32,動きを確認するよ
朝早くにスレイプニルを出発し、カタリナが昨日のうちに確認しておいてくれた角ウサギの群れが居る場所まで移動する。
それほど時間が経っていないこともあって、角ウサギの群れは最初に遭遇した位置から大きくは移動していないようだ。
「さて、それじゃあ動きを確認するよ」
移動中の馬車の中で、チグサは大きく声を張った。
ちなみに現在位置は一階と二階を繋ぐはしごのすぐ横である。どうしてそんなところに居るのかと言われたら、ここが一番全体に声が通りやすいからと言う他ない。
「まず、角ウサギの討伐はエリオットとコリン。群れは可能な限り倒してくれと言われているから、出来るだけ数を狩って」
「おう」
「はーい!」
「狩った角ウサギの処理はセダムとレウコスに任せるよ。量が多いから、狩った傍から処理していって」
「了解」
「はいよー」
「アンドレイは二人の護衛。解体に集中できるように、周囲の対応は任せるよ」
「はいはい」
「サシャは解体が終わったところから、肉の加工をお願い。ボクも手伝うから、可能な限りやってしまおう」
「はーい」
「ギーネは討伐数の把握をしておいて。ついでに、加工がどこまで進んでるかも把握しておいてくれると助かるな」
「了解、出来るだけは頑張ります」
「最後、カタリナは周囲の警戒を。ついでに馬車の安全確保も頼んだよ」
「あい」
名前を呼ぶたびに上やら下やらから返事が返ってきて、全員をちゃんと割り振ったことを確かめて前方を確認した。
そろそろ見えてくる頃だと思うので、先に動き出すコリンとエリオットは出入口に行ってもらった方がよさそうだ。
「見張り台にいるのはアンドレイかい?」
「アンドレイとセダム」
「了解、じゃあエリオットとコリンは出入り口で待機。他は各自必要な道具を用意しておいてね」
声をかけつつ、チグサもサシャの準備を手伝いに行く。
そうして馬車の中が慌ただしくなり、各自準備を終えた頃。
カタリナから合図が一つ飛んできて、馬車の速度が緩まった。その隙にエリオットとコリンが馬車から飛び出していく。
そこから一度馬車は再加速して、少し離れたところで停止した。
既に戦闘を始めているエリオットとコリンが目視出来る位置だが、距離はそれなりにある。
安全な場所に止めてくれたようなので、ここで必要な道具を下ろしきってしまうことにした。
「先に行く」
「はい、気を付けて」
アンドレイとセダム、レウコスが先に準備を終えてエリオットたちのところに向かったのを見送って、チグサとサシャは鍋やら塩やら、その他いろいろと必要な道具を馬車から下ろした。
すべて下ろしたところで、カタリナは馬車を動かしてどこかに向かう。……方向的に、角ウサギの逃走阻止に向かったのかもしれない。
「もう少し向こうに寄ろうか」
「はーい」
二人の作業は解体が終わった肉の加工なので、まだ少し作業開始まで時間がかかる。
既にセダムが主導で解体は始まっているが、こちらに物が回ってくるまではもう少しかかるだろう。
ということで、下ろした道具をもう少し戦闘の起こっている方へ近付けて、そこで準備を始めることにした。あまり寄り過ぎるのも良くないが、遠いと運搬に手間がかかる。
道具を運んで折りたたまれているそれを組み立てつつ前方を確認すると、解体を行っているセダムとレウコスの傍にギーネの姿も見えた。
いつの間にやらそっちに移動していたようだ。荷物を下ろすのを手伝ってくれていたのに、本当にいつの間に。
「……お、第一陣が来るかな?」
「早いね」
「量があるから急いでくれたみたいだ」
本来なら血抜きだけでも時間がかかるが、そこは魔道具で時間を短縮して作業を行っている。
そうでもしないと対応出来ない状況が時々あるので、時間短縮のための道具はあれこれ取り揃えてあるのだ。
今回もその「そうでもしないと対応出来ない状況」の一つである。量が多いと、どうにか効率化していく必要が出てくる。
すべて終わるまでここに留まるわけにもいかないので、時短していくか移動中に馬車の中で作業できるようにするかの二択なのだ。
「討伐状況はどうだい?」
「まだドスギーバが残ってる。周り減らさないと駄目そうだな」
「なるほどね……カタリナが反対側にいるね?」
「おう。駆け回ってるぞ」
解体の終わった肉を持ってきてくれたセダムと少し話して、こちらも作業を始めることにした。
干し肉にしたり燻製にしたり、色々作るつもりだが、こちらも魔道具で時間短縮だ。
まあなんであれ、とりあえずは塊の肉を切り分けていくところから始まるので、ひたすら肉を切っていく。
肉を切りつつ小骨を撤去するくらいはチグサでも出来るので、その作業はチグサが行ってそれ以降の加工はサシャに頼むことになった。
同じ道具を使っても、なぜかサシャの作る加工品の方が美味しいのだ。
一体何故、と一度アジサシ内で会議にもなったのだが、結局詳しく理由は分からず、料理上手だと加工も上手いのだろうと雑に結論が出されている。
今でも不思議だ、とチグサの目にも特に違いが見えない何かを気にしつつ、ひたすら肉を切っていく。
まだまだ作業は続くので、サシャと喋りながら楽しくなっていかないといけない。
今日だけでは終わらないかな、と日程を脳内で組み立てつつ、追加の肉を貰いにセダムたちのところへ向かうことにした。




