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追憶:セダム

 カタリナが正式にアジサシの一員となり、馬車を改装してからしばらく……そこから二年ほどは、四人で旅をしていた。

 一回り大きくなり見張り台も付いた馬車での旅は快適で、馬車の中で雑魚寝が出来るようにもなった。

 相変わらず野盗の類に襲われる事はあるが、猫獣人であるカタリナが気配に敏感なので以前よりも対応が早くなり、戦うのにも逃げるのにも苦労はしなくなっている。


 そんな平和なある日、村から村へと向かう道をのんびり進んでいたカタリナが、見張り台にいたエリオットへと声を掛けた。

 何かがいる、と言われてカタリナが示す方向を確認すると、確かにそこには魔獣か何かがいた。

 そして、まるで何かを襲うかのように群れで駆けているのが確認出来る。


「お嬢!誰か襲われてるみたいだぞ!」

「行ってみようか。いざとなったら逃げるよ」

「まかせろー」


 軽やかに速度を上げて駆け出した馬車の中では、騒がしく移動と準備が行われる。

 エリオットは見張り台から下に降りて戦闘に備え、チグサは見張り台に上がって状況を確認する。

 アンドレイは一応武器を持ちつつ非常時に備えてカタリナの傍に来た。


 戦闘になりそうなときの基本形だ。何だかんだ二年もやっているので、全員慣れた動きである。

 今回は余程の無理がない限り襲われている人を助ける、という目的もあるので逃げるより討伐が優先になるが、無理なら回収して即逃げの姿勢を取るつもりだ。


 怪我をしては元も子もないのだ。怪我せず倒せるなら倒す。無理な時はさっさと逃げる、がこの頃のアジサシの基本理念であった。

 そんなわけで馬車を走らせ、傍まで来てエリオットが降りた後は逃げに備えて魔獣に背を向ける状態で待機する。


「どうだーい!?」

「行ける、アンドレイ!」

「はいはい、行く行く」


 今回は倒せそうだったようなので、逃げずにさっさと倒してしまうことになった。

 アジサシの戦闘員はエリオットだけで、アンドレイは手伝い程度しかしないが居たら楽らしく戦闘になると呼ばれている。


 チグサとカタリナは馬車で待機だ。一応ちょっとした魔法は使えるのだけれど、ちょっとしたものなので大した役には立たないし。

 と、そんなわけで見張り台から観察していたら、ほどなくして戦闘は終わった。


 カタリナに声を掛けてすぐ横まで馬車を動かし、下に降りて状況を確認する。

 魔獣の方は単体でギルドに報告が要るようなものではなかったので一旦いいとして、確認したいのは襲われていたという人の方だ。


「こんにちはー?無事かい?」

「おぉ……おかげさまで」


 チグサがざっと見た感じ小さな傷は身体のあちこちにあるが、大きなものは無い。

 多少消耗してはいるようだけれど命の危機は無く、今すぐ対処しなければいけないことも特には無さそうだ。


「これ、君の獲物だったんだね」

「一応……まぁ一人じゃどうにも出来そうになかったし、いるなら持ってってくれ」

「おや、良いのかい?」


 ならお言葉に甘えて、とアンドレイに解体を指示して荷台の空き状況を確認に行く。

 解体して詰め込めば、どうにか全て積み込めるだろう。そこまで大きな魔獣でもなかったのが幸いだ。

 と、そこまで確認したらチグサは青年の方へと向き直った。


「君、帰る場所はどこだい?送っていくよ」

「いいのか?」

「うん。元々次の行き先は特に定まっていなかったからね」

「旅商人って、そんな行き当たりばったりなのか……」

「おや、ボクらの事を知ってるの?」

「前に村で見た。別の場所でも時々見かけた」

「なるほど」


 アジサシはそこそこ目立つので、まぁ知られていても不思議ではない。

 覚えられていることも珍しくはないし、なんてチグサが納得している間に、彼の興味は解体中の魔獣の方に向いていた。


「……解体、手伝うか?」

「アンドレーイ?」

「頼む。人手は多い方がいい」


 どうやら苦戦していたらしい。

 解体の事はチグサにはよく分からないので任せきっていたのだけれど、青年が混ざってから明確に作業速度が上がった。

 カタリナも興味があるのか御者台から降りてチグサの横に来たくらいだ。


「慣れてるね」

「まぁ、討伐よりは解体が専門だからなぁ」

「へぇ……ねぇ君、名前は?」

「セダム」

「ボクはチグサ」


 よろしくね、とゆったり話しつつ、チグサはカタリナの背中をつついた。

 フードの隙間から覗く金色の瞳が、きらりと輝いて小さく頷く。

 続いて解体作業中のアンドレイとエリオットの様子を確かめて、世間話でもするような気軽さで声を出す。


「セダム、君うちの馬車に乗らないかい?」

「あ……?村まで送る……って話じゃなさそうだな」


 振り返ったセダムの顔には困惑が見える。

 ちなみにアンドレイからは呆れ、エリオットからは納得が見えた。カタリナは興味だろうか。

 カタリナとエリオットが嫌がらない時点で悪人でないことは確定しているようなものなので、後はセダム次第だろう。


「勿論無理にとは言わないけれどね。結構楽しいよ?」

「……なんで俺だ?前に乗りたがったやつは断っただろ」

「基準はボクの勘。あとこの子との相性」


 ポスポスとカタリナの頭を撫でたら逃げられてしまった。気分じゃなかったらしい。

 御者台に戻ってしまったカタリナを見送っていたら、アンドレイが横に来てべしっと頭を叩かれる。


「いたーい」

「説明が足りないんだよ、いつもいつも……」

「これから村に着くまでに時間はあるだろう……」


 セダムを誘った一番の理由は解体の腕が良かったからだ。

 現在のアジサシは時々魔物や魔獣と戦闘になることもあるが、解体は何となくやっているだけで他に頼むことも多かった。


 可能ならばアジサシ内で完結させたい、という思いもあっての勧誘であり、村に向かうまでの道中でその説明を受けたセダムは、とりあえず大陸内にいる間は試しに……と馬車に乗り、そのままアジサシの一員となったのだった。


 ちなみにセダムは乗ってからエリオットに教えられて戦闘の腕も上がっており、セダムが前衛を受けてくれるからとエリオットが弓の練習を始めたりもした。

 そしてこの頃から、素材を自分たちで討伐、解体して売るというアジサシのスタイルが確立され始めたのだった。

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