24,やらかしたか、これ
次の目的地は特に決まらなかったので、リコリスを出た後はひとまず第四大陸の村を回ることにした。
第四大陸は、中央に迷いの森がどどんと存在しているせいで大抵の村は海の傍に存在している。
とはいえ、漁村と呼ばれるような村は実はそこまで多くない。他の大陸と数は変わらないだろう。
「カタリナ、これどこに向かってるんだい?」
「ラット」
「ラット漁村ね。……なんだい、魚食べたいの?」
「うん」
「サシャ―!夕飯は魚で頼むよー!」
「はいはい」
目的が無い時の行き先は、基本的に御者であるカタリナ次第になる。
カタリナが行きたいところに行って、行きたくない所には近寄らない。
つまりアジサシが足繁く通う村と近寄らない村の違いは、カタリナからの好感度ということになるのだ。
まぁ、誰かがどこかに行きたいと言ったらとりあえず向かうのがアジサシなので、誰かしらからの好感度が高ければアジサシがしょっちゅうくる村、ということもになるのだが。
たとえば、第三大陸の農村がそれだ。時期になるとアンドレイが行きたがるので、季節毎に通っている。
そんな話をしている間に、馬たちが足を止めた。人の往来があるあたりまで来ていたらしい。
一度馬車を降りて馬たちに足環をつけて、栗毛になった毛並みを撫でる。
撫で続けていたら早く乗れという目で見られたので、急いで馬車に乗り込んで二階に上がった。
「アンドレーイ」
「なんだい」
「食料積み込む余裕はありそうかな?塩漬けの魚とか、幾つか積もうかと思ったんだけれど」
「商品ならどうにか詰めるだろうさ。俺らの食料ならサシャに聞いた方がいい」
「それはそうか。仕入れするならアンドレイに頼むよ」
「はいはい」
二階にいたアンドレイと話しつつ、窓の外に目を向ける。窓から屋根に出ようかと思ったのだけれど、アンドレイがじっとこちらを見てきているので諦めて向かい側に腰を下ろす。
そのまま話していたらギーネもやって来たので、詳しく仕入れの話をし始める。
向かう先が漁村なので、仕入れるのは魚で売るのは消耗品の類になるだろう。
基本的にやることは変わらないだろうし、村に一泊して次の行き先を決めて……少し、のんびりしていってもいいか。
なんて、考えている間に馬車は目的地であるラット漁村に到着していた。
ラット漁村は、村の入口が少し狭くアジサシの馬車は村の中に入れないので、馬車を村の入口横に止めて馬車を降りた。
既に村の出入り口には人が集まってきているので、軽く手を振ってからアジサシを開店状態にする。
店番はギーネに任せるので、チグサは魚の仕入れでも、と思っていたのだけれど、それよりも先に呼び止められた。
呼ばれた方に目を向けると、手に何かを持った村人が居る。チグサを名指しで呼び止めたのなら、鑑定依頼だろう。
「どうしたんだい?」
「これ、釣りしてたら引っかかったんだけどよ、なんかの道具みたいなんだよ。団長さんなら分かるんじゃねえかと思ってよ」
そう言いながら見せられたのは、確かに何かの道具のようだった。
花のような形をした、チグサの手のひらより少し大きい物。
何だろうか、と視てみたけれど、特に分かる事は無かった。強いて言うなら、中央の石に魔力を感じるので魔道具の類だろう、ということくらいである。
「うーん……分からないな、魔道具みたいだけれど……今まで特に稼働したりはしなかったのかい?」
「色々弄ってみたが、うんともすんとも言わねぇんだ。ただの飾りじゃねえかって、家内は言うんだけどよ」
「まぁ、飾りの可能性もあるね。買い取ろうか」
「そうして貰えるとありがてぇな」
使用用途の分からない物の買い取りもアジサシの仕事の一つである。
そういう物を纏めて持って行くと買い取ってくれる人が居たりもするので、収集のお手伝いのような感覚でずっとやっている。
収益は出ているし、一応ちゃんと仕事に数えていいはずだ。
そのあたりにチグサよりも厳しいギーネが何も言わないので、許されているのだろう。
なんて考えながら村人と共にアジサシ馬車まで向かい、買い取り手続きを済ませた。
買い取ったものを手の中で転がしてみたけれど、やっぱり詳しいことは分からない。
いつも通り、これはまた後でじっくり見ることにして、ひとまず目的だった魚の買い付けをすることにした。おそらくサシャが今日の夕飯にする分を別で買っているはずだ。
アンドレイはどこに行ったろうか、と行方を捜して、見つけた背中に歩み寄る。
その後は予定通りのんびりと売買を行って、一夜を宿で過ごして昼前に村を出た。
食べたかったらしい魚料理を堪能して、今日のカタリナは機嫌がいい。
そんなことを考えながら昨日買い取った謎の物を観察する。光に透かしてみたり、裏側をじっくり確認したり。
結局特には何も分からないままそろそろ食事の為に馬車を止めるか、という話になった時、なんとなく手の中のそれに魔石を近付けた時、それは起こった。
突如として発光し始めた道具に思わず目を瞑り、アンドレイの声が遠くで聞こえるのを確認する。
「やば……やらかしたか、これ」
口を突いて出たそんな言葉にアンドレイが怒っている気がする。
正直、もうよく聞こえない。なので、こちらからはとりあえず一言。
「むまぞく」
目に走った痛みと同時に脳内に現れた曖昧な説明文。
それを全力で要約して、必要な所だけを声に出した。
その直後、チグサは意識を保てなくなって馬車の床に倒れこんだ。




