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62,ボクらは行かなきゃね

 ラット漁村を出たアジサシ馬車には、干物含めて大量の魚が積み込まれていた。

 カタリナに甘いサシャがカタリナの要望を飲んだ結果だろう。

 まぁ日持ちのするものが大半なので、困りはしない。そのあたりはサシャも考えて仕入れているはずなので、特に何か言う必要はない。


 そんなアジサシ馬車はこれから更に進んでいき、山の麓にある村に寄って、内海側へと進んでいく。

 そうして村々を回ったあとは第五大陸に入るわけだが、その前にちょっとした問題に直面していた。問題が発生しているのは、向かう先である村……ではなく、その背後に聳え立つ山だ。


「あれ、天候獣だよね?動きそうかい?」

「……どうだろうな。ひとまず地滑りは起きてないみたいだが……」

「どする?避ける?」

「うーん……いいや、行こう。他が寄らなくとも、ボクらは行かなきゃね」


 山の頂上だけが、不自然に雲を被っている。時折雷が走っている様子も見て取れた。

 他の場所には一切雲はかかっていないし、現在アジサシの居る場所は快晴だ。

 これらの情報から、現在あの山の上には天候獣と呼ばれる魔獣が居ると推測して、一度足を止めた。


 天候獣と呼ばれる魔獣は数種類居るが、どれも時には幻獣に分類されることもある、珍しいものだ。

 名の通り自身の周囲の天気を変える力があり、それがああして山の頂点にのみかかる雲として表れている。雷が走る様子もあるので、あそこに陣取ったのはおそらくサンダーシープだろう。


 ひとたび機嫌を損ねれば容赦のない雷を飛ばしてくる相手だ。好んで近付きたい相手ではないが、そう言って全ての者が避けて通ってしまえば、村で暮らす者たちが困ってしまう。

 幸いこれから向かう予定のダャの村は山の麓、登る必要はないので、近付き過ぎる心配はない。


「ただ、少し予定変更だ。スコルに寄って、ギルドに報告しよう」

「了解」


 このまま内海側へと抜けていく予定だったが、村を出たら再び外海側へ向かい、外海に沿って移動していくように予定を変更する。

 流石に誰かが報告しているとは思うが、天候獣の現在地報告はあって困らないだろう。


「さあ、行くよ」

「おー」


 カタリナに声をかけ、止まっていた馬車を動かし始める。

 山の上の天候獣を刺激しないようにゆっくりと馬車を動かして、少しずつ村へと近付く。


「……コリン!」

「はーい!」

「先に行って、村の様子を見てきてくれるかい?もし中に入れそうになければ戻ってきておくれ」

「分かりました!」


 少し考えて、コリンを先に村へ向かわせる。アジサシの馬車に比べれば、人の一人程度は本当に小さいものだ。走っていったところで気付かれはしないだろう。

 可能な限り寄っていく予定ではあるけれど、村人が天候獣を刺激することを強く恐れているのならば、アジサシの来訪は嫌がられるだろう。そうなれば寄らずに避けて行った方がいい。


 そんなわけで身軽なコリンを先に行かせて、状況を見てきてもらうことにした。

 コリンならば邪険にされてはじき出されはしないだろうし、なんとなく村人たちの雰囲気も見て行っていいか判断してくれることだろう。


 村まで走っていったコリンが戻って来るかどうかを確認しながら進んでいく。

 しばらく待ってみても戻ってくる様子はないので、そのまま静かに村に入った。

 村の中を見渡してみると、おばあさんの横にしゃがんでこちらに手を振っているコリンがいた。


「団長!おばあちゃんがお茶欲しいそうです!」

「はいはい、お茶ね。茶葉の指定は?」

「おばあちゃーん!」


 走り寄ってきたコリンが再びベンチに腰を下ろしているおばあさんのところまで走って戻っていったので、それを見送りつつアジサシを静かに開店させる。

 チグサは馬車から降りて、寄ってきた村人たちから話を聞くことにした。


「やあ、こんにちは」

「こんにちは。こんな状態だってのに、よく寄ってくれたなぁ」

「こんな状態だからね、他は来ないだろう」

「そうだなぁ、まぁ、無理に来いとも言えんしなぁ」


 買われていくものは大半が生活必需品だ。食料もいつもより売れている。

 サシャが大量に仕入れた干し魚の売れ行きも良好だ。大量の在庫がいい仕事をしているようでなにより。


「だんちょーう!」

「はいはい、茶葉は分かった?」

「メルバンだそうです!」

「メルバン茶ね。ちょっと待ってて」


 茶葉が纏めてある棚の一角からメルバン茶を出してきてコリンに渡し、値段も伝えておく。

 そうしてコリンを見送った後は、村人たちから話を聞くことにした。この後ギルドに報告をする予定なので、出来るだけ情報収集はしておきたい。


「あれはいつから山頂に?」

「一、二週間前くらいからだな。もう少し前から山の傍にはいたんだが、そこから山登ってずーっとだ」

「天候が荒れたりはしたかい?」

「山に登ってすぐに、冒険者が近付いてな。そんときは随分と雨も降ったし、三日くらい雷が鳴りとおしだったな」


 メモを取りつつ話を聞いていき、泊まることはせずに村を出ることにした。

 出発した馬車の中でメモをまとめ直しながら、なんとなく予定を考える。スコルのギルドに報告をした後については、また予定を組み直さなければいけない。


「……まぁ、とりあえずは報告が優先だね」

「そうだな。人選についても口出していくか?」

「任せてしまって大丈夫だとは思うけれどねぇ……」


 何せ山の頂上に陣取っているので、むやみに怒らせたり対処に時間がかかったりすると土砂崩れの危険があるのだ。他の山ならともかく、あの山の麓には村がある。

 そのあたりの話もしてこないといけないか、なんて考えつつ、チグサはメモのまとめ直しを終えた。


 馬車は依然ゆっくりと進んでいるが、山の付近から離れれば一気に速度が上がる。

 おそらく明日の早い時間にはスコルに到着できるだろう。

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