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5,うん、綺麗だ

 予想外の休憩時間は肉の加工のために長引き、結局このままここで野営をして過ごすことになった。

 そう決めた途端に焚火が用意され椅子が持ち出され、ついでに馬二頭とカタリナがどこかへいった。

 まぁそのうち戻ってくるからと一旦意識から外し、チグサは焚火の傍で作業をしているレウコスの横に腰を下ろした。


「新作かい?」

「んー……手慰み。やらないと忘れそうだし」


 レウコスの手元に在るのは小さな刀と先ほど解体されたスエープレの骨で、それを綺麗に削って模様を彫り込んでいるようだった。

 レウコスはアジサシの「細工師」だ。こうして骨をちょっとしたアクセサリーに加工している時もあれば、木を彫っている時もある。


 ついでに革細工も出来るし、刺繍もこなせるという、細かい作業なら大体何でも出来る男である。

 服のほつれを直すなんてのは朝飯前だし、時折訪れた村の村人に頼まれて結婚式の衣装のサイズ調整をしていたりもするくらいには何でも出来る。


 アジサシ開店中にカウンターに作った小物を置いておくと結構売れるので、チグサとしては作りたいときはいくらでも作ってくれて構わないのだ。

 なので邪魔しないように手元を眺めて、完成したらしいものを渡されて歓声を上げた。


「うん、綺麗だ!」

「気に入ったんなら良かった。そこからどうするかは決めてないんだけど、何がいいかな」

「鞄やなんかに付けられるちょっとした飾りにしたらどうだい?元が骨だし、冒険者でも欲しい人はいるだろう」

「なるほど、じゃあそうしよう」


 飾りにするための道具を取りに行ったのか、掘り終わった骨を持って立ち上がったレウコスの背中を見送って、何やら騒がしい焚火の傍に目を向けた。

 ずっと賑やかだったのだが、これもまあいつも通りなので今まで気にしていなかったのだ。


「お願いサシャ様ー!」

「だーめ。……あ、団長。団長からもなんとか言って?」

「うん?」

「お肉、もうちょっと食べる分にしても良いですよね、ね、団長」

「うーん……サシャが取り分けたんだろう?ならその量が一番良いよ」

「ほらね」

「そんなぁ……」


 どうやら今日の昼食と夕食の肉の量で騒いでいたようで、コリンのお願いを退けたサシャが取り分けた肉を保存用に加工する作業に戻ったので、チグサはその横に座り直した。

 サシャはアジサシの料理人で、ついでに薬草の類にも詳しい。毒のある食材の無毒化についても詳しいので、アジサシがどこでも安全で美味しいご飯が食べられるのはサシャのおかげだ。


 サシャが入る前はその時に居るメンバーが交代で食事の支度をしていたのだが、料理が出来るやつがいたら是非にでも乗せようと満場一致で話がまとまるくらいには辛い時期だった。

 食事以外はさほど辛くはなかったが、野営の頻度が今の数倍低いくらいには野営中の食事は辛かった。


 そんなわけで、チグサは基本的に食事面においてサシャに反対することはない。

 コリンはサシャが居ない頃のアジサシを知らないが、それでもそのあたりの力関係は重々承知なようでチグサが一度サシャの側につくと素直に諦めるようになった。


「そういえば、サシャ。カタリナがどこに行ったか知っているかい?」

「カタちゃん?うーん……この辺、近くに水辺があった気がするしそこじゃないかな」

「あぁ、なるほど」


 馬たちと一緒に水浴びでもしているようなので、そちらは昼食の前に声を掛けに行くことにした。

 アジサシ団員の中で女性はチグサとサシャとカタリナだけなので、カタリナが水浴びをしているなら呼びに行けるのは手が空いているチグサだけだ。




 サシャがそろそろだと言ったので、チグサは予定通りカタリナを探しに近くの水辺に来ていた。

 案の定水辺で遊んでいる音が聞こえたので、音を頼りに近付いていく。

 カタリナはもう気付いているだろうに遊ぶのをやめない。チグサが木々の隙間から顔を出したところでようやくこっちに目を向けた。


 普段着ている長い外套は脱いで近くの木に引っ掛けてあり、薄着で馬と戯れている。

 そのおかげで普段は隠れているピンと立った猫耳も、楽し気に上がった尻尾もしっかり見えている。


「カタリナ、そろそろご飯だよ」

「あい」


 振り返った金色の目がキラリと光って、川岸まで歩いてきた。

 アジサシ馬車の御者であるカタリナは猫獣人で、亜人への差別意識が強い中で育ったからなのか普段は滅多に外套のフードを下ろさない。


 アジサシ団員しかいない野営中であれば外套を脱いでくつろぎもするが、村に泊まる時は馬車に残るし、外部の人間とは基本的に話すことすらない警戒心の塊なのだ。

 アジサシからしたら可愛い茶トラ猫だが、他から見れば常にフードを目深に被って無言で座っている謎の御者だろう。


「団長」

「なんだい」

「みて」

「うわ、でっか」


 そんな茶トラ猫、水遊びのついでにやたらでかい魚を捕まえていたらしい。

 ふふん、と誇らしげに掲げられた魚を渡されて、どう持ったら良いだろうかとチグサが悩んでいる間にカタリナは水から上がって身体を拭いていた。


 馬たちも身体についた水を振り払っており、二頭と一人の準備が出来たところで魚を携えて昼食の席に戻るのだった。

 なお、魚は夕飯に回されることになった。

これでアジサシ団員全員が出そろいました。

アジサシは九人です。

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