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7,隠し事が多いからね

 ガルダに泊まった翌日、あれこれと用事を済ませて日が暮れる頃に、チグサ達は大通りから少し外れた場所にある薬屋を訪れていた。

 扉を開けるとカウンターには白銀の髪に空色の瞳をした女性が座っており、こちらを見て微笑んだ。


 笑い返しながら、チグサは目の奥にあるチリチリとした違和感を無視する。

 この人はヒエン・ウィーリア・ハーブ。この薬屋の店主で、薬師の中では名の知れたすごい人である。


「やあ、久しぶりだねハーブの姐さん」

「そうね。もっと遊びに来てくれてもいいのよ?」

「あんまり積むと他が乗らないんだよ」


 話しながら、注文していたポーション類を受け取って代金を払い、アジサシ馬車に箱を乗せる。

 その後も少し世間話をして、他の客が来たので別れを告げて店を出た。

 馬車に乗り込んで適当な場所に座り、目を軽くこする。先ほどの違和感は既に消えている。


 チグサの目は、少し特殊だ。

 世界にはオリジナルスキルと呼ばれる生まれ持つ以外には宿せない特殊なものがあり、チグサの目にはそれが宿っている。


 チグサに宿ったオリジナルスキルは鑑定眼と呼ばれるもので、それ自体はオリジナルスキルの中ではそこそこの頻度で出現する、さほど珍しくはないものだ。

 強さ、希少さの基準となる魔力指数も、1.5と下から数えた方が早い程度の物。


 そしてチグサの鑑定眼は「知らない物は分からない」というものだ。

 何でもなんでも、それを知らずとも「見れば分かる」鑑定眼もあるらしいが、チグサ自身はその眼の持ち主に出会ったことが無い。


 知らない物は分からないチグサの鑑定眼は「知っている知識を脳内から引き出す辞書」のようなもので、蓄えた知識が多ければ多いほど正確な鑑定が出来る。

 人から聞いた話、本で読んだ事であっても一応の鑑定は出来るが、自分で見たもの、経験したことが何よりも大きく反映されてより詳しい鑑定結果が得られるのだ。


 チグサはこの眼の為に世界中を旅して色んなものを見ていると言っても過言ではなく、今では基本的に何でもかんでも「見れば分かる」鑑定眼へと育っている。

 そんな中でも、時々目の奥がチリチリと違和感を訴える物や人がある。


 そういう時、大体は得ている情報、鑑定された情報に偽りや間違いがあるのだ。

 物であれば、前提が違うか、偽られたものか。

 人であれば、その人が自らを偽っているか、明かしていない情報があるか。


 ヒエン・ウィーリア・ハーブは最初に会った時から、ずっと目の奥がチリついている。

 与えられた情報、名前、見た目、その他多くが偽られていると、チグサの目が訴える。

 けれどそれでいて、ヒエン・ウィーリア・ハーブが取得した世界統一薬師試験の結果、与えられた薬師免許には一切の偽りがない。


 だから、チグサはいつだって目の奥の違和感をなかったことにする。

 悪人ではない。罪人でもない。

 明かせない過去や吐かなくてはいけない嘘は、多くの人にあるものだ。


「チグサ」

「ん?」

「大丈夫か?」

「うん。いつも通りさ。ハーブの姐さんはいつだって、隠し事が多いからね」


 目を押さえたままじっとしているチグサを心配したのか、いつの間にか横にアンドレイが座っていた。

 馬車も、いつの間にか宿の近くまで戻ってきているようだ。

 チグサはアジサシ団員にだけは自身の鑑定眼についての詳細を明かしている。だから、ヒエンの偽りはアジサシの中では共有された知識だ。


 目の奥がチリチリする、なんて抽象的な言い方で理解してくれた団員たちには驚きだが、彼らからすればチグサの物言いにはそのうち慣れるものらしい。

 そもそも見た目と口調がかみ合っていないから何を言っていようが、なんて言ってきたセダムの事はたしか、結構強めに蹴った気がする。元の筋力量の違いでさほどダメージは入らなかったようだけど。


「さて、明日の朝には出るわけだけど、皆買い忘れた物はあるかい?」

「今思い出せたら買い忘れにはならないんだよなぁ」

「そうだねぇ。で、だ。予定通りなら次はヴィの村だけど、それでいいね?」

「団長に任せる」

「はいはい、なら決定だ」


 宿の敷地内で止まった馬車から降りて、宿の中に入る。

 もう大浴場が使えるそうだから、今日はさっさとお風呂に入って休むことにした。

 チグサが休むことにした、といえば大体みんな休むし、非常事態が起きればアンドレイが動くのでチグサは本当におやすみである。


 そうやって代わりに動いた結果が「副団長」なのだが、本人からはチグサが動かないなら自分しか動くやつがいないだろう、という言葉が返ってくる。

 付き合いが長いせいでお客を相手にしているときのアンドレイの口調はチグサそっくりだし、多分それもあっていつのまにやら副団長なのだ。


 なんて、考えながらのんびりお湯に浸かって横に来たサシャと喋り、宿の部屋に戻ったら髪を乾かしてさっさとベッドに潜り込む。

 アジサシの馬車が置けるくらいの敷地がある宿は、大体どこもそれなりの値段がする宿だ。


 だからこそベッドの質がとっても良くって、それなりに疲れていた身体を横にすればもう眠気には逆らえない。

 まぁ、馬車のそんなに柔らかくない寝床でも十分安眠は出来るのだけれど。

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