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51,結婚してるの?

 ろっくんが客人としてアジサシの馬車に乗って三日目。

 馬車は第二大陸から第三大陸へと入り、少し進んだところで昼食のために一度止まって自由時間を過ごしていた。


「ねぇ」

「お、どうした?」


 基本的には火の傍でぼんやりしていることが多いろっくんが声をかけたのは、そこから少し離れて話していたセダムとレウコスだった。

 レウコスの手には刺繍枠と道具があり、この人また何か作ってるんだ、なんて思われている。


「あの人たち……えっと、団長と、副団長って、結婚してるの?」


 そんなことを言ってろっくんが指さした先には、なにやらやいやいやりあっているらしいチグサとアンドレイが居る。

 大方、またなにか思い付きで妙なことをしようとしたチグサを見咎めたアンドレイが、それを阻止しようとしているのだろう。


「いや?」

「あの二人はそういう関係じゃないよ」


 答えつつ、そう思うのも分かるけど、と言葉を付け足す。

 アジサシの団員ならば誰もが一度は考えた事のあることかもしれない。それくらいに、あの二人は隣にお互いが居るのが当たり前になっている。

 まぁ、エリオットとカタリナも同じくらい距離が近いから、重さで崩壊したらしい最初の馬車を知っている者たちの距離感、なのかもしれないけれど。


「違うん、だ」

「ま、特殊ではあるよなぁ……アンドレイは、団長にとっては確実に特別ではあるだろうしな」

「そうなの?」

「そうだね。もしも何か、アジサシが崩壊するようなことが起こったとして。その時、団長は自分を犠牲にしてでも他をみんな逃がすけど、アンドレイさんだけは道連れにする。そういう関係だよ」

「……どういう、関係……?」


 死ぬときは一緒、なんて綺麗な誓いじゃない。あれは、もっといろんなものが絡み合った結論だったように思う。

 セダムとレウコスがその話を聞いたのは、アジサシ馬車が今のものに変わった時。

 お祝いにと全員で揃って夕食を食べに出て、宴会をしていた時だ。


 チグサは当然のようにアンドレイに「一緒に死んでくれるかい?」と聞いたし、アンドレイは当然のように「そもそも君、俺の命なんて最初に買い取っただろう」なんて返していた。

 あんまりにも当然のやりとりとしてそんなことを言い合っていたから、聞いていた他の者たちはこの二人は他とは違う関係値で完成されているのだ、と納得するしかなかったのだ。


「……他の、他の人と違う、特別な関係で……」

「うんうん」

「死ぬときは一緒で、納得してて……?」

「おう」

「……それは、結婚してるのと、何が違うの……?」

「はっはっは、そりゃそうだ」

「ま、あの二人必要ないから結婚してないだけで、もしそれ関連の面倒ごとがあったら一切ためらいなく結婚くらいしそうだよね」

「えぇ……?」


 混乱しているらしいろっくんには申し訳ないが、レウコスとセダムは面白くて仕方ない。

 確かにそうだ。あの二人が結婚していない理由の一番の理由はお互いに恋愛感情がないからだろうが、お互い恋愛感情がなくてそういう相手としては見れないけれどパートナーとしてうまく付き合っている夫婦なんてものは、特段珍しくもない。


 だから、結局は面倒なだけなのだ。

 したところで何も変わらないなら、しなくたっていいだろうと。

 故に、もしもこれからしつこく言い寄ってくる相手がいるとか、結婚を迫られるような面倒が発生したら、それを回避するための盾としてお互いを使うために結婚くらいはするんだろう。


「人間の関係性のすべてに名前を付ける必要はないんだよ。曖昧なら、別にそのままで困らないことだって多いんだ」

「そ、っか。……ちなみに、あの二人は?」


 納得したのかしていないのか。まだ少し飲み込み切れないらしいろっくんは、続いて馬車の傍の日当たりのいい場所で寝ているカタリナと、そんなカタリナに椅子にされているエリオットを指さした。

 あの二人もまた、距離感が近い。先にも言ったが、最初の馬車を知っている者たちだ。


「あの二人は、おじさんと猫」

「おじさんと、ねこ」

「そう」


 あれはもう、本当にそれ以上の物はない。他に当てはまる言葉もない。

 穏やかで嫌なことをしてこない、撫でるのが上手なおじさんが猫に懐かれているだけである。

 アンドレイが言うには最初からそんな関係性だったらしいので、恐らく今後変わるとしても「おじさんとねこ」が「おじいさんとねこ」になるだけなのだろう。


 結論、どちらも男女とか関係なく、人として相性が良くて居心地がいい相手と一緒にいるだけなのだ。

 そんなことを話して、人間について勉強中らしいろっくんが難しい顔をして小さく頷くのを眺める。

 顎に手を当てて何やら考え込んでいたろっくんは、結論が出たのかセダムとレウコスを見た。


「二人も、相性がいいから一緒にいる?」

「ん?あぁ、まぁそうだな」

「オレらはアジサシに入った時期も割と近いからね、一緒にいること多かったし」


 相性がいいから一緒にいるのか、一緒にいると相性が良くなるのか。

 まだまだ考えることが多いらしいろっくんの質問に答えつつ、二人は穏やかな自由時間を楽しんでいた。

 そうしているうちに昼食が出来た、と号令がかかったので、揃ってサシャの方へ移動する。チグサはアンドレイに引きずられてきたので、やろうとしていたことは無事に阻止されたらしい。

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