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63,なんだいこれ

 ダャの村を出たアジサシの馬車は、その後外海沿いを通ってスコルにやってきた。

 スコルは精霊に愛された国であり、売られている物の中には本物の加護が付いたものもある。

 アジサシには精霊を見ることが出来る者も声を聞ける者も居ないが、物に宿った加護ならばチグサが見つけることが出来るので仕入れには時々やってきた。


 そもそも第三大陸と第四大陸には比較的よく行くので、ついでに寄っていくことも多い。

 とはいえ今日は仕入れに来たわけではないので、混雑している市場の方はなるべく避けてギルドへ向かう。馬車のままだと動きにくいので、ある程度進んだところでチグサは馬車を降りた。ついでにアンドレイとレウコスも馬車を降りている。


 アンドレイはチグサについてくるためだが、レウコスはスコルの装飾品を物色に行くらしい。何とも自由だが、別に文句もないので仕入れの上限金額だけ伝えておく。

 合流は宿で、と決めてはあるので一日好きにしていても困りはしないだろう。


「レウコスは本当にスコルの装飾品が好きだねぇ」

「まぁ、細かい装飾品も多いからな……買ってきてまた加工するんだろう?」

「多分ね」


 軽い足取りで市場の方へと歩いて行ったレウコスを見送って、チグサとアンドレイはギルドへと足を踏みいれた。

 ギルドの中はいつでも混雑しているものだが、今日はまた一段と混んでいる。


 その人混みの中を縫うように進んで、どうにかカウンターまで進んだ。

 カウンターの周囲には少し余裕があったので、そこで呼吸を整える。そうして声をかけに行こうと受付に目を向けると、カウンターに座っていた受付嬢と目が合って受付嬢が勢いよく立ち上がった。


「やあ、今いいかい?」

「もちろんです!こちらもお願いしたい仕事がありまして……奥へどうぞ。ギルドマスターをお呼びいたしますね」


 あまりの勢いだったのでどうしたのかと思ったら、向こうも何か頼みたい仕事があったらしい。

 チグサに頼みたいこととなると、まぁ十中八九鑑定関係だろう。何か面倒な物でも持ち込まれたのだろうか。


 そんなことを考えながら受付嬢の案内に従ってカウンターの内側へと入り、奥へと進んでいく。

 通常冒険者はあまり入らないエリアだが、アジサシはその特殊性もあってしょっちゅうお邪魔している場所だ。あらゆる国の応接間や会議室にお邪魔しているので、なんとなく建物の共通性や違いも分かるくらいである。


「よくぞおいでくださったな、チグサ嬢」

「久しぶりだねギルドマスター。ボクに何か用事だったかい?」


 案内された応接間で出されたお茶を飲んでいたら、スコルのギルドマスターがやってきた。

 軽く挨拶を交わした後は、すぐに本題に入る。なにやら急ぎの用事のようだ。


「鑑定してほしい物が一つ。それと、アジサシから買い取りたいものがあってな」

「おや、なにかな?積んでいるといいけれど」

「流星鱗だ。十枚ほど買い取りたいんだが、あるか?」

「あるよ」

「あるんか。相っ変わらずなんでも積んでるなぁ……」


 確認せずとも分かるものだったので、軽く答えてメモを作る。一度馬車まで戻らないといけないので、これは後回しだ。

 鑑定の方はここで済ませてしまうので、物を持ってきてもらう。

 そしてそれを待つ間にこちらの用事も済ませてしまうことにした。


「こちらの用意なんだけれどね、パレスス山に天候獣が居座っているのは知っているかい?」

「ちょいと前に報告が来てたが……まだ居んのかい」

「あぁ、完全に長居の姿勢だ。ダャの村の村人たちもかなり気を張っていてね、出来れば対処してほしいな」

「そりゃあ動かんわけにもいかないな。詳細を教えてくれ」


 ギルドマスターに声をかけられた職員が書類片手にやってきたので、必要だろう情報から順番にダャの村で見てきたことを伝える。

 一度無謀な冒険者が山を登って返り討ちに合っていることも伝えて、向かう冒険者は慎重に選んでくれ、と言葉を付け加えた。


 可能であれば天候獣を移動させてから討伐なりなんなりをしたいところだが、無理に動かせばむしろ暴れて山には雷雨が降り注ぐことだろう。

 それを考えると迂闊な行動はとれない。が、まぁそのあたりを考えるのはギルドマスターに任せればいい。少なくとも、アジサシの仕事ではないので。


 なんて考えながら詳細を伝えて、こちらの用事は終わった。

 残るはギルド側からの依頼なので、持ってこられた品をチグサが鑑定している間にアンドレイには馬車から流星鱗を持ってきてもらうことにした。


「……それにしても、なんだいこれ」

「分からねぇから鑑定の依頼出してんだよなぁ」


 部屋から出ていくアンドレイの背中を見送って、チグサは机の上に乗せられた謎の品を眺める。

 これがギルドがチグサに鑑定の依頼を出した品なのだが、流石ギルドが匙を投げた品だけあって道具なのか飾りなのかも分からない。


 とはいえ、ただ眺めて分からないなんて言っているだけでは鑑定依頼を受ける側として不甲斐ないどころか論外だ。

 しっかりと意識を集中して、目の前のそれに向き合う。じっと見つめていると、チグサの視界には目の前の品に関する情報が現れ始めた。……とはいっても。


「詳細不明……うーん……少なくともボクは見た事がない物だなぁ……」


 結果は芳しくなかったが。あれこれ弄っている間に謎の切れ目があることは発見したが、それがただの模様なのかそこから開くのかも謎だ。

 アンドレイが戻ってくるまで、ついでに戻ってきたアンドレイにも見せてみたが、結局それがなんなのかは分からないままだった。


 不甲斐ない結果で終わったが、ギルドマスターとしては「チグサにも詳細が分からないもの」という情報が得られただけでも十分らしい。

 チグサ嬢が分からないなら誰にも分からんだろ、なんて言われて、お互いの依頼の代金を計算して差額を貰ってギルドを後にするのだった。

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