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60,別にいいけれどね

 アジサシの馬車は順調に進んで、関所を越えて第四大陸に入っていた。

 第四大陸でも村を巡っていくのだが、この大陸は中央に巨大な森があるため、大陸の外周を回って行かないといけない。


 左右どちらから回るかによって次に行く大陸が決まるので、アジサシ内ではちょっとした会議が行われていた。

 野営地に定めた海辺で焚火を囲みつつ話し合っていたのだが、現在主張は一つだけだ。寒がりたちが「第六大陸は嫌だ。この間行ったじゃないか」と声を揃えているのである。


「まぁ、そんなに嫌なら別にいいけれどね」

「じゃあ五にするか?その後一に渡るなら、また同じ道を辿ることになるよ」

「とりあえず四を回って五に行って、その後ゆっくり次を決めてもいいさ。七の傍に寄ってみてもいいしね」


 結束して第六大陸は嫌だ、と主張をしていたカタリナとレウコスが喜びのハイタッチをしているのを横目に、チグサはアンドレイの広げた地図を覗き込んで詳しく回る村を決めていく。

 ついでにここにも寄るか、何を仕入れる、と話を進める。


 向かう先を決めたところで喜び終わったカタリナに順番を伝え、今日は就寝になった。

 そして翌日。野営の後片付けをして馬車に乗り込み、大陸を右から回るようにして進んでいく。

 第三大陸から第四大陸に入り、右に進んでいくと第六大陸がある。つまりは少しばかり冷え込んでいく方へ進んでいくことになるのだが、寒がりたちもこれには流石に反対はしなかった。


 多少冷え込むとは言っても、第六大陸に比べれば随分とマシなので。

 そうして数日かけて二つほどの村を巡り、本日は第四大陸に入って三つ目の村、シェン漁村へとやってきていた。


「おや、なんだか賑やかだね」

「冒険者が随分集まっているようだけれど……何か出たのかな」

「聞いてきます!」


 村に入ってすぐに人の多さに気付き、村の入口近くに馬車を止めた途端にコリンが飛び出していった。

 そのまま村の中央にある木の周りに集まる冒険者たちに突撃しているので、その様子を眺めつつチグサはアジサシを開店状態にしていく。


「聞いてきましたー!」


 開店作業が終わったところで戻ってきたコリンが、元気よくチグサの前まで走ってきて止まる。

 チグサはすっかりコリンに身長を追い越されているので、近すぎて顔が見えなくなった。コリンもそれに気付いたのか、数歩下がって元気よく手を挙げ直した。


「なんだった?」

「第六大陸にシハーチャが大量発生してて、その討伐に行くところらしいです!」

「ほう……」

「団長、第六大陸は嫌だよ」

「行かないってゆった」

「分かった分かった、行かないよ。でも関所には寄っていこうか」


 チグサが興味を持ったのを察知したのか、寒がりたちが何を言う前から文句を言ってくる。

 軽く笑ってそれを宥め、けれど移動の為に多くの人が集まっているだろう第四、第六大陸間の関所には寄っていく事にした。

 関所付近での商売は普段はそこまでやらないのだけれど、人が集まっている事が分かっているのなら寄り道してもいいだろう。


 関所の付近も寒い事には寒いのだけれど、第六大陸に入った瞬間に感じる寒さに比べればマシらしい。

 ということで、開店準備を終えてアンドレイに経由先の追加を伝え、チグサは少しだけ馬車から離れた。呼ばれればすぐに気付けるし向かえる距離なので、特に問題は無いだろう。


 そうして人の集まりだしたアジサシを眺めていると、村人や冒険者を遠巻きに、チグサと同じくらいの距離感でアジサシ馬車を見ている人影が目に付いた。

 傍らに大きな犬がぴったりとくっついているその人影には見覚えがある。

 もうひとつの特徴は、その背に背負われている大きな背負子だ。


「やぁ、どうも」

「どうも」

「ワンッ」


 近付いて声をかけると、向こうからも簡単な挨拶が返ってきた。元気のいい犬の声も一緒だ。

 この人物は第四、第五、第六大陸の村々を回って荷物や手紙を届ける歩荷である。お互いにあまり人が寄らないような村にも出入りする関係上、時折顔を合わせては軽い世間話などをするようになったのだ。


 大人しく隣に留まりつつもゆらゆらと緩く尻尾を振っている大きく綺麗な犬は、恐らくカタリナに撫でて欲しいのだろう。会った時には最低一回は撫でているのを見かけるから。

 なんて観察をしつつ、チグサは自分より少し高い位置にある歩荷の顔を見上げた。この人は用事がなければアジサシに立ち寄る事もないから、何か買いたいものがあって馬車を見ていたのだろう。


「何かお求めかい?」

「靴紐と、これの修理をお願いしたくて」


 見せられたのはいつも被っている植物で編まれた笠だ。顎の紐が切れてしまい、被っても落ちてしまうらしい。

 そのくらいであれば簡単に直せるので、レウコスを呼んで笠を渡し、ご注文の紐を取りに行く。


 アジサシ馬車の傍に集まっている冒険者たちには申し訳ないが、この歩荷はなにせ知り合いだし、あまり長く待たせると諦めて村を出てしまうのだ。

 まだまだ仕事はあるし、今日中に行かなければいけない範囲が決まっているのだろう。


 というわけで少し優先させてもらって、必要な物を揃えて会計を終わらせる。

 レウコスが笠の紐を直している間にカタリナが寄ってきてお供の犬を撫でまわしていき、そうして知り合いの歩荷とお供の犬は去って行くのだった。

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