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3,勿論あるとも

 果実の買い付けを終えて馬車に戻ってくると、店番のギーネが気付いて後ろを指さした。

 どうやら場所を開けておいてくれたようなので、片手を上げて応じて抱えた箱を中に積み込む。

 残りの箱はアンドレイとエリオットがやっておいてくれるらしいので、チグサは箱を乗せたらそのままギーネの横に移動した。


「売れ行きはどうだい?」

「日用品が色々出てるよ。あと、ポーションもちょっと」

「雨期の間に怪我でもしたのかね」

「そうなんじゃないかな。深刻そうではないから、使った分の補充かな」


 言いながら、ギーネは手元の紙に何かを書き込んでいる。

 後で回ってくるだろう紙の事は一旦気にせず、チグサはカウンターの傍に引っ張り出されている物が無いかを確かめた。


「靴が売れた?」

「あぁ、うん。子供の靴が小さくなったから買い替えるって人と、もうどうにもならなくなったから新しいのをって人がいたかな」

「こっちは……おや、布が随分減ったねぇ」

「布とレースを買って行った人が何人か。……よし、団長どうぞ」

「ありがとう」


 先ほどまで書いていた紙を渡されて、そこに記されている売れた商品の一覧を確認する。

 予想通りではあるが、一部予想に反して売れた物もありそうだ。

 ギーネが特別何か言ってこないということは、今すぐに仕入れに行かないと底を尽きるものは特にない。なら、この次に向かう場所も予定通りで良いだろう。


 アジサシの中で、一番馬車の中の在庫を正確に把握しているのは店番のギーネだ。

 どこに乗せたのかもギーネが把握していることが多く、物が見つからなかったらとりあえず聞いてみれば正確な場所が分かる。


 ついでに言うと、ギーネは馬車の中に物を積み込む技術がありすぎるせいで、ギーネ以外が棚から物を動かしているともう二度と収まらなくなったりもする。

 この馬車には許容量の数倍の品が入っているのでは、と思うくらいの積載量である。


「あ、そうだ団長」

「なんだい?」

「冒険者の人が買い物に来て、外海の方ででかい討伐依頼が出てたって」

「ほう。もう終わったかな」

「まぁ、第三大陸に出た依頼なら終わってるだろうね」


 今から行ったところで何もなさそうなので、記憶の端に止めておくだけにする。

 第三大陸では雨が降り続ける雨期があり、その間は皆活動を減らして必要最低限だけで過ごす。

 その間に溜まった魔物の討伐なんかを雨期明けに一気に行うので、少し前までは大陸中が忙しなかったことだろう。


 その時期を避けて第三大陸に来るので、アジサシは基本的に雨期の第三大陸の様子を知らない。

 時折どうしても避けられない用事が発生してくることがあるが、雨が降っていると屋根の上で寝られないからチグサは雨が嫌いなのだ。


 そんな話をしている間に荷物も積み込み終わったようで、団員たちが皆馬車の中に戻って来た。

 人数を数えて全員居ることを確認してから、チグサは一度大きく手を叩く。


「よし。それじゃあ、宿に泊まる組は移動するよ。店はもう閉めて、明日出発前に少しだけ開店しよう」


 言い終わるのと同時に全員が動き始めて、馬車に残る組と宿に泊まる組に別れて移動する。

 アジサシの中は広いとはいえ、全員が悠々寝られるほどの場所は無い。

 普段は夜間も周りを警戒していたり、そもそも夜はどこかで野営をして外で寝ていることが多いのだ。


 村や国に来ているなら宿のベッドで寝たい、ということで、基本的には宿に泊まる。

 とはいえ、馬車を無人にして何か問題が起こっても嫌だし、宿より馬車の方が気軽でいいという団員も居るのでそのあたりは自由意志だ。




 そんなわけで二手に分かれて一夜が明け、身支度を整えたチグサは馬車に戻ってきていた。

 来た時には既に馬車組は皆起きていて、夜は何もなかった、と軽く報告を受ける。

 まぁ、ここで何か厄介ごとが起こるような村であれば頻度よく来たりもしないので、分かっていた事ではある。


「団長さん」

「はいはい、なんだい?」

「もう出るかい?昨日買い忘れた物があるんだが……」

「おや、ちょうどいい。出る前に一度店を開ける予定だったんだ」


 村人に声を掛けられて、店を開けてカウンターの内側に座る。

 ギーネはまだ宿に居るので、接客はチグサの仕事だ。


「さて、何をお求めだい?」

「アンバスの皮ってあるか?」

「勿論あるとも!」


 後ろの棚から箱を引っ張り出して、お求めの魔獣の皮を探す。

 少し前に群れに遭遇して結構な数を倒して皮を鞣したはずだから、何枚か出して選んでもらうくらいの余裕もあるだろう。


 とはいえ、他にも積まれている物は多い。

 箱にタグをつけて中身が分かるようにしていても、数個の箱を引っ張り出して確認する必要があった。

 皮やら爪やら、素材を纏めている一角を探して、どうにか目的の箱を見つけ出す。


「よし、あった。待たせてしまってすまないね。うちにある在庫はこのくらいだよ」

「はっはっは、沢山出て来たなぁ」


 カウンターの上にアンバスの皮を並べて、好きなものを選んでもらう。

 そんなことをしている間にギーネが戻ってきたので店番を代わり、チグサは馬たちの確認のために馬車から降りて前方へ回り込んだ。

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