25,今度は長引かないといいが
チグサが倒れた直後、アジサシは馬車を止めて現状確認を行っていた。
団員の点呼から始まり、直前の様子についての情報整理を行い、今後の予定を決める。
倒れたチグサを囲んで円座で話し合う。傍から見ると、謎の儀式のような光景だ。
「団長が夢魔族って言ったんなら、夢魔族の所に行くのが最優先だよね」
「はい!質問!」
「はいコリン」
「夢魔族って会えるんですか?国にいる夢魔族って、貴族とかより偉い感じですよね?」
しゅばっと手を挙げて疑問を口にしたコリンの言葉に、団員たちはアンドレイへと視線を向けた。
アンドレイの視線はチグサに向いている。意識がないだけで他に異常が無い事は分かっているが、それでも気になるものは気になるのだ。
「まぁ、当てはある。ギーネはもう乗ってる時期だったか?」
「話だけは聞いたことあるかな……ムスペルの夢魔ですよね?」
「そうだ。もう結構前の話だが、ムスペルの夢魔族から依頼を受けて探し物をしたことがある。何かあれば頼りに来い、と言われているから……まぁ、起きてるかは分からないけれど」
はは、と諦めたような笑いを零したアンドレイの背中を思い切りエリオットが叩き、むせたアンドレイの背中を逆横のギーネがそっと撫でる。
なんとも流れるような一連の流れだった。
さて、話題に上がっている夢魔族、とは。
かなり特殊な体質を持った亜人の一種だ。人よりも随分と長い寿命を持ち、しかしその生涯のほとんどを眠った状態で過ごす。
魔力を上限なくため込む特性を持っており、眠っている間にため込んだ膨大な魔力を使って数年に一度起きた際には人には扱えないほどの魔法、魔術を使い、再度眠りにつく。
その特性から、基本的にはどこかの国で王族に囲われて、夢宮と呼ばれる建物で世話をされつつ眠っていることがほとんどだ。
そして、起きた時には国を守るために魔法を使い、再度眠る。そんな存在なので、会うのはかなり難しい相手である。
まず守りが硬く、誰でも会えるわけではない。
何せ常に寝ているので、本人に身を守る術がない。故に周囲には守護者が居り、会いに行けるのは王族くらいなものだ。
そして次に、そもそも数年に一度しか起きない。
会いに行って会える立場だったとしても、起きていないので会話は出来ない。次にいつ起きるのかも分からないのだ。
「……まぁ、行ってみるしかないか。もしかしたら、寝てる状態の夢魔族でもいいのかもしれないし」
チグサが寝ている以上、アジサシの決定権はアンドレイにある。
向かう先を決定したら、食事だ何だと言っていたのを後回しにして馬車の向きを変えた。向かう先は第五大陸、ムスペルだ。
駆け足で馬を進ませて、ある程度進んで人目のない所に来たら、馬たちの足環を外して空を進む。
今いる場所は第四大陸の右側、第六大陸側になる。
なのでここから第四大陸を横断していくことになるわけだが、流石に大陸の上をそのまま通過すると誰かに見られる可能性のあるので、一度外海側に大きく逸れてから第五大陸に入ることにした。
これから向かうムスペルは、海で途切れた第五大陸と第一大陸を海路で繋ぐ移動の要の国だ。
もしここに何かあり海路が使えなくなった場合、陸路だけで移動しようとすると、第一大陸から第五大陸は、その間の三つの大陸を全てぐるりと巡ってくることになる。
それは中々時間のかかる移動になる。アジサシの馬車を走らせても、そこそこ掛かるだろう距離だ。
なので、ムスペルの夢魔の主な魔法行使は航海の安全に関するものなのだ。
第一大陸側の夢魔も行っているのかもしれないが、第一大陸は他の脅威が多いのでそれだけに集中することは出来ないだろう。
「奥地のあたり……ヴィヴィの隠れ里の傍で降りて、そこからは陸路でムスペルまで」
「あい」
カタリナに指示を出しつつ寝ているチグサが転がって行かないように適当に抑えておく。
はぁ、と思わずため息を吐くと、サシャから昼食を差し出された。
移動中に済ませる時の定番である、とりあえず挟める物を挟んだサンドイッチだ。
「団長上に転がしてこようか?」
「いや、ムスペルに着いたらどうせ下ろすからこのままでいい」
団長に対して中々に雑な対応だが、やらかしたのはチグサだし割と常にこんな対応なので、誰も気にしないし問題はない。
しょっちゅうチグサから面倒事を押し付けられているアンドレイがやっているのなら、なおさらだ。むしろ、これでも対応が甘いとまで言われることもある。
「はぁ……今度は長引かないといいが」
呟きつつサンドイッチを齧る。即席の雑なものだとサシャは言っていたが、美味い。
食べ損ねた団長は残念だったな、なんて考えつつ窓の外を見れば、既に外海の上を渡り切って第五大陸の奥地から内陸に向けて方向転換したところだった。
着地までは、もうそこまで時間もかからないだろう。
さっさと昼食を食べきって、ムスペルに入った後の事を考えないといけない。
アジサシが国に入って店を開かずに移動していると、緊急事態だと察せられてやたらに騒がれてしまうのだ。




