34,仕入れに行こうか
デルピューネを出た後、アジサシ馬車はそのまま陸路を進んでモーショボーを経由して第二大陸に入り、二つほど村を通りつつ今回の目的地であったイツァムナー同盟諸国へと足を踏み入れた。
第一大陸側からやってくると、最初に入る国は大抵キニチ・アハウになる。
相変わらずの魔法に溢れた光景と人の多さに馬車の進みは遅いが、特に気にせずのんびり進む馬車の外の光景を二階の窓から眺める。
チグサとしてはいつも通り屋根の上に出て過ごしたいところではあるのだが、この人通りの多いところでそれをやるとアンドレイが怒るので、仕方なく窓枠に腰かけるだけで妥協しているのだ。
「お、アジサシさーん!今回はどんくらい居るんだい!?」
「そこそこ長くいるよー。イツァムナーの中は移動するから、何かあったら探しておくれ」
往来からかけられる声に返事をしつつ進んでいくと、少し開けた場所が見えてきた。
そこに立っていた人と掲げられた旗を見て、窓から下に声をかける。
「カタリナ!見えてるかい!?」
「見えてる」
「ならよーし!」
問題はなさそうだ、と判断している間に旗を掲げている人と同じ制服を着た人たちによって道の人混みに隙間が作られて、馬車の速度が上がった。
到着前に移動するか、とチグサも窓枠から立ち上がって下に降り、出入り口近くで待機する。
一瞬だけ寄ってきたレウコスが何も言わずに去っていったので、服にも髪にもひどい乱れはないらしい。
それでも一応手櫛で前髪くらいは整えて、馬車が止まったのを確認してから扉を開けて外に出た。
「お久しぶりです、チグサ殿」
「やあ、久方ぶりだねガルゴレ殿。わざわざ手間を取らせたようで、すまないね」
「いえいえ、この程度。皆皆様の来訪を楽しみにしておりますから」
馬車の向きを変えて位置を微調整しているカタリナを横目に、チグサは旗を掲げた人の斜め前に立っていた一人だけ服の違う老紳士に声をかけた。
アジサシが来たという知らせが国に入ってすぐに飛んだのだとしても、随分と早い対応だ。
「この度は何をお求めに?」
「うちの子の剣を新調したくてね。それから、毛皮の鞣しと魔導器の仕入れかな」
「なるほどなるほど。であれば、四国全てにいらっしゃるのですね」
「その予定だよ」
この老紳士、ガルゴレ殿はキニチ・アハウの……というかイツァムナー同盟諸国のお偉いさんだ。
アジサシとの付き合いはそれなりに長く、そろそろアジサシの歴史の半分に関わることになるんじゃなかろうか、くらいの年月を重ねている。
今回のこれは、アジサシが店を開く場所を確保して待っていてくれたのだ。
向こうからしてもどこに居られるか分からない状態よりも、道が広くて人混みが多少ひどくなろうとも問題ない場所にいる、と分かっていた方がいいのだろう。
あとはまぁ、おそらくは昔のあれこれを未だに継続してくれているから、というのが理由だ。
「お暇になりましたら、ぜひ遊びにいらしてください。妻も会いたがっておりましたから」
「おや、では早く用事を済ませないといけないね」
にこやかに話を終えて、去っていくガルゴレ殿を見送る。
背後では既にアジサシが開店準備を終えていたので、集まり始めた人たちがまだ少し距離を開けている隙に開店の合図を送った。
馬車の壁が開いてカウンターと日よけに変わったところで人が並び始めたので、それを避けてチグサは一度馬車の中に入る。
そして、中で待機していたアンドレイに声をかけた。
「さ、とりあえず魔導器の仕入れに行こうか」
「はいはい、明日は工房巡りだな」
「うん。あと、聞いていたと思うけれど用事をあらかた済ませたらガルゴレ殿のお屋敷にお邪魔するから、手土産を考えておいてくれるかい?」
「レウコス、何かあるか?」
「え、……あ、刺繍だけして放置してる布がいくつかあるから、小物でも作る?」
バタバタと動き出した馬車の中を見渡して、早々に二階に上がっていったカタリナに手を振って馬車の外に出る。
既に人混みが中々の規模になってきているので素早く抜け出して、少し歩いた先で一度足を止めて、目的地の確認を行った。
「今在庫が、ロングステッキが一本、ステッキが一本、タスクが無し」
「リングは?」
「二つ。特殊なところで、デルヴァの試作品が一つ」
「まぁ、素直にタスクから探そうか」
「了解」
イツァムナー同盟は、四か国で組まれた同盟だ。
そのうちの一か国であるここ、キニチ・アハウは魔法技術の研究が盛んな国であり、魔法関連の物を探すのにはうってつけの場所である。
今回の目的は魔導器の仕入れなので、魔導器の工房を回って目的に合ったものを探していくことになる。
魔導器は本来、魔法使いが自分の使いやすい物、目的に合ったものを探すのだけれど、小さな村では魔導器の職人もいないし、不測の事態で魔導器が破損した冒険者などが駆け込んでくることもあるので、アジサシには基本何本か在庫を積んであるのだ。
今回は何本か連続で売れた後に仕入れが中々出来ていなかったので、少し多めに仕入れてもいいかと思っている。
仕入れの基準としては、出来るだけ癖のない、誰の手に渡っても大きな問題のない、素直な杖を選んでいる。誰が持つのか分からない以上、それが絶対の条件だ。




