4,倒しちゃおう
ギベの村を出て、次に向かうのはダラン村だ。
それほど遠くないので馬たちの魔力は抑えたまま、のんびり地上を進んで行く。
平和に進んでいた道中、馬たちの進む足が緩むのと同時に、見張り台から声が響いた。
「なんか居るー!前の方、なんかデカイのいますよー!」
元気のいい声に反応して屋根の上で寝ていたチグサが身体を起こし、二階に居たらしいアンドレイが窓から顔を出すのと同時に進む先を指さした。
「スエープレだね。こっちに気付いてる」
「まぁ、そりゃ気付いてるだろうよ」
「エリオットは?」
「……もう出れる。コリンも降りた」
「よし、じゃあ倒しちゃおう」
指示を出すのと同時に馬車から飛び出して行った二人の背中に頑張れーと緩く声援を送って、チグサも馬車を降りる。
エリオットはチグサ、アンドレイに次ぐ古参のアジサシ団員で、コリンは先ほど見張り台から叫んでいた最年少だ。
アジサシの戦闘は基本二人が行っており、よほどのことが無ければ手間取る事は無い。
二人がどうにか出来なさそうであれば他にも一応戦闘が出来る者もいるが、基本的には非戦闘員なので駄目そうなら逃げることもしばしばだ。
が、まぁそんなことは滅多になく、基本的には今回のように圧倒間に遭遇戦が終了して、終わったぞーと声がかけられるのだが。
その声に反応して馬車から歩いて行ったのが、セダム。倒した魔獣、魔物やら獣やらを解体して素材にする解体屋だ。
「団長、皮丸ごとは無理だから四分割するぞ」
「いいよ、任せる」
「団長団長、この肉食べれるやつですよねっ!」
「そうだねぇ、大量にあるし、すぐに食べない分は保存用に加工しようか」
あっと言う間に進んでいく解体を眺めながら横で楽しそうにしているコリンと話して、寄ってきたギーネに保存と加工の道具の置き場所を聞いておく。
ある程度作業をしてから出発した方がいいだろうし、このままここで昼食になるだろうか。
掛かる時間と置き場所を考えている間に解体は終わって、セダムが皮を抱えて寄ってくる。
言っていた通り四等分にしたようで、これから保存用の袋に入れて加工待ちの素材の山に加えるのだろう。
「団長、骨分けたけど、使うか?スエープレの骨って何かになるか?」
「ならないこともないけど、わざわざ積んでいくほどではないねぇ。レウコスにいるかどうか聞いてみて」
「分かった」
皮を抱えて馬車に歩いて行ったセダムの背中を見送って、入れ替わるように横に来たアンドレイを見上げる。
何か考えているのか視線が合わないので、すぐにチグサも視線を解体されたスエープレの方に戻した。
「……一旦ガルダの職人に預けて、他回ってガルダに戻るって方がいいか」
「そうだね、結構な量があるから、優先順位を付けてやってもらおう。ギルドに売る分ってあったっけ?」
「あー……あったはず。報告書もついでに出して、要らない物は纏めて売って軽くするかな」
「うん。何を売るかはギーネにも確認しよう」
「了解」
こうして道中魔物やらを倒して獲得する素材だが、皮を鞣したりといった加工は基本職人に頼んでやってもらっているので、どこかに長期滞在する際や戻ってくる予定がある時に工房に頼むようにしている。
今回行く予定に入っているガルダという国には、知り合いの職人も何人か居るので彼らにそれぞれ仕事を頼むことになるだろう。
その他、職人に加工を頼んでアジサシの商品にする予定のない素材については、ギルドに売って換金してしまうことにしている。
ギルドとは冒険者ギルドの事で、基本的には冒険者たちがクエストを受けたりなんなりする場所なのだが、素材や魔道具の買い取りもしているので困ったときの売り先になるのだ。
それから、アジサシは冒険者パーティーではないが道中で魔物やら魔獣やらを倒して進む関係上、ギルドに書類を提出しないといけなかったりするのだ。
大量に居る小型の魔物を倒しただけならともかく、今回のように大型の魔物や中型の魔獣の群れなんかを倒したりもするので、ギルドの書類提出基準に思いっきり引っかかるのである。
冒険者ではないから、と逃げることも出来なくはないのだが、そこで手を抜いて面倒ごとになっても嫌なので、書類はしっかり作って提出している。
ギルドは国や大きな街にはどこでもあるので、大陸内で倒したものの報告をしに少しだけ寄って行くこともあったりする。
「団長、保存用にするお肉、加工始めちゃうね」
「うん、任せるよ」
「ついでにこのままここでご飯ね」
「分かった」
「飯だー!」
道具を抱えて声を掛けに来たサシャに返事をして、その後ろをついて行ったコリンに少し笑う。
予定外の時間ではあるが、アジサシの旅は大体いつもこんな感じなので焦る事は無い。
何せ、予定が決まっていようが目の前に気になるものがあったらそれを優先する集団なので。
その辺はチグサの性格のせいでもあるのだが、気の合う者しか乗っていないアジサシにそれを嫌がる者はいないのだ。
もう全員が好きに過ごし始めているのを見て、チグサは笑いながらアンドレイの背中を押して輪の中に混ざりにいった。