20,オーロラ鉱石だ
スキュシ鉱石の採取は五人で持って行ける分だけと決めているので、その決まり分が採掘終わると来た道を戻ってアジサシ馬車の所まで行くことになる。
いつも移動含め一日で終わる作業で、早々何かが起こることは無い。のだが……
「だんちょー!なんか別の鉱石があります!」
「別の?ちょっと待って……どこだい?」
コリンが何かを発見したことで、今回は少しだけ採掘の手が止まることになった。
アジサシとしてもそこまで頻度よく来る場所ではないので、ここで何が取れるのかという調査は進んでいるわけではない。
ついでにコリンは珍しい物を見つけがちなので、何か知らない物があると聞いたら是非にでも確認はしないといけないのだ。
そんなわけでつるはしを置いて駆け寄ってきたチグサは、コリンが指さす先にある鉱石に目を凝らす。
「……あぁ、オーロラ鉱石だ!あっはは!アンドレイ、これ取って!」
「オーロラ鉱石?そんなの取れるのか、ここ」
目を凝らして確認した先にあった鉱石、その情報が脳内に上がってくるのと同時に、思わず笑いが零れた。確かにあっても可笑しくはない鉱石だが、まさかあるなんて思ってもみなかった物だ。
オーロラ鉱石、かなりの希少品である。これはまた、とんでもない物が見つかった。
コリンは相変わらず珍しい物を見つけるなぁ、なんて考えている間にアンドレイが手際よく鉱石を掘り起こしており、ほどなくして採掘されたオーロラ鉱石を渡された。
光を反射し、七色に輝く美しい鉱石は装飾として昔から変わらぬ人気がある。
「寒さに震えるレウコスへのお土産にしよう」
「どんな反応しますかね、レウコスさん」
「一瞬でも寒さより鉱石に意識が向くんじゃないかな」
アジサシで装飾と言えばの男は、今のところもこもこの布に包まれて火にあたってしおしおになっているところだけれど、オーロラ鉱石が出たと聞けば流石にもこもこの布から出てくるだろう。
その後何か装飾品に加工を始めるか、寒さに負けて布の中に戻るかはまだ分からない。
第六大陸を出てから加工する可能性もあるし、今回は手を付けずにそのまま売られるのを待つことになる可能性もある。
レウコスは貴重な素材を使って一点物を作るよりも、その時の気分で物を量産することが多いのでどうなるのかはチグサにも分からないのだ。
「楽しみですね!」
「そうだね」
元気のいいコリンに返事をして、チグサはオーロラ鉱石を布で包んで荷物に加えた。
その後、元々の目的であるそれぞれが問題なく背負える分のスキュシ鉱石を採取していく。それ以降は特に別の鉱石が発見されることも無かったので、平和な採掘だった。
残りの採掘を済ませたら行きと同じ並びで馬車の場所まで戻ることになる。
帰り道も飛ばないように注意が必要だが、荷物分重くなっているので多少飛びにくくはなっているだろう。飛んだ後に無事でいられる可能性も下がっている気はするが。
何はともあれ気を付けて進む必要があることに変わりはない。
飛んだら頼むよ、と行きと同じようにアンドレイに声を掛けて、自分の荷物を背負って腰の命綱を確認したら歩き出す。
「さぁ、戻るよー!帰り道も気を抜かずに行こう」
「おー!」
「元気だなぁお前ら」
元気よく突き上げた拳に同調してくれたのはコリンだけだったが、他三人は基本的に乗って来ないタイプなので気にしない。
セダムは乗ってくれることもあるが、チグサの唐突なハイテンションにいつでも付いて来れるのはコリンくらいだ。
そんなことをやっている間に先頭のセダムは洞窟から外に出たようで、吹き込んで来る吹雪の勢いに負けないように荷物を背負い直す。
とんでもない吹雪であることに変わりはないが、心なしか行きよりも勢いが弱まっている気がする。
油断は命取りだと分かってはいるけれど、それでも予定通り馬車の所まで戻れそうだと緩やかに息を吐いた。
その直後に突風が吹いてちょっとヒヤッとさせられたので、やはり油断は禁物だけれど。
「団長!」
「分かってる、大丈夫。……ごめんごめん」
突風にあおられかけたチグサ本人よりもヒヤッとさせられたらしいアンドレイに怒られながら、しっかり壁に手を付いてじりじりと進んで行く。
そうしてじっくり時間をかけて吹雪の雪山を降ってきて、どうにか日が暮れる前に馬車のある洞窟まで戻ってくることが出来た。
火を焚いているからか他に比べて圧倒的に暖かい洞窟に入って安堵の息を吐き、チグサ達の帰還に気付いたらしいサシャが確認に出てきて、笑顔で出迎えられた。
上着を脱いでエプロンを付けている辺り、料理中だったのだろう。
「おかえりなさい!ご飯出来てるよ!」
「やったー!」
「ただいまサシャ。レウコスは布から出て来たかい?」
「腕だけね。ご飯を食べる気はあるみたい」
その様子を想像して思わず笑いながら、荷物と身体に積もった雪を払って洞窟の奥へと進む。
火の傍で一塊になっているレウコスとカタリナを見つけて笑っていたら、馬車で作業中だったらしいギーネがやって来たので、とりあえずただいまと声を掛けた。




