追憶:レウコス
セダムがアジサシに加わって数ヵ月。
戦闘も楽になり、道中出くわした魔物や魔獣を倒して素材を確保するようになったのでギルドに報告する必要が出て来てパーティーとして登録を行ったり、そのせいで討伐依頼が舞い込むようになったり、と今の万能店の形が始まり始めたのはこの頃だった。
不便と言えば食事くらいで、それでもまぁどうにかしながら国や街、村を回っていた頃。
立ち寄った街の闇市にふらりと立ち寄ったチグサが、同行していたエリオットの手を引いた。
この時点でエリオットは大分嫌な予感がしていたのだが、こういう時は好きにさせた方が良いとも知っていたのでそのまま好きにさせることにした。
そもそもなんで闇市に行くんだとか、わざわざ危険に近付こうとするなとか、いろいろ言いたいことはあるが、それらは既にアンドレイとエリオットが揃って言い続けており、その結果が現在なので、もう何も言うことは無い。
どうせ言っても止まらないので、一人で行かせないようにするしか対策はないのだ。
「こんにちは?」
「……どうも。見てくか?」
今回はどんな面倒事を見つけたんだか、と思いつつ付いて行った先にいたのは、何か小物を売っている露天商の所だった。
どう見ても怪しい。そもそも闇市に露店を出している時点で怪しいのだが、並んでいる小物の出来がやたらと良いのも怪しい。
盗品か何かだろうか、と勘繰るエリオットを放置して、チグサは露天商の前にしゃがみ込んで並んでいる品を観察し始めた。
楽し気に商品を見ているチグサの代わりに周りを警戒しながら待っていると、どこまでも楽しそうにチグサが商品の小物を持ち上げる。
「いい出来だね、第五大陸の伝統的な彫り方だ。作りとしては古い物だけれど、刺繍も綺麗なまま」
「年代物か?」
「いや?贋作だよ。出来立てだ」
見てー、とエリオットに見えるように木彫りと刺繍のされた染め布が合わさった置物を持ち上げたチグサが、当然のように言う。
そして、そのまま顔色の変わった露天商の方へ向き直った。
「君が作ったのかい?ここにある物全部」
「……だったら何だ。買わないなら帰れ」
なんだろうか、嫌な予感がしてきた。今からでもアンドレイに交代したい、なんてエリオットが現実逃避している間に、チグサは持っていた置物を置いて腕を組んだ。
そのせいでバランスが取れなくなったのか、後ろにいるエリオットの足に寄りかかってくる。
「贋作職人にしておくには惜しいよね」
「おいお嬢」
「ねぇ君、ボクと来ないかい?ここよりはいい暮らしが出来ると思うけど」
「アンドレイにどやされても知らねぇぞ……」
「大丈夫、アンドレイは意外と怒らない」
流石に人を拾って帰ったら怒ると思うのだが、チグサがわざわざ拾ってきた人間であればそのまま受け入れるような気もする。
二人旅の期間があったからなのか、アンドレイはチグサの奇行に慣れているというか、適応しているのだ。諦めているともいう。
「……お前のところで言われた通りに物を作れって?」
「いや、贋作じゃなければ何でも好きに作ってくれて良いよ。今までそのまま売っていた物を、加工後の形で売れるようになる」
「商人かなんかか」
「そう。ボクらはアジサシ、旅商人さ」
どう?来る?と気軽に聞いたチグサに、露天商は疑いの目を向けつつも一旦は頷いた。とりあえず馬車は見ておくことにしたらしい。
馬車に向かうまでの道中で自己紹介を済ませて、露天商改めレウコスをアジサシの馬車に案内した。
予想よりも大きい馬車だったのか驚いて言葉を失うレウコスを横目に、チグサはアンドレイから全てを諦めたようなため息を吐かれていたのだが、全く気にしていなかった。
アンドレイはチグサの突然の行動に慣れ過ぎていてため息を一つ吐いただけだったし、チグサは慣れ過ぎていてため息に反応もしない。
お互い慣れ過ぎていて、あまり良くないのではないかとエリオットはセダムとコソコソ話し合っていたのだが、その間にカタリナがひょっこり現れてレウコスを眺めて馬車の中に戻っていった。
そのまま寝始めた気配がする。昼寝の途中で騒がしくなったから出てきただけらしい。
ひとまずカタリナが威嚇しなかったので本人が嫌がらないなら馬車に乗るのは構わないだろう、という話になり、レウコスが驚きで固まっている間にアジサシが泊まっていた宿に連れて行って風呂に入らせ、服を着替えさせて揃って食事を食べることにした。
チグサが連れて行くというのなら文句は言いつつ全力で囲い込むのがアジサシ団員である。
結果としてその街を出る時にレウコスはそのまま馬車に乗り、小物に絵付けをしたり彫り物をしたり、皮の加工をしたり刺繍をしたりと気ままに細工を行うようになった。
元々器用だったこともあり、村で壊れた小物を修理したりといったことも担当するようになり、レウコスの加入でチグサは調子に乗って「移動型万能店」などの名乗ったりもした。
結果として受け入れられてしまったので、アジサシはそのまま移動型万能店ということになったのだ。




