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48,本格的に寝てやがる

 ヤコの村を出発して、続いてはヘミョの村を目指してのんびりと馬車を進めていく。

 穏やかな陽気に誘われたチグサはいつものように屋根の上で昼寝に興じており、時々団員がその様子を見に来ていた。

 とどのつまりは全く持っていつも通りの、とても平和な道中だ。


 普段ならばこのまま丸っと放置しておくのだが、今日はカタリナから道中で何かと遭遇する可能性が高いと言われているので、その時になってチグサが屋根から転がり落ちないように見ておく必要があるのだ。

 ちなみに、チグサを馬車の中に戻そうというアンドレイの努力は実らなかった。この陽気でチグサが屋根の上に出ないわけもないのである。


「あ、いたかもー」

「だとよ団長。戻ってこい」

「んー……」

「駄目だ本格的に寝てやがる」


 カタリナが討伐対象を確認した時にちょうどチグサの様子を見に来ていたセダムが声をかけるが、チグサが起きる様子はない。

 聞こえてはいるが理解はしていないようで、思ったよりも本格的に寝入っていたらしい。

 仕方ないので雑に担ぎ上げて馬車の中にしまい込み、窓を閉めて下に降りる。


「団長は?」

「布団に転がした。……おいコリン!下来い!」

「はーい!」


 斧を用意しつつ見張り台にいるらしいコリンに声をかけて、セダムは外を窺った。

 アジサシ馬車の出入り口には小窓がつけられているので、そこから後方の様子が見えるのだ。

 まだ直進しているようなので、接敵まではまだ少し猶予があるらしい。


「カタリナ、あとどのくらいだい」

「もちょい。後ろ向けるよー」


 御者台の傍に控えているアンドレイが声をかけたタイミングで、馬車が方向を変える。

 横向きにそこそこの力が加わって、セダムは転がりそうになっているコリンの首根っこを掴んで、転ばないようにしておいた。

 二階でチグサが転がったような気がするが、先ほどサシャが上に上がっていったので、チグサの事も見ておいてくれているだろう。


「あい、どうぞー」

「行くぞコリン」

「はーい!」


 扉の小窓から対象を目視して、馬車が減速したタイミングで扉を開けて外に飛び出す。

 普段はコリンとエリオットが出ることが多いが、今回エリオットは見張り台から矢を射るらしいので、前線はセダムとコリンでこなすことになったのだ。


「セダムさーん!あれなんですかぁ!?」

「ヴォハーミャ。尻尾の先に毒あるから触るなよ!」

「はーい!」


 元気よく返事をしてセダムとは逆側に走っていったコリンを見送って、セダムも愛用の斧を構えた。

 この斧は元々解体用で武器として作られたものではないのだが、手に馴染むからという理由で戦闘だろうが解体だろうが使い倒している。

 もうだいぶ長く使っているが、未だガタが来る様子もない。


 そんな愛用の斧を振りかぶって、セダムはこちらを向いたヴォハーミャを見据えた。

 大きく毛を逆立たせて、こちらに向かって威嚇をしている。低く唸る声も、むき出しの牙も、恐ろしくはある。が、それらを全て無視して、思い切り斧を振り下ろした。

 当たる前にヴォハーミャが跳び退いたのであたりはしなかったが、跳んだ直後に短く悲鳴が上がったので、逆側に走っていったコリンの攻撃は直撃したらしい。


 振り返ろうとする巨体に今度は馬車から矢が飛んでくる。

 固い表皮に遮られて刺さりはしなかったようだが、ヴォハーミャは矢の飛んできた方向へと視線を向けて吠えている。嫌なものではあったらしい。

 意識がそちらに向いてがら空きになった前足に振り下ろした斧は、綺麗に当たって爪の一つを地面に転がした。


「ガァァァ!!!」

「おー……コリン、毒トゲ来るぞ、避けろ!」

「はーい!」


 地面に打ち付けられた尻尾を避けて、その反動で剥がれて転がっている毒付きのトゲを踏まないように移動する。

 コリンの方も器用に避けて距離を詰め、剣を振るってヴォハーミャに傷を増やしていっている。

 セダムはあそこまで動き回る体力はないので、隙を見て当たる攻撃だけ繰り出していく。


「あいつ体力無限だよなぁ」

「若さだな」


 いつのまにやら傍に来ていたアンドレイに話かけたら、しみじみとした言葉が返ってきた。

 セダムですら最近身体の衰えを感じてきているのだ。セダムより五つほど年上なアンドレイは、コリンを見るたびに若いな……と思っているのかもしれない。

 なんて考えつつ、地面に魔方陣を仕掛けて次の場所へと移動していくアンドレイを見送る。


 ついでにそちらに飛びそうな攻撃は弾いていき、アンドレイが馬車に戻るまでの時間稼ぎもする。

 ちらりと馬車の方を見てみたら、二階の窓からこちらを見ているチグサが居た。

 流石にこの騒ぎで目が覚めたらしい。アンドレイが出てきたのも、恐らくはチグサの指示だろう。


「セダムさーん!これ効いてますー!?」

「多少は効いてんだろー!とりあえず足止めしとけー!」

「はーい!!」


 振り下ろされる爪を避けて、毒を含んだ尻尾を避けて、地面に落ちたトゲを避けて、隙を見て攻撃を仕掛ける。

 そうして徐々にヴォハーミャの身体に傷が増えていくと、馬車から飛んでくる矢が身体に刺さるようになってきた。


 痛みからか威嚇のためか、叫ぶヴォハーミャを避けて少し後ろに下がったところで、馬車の方から笛の音が聞こえてきた。

 それを聞いて馬車の方に下がれば、コリンも走ってきているのが見える。

 引いたコリンとセダムを追ってヴォハーミャも馬車へと向かってくるが、さほど移動していないあたりで地面が爆発し、巨体が大きく傾いた。


 それでも迫ってこようとしているが、次に足を踏み出したところでも地面が爆発する。

 三度ほどの爆発を経て、ヴォハーミャは地面に倒れ込んだ。

 セダムとコリンが傍に寄ってみれば、まだ息はあったのでとどめの一撃を振り下ろし、これ以上動くことはない、という確認をする。


 そこまでやってから馬車に合図をすると、さっそく解体のための道具があれこれと外に運び出された。

 地面に刺さっているトゲも回収するだろうが、セダムの仕事はヴォハーミャ本体の解体だ。

 先ほどまで戦闘に使っていた斧をそのまま解体のために持ち直して、倒れ伏す巨体に向き直った。

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