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追憶:エリオット

 アジサシの一番最初の馬車は、今とは比べ物にならないかなり貧相な物だった。

 最初は中で寝られるようなスペースも無く、馬車を止めている間は後方に支えと板を追加して簡易的に床を拡張して使っていた。


 けれど、今と比べたら貧相でも作りはそこそこしっかりした馬車だったので、何かにつけ狙われることが増えていた時期でもあった。

 強盗やら夜盗やら、盗賊やら……とまぁ、その辺の括りの連中に着け狙われることに嫌気が差した二人が見つけたのがエリオットである。


 エリオットと出会った頃には、アレクシスはチグサのオリジナルスキルについての詳しい説明を受けていたので、あの人にしよう!と急に言い出したことには驚かなかった。

 そうやって急に言い出した時には止めない方がいいとそれまでの経験で知っていたのだ。


 まぁ、突撃しようとするのは止めて、まずは話を聞いてもらえるか分からないからちゃんと挨拶してこい、と言いつけはしたが。

 ついでに、心配だから一緒について行きもしたが。


「ねぇ、君仕事探してたりしないかい?馬車の護衛とか、受けたりしないかい?」

「挨拶からしろって言ったろうが馬鹿」

「まどろっこしいの嫌いそうだったから……」


 全く反省してい無さそうなチグサにため息を吐いたアンドレイを見て、エリオットは何とも言えない顔をした。

 というか、この頃のエリオットは前髪が長くて顔が半分くらい見えていなかったので、表情はとても分かりにくかった。


「馬車の護衛ね……いつまでだ?」

「可能ならずっと。まぁ、降りたくなったら降りてくれて良いよ」

「雑だな」

「無理に引き留めるつもりも無いんだ。そこそこ居心地のいい馬車だとは思うけど、何も知らないまま決める事でもないだろう?」


 チグサと話すエリオットを見て、アンドレイは何となくチグサの誘いの理由を悟った。

 人を警戒している人間の気配だ。自分たちは今警戒されていて、とりあえず馬車の護衛を一度でいいから受けて貰えないと話は進まないのだろう。


 アンドレイは何故だかチグサに拾われて旅商人を手伝ってはいるが、これと言って特別な役割があるわけでもない。

 なので代金の交渉を始めたチグサとエリオットの邪魔にならないように少し距離を置いておき、面倒事が寄って来ないかどうか周りに目を光らせておくことにした。


 そうして、ひとまず次の町まで、という事でエリオットはアジサシの馬車に乗ることになったのだ。



 エリオットが馬車の護衛をするようになってからも、アジサシの馬車は賊に狙われることが多々あった。

 けれど、察知したらとりあえず荷物を纏めて全力で逃げろ、というそれまでの行動を変更し、武力で抵抗して相手に諦めさせることが可能になった。


 あんまりにも狙われるのでエリオットは思わず呆れたが、それでも町や村をいくつも越えて、別の大陸に足を延ばすことになってもアジサシの元に残ってくれるくらいには、快適さを感じていた。

 その頃だ。チグサから、町ごとの雇いの護衛ではなく、正式にこの馬車に乗らないか、と誘いを受けたのは。


 元々、出来る事ならずっと乗っていて欲しいとは言われていた。

 が、それを断って町ごとの雇われでいたのはエリオット側の都合である。

 居心地のいい場所なだけに、不利益をもたらす可能性を避けたかったのだ。


「この馬車、結構気に入ってるだろう?」

「まぁ、そりゃそうだが……あんまり長居すると、面倒なことになるからな」


 確かに、居心地のいい馬車だった。

 三人で雑魚寝となると中々狭いが、やいのやいの言いながらも旅をして、小さな村で足りていない物を売り、余っている物を買い、他の村に運んで……

 楽しいからこそ自分が不和の元になるのは避けたかった。そう思うくらいの愛着は既にあったのだ。


「お嬢、何となく察してるだろ」

「まぁ、何となくは」


 素直に返したチグサに、エリオットは笑う。笑って、長く伸ばした前髪を避けた。

 現れるのは、それまで隠していた瞳だ。

 光を反射して、そのあたり具合と見る角度で色味が変わる、特殊な瞳。


 恩恵は何もない。ただ目立ち、狙われ、不気味がられるだけの瞳。

 見る角度で赤から黄色へと色味を変え、夕焼けの空のように移り変わる。

 エリオットが出会った当初、チグサとアンドレイを警戒した理由は、その直前までとある国の貴族から瞳を狙われていたからだ。


「不気味なだけの、装飾品やら収集品やらとして見られるような目だ。そのうち、面倒を持ってくる」

「まぁ、綺麗ではあるよね。本人が嫌がるのも分かるけれど」


 そんな瞳を見ても、チグサの反応は淡々としたものだった。まるで前から知っていたことのようだ。

 馬車で過ごすうち、気付かない間に見られていたのだろうかとそんなことを考えるエリオットに、チグサは何かを手渡した。


「……ゴーグル?」

「そう。前から探していたんだけれど、やっと良い物を見つけられたからね」


 渡されたのは幅広のゴーグルで、光を反射して外からだと瞳が見える事は少なさそうだ。そして、色も入っているので目の色などの把握はかなり難しいように思う。

 促されるまま付けてみると、意外と視界は良好だった。今まで髪で目を隠していたから、それと比べるとかなり見やすい。


「面倒事は、起こった時に考えればいいよ。まだ何も起こっていないし、君に居なくなられる方が困る」

「……まぁ、やたらに狙われるからな」

「そうなんだよねぇ……良い物を積んでる匂いでもするのかな」


 本気で悩んでいるらしいチグサに笑って、エリオットは丸め込まれて馬車に残ることにした、とアンドレイに報告した。

 商人相手に弁論で勝とうという方が無茶だったのだ、と返されて、それもそうかと更に笑う。


 その後旅を続けていくと面倒事も多少引き寄せたが、その頃にはアジサシを離れる選択肢も消えていた。

 ちなみにこの時に貰ったゴーグルは、時々ベルトを交換したりフレームを交換したりしながらも、今でも愛用されている年季の入ったものになっている。

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