしながら様子を見守り、結局何事もなく外海沿いにまで進んできて馬たちの足輪を外すことになった。

 なんだかんだ言いつつ目は覚めていたのだろう。つまり戯れていただけである。


「よし。それじゃあ目的地は第四大陸、薬屋・リコリスだ。よろしくね」

「あーい」


 緩いカタリナの返事を聞き、チグサは二階へ上がった。

 別にサボろうというわけではなく、二階でやりたい作業があるのだ。

 一階でやってもいいのだけれど、一階では現在サシャとレウコスが第一大陸滞在中に集めた薬草類を保存用にまとめているので、邪魔にならないように二階に上がってきた。


「お、団長。どうした?」

「ちょっと書き物をね。エリオットは仮眠かい?」

「おう。昨日は大して寝れなかったからな」

「そうかい。うるさくはしないから、ゆっくり休んで」


 木箱を机代わりにして、チグサは書き物を始める。今回の第一大陸滞在で集めたものと、モーショボーでの売り上げ。

 それらを纏めて書き上げて、現在の在庫も確認する。


 チグサがこうして書き残した記録は大量に残っていて、アジサシが初期の頃にどれだけちまちま商売をしていたのかも記録から見て取れたりする。

 時々懐かしくなってアンドレイと一緒に引っ張り出す他、ギーネの勉強のためにも使うことがある記録だ。


 チグサは場所さえあるなら記録は残しておくべきだと思っている人間なので、これらは今後もコツコツ蓄えられていく予定になっている。

 そんなことを考えながら今回の記録を追加して、収納箱の戸をしっかり閉じたら窓に近付いた。


 既にアジサシ馬車は空を進み始めており、陸地は遠く微かに見えるだけになっている。

 移動の時にしか見ない光景だけれど、この時間が一番平和だ。馬鹿もしくは煙なチグサは高いところが好きなので、空を進んでいる時間は外を見て過ごしていることが多い。


 本当は窓から出て思い切り風を浴びたいのだけれど、流石に危険すぎるしアンドレイが絶対に許さないので我慢しているのだ。

 風を切って進む馬車からの光景を眺めつつ、寝ているエリオットを観察する。


 空の上にいる時は誰に見られる心配もないから、ゴーグルは外されて首にかけられていた。

 それで寝辛くないのだろうかと思うけれど、町に居たらつけたまま寝ているのだからこのくらい気にならないのだろう。


「……アオイちゃん、目の色を変える薬とか作れないのかな」

「作ったら悪用する奴がいるから作れないんだろ」

「おやアンドレイ。記録ならもう仕舞ったよ」

「サシャが呼んでる。薬草が中途半端に余ったから煎じて茶にしたんだと」

「お、貰う貰う」


 ふと思いついて呟いた言葉に返事があったので、顔を上げてはしごの方を見るとアンドレイが顔を出していた。

 そのまま上がってくることはなく二階の床に肘をついている。


 エリオットはすっかりしっかり寝ているので起こさずに一階に降り、サシャに薬草茶を貰う。

 馬車の中でも使えるようにとサシャが乗ってしばらくしてから用意した道具はまだまだ現役で使われている。


 安全のために炎を出すものではなく熱で温める物を使っているのでそこまでの火力は出ないけれど、じっくり炒めて作るものなどには向いている。

 このお茶もそうして作られたのだろう。暖かいお茶は美味しいねぇ、なんて言いつつ飲んでいる間に、馬車はぐんぐん進んで第四大陸に差し掛かっていた。


 着地が近付いてきているので安全のためにお茶は飲み切り、道具もしまって待機する。

 そうして待っていると馬車は下に向かい始め、森の中央にぽっかり空いた穴に着地した。

 着地してすぐに馬車から降りると、降りてくるのを見ていたらしいここの家主が駆け寄ってくる。


「チグサさーん!」

「やぁアオイちゃん。お邪魔するよ」

「いい時に来てくれましたねチグサさーん!」

「おや、何かご所望かい?」


 駆け寄ってきたアオイから話を聞くと、また何か面倒な薬の依頼を受けたらしい。

 色々試さないといけなくて……と語るその顔は頼れる最上位薬師様だ。

 ご所望の品があるといいけれど、なんて言いつつアジサシ馬車にさっそく開店の合図を送り、まずは買い物をしてもらうことにした。


 こちらには特に急ぎの用事もないので、向こうが優先で構わない。

 それに何より大量のポーションを買っていく予定なので、時間はある程度かかるだろうと思ってきているのだ。忙しい時に悪いねと思うことはあっても、急いでくれと思うことはないのである。

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