23,お出迎えありがとう
第六大陸から出て第四大陸へと戻り、外海側から迷いの森の上を通って薬屋リコリスの敷地に降り立つ。
早朝に出発したが、そこまで急いだわけでもなく……ついでに第六大陸が吹雪いていたせいで移動が中々困難で、リコリスに到着したのは九時くらいだった。
「チグサさーん!」
「やあ、アオイちゃん。お出迎えありがとう」
家から出てきたアオイに手を振って、静かに着地した馬車から降りる。そして、あらかじめ取り出しておいたスキュシ鉱石を軽く掲げた。
これが今回のメインだから、忘れないうちに渡しておかないといけない。
「スキュシ鉱石、ひとまず取り分けたけれどまだあるから、もっと欲しいなら言ってね」
「いや、これで十分です!というかどんだけ取れたんですか?見つかりにくい鉱石ですよね?」
「採掘地を知ってるのさ。時々欲しがる人がいるからねぇ」
特殊で貴重な素材でも用意が出来るのがアジサシの売りの一つだ。
それらを収集するための情報は武器の一つであり、いざという時の取引材料でもある。
なので、詳しい場所は教えられないのだけれど、その情報を欲しがる相手でもなければ知っていることくらいは教えたっていいのだ。
「ちなみにオーロラ鉱石も出たんだけど、要るかい?」
「オーロラ鉱石!?コガネー!オーロラ鉱石いるー!?」
「要らない。主が使わないなら置いといても仕方ないでしょ」
「それもそっか」
ついでに、と採掘してきたオーロラ鉱石を見せたら、とてもいい反応が返ってきた。
その声を聞いてか彼女の小さな妹、セルリアが寄ってきたので、鉱石を見せてみる。
こちらもいい反応だ、目がキラキラしていてとても可愛い。
石の説明はギーネとアンドレイに任せるとして、チグサはアオイと取引を終わらせることにした。
作って置いてもらった薬を買い取って、スキュシ鉱石を売却する。こちらは取りに行った代金も込で、収支で言うとアジサシが黒字だ。
適当な紙にそれぞれの値段を書き上げて、薬の代金を抜いた分をお支払いいただいた。
雑だが、まぁお互い納得できる目に見えるものが欲しかっただけなのでこれで構わない。もっとちゃんとやらないといけない相手ならちゃんとやる。
これは信頼関係も込での対応だ。簡単に済ませる分、値段おまけしてるし。
「この後はどこに行くんですか?」
「特に決めていないかな。第四大陸の村でも回りながら決めるさ」
いつだって珍しいものを求めてフラフラしているアジサシだが、旅商人が本分ではあるので村やら街やら国やら、人の集まる場所に行って商売もするのだ。
というか、そちらをやっている時間の方が長い。珍しいものを探している時の記憶が濃すぎてそうとは思えないだけで。
「とりあえず……昼過ぎくらいまで、休憩させてもらってもいいかな?」
「勿論!何なら一泊して行ったっていいんですよ」
「お、泊まっちゃおっかなぁ!」
取引も終わったところで、あとはもうゆっくり羽を伸ばすだけだ。
既に馬たちは解き放たれて、リコリスの敷地内にある湖の傍まで行っていた。
いつのまにやら背中には小さな人影が乗っている。相変わらず仲がいい。
「そのままお喋りするなら、お茶でも淹れましょうか?」
「おねがーい」
「いつも悪いね、有難く頂くよ」
この間は何だかんだすぐに出発したから、まだまだ話足りないのはお互い様らしい。
流れるように店の中のカウンターに向かい、隣に座って喋り倒す姿勢を取る。
お茶と茶菓子も並んだら、もうここから数時間は動かないだろう空間の完成である。
お互い慣れ切ったこの関係に心地いいものを感じるのと同時に、目の奥がチリチリと違和感を発する。
その違和感は、彼女の師匠であるヒエンを前にした時と同じようなもので、つまりは彼女の開示している情報のいずれかが偽りである、もしくは開示していない情報がある、ということになる。
何となく、理由は分かっているのだ。分かっていて、知らないふりをしている。
「そういえば、結局アオイちゃんが作ってる薬学書はどうなったんだい。話が出てからもう結構経つだろう?」
「それがですね、全然進んでなくって……いつ完成になることやら」
「何か問題でもあるのかい?」
「そのまま纏めると、ちょっと問題しかなくって。暗号化って面倒ですねぇ」
「なるほど、確かに悪用しようと思えばいくらでも出来るものだからね」
薬の作り方を纏めたいだけなのに、と嘆く最上位薬師に、作ったものがとんでもないんだから仕方ない、と慰めなのかどうなのか分からないことを言う。
解毒薬がそのまま載るなら、他は暗号化したっていいだろうとチグサは思っている。
もとより薬の事は専門外なので、その辺は専門家たちで良いようにやってくれとしか言えないのだ。
「薬学会も何かと大変そうだね」
「たまには顔出してねってお手紙が来ます」
「ははは。まぁ、アオイちゃんが居た方が士気が上がるのは確かだろうさ」
「関係なく普通に頑張って欲しい……あと問題起こさないで欲しい……」
「お疲れ様。評判は村々まで届いているよ」
「やだぁ……」
目立ちたくない、と嘆く友人に、それは無理だろうと素気無く言って、お茶を一口。
うん、美味しい。サシャの料理の腕は何よりも信頼しているけれど、リコリスの料理人たちの作るものが何でも美味しいのも確かだ。
それは求められる能力値の差もある問題なので、決定的にどちらが上、という話ではない。
リコリスに求められるのはいつも同じ時間に同じくらいの量の料理を、安定して作りそれを美味しく仕上げる能力だ。
一方アジサシに求められる能力は、どこであっても安全で安心な料理を作る事なのである。




