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52,募集中だろう?

 第三大陸に入ってからも馬車は順調に進んでいき、いよいよ今回の目的地であるガルダが見えてきた。

 ろっくんにも行先はガルダだ、ということは伝えてあるので、ガルダが近付くにつれ少しソワソワしているのが見て取れた。


 アジサシの用事としては、いつの間にか積み荷に紛れていた本をギルドに卸す、というのがある。

 他にも細々用事はあるが、それらは分担してメンバーに頼めば終わるだろう。

 というわけで、ガルダでの滞在日数は一日程度だ。次にどこに行くのかもなんとなく決まっているので、必要以上に滞在するつもりはない。


「さて、それじゃあ……アンドレイ、ギルドの方をお願い出来るかい?」

「了解、任せて」

「ギーネは店番を頼むよ。セダムは僕と行こう。サシャとレウコスは、何か用事があるかい?」

「靴の仕入れ行こうかと思ってたけど、団長が行く?」

「あたしはスパイスの買い出しに行ってくる」

「うん、食料関係はサシャに任せる。靴か……いや、レウコスが行ってくれるなら任せようかな。ついでに布なんかも買ってくるだろう?」

「そのつもり」

「じゃあお金は渡すから、その範囲で好きにしてきて」


 ガルダの門を通る直前、道が空くのを待ちつつそれぞれの行動を決めておく。

 買い出しに行く二人にはついでにちょっとした用事も頼んで、時間がかかりそうなものはアンドレイに行ってもらう。

 そうして各々の行動が決まったところでガルダの中に入れたので、少し進んだところでチグサは馬車を降りた。


 チグサと一緒に行くのはセダムとろっくんだ。

 目的地まではガルダ内を回っている路面列車で行くので、驚いてあたりを見渡しているろっくんの手を引いて進む。


「ろっくん、気になるのは分かるけれど、ガルダは人が多いからね。はぐれないようにね」

「わ、分かった」


 手を引くのにも抵抗はされなかったので、はぐれるのを防止するためにそのままにしておく。

 見た目で言えば仲のいい姉弟くらいに見えているかもしれない。チグサは身体の成長がほとんど止まっているし、ろっくんはおそらく実年齢よりも幼く見えるので。

 実年齢がいくつなのかは本人も覚えていなかったが、思考がしっかりしているのでそう幼くはないはずだ。


 栄養が足りていないから身長が伸びず、身体が薄く、そのせいで幼く見えているのだろう。

 なんて考えている間にも、乗り込んだ路面列車は進んでいく。

 数駅進んで静かな住宅街に入ったところで列車を降り、見慣れた道を進んでいく。時折見覚えがない建物があったり、あったはずの建物が無くなっていたりするのが面白い。


「さ、もう着くよ」

「……あれ?」

「そうだよ」


 道の先に見える大きな建物を見て、ろっくんの足が止まりかけたので手を引いて進ませる。

 ガルダに行く、とは言ったが、詳しい目的地……つまりは、ろっくんを紹介する相手については特に説明もしていなかったのだ。

 会ってみたほうが早い、と思った部分もあったし、万が一にもためらうような隙を与えないためでもあった。


「セダム、ノッカー鳴らしてくれるかい」

「おう」

「ここ、何の建物なの……?」

「冒険者パーティーの拠点だよ」

「冒険者の?」


 予想と違う答えだったのか、困ったように首を傾げて固まってしまったろっくんが再度動き出すよりも先に扉が開いて中から人が顔を出した。

 や、と片手を上げれば、向こうからも気楽な返事が返ってくる。


「おう、どしたの?なにか……あぁ、その子?」

「そう。うちには乗せる余裕がなくってね。君たちはいつでもメンバー募集中だろう?」

「ま、そうね。どうぞ入って。今リーダーは出てるけど、他の奴らはそこそこいるよ」


 促されるままに中に入って、応接室でお茶をいただく。

 真ん中に座らされたろっくんは、まだ状況が呑み込めていなさそうだ。


「さーて、はじめまして。私はヘリオドール。君は?」

「……六番」

「なぁるほど。じゃあ名前も決めないとだ」


 当然のように進む話についていけていけていないのは当事者であるろっくんのみ。

 チグサは当然として、セダムもこういった場面には何度か立ち会っているので慣れきっている。


「一気にやると混乱するだろうし、詳しいことは明日以降に順番に、って感じかな。そちらから何か質問はある?」

「……そもそも、あんたたちは、何?」

「あ、チグサさんったら説明してないんだ。わーるいーんだー」

「言うより来た方が分かりやすいだろう?」


 けろっとそんなことを言ったチグサにヘリオドールが笑い、ろっくんに向き直る。

 なんだかんだ言って向こうも意図的な説明不足は分かっていたのかもしれない。アジサシは大体そうやってここに人を連れてくるので。


「いや、重要なところが後回しになってごめんね。私たちはクリソベリル。ガルダを拠点に活動してる冒険者パーティーだよ」

「……くりそ、べりる」

「そう。聞いたことある?」


 小さく頷いたろっくんを見て、ヘリオドールが満足そうに笑う。

 クリソベリルは冒険者の中でも最上位に名を連ねる大規模なパーティーだ。拠点は第三大陸のガルダに置いているが、他からも救援要請が来れば出張するので、ろっくんも聞いたことがあったのだろう。


 そんなところに、と小さく呟いたろっくんには、クリソベリル側から説明があるだろうからチグサからは何も言わない。

 アジサシの仕事は彼をここに送り届けた時点で終了だ。残りは、クリソベリルから必要なタイミングで説明があるだろう。


 アジサシとクリソベリルは、実はそこそこやり取りがある。

 クリソベリルが必要としている道具や素材がアジサシにしかない、ということもそこそこあるし、アジサシがこうして人を連れてくることもあるので。


「うちのメンバー、結構孤児とか多いんだよ。育てられる環境はあるから、才能があるなら現状の実力はなくたって構わないんだよね」

「ろっくん、君には多分魔法の才能もあるからね。よくよく育ててもらうといい。ま、しんどいだろうけどねぇ。クリソベリルは揃いも揃ってスパルタだからねぇ」


 既に実力のある者を勧誘することもあるが、それ以上に後進を育てることの方が多いのがクリソベリルという組織だ。

 この組織の中で宝石を名としている者たちは、みんな所属するまで名前のなかった者たちなのである。

 だからまぁ、ろっくんも、近いうち宝石を名として授かるんだろう。色々決まった頃に見に来ようかな、なんて企んで、チグサは席を立った。用事は済んだので、そろそろお暇するとしよう。

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