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59,出来るけれど、専門ではないからね

 無事にジュラドースの素材を採集し、なぜかついでに確保されたナリュバーニの解体も終わり、アジサシは次の目的地に向けて出発した。

 とはいえ、次に向かわなくてはいけない場所、というのは特にないので、なんとなくで馬車を進めつつ村を巡っていくことになっている。


 まずはキャンプ地にしていた洞窟から出て地上に戻り、そこで馬たちに足環を装着する。

 白と黒の毛並みが綺麗な栗毛に変わったところで、第三、四大陸間の関所の方向へと足を進めた。

 ひとまずの目的地は、その関所の近くにあるシナの村だ。


「とりあえず第四大陸に行くとして……その後はどっちに行こうね」

「五にしよ」

「レウコスは寒いのが嫌なだけだろう?」

「そうだけど?」


 堂々と私利私欲を主張するレウコスに笑いつつ、とりあえずは第四大陸の村を巡るか、と予定を決める。

 村などで需要の高いもので在庫切れになっている物は特になかったはずなので、仕入れは各村での物の売れ具合を見て決めればいいだろう。


「ジュラドースの素材は……誰か欲しがりそうな人がいたっけ?」

「レディ・レッド」

「あぁー……欲しがりそうだけど、わざわざ行かなくてもいいや」


 名前が出てきた人は素材を持っていけば確実に高値で買ってくれるだろうけれど、会うとちょっと面倒臭い人なのでこちらから会いに行くのはやめておく。

 アジサシはそこまで収益を目的としなくても運営に問題がない程度には収支が安定しているので、面倒だなと思ったのならわざわざ行かなくてもいいのだ。


「そういえば、レウコスの制作物はどのくらいあるんだい?」

「ん?あぁ、そこそこ出来たよ。髪飾りにした」

「おや綺麗。村で営業してる間はカウンターに並べておこうか」


 レウコスは最近ずっと刺繍をしていたのだけれど、最終的に刺繍した布は髪飾りになったらしい。

 使った材料などを考えるとそれほど安くは出来ないが、自分へのちょっとしたご褒美や誰かへのちょっとした贈り物にはちょうどいい値段に出来るだろう。


 というわけで箱の中にまとめられていた髪飾りを綺麗に並べ直しておき、ついでに箱にはリボンを巻いておく。こうしておくだけで目に留まる確率がかなり上がるのだ。

 アジサシ馬車は店形態でカウンターを開けていてもそのカウンターが少し高い位置にあるので、ただの箱が置いてあるだけだと中身が何なのかが分かりにくいのである。


 村で営業するときはカウンターの前に踏み台も置くけれど、それでも見えにくいものは見えにくい。

 馬車の高さとの兼ね合いもあるので、高さに関してはどうにもならない。なので入れ物で興味を引いて、中身を確認してもらう。


「……お?速度が上がったね。カタリナー?」

「右なんか居る。気付かれる前に抜ける」

「了解。コリーン!何か見えるかーい!」

「見えないです!!」

「分かったー!ありがとうねー!」


 見張り台からは何も見えないらしいが、カタリナが居るというのなら居るのだろう。

 獣人の感覚の鋭さは人のそれとは比べ物にならない。一応チグサも右後方をじっと見つめて確認してみたけれど、特に何も見えなかった。

 視線の先には小規模な林があるので、その中にでも潜んでいるのだろう。


 なんて、時々加減速しながらも馬車は順調に進んでいく。

 昼休憩も取りつつ進んで夕方には目的地だったシナの村に到着した。少し遅めの到着だったが村人たちからは歓迎されたので、有難く宿に部屋を取って今日は休むことにした。



 そして翌日、朝からアジサシを開店して馬車の傍で椅子を出して座っていると、村人以外にも冒険者たちがちらほらとアジサシを見に来た。

 ここは関所の近くなので、そこを通過する冒険者も集まりやすい場所なのだ。


「アジサシさーん」

「はいはい?どうしたんだい?」

「杖のメンテって出来るんでしたっけ。ちょっと見てほしいのがあって」

「出来るけれど、専門ではないからね。近いうち専門家に見てもらった方がいいよ。それまでの繋ぎと言う事ならば受けようか」


 座ってぼんやり日向ぼっこをしていたチグサの傍に寄ってきた冒険者が、懐から杖を一本取り出した。

 魔法使いというわけではないが、ちょっとした魔法を日常的にちょっとだけ使うタイプだろう。

 それならば次にちゃんとした職人に見せるまでそこまで負担もかからないだろうし、ちょっとした点検くらいなら出来る。


「レウコース、お客さんだよ」

「はーい。……はい、何?」

「タスクの点検」

「了解。ちょっと待ってくださいねー」


 何やら小物を作っていたらしいレウコスがやってきて、タスク、つまりは懐に入るサイズの魔導器を受け取って確認を始める。

 レウコスは魔導器も魔道具も点検が出来るのだ。ただし本人は魔法は使えない。


 小物の制作技能を高め続けると道具の点検が出来るのか、とアジサシ内では時折話題になるのだが、結局はレウコスだからなぁ……で納得して終わってしまう。

 手先の器用さで他の追随を許さない男なので、出来るのにも何か納得してしまうのだ。


 今回もそれほど大きく調整しないといけないところはない、と言って道具を取りに行ったので、軽く整備をしてくれるだろう。

 戦闘では魔法を使わない程度の適性であれば、アジサシでも点検は受け付けている。戦闘でも魔法を使うちゃんとした魔法使いたちの杖は下手に弄れないので、緊急時以外は断っているが。


 ちなみに点検して「もうこれは持たない」と判断した場合はアジサシで杖を買ってもらうことも出来る。

 杖をわざわざアジサシから買っていく人たちはすぐにそれが必要な人たちなので、皆即決で買っていくことが多い。


 なんて、のんびり魔導器事情に思いを馳せている間にレウコスが戻ってきて杖の調整を始めた。

 ついでに、とチグサの杖も差し出したら調整してくれたので、これでしばらく調子がいい状態が続くだろう。

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