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追憶:カタリナ

 アジサシの団員が三人になってしばらくすると、馬車の手狭さが限界に達してきていた。

 何せただ三人が乗れればいいという訳ではなく、商品を詰め込まないといけないのだ。

 馬たちは余裕の表情で引いてくれているが、乗っている側は限界である。この頃からチグサは御者台にいない時は屋根に上っている事が増えた。


 いい加減馬車を改装するべきだ、と意見は一致したのだけれど、それには問題があった。

 馬たちが賢いとはいえ、街や国の中に入るのなら指示を出す側にも技術がいる。今の馬車の大きさなら三人持ち回りでどうにか出来ていたが、馬車を大きくするのならちょっと技術が不安なのである。

 全員、馬が賢いからどうにかなっているだけで、特に習ったわけでもないので。


「やっぱり先に御者を探すところからだよ」

「まぁ、そうだろうなぁ……で、当ては?」

「ない。いい人材を探しつつ、次の町へ行こう」

「アンドレーイ、これ大丈夫かァー?」

「道は他にもあるぞ。馬車が重さに耐え切れず崩壊、仕方なく新調、俺らはどうにか御者技術を習得」

「駄目な道だろそれ」


 ちなみにそれぞれの現在地は、アンドレイは御者台、エリオットは馬車の後方に足を投げ出して座り、チグサは馬車の屋根で寝転がっている。それでも普通に会話が出来るくらいの大きさの馬車なのだ。

 そりゃあ、狭いわけである。中はすれ違うのも苦労するくらいに積み荷があるし。


 そんなわけで、御者を探しつつ旅を続けたアジサシ三人が、数か月越しに見つけた御者候補がカタリナだった。

 出会った頃からカタリナは身体をすっぽりと覆う外套を着ていて、建物の影に隠れるように移動していたので、アンドレイとエリオットはその姿を見つけるのに苦労した。


 したのだが、チグサがあの子がいい!誘おう!と言ったのなら、どうにかして誘うしかないのだ。

 姿を見つけるのにも苦労するような警戒心の強い相手を誘うとなると、アンドレイもエリオットもいい手は思いつかない。


 なので、言い出したチグサに丸投げすることにした。

 二人はチグサが「あの子が良い」と言い出した理由も分からないので、じゃあ自分でどうにかしてくれと投げ出す方が確実なのだ。

 何かやることがあるならその都度指示は飛ぶので、それでも構わないのである。


「うん。じゃあとりあえず、普通に商売しようか」

「はいよ」


 それなら分かりやすい、と普通に商売をして、猫と遊んでいるチグサを働かせ、いつも通り数日後に街を立ち去った。

 立ち去っていいのか、とアンドレイは疑問を口にしたが、街に居ては声を掛けてくれないからと当然のように返事が返ってくる。


「そんなわけだから、次はちょっと人目を避けて森に行こう」

「どんなわけだよ……場所は?森ならどこでもいいのか?」

「人が居なけりゃどこでもいいよ。ルムとニムも、そろそろ一回足環外してのんびりしたいだろうし」


 そんなチグサの言葉を肯定するかのようにニムが嘶いて、自分で進路を決めて歩き出した。

 人のあまり近付かない森に覚えがあるのか、気配でも察しているのか。

 どちらにしろ進みたい方に進んでくれて構わないので、そのままにしておく。


 しばらく進むと森が見えてきて、その森を進むと開けた場所があった。

 馬たちが足を止めたのでここが目的地らしい、とあたりをつけて馬車を降り、足環を外してやる。本来の毛並みに戻った二頭が好きに過ごしているのを眺めながら、アンドレイはチグサに声をかけた。


「で、この後は?」

「しばらく待機!ボクは寝る」


 言うが早いか馬車の屋根で寝転がったチグサにため息を吐いて、アンドレイはとりあえず馬たちの様子を眺める事にした。

 そうしてどのくらい経ったか、のんびりした時間に眠くなってきた頃に森を進んでくる軽い足音がし始めた。軽やかなその音はひとつでは無いようで、寝ていたチグサが身体を起こして嬉しそうにしているから、待っていた相手であるらしい。


 ならいいか、と馬に目を戻すと、馬たちも反応して音のする方を注視していた。

 普段は人に本来の毛並みを見られるのを嫌がる馬たちだが、今回は足環を着けろとせっつく訳でもなく大人しくしている。


「やあ、いらっしゃい」

「……なんで呼んだの」

「うちの馬たち、気になるみたいだったから。この子たちも君ならいいって言うからね」


 アンドレイが思わずエリオットを見ると、エリオットもアンドレイの方を見ていた。つまりは、お互い知らないと。

 二人が知らない間に目的の相手を呼んでいたらしい。その件については後で聞くとして、一旦座る場所を移動することにした。

 馬に会いに来たのなら、アンドレイが見ているのは嫌だろう。


 誘いたい相手なので、気は使っておく。チグサはむしろ見える位置に移動するらしいが、知らん間に誘っていたりとなにやらやっていたようだし、話したい事でもあるんだろう。

 そう判断して馬車から離れていい位置にあった倒木に腰掛けたら、エリオットも隣にやってきた。


「で、なにさせたいの?」

「御者をして欲しい。馬車改装したいんだけど、ボクら御者技能なくてさ」


 聞こえてきた声に無くはないだろ、と文句を言おうと思ったが、十分な技能が無いのは確かなので大人しく黙っておく。


「すぐに決めてくれなくても構わないよ。可能なら、しばらく乗ってみてから決めて欲しい」

「……乗る場所、ある?」

「うーん……整理すれば、どうにか……」


 そんなやり取りの後、カタリナと名乗った少女は馬たちに不自由をさせたくないから、と暫定御者としてアジサシ馬車に乗ることになった。

 そして荷重に耐えきれず馬車の床が抜けた事件の後、仕方ないから正式に御者をやってあげる。とアジサシの一員になったのだ。

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