19,飛んだら頼むよ
第六大陸に到着してから一夜が明け、今日はスキュシ鉱石の採取に向かう予定になっている。
採取場所はここから少し山を登った先だ。洞窟内をある程度は進めるけれど、外を通って行かないといけない所もある。
レウコスとカタリナは当然付いて来ないので、火の番と荷物番を頼んである。ギーネとサシャもついでにやりたいことがあるから、と残るらしい。
あの感じは多分時間のかかる煮込み料理の下準備とかだな、とあたりを付けて、チグサは夕食を楽しみにしつつ鉱石の採取に出発した。
第六大陸の雪山、しかも山頂付近なので、万が一にも逸れたりしないように腰に付けた道具入れにロープを通して全員を繋ぎ、一番慣れているセダムが先頭に立って進んで行く。
洞窟から一歩出た瞬間に襲い掛かってくる横薙ぎの吹雪に思わずはしゃいだ声を出しつつ、飛ばされないように壁に沿って歩いて行くと、別の洞窟の入口があって安全な場所に入り込めるのだ。
「あっはっは!相変わらず凄い吹雪だねぇ!」
「凄かったですね!」
「はしゃいで飛ぶなよ二人とも」
コリンと二人、身体についた雪を払いながら笑っていたら、しんがりで吹雪の中を進んで来たアンドレイに呆れた顔をされた。
確かに採掘班の中では軽い二人なので、あまりはしゃいでいると飛ばされかねないのは確かだ。
「飛んだら頼むよ、アンドレイ」
「飛ばない努力をしてくれよ団長」
「努力したって、飛ぶときは飛ぶよ」
遭難防止に腰の命綱と、それを壁に固定する大きな杭を先頭のセダムとしんがりのアンドレイが持っており、動かしながら進んでいるのだ。
なので、飛んでもまぁ、どうにかなる可能性はある。どうにもならない可能性もあるし、全員を巻き込む可能性もある。それも込めての頼むよアンドレイである。
「おし、行くぞー」
「はーい」
「あと何回くらい外出ますか?」
「三回くらいかなぁ」
「一本長い所があるからなー。飛ぶなよコリン」
「分かりました!」
「飛ぶなよ?」
コリンとチグサの間にはエリオットが立っているので、飛んだらエリオットにもどうにか頑張ってもらうことになる。
軽い二人を他三人で支える形だ。それでも一緒に行った方が効率は良いので、五人で向かっている。
何往復もするのは嫌なので、一往復で取れるだけ取って帰ることにしているのだ。
そのためには人数が多い方がよく、飛びかけるとはいえ器用でそこそこ筋力のあるチグサとコリンは連れて行きたい人員であり、それはそれとして飛ばないようにちゃんと気を付けてほしいという思いも消えない、複雑な心境なのである。
などと、アンドレイの内心を勝手に語りつつ、チグサは吹雪を運ぶ風に飛ばされないように、壁に張り付くようにしてどうにかこうにか雪道を進み、採掘場に入る前の最後の休憩ゾーンまで辿り着いた。
髪の毛の先が凍っている気がするなぁ、なんて思いながら前髪を弄ってみたら本当に凍っていたので、触るのをやめて後ろを振り返る。
「無事かいアンドレイ」
「お陰様でな」
「ははは。さぁ次を越えたら採掘場だよー」
途中の道でよろめいたチグサを支えようとしたアンドレイの顎に頭突きをかましたりもしたが、全員無事にここまでは来られたので、少し休憩したら最後の雪道を越えてスキュシ鉱石を採掘できる洞窟に入ることになる。
コリンはまだまだ元気だが、エリオットはそろそろ疲れが見えて来ているので、飛ばされないようにしっかり休んでから向かわないといけない。
なんて考えている間に先頭のセダムはそろそろ行くか、という気配を醸し出し始めたので、一度止めて呼吸を整えた。
「よし、皆行けるかい?」
「はーい!」
「おー……」
「行きましょー!」
コリンの元気の良さに押される形で移動を再開し、再び吹雪の中を進んで行く。
この道はそこまで長くないので、採掘場と呼んでいる洞窟まではもう少しだ。
下手に口を開けると雪が入ってくるわ口の中が凍りそうになるわで良い事が無いので、吹雪の間は出来るだけ無言で歩く。
というか、吹雪が強すぎて声が届かないから話せないのだ。
なので口を開く必要も無いだろうという結論になるのである。何か不測の事態が発生したら、とりあえず大声を出せがこの道を進むときのルールである。
そんなわけで無言で吹雪の道を進み、ようやく採掘場へと辿りついた。
久々にやって来たが、相変わらず他の人間が来ている痕跡はない。
単に痕跡も残さず帰っている可能性もあるけれど、まぁ人が盛んに来るような場所にはなっていない、という事なのだろう。
「よーし、ついた。さぁ、採掘を始めよう」
「ちょっと休もうぜ団長……」
「よし、エリオットは休むらしいからボクと行こうか」
「はーい!」
まだまだ元気なコリンと一緒にチグサが荷物を下ろして採掘準備を始めると、アンドレイも休んでから行く、とその場に腰を下ろした。
セダムは一緒に来るらしいので、三人で先行隊だ。
「さぁ、頑張って掘ろう」
「おー!」
「コリンはとりあえず団長にやり方習え。俺はちょっと奥まで行ってくる」
「はいはい、気を付けて」
ついて来るコリンに説明しつつ鉱石が露出している場所を探し、持ってきたつるはしで鉱石よりも一回り大きく岩肌を削っていく。
横で作業しているコリンの様子も逐一確認しながら最初の一個を掘り起こし、手の上に鎮座するその鉱石を目の前にかざした。
少しの光でも反射して内部から光っているように見える、透き通った氷のような石。
これが、スキュシ鉱石である。




