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33,気にしてないよ

 角ウサギの群れの討伐が終わったのは行動を開始した日の夕方、すべての後処理が終わったのは、それから二日後の昼過ぎだった。

 かなりの量があったので、これでもかなり早く終わった方だ。


 全員働き詰めで疲れ果ててはいたが、ここで休んでいては面倒ごとが起こりかねない、と広げた道具を全てしまい込み終わるとすぐに移動を開始した。

 一気に増えた加工肉と毛皮、そして角で馬車の中は少し圧迫されている。


「ギーネが居なかったら乗せ切れてねぇんじゃねぇか?」

「そうかもしれないねぇ……でも馬車の床が歪んでないから、まだ余裕はありそうだね」

「お嬢、最初の馬車の悲劇を忘れるなよ」

「あれはもはや喜劇だっただろう?」


 これでもかと積まれた毛皮を眺めていたチグサのところにエリオットがやってきて、少し話した後に二階に上がっていった。これから仮眠を取るらしい。

 その背中を見送って、チグサは手元の紙に目を落とす。ギーネが纏めておいてくれた、総討伐数と毛皮の合計枚数、質のいい物と悪い物の枚数……などが纏められた紙である。


 次の目的地は、第一大陸内の中継地として賑わうデルピューネだ。

 そこのギルドで角ウサギの群れの討伐報告と、ある程度毛皮と角を売ってしまう予定になっている。特に、質の悪い物はアジサシに乗せておくよりもギルドに売ってしまった方がいい。

 ギルドでならば、多少質が悪くても使い道があるのだ。


「ドスギーバの毛皮と角は?」

「どっちも良質、別でまとめて置いた」


 ちょうどやってきたギーネに今回一番の拾い物について聞くと、他と違いちゃんとした箱に入れておいてくれたらしく、箱の位置を指さされた。

 こちらはしっかり鞣してアジサシの在庫にするので、鞣し待ちのリストに追加しておこう。

 問題はどこで鞣すか、だが……


「ま、普通にイツァムナーでやるか」

「何が?」

「鞣し作業。工房の一覧ってどこに行ったかな」

「棚になければ呼んでくれ」

「はぁーい」


 多少滞在が長くなっても問題がないところ、となると、今回の目的地であるイツァムナー同盟諸国の攻防に頼むのが早いだろう、という結論が出た。

 大して悩むこともない内容だったので、結論が出るまでは物の数分だった。


 二階に上がって棚の中に雑に収められているあれやこれやの資料を引っ張り出し、その中からイツァムナーの工房を見つけ出す。

 角ウサギの皮は、まぁある程度の能力値があれば任せてしまっていいのだけれど、ドスギーバはそれなりに珍しい方に入るので、ちゃんと信頼出来るところに預けたい。


「イツァムナーで頼むのも久々だからねぇ」

「前に頼んだところは?」

「あそこの親方、結構な歳だからねぇ……次世代に引き継がれてるとして、その次世代の腕を見てからじゃないと」

「じゃあそっちには角ウサギの皮預けて様子見だね」

「そうだねぇ」


 さっき雑に逃げたくせにいつの間にやら横に来ていたアンドレイと共に、イツァムナーに着いた後の予定を決めていく。

 角ウサギの毛皮はアンドレイとチグサが手分けして各工房に持っていくことになるだろうから、最初から二人で話し合った方が早いのだ。


 やいのやいの言い合っている間に、馬車は順調に進んでいく。

 そして日が暮れる直前に駆け込んだデルピューネで宿を確保して、今日はさっさと休んで明日からの活動に備えることにした。



 翌朝、馬車を移動させてアジサシの開店準備をし終わったところで、チグサは質の悪い方の毛皮を持って馬車を降りた。毛皮だけでなく角もあるので、一人では持ち切れずにセダムをお供に付けている。

 二人が向かう先はデルピューネのギルドだ。角ウサギの討伐報告と、毛皮の売却が今回の用事である。


 こちらのギルドも、スレイプニルのギルドと同じかそれ以上に人で溢れかえっていた。

 チグサが人混みに流されそうになっているので、セダムはチグサの手を掴んで人混みを抜けて、窓口まで進む。

 そして人の少ないところで呼吸を整えたチグサが窓口の職員に声をかけると、職員は面倒くさそうに二人を見上げた。


「お嬢ちゃん、今ここは忙しいから、用事がないなら声かけないで」

「おや」

「おー」


 久々だな、この感じ。とチグサがセダムを見上げたところで、二人に他の職員が気付いたらしい。

 顔を真っ青にして走ってきた職員が窓口の職員の頭を掴んで無理やり下げさせながら、大慌てで声をかけてくる。


「申し訳ございません!もう本当、うちの新人がすみません!!」

「おやまぁ。大丈夫、気にしてないよ。ボクが小娘に見えるのはただの事実だからねぇ」


 この見てくれで三十を過ぎた女だと誰が思うのか、というのが、チグサの自己評価なので、本当に気にしていないのだ。

 まぁそれはそれとしてあの態度はどうなの、と思わないこともないけれど、それはこの後他の職員が教え込むことだと思うので言わないでおく。


「それよりも、仕事の話をしていいかい?」

「もちろんです!奥へどうぞ!」


 新人の頭から手を離した職員に案内されて奥へと進み、出されたお茶を飲みつつスレイプニルのギルドで請け負った仕事の話をして、角ウサギの群れの討伐報告と毛皮と角の売却を済ませる。

 これでギルドでの仕事はおしまいなので、あとはアジサシ馬車に戻るだけだ。


 普段ならもう終わり、と気楽に過ごせるのだけれど、あの人混みを再び抜けるのか……とチグサは遠い目になった。

 こんなにも自分の小さな身体を恨んだことはない。頭がすっぽり埋もれてしまうのは、移動どころか呼吸すら辛くさせるのだ。

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