6,手分けしよう
予定外の野営をしつつも第三大陸内を順調に進んで、アジサシの馬車はガルダに入った。
ガルダは第三大陸の中で最も第二大陸に近く、安全で平和な国だ。
アジサシとしてはよく来る国の一つであり、用事は色々あるのでいくつかの組に分かれて初日の用事を熟しに行くことにした。
「よし、じゃあ店番は頼んだよ」
「はいはい、お任せあれ」
「いってらっしゃーい」
馬車に残るのはギーネとカタリナ、レウコスの三人。
ギルドへ用事を片付けに行くのがアンドレイとコリン、セダムの三人。
道中確保した皮を加工してもらいに工房に行くのがチグサとエリオット、そしてサシャの三人だ。
チグサ達三人はそのまま商品にする物ではなく自分たちで使う物の買い物もしてくる予定で、アンドレイには別の用事も頼んでいるのだが、後でそっちにもいかないといけない。
ともあれまずは工房巡りだ。どこでもいいわけではなく、腕のいい職人がやっている所でないと満足出来ないので、そういう工房を遠くても巡ることになる。
「さ、行こうぜ」
「まずは西区に行こうか。サシャ、何かあったら声を掛けてね」
「はーい。まぁとりあえず、手を空けない事にはどうにもならないけど」
三人でギリギリ抱えられるくらいの量になった加工前の皮をどうにか運んで、知り合いの工房を訪ねて回る。
加工がいつ終わるかをメモしつつ歩きまわって、全てを工房に預け終わった時には既に日が傾き始めていた。
他の組はもう用事も全部終わって、宿に移動しているだろう。
ガルダで泊まる宿はいつも同じところなので、馬車が移動していたとしても特に問題はない。
宿までの道中でサシャが欲しがっていた調味料も買えたので、こちらの用事は全てしっかり終わった。
「お、団長」
「お疲れアンドレイ。どうだった?」
「ギルドの方は予定通り、まとめておいたから、後で確認して。ポーションは明日の夕方までには出来るらしい」
「ならガルダにもう一泊だね」
「宿はそれで取った。いつもの部屋」
「ありがとう」
宿に入ってすぐにアンドレイが声を掛けてきたので、軽く報告を貰って宿の奥へと進む。
宿屋の従業員たちは皆慣れた様子で笑顔を向けてくれたので、こちらも笑顔を返しておいた。
結構前からガルダに来るたびここに泊まっているから、お互い妙に慣れてしまっている。
ちなみにここの宿を選んでいる理由は、敷地内にアジサシ馬車が入れるだけのスペースがあるから、だ。
通常考えられないくらいの大きさをしているせいで、アジサシの馬車は宿の敷地に入りきらないことが多く、その辺を考えると泊まる宿は大体どこでも決まってきている。
横幅が入れるくらいあったとしても、三階層もある縦幅が屋根にぶつかってしまうから入れない、なんてこともある。
その点この宿の敷地内には悠々入れる横幅があり、屋根は無いので縦の心配がない。
「ギーネ」
「あ、おかえり団長」
いい宿だ、なんて思いつついつも通りの場所に止めてあるアジサシの馬車に歩き寄って、乗り込みつつ中に声を掛ける。
中で紙の束を整理していたギーネが柔らかく声をかけてきたので、横に座って整理している紙を覗き込んだ。
「おや、随分売れたね」
「雨期明けだから皆ちょっと贅沢してるみたい」
「なるほど。……ん、ヘアオイルが無くなる?」
「そうだね、ちょっと減ってきてる……ハニービー無くなったかも」
「あらま。仕入れに行かないといけないな」
ヘアオイルは、髪を伸ばす者たちからすると無いと困る必需品でもある。
特に魔法使いは男女問わず髪を伸ばして非常時に使えるようにしている事が多いから、冒険者たちが買って行くのだ。
「ハニービーなら、お嬢さんたちしか買わないだろうけど……ま、さっさと仕入れるに越したことはないね」
「明日行ってくる?」
「そうだね。他に足りない物があれば纏めておいて」
「はい、どうぞ」
「仕事が早い……うん、うん。こっちはサシャの領分だな……あれ、これ誰に売ったんだい?」
「グレームさん」
「あぁ、あの人。なるほどね」
確認を終えて、ついでにアンドレイから貰った方も確認しておく。
こっちはギルドに持ち込んで売ってきた物の一覧と、その売値の表だ。
ざっと確認して違和感のあるものは無かったので、それもまとめてギーネに渡す。
「さて、ギーネは宿に行くね?」
「うん。カタリナとエリオットさんは馬車に残るって」
その二人が馬車に残るのはいつも通りなので、特に気にせず馬車の二階に声を掛ける。
すぐに二人分の返事が返ってきたので、チグサとギーネは馬車を降りた。
カタリナは人への警戒心が非常に強いので宿では全く眠れず、エリオットは少し特殊な目の色をしているせいで昔人に狙われまくった結果知らない人の気配に敏感だ。
普段は色のついたゴーグルをつけているが、寝る時には外すので基本宿には泊まらない。
そんなわけで、警戒心が強くて宿で休めない二人が馬車の番がてら馬車に残るのはいつもの事なのだ。
時々ここに他の人が混ざることもあるが、なんであれ二人はいつも馬車番をしている。