21,その値段なら問題ないね
スキュシ鉱石の採掘から戻ってきて、火にあたりつつ夕食を食べ終えた後。
チグサは見つけたオーロラ鉱石を何も言わずにギーネに見せていた。
ギーネはチグサの弟子のようなものなので、唐突な鑑定クイズを出されることがあるのだ。
「オーロラ鉱石?確かに採掘出来る条件は揃ってるか……」
「そう。どのくらいの値段になると思う?」
「……かなりの大きさ、傷も無い……でも偏光の感じはそこそこ」
手袋をはめた手で鉱石を持ち上げ、角度を変えて確認しているギーネの様子を眺めていたチグサの横に、アンドレイが腰を下ろした。
手には二つのマグカップを持っている。一つは自分ので、もう一つはチグサの分らしい。
「魔力は……及第点くらいか。魔道具にも魔導器にも使えるけど、とことんこだわる人は選ばない」
「うん」
「装飾としても、大きさでインパクトは出せるけどもっと綺麗に偏光するオーロラ鉱石もあるから、最高品質とは言えない」
「うん」
確認するように一つ一つを声に出すギーネに頷きながら、アンドレイから渡されたマグカップに口をつける。なんだか少しピリッとした味を感じるので、身体が温まるようにスパイスも入っているのだろう。
第六大陸に居るときにはよく出てくるものだ。馴染みのある味でほっとする。
「それでも大きさはあるし、傷もない、中の透明度も申し分ない……」
「うん」
「……七千ヤル、くらい」
「うん、その値段なら問題ないね」
「良かったぁ……」
緊張の面持ちでオーロラ鉱石の鑑定を終えたギーネがオーロラ鉱石を渡してきたので、受け取ってそのままアンドレイに横流しする。
慣れた様子で受け取ったアンドレイがそのまま鉱石を仕舞いに行ったので、もう一口マグカップの中身を飲み込んでからゆったりと声を出した。
「もう少し盛ってしまってもいいね、その辺は結局交渉の内容と相手によるけれど」
「団長が貴族嫌いなだけじゃないの?」
「皆が皆嫌いな訳じゃないよ。嫌な思いをした相手が複数いるだけで」
「それを嫌いって言うんじゃないの?」
「結局のところ貴族云々より個人だからねぇ……まぁ、好きじゃないのは認めるけれど」
気が抜けたのかのんびりと声を出すギーネの頭を軽く撫でる。
見た目で言えばほとんど変わらないし、なんならギーネの方が歳上だと見られることすらあるが、実際はチグサの方が一回り程歳上である。
チグサが拾ったこともあり、乗せた直後はそこそこ構っていたのだけれど、店番を任せきりに出来るくらいには育ったせいであまり構わせてくれなくなったのだ。
なのでこうして撫でさせてくれる時には遠慮なく撫でておく。
すくすく育って身長も伸びたせいで、普通に並んでいると撫でられないのもこういう戯れが減った理由だ。わざわざ座らせないと撫でられないし、座ってくれない。
乗った頃は可愛かった……とも、思わないので、まぁ健康に育ってくれて何よりだというのが毎度の感想である。
「……団長が飲んでるそれなに?」
「アンドレイに渡されたからボクも知らない。多分サシャが作ってるんじゃないかな?」
火のすぐそばにいるサシャは小鍋を火にかけてかき混ぜているし、恐らくあの鍋の中身だろう。
そう告げると立ち上がってそっちに行ってしまったので、撫でる物が無くなってしまったチグサはとりあえず戻って来たアンドレイの頭に手を伸ばした。
「なんだよ」
「手が空いて暇でね」
「大人しくそれ飲んでろ」
アンドレイにも避けられてしまった。
先ほど座っていたチグサの真横ではなく、ギーネが座っていた場所に腰を下ろしたあたりに拒否の姿勢を感じる。
「カタリナを撫でてきなさい」
「手が冷たいって逃げられるんだ」
諦めて座り直して、マグカップの中身を一口。
なんだか火の傍でやいのやいの騒いでいるけれど、それはいつもの事なので気にしない。
アンドレイもそっちを眺めているけれど、何か言うつもりはないみたいだ。
そんなわけで二人揃って静かに火の傍のどんちゃん騒ぎを見守って、マグカップの中身が無くなったところで立ち上がる。
アンドレイも立ったので、揃って火の傍に寄った。
「さ、そろそろ寝ようか。明日はズスの隠れ里に行くよ」
「はーい、団長そのマグ貸して」
「自分で洗うよ?」
「採掘行って疲れたでしょ。やっとくから先に寝てて」
「そうかい?じゃあお言葉に甘えて」
差し出された手にマグカップを乗せて、とりあえず髪を解く。
普段の野営なら気温によって水浴びなりなんなりするのだけれど、ここでそんなことをしたらうっかり凍ってしまうので髪は濡らさないでおく。
歯を磨きつつあたりを見渡して、火の傍にいたアンドレイに声を掛けた。
「ボクは上に行くけど、アンドレイどうする?」
「カタリナ回収していく。レウコスは……もう上か?」
「あの塊レウコスじゃないのかい」
もこもこの布で一塊になっている寒がりたちの回収を行って、馬車の二階の床が少し高くなっている、普段から雑魚寝場所になっているところに向かう。
人を運ぶくらい出来るけれど、担いで梯子を上るのはちょっと危ないのでチグサは先に上に上がって布団の準備をしておいた。
懐から杖を取り出し、炎と風を作り出して軽く混ぜて布団の周りを温め、事故が起こる前に火を消してもそもそ梯子を上って来たレウコスを布団に突っ込む。
その流れでアンドレイに担がれてきたカタリナも布団に突っ込み、自分も布団に入って目を閉じた。
まだ寒いのかカタリナが寄ってきたので抱え込みながら、採掘の疲れもあって速やかに眠りに落ちて行った。




