35,質のいい剣だね
イツァムナー到着二日目は、三手に分かれて行動することになった。
まずは、アジサシ馬車に残って店番をする者たち。そして二つ目、角ウサギの皮を鞣してもらうために工房を巡る者たち。最後が、コリンの剣を探しに行く者たちだ。
チグサはエリオットとコリンと三人で、コリンの剣を探しに行く組だ。
コリンは当事者なので当然として、エリオットは剣に詳しいので、チグサは不備や不当な値段を吹っ掛けられないための鑑定要員としてついてきた。
いくつか店を見て回って良い物が見つからなければ工房に行って作ってもらうことも考えているので、その辺の判断のためにもついてきている。
とはいえチグサ自身は剣は全く使えないので、基本的に判断はエリオットとコリンに丸投げするつもりでいるが。
「もう少し長い剣にするんだよね?」
「そうだな、今より長く、重い剣にする」
「師匠の剣と同じ感じのになるんですか?」
「これよか軽い方がお前に合ってるだろ」
話しながら、馬車を止めているキニチ・アハウからカウイルに向かう乗り合いの馬車に乗車した。
イツァムナーの同盟国は、こうして国の間を移動する馬車が出ているのだ。そのおかげで移動は随分楽である。
チグサの恰好がいつも通りなので時々話しかけられることはあったが、特に面倒ごとに出くわすこともなく平和に移動してきたカウイルの中で、ひとまず見て回る店を決める。
カウイルは剣や弓の制作が盛んで、工房も店もあちこちにある。全てを見て回ると時間が足りないので、チグサの独断で入る店を決めた。
「よし、とりあえずここ入ってみようか」
「はーい!」
選ぶ基準は単なる勘だが、かれこれ二十年ほどアジサシの団長をやっている女の勘なので、早々外れはしない。
というわけで元気よく返事をして扉を開けたコリンの後に続いて店の中に入り、置かれている剣を眺める。
「コリン、魔法は使わないよね?」
「才能ないんじゃなかったでしたっけ。前に調べて貰いましたよね?」
「適性C。わざわざ手出す必要もねぇだろ。急にどうした?」
「いや、魔導基盤が組み込まれたあったから、ふとね」
人間が魔法を使うために必要なのが魔導基盤と呼ばれるもので、イツァムナーに入ってすぐに仕入れに行った魔導器と呼ばれる杖が代表格だが、剣などに組み込んで武器を通して魔法を使えるようにするものもあるのだ。
ちょうど、今チグサの目の前にあるのがそれである。
値は張るが、魔法も多少扱える戦闘員であれば欲しいだろうそれ。目の前にあるものは中々質も良く、仕入れていこうかな、なんて思うくらいには値との釣り合いも取れている。
けれどまぁ、コリンは魔法は使わないので、持たせる意味はない。
「なんだ、仕入れてくか?」
「そうしようかな……質のいい剣だね」
「アジサシの団長さんにそう言って貰えるたぁ光栄だね」
エリオットとコリンが剣を持ったり振ったりしているのを横目に、チグサは店主と会話をして、目の前の魔導基盤入りの剣を詳しく見せてもらう。
剣を両手で持って、ゆっくりと目を閉じる。静かに呼吸を整えて目を開けると、そこには先ほどよりも詳しく剣の情報が浮かび上がっていた。
基盤入り、質良し。鋼、お、珍しい物が素材として混ざっている。
なるほど、基盤を入れるから、魔法との相性を上げるのに入れてあるのか。こういう細かい工夫をする職人は大好きだ。
「これ、ヘビャヨの毛か皮か混ぜてあるのかい?」
「そんなことまで分かるのか、すごいな。剣そのものにも多少加えたが、一番は火だな。鍛える火に毛皮を入れて、熱するときに適性が移るようにしてんだ」
「なるほど、いいねぇ、素晴らしい」
良い物を見つけた、と大満足で剣を買ったチグサがコリンたちの方を振り返り、ここでは決まらなかったことを確かめる。
というわけでアジサシの在庫になった剣はエリオットに持ってもらって、次の店に向かう。
元々こうなるだろうとは思っていたので、仕入れた剣を入れるように袋も持ってきているのだ。
コリンの剣を選びつつ、チグサはチグサで勝手によさそうな剣を探して仕入れを行う。それが今日の行動方針である。
そんなわけでしばらく店を見て回っていたのだけれど、剣の仕入れは進めども本題のコリンの剣が見つからない。
欲しい物が明確なので、ある程度仕方のないことではあるが、埒が明かないのも確かだ。
「よし、じゃあ新しく鍛える方向で確定しようか」
「おう。工房は目星ついてんだよな?」
「前に来た時から変わっていなければ、ね。行ってみよう」
「はーい!」
明確に欲しい物が決まっているのだから、それを正確に作れる職人に頼んでしまうのが早い。
店で探すよりも時間と金がかかるが、アジサシにはどちらもあるので今回は割と最初から工房に頼むかという話になっていたのだ。
既に作られたもので良い物が見つかればそれが早いよね、という希望もあったから、一応店も見て回っていただけで。
というわけでチグサがあらかじめ目星をつけていた工房に向かって、以前訪れた時から悪い変化が見られないことを確認して、剣の作成を依頼することにした。




