61,大体のものはね
第四大陸をぐるりと回りつつの行商は、特別事件も事故もなく順調に進んでいた。
既に大陸の外海側、つまりは入ってきたのとは逆側まで到達しており、第四大陸巡りも残るは半分ほどだ。
そんなどこまでも平和な日常の中で、チグサはいつも通り馬車の二階の窓から屋根に出て、そこで昼寝をしていた。
なにせ平和でのどかな陸路の旅だ。今屋根での昼寝をしなくていつするのかという話しである。
「団長、そろそろ次の村に着くぞ」
「このまま入ってー」
「駄目だろ普通に。起きろー」
知らせにきたセダムに駄々をこねて見て、駄目そうだなと思ったので仕方なく身体を起こす。
次に向かう村はラット漁村。村の門を潜れないのでアジサシ馬車は村の中までは入れず、村の外で営業をする村の一つだ。
なのでまぁ、別に寝ていても問題はないのだけれど……流石に店主が屋根の上で昼寝をしているのは不味いか。
どうにか自分を納得させて、二度寝はせずに馬車の中に戻る。
「お?起きたか」
「セダムに起こされたよ。あとどのくらい?」
「もう数分で着く。降りて準備をしておくれ」
「はいはい」
二階で髪をまとめ直していたところにアンドレイがやってきて、チグサの様子を見て一階に戻っていった。起こそうかと思ってやってきたが、起きていたから戻ったのだろう。
そんなに何人も起こしに来なくても、と思わなくもないが、まぁそうまでしないと起きないチグサが悪い。
「晴れてると昼寝が気持ちよくてねぇ……」
自分が悪いとは思いつつ、別に反省もしていないし改めるつもりもないので、全てを心地いい日差しと風のせいにして一階に降りる。
一階では既にのんびりと開店の準備が始まっていた。その中にサシャを見つけたので、傍に寄っていって手元を覗き込む。
「食料整理かい?」
「うん。果物系とか売れそうだから、出しておこうかと思って。ラット漁村着いたら魚買ってもいい?」
「いいよ、任せる」
「カタちゃん夕食なに食べたーい?」
「アクアパッツァー」
「はぁーい」
流れで今日の夕飯まで決まった。夕食が何であれサシャの作る料理は美味しいので文句はない。
カタリナはもう既に夕食が楽しみなのか、ふんふんと鼻歌を歌っている。
機嫌のよさの表れか、馬車の速度も少しだけ上がった。視線の先には既にラット漁村が見えているので、降りる準備をした方がよさそうだ。
「おや、もう人が出てきてるね」
「急ぎの買い物かな?」
「どうだろう、そうでもないかも……まぁ、対応はギーネに任せるよ」
「また丸投げ……」
「ははは。ボクはちょっと外に出てくるから」
ギーネの不満げな顔は見えないふりをして、減速した馬車から降りる。
そうして数歩先に進んで、くるりと身体を回転させて馬車の方を向いた。
合図を送って馬車を開店状態にして、チグサはそのまま村の中へと歩みを進めた。
「おや団長さん」
「やあこんにちは」
「あんたんとこは、確か道具も直せるんだよなぁ」
「大体のものはね。何か壊れたのかい?」
「うちのがなぁ、ランプが付かんて言うててなぁ」
木陰に置かれた切り株をベンチ代わりに座っていたおじいさんに声をかけられて、ふらりとそちらに歩み寄る。壊れたランプの修繕依頼、ということで、とりあえずそのランプを見てみることにした。
杖をついてゆっくり進む老人にのんびりついて行き、おじいさんの家にお邪魔することになった。
「あら、こんにちは」
「どうも。壊れたランプを直してほしいと依頼を受けてね、見せてもらえるかい?」
「あらぁ、そんな、聞いてらしたの?何にも言わないでいるから、聞いてないのかと……」
やだわぁ、と上品に照れているおばあさんに、おじいさんは何も言わないでいる。
その様子をなんともほっこり眺めながら、チグサは持ってこられたランプを確認した。
よくある卓上ランプだ。魔石を入れて、魔法で明かりをつける物。
見たところ、長く使われて魔石が砕けたのが原因でつかなくなったのだろう。
これならば魔石を変えるだけでいいので、それほど値段もかからなそうだ。
それを老夫婦に伝えて、魔石を取りに一度アジサシ馬車に戻る。馬車はほどほどに混雑していたので、ギーネに声はかけずに馬車の中から魔石をもっていく。
「団長、どこに?」
「ランプの修理を頼まれてね。魔石を変えるだけだから、ボクがやってくるよ」
「了解。後で報告があるだろうが、靴が二足ほど売れた」
「おや、じゃあまた仕入れておいたほうがいいね」
魔石を見繕って馬車を出ると、どこかに呼ばれたらしいアンドレイが工具を持って立っていた。
誰がどこで何をしていたかは夕食の時にでも聞けばいいだろう、ということで、チグサは老夫婦の家に戻ってランプの修理をする。
割れた魔石を取り出して、同じ場所に新しい魔石を入れる。
ズレないように少し位置を調整したら、それで修理は完了だ。元通りつくようになったランプを見て嬉しそうに笑った老夫婦から魔石の代金を受け取った。
「よかったわぁ、ありがとうねぇ」
「いえいえ。このくらいならお安い御用さ」
老夫婦の家を後にして、代金を置きにアジサシ馬車に戻る。
馬車はまだまだ混雑していたので、代金だけそっと置いていこうとした……ところで、ギーネに捕まって、チグサも店番をすることになったのだった。




