65,どうなるのか不安でね
第五大陸の村をゆっくりと巡りながら、アジサシは第一大陸でしばらく野営をするための準備を整えていた。
食料もそうだし、装備なども点検して新しく買ったり作ったりした。服も何着か新調したが、レウコスが許可を取って回収していたので何かしら装飾が付け足されてから戻ってくるだろう。
チグサも外套を新調しようかと思って色々見ていたのだけれど、あまり気に入るものがなかった。
その様子を見ていたレウコスが好きな布を選んで来たら外套を仕立ててくれると言うので、外套ではなく布を選んで買ってきた。余った布はまた別の何かになるだろう、ということで少し長めに買った。まぁ足りないよりかはいいだろう。
そんなわけで、レウコスは現在外套を作るために道具を広げて絶賛作業中である。その道具を踏まないように一階の一角は立ち入り禁止状態だ。
……作業を見ている限り、なんだか既に装飾が始まっている気がするけれど……まぁ、任せると言った以上今から口を挟むべきでもない。とはいえ、
「ボクの外套はどうなってしまうのか……」
「諦めろよ団長。レウコスに任せた時点でこうなるのは分かってただろ」
「日常使いの外套って伝えたんだけどねぇ……」
無心で刺繍を施しているレウコスを止めることは出来なくても、その様子を見て思わずぼやいてしまうのは仕方がないだろう。
チグサは普段から外套を着用しており、それを布団代わりにしたり雨除けに使ったり、時に火消しに使ったりもする。
なので装飾は少なくてもいいし、むしろあまり綺麗な装飾を施されると日常使い出来ないのだけれど……それを言ってレウコスが止まるかと言われたら絶対止まらないので、言ったところで意味はない。
もう既に集中していてこちらの会話も聞こえていないだろう状態なので、チグサは黙って作業を見守るしかないのである。
なんて、そんな話をしている間に馬車は勢いをつけて駆け始めていた。
既に足輪は外してあるので、馬車はそのまま空へと上がり始める。第五大陸と第一大陸の移動は絶対に空を通るので、通る場所も決まっていて安定感がマシマシだ。
とはいえ、今回の目的地まではそこそこ時間がかかる。
最短距離で駆ければもっと早く着くのだけれど、第一大陸の真ん中を突っ切っていく訳にもいかないので、外海の上を通って第一大陸の外側をぐるりと回って行かないといけないのだ。
チグサ自身はこういった移動の時間は嫌いではなく、外を見ているだけで数時間は過ごせるので暇はしなかった。
というか、こういったぼんやりと外を眺める時間を楽しめないと各地を旅する商人なんてやってられない。大体の時間は移動時間と言っても差し支えないので。
そんなわけでのんびりと窓の外を見ている間に馬車は外海側を回り切って第一大陸に入り、徐々に高度を下げて地上に向かい始めた。
滑らかに着地して陸地を走り始めたら、目的地まではもうすぐだ。
既にアンドレイが外に出す道具を入口近くに運び始めているので、チグサもそれを手伝うことにした。レウコスの作業を見ていても何にもならないので、ならば身体を動かしていた方がいいだろう。
「レウコスはいいのか?」
「見ているとボクの外套がどうなるのか不安でね……」
椅子やら机やら、いつも野営の際には運び出して使っている物を移動させる。
ついでに、今回はほどほどに長く一か所に留まる予定なので、テントなども出すつもりでいる。中に入って寝れるようなサイズのものから、柱を立てて屋根を作るだけのものもある。
いくつか作っておけば各自好きな物を使うので、とりあえずいくつか使いそうなものを立てておくのだ。
大体はいつも使っている物、前に使っていた記憶があるものを出して組み立てるが、時々新しい物を買って試してみることもある。今回はそういうものは特にないので、いつも使っている物を用意した。
「っと……着いたかな?」
「ういー」
「よし、運び出すか。……コリン!降りるならちゃんとはしご使え!」
馬車が止まって、カタリナが御者台から移動してくる。それを見ていたら、二階から何やら大きな物音がした。
何かが落ちてきたような音は見張り台からコリンが飛び降りてきた音だったようで、怒られたコリンは今度はしっかりとはしごを使って一階まで降りてきた。
「さぁ、張り切ってテントを張ろうか」
「はーい!」
「元気が有り余ってんなぁ」
降りてきたコリンにも手伝って貰って、馬車からテントを運び出して組み立てていく。
今回アジサシが滞在場所に選んだのは第二大陸に近い外海側にある山だ。
第一大陸は他よりも滞在場所限られるが、この山には基本的に人は来ないので安心して留まれる。
魔力のたまりやすい土地とそれによって大量発生しがちな魔物という、中々に住みにくそうな土地だが、第一大陸は最も人口の多い大陸だ。
それゆえに大陸の内側はどこであっても誰かしらが通る可能性があり、アジサシが留まる場所となると大陸の端の山などになるのだ。他にも二か所ほど山の連なる場所があるのだが、そちらには隠れ里があるのでここを選んだ。
「さて、それじゃあ野営の準備をして、その後は各自好きにして良し!」
声を張るとあちこちから返事が返ってきた。
それを聞きつつチグサもテントを持って外に出て、全て終わったところで無心で刺繍を続けているレウコスを外に運び出すのだった。




