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15,リコリスに行こう

 目的だった流星鱗を手に入れた後は、次にどこに行くかの話し合いをすることになった。

 それまで夜に合わせていた活動時間を再度昼間に合わせるために睡眠時間の調整なんかをしながら、他に欲しいものや店の在庫を照らし合わせて行き先を決める。


「モーショボーは?すぐに行く?」

「急ぎではないよ、時間の感覚も違うしね」


 モーショボーの魔女には、またそのうちモーショボーに向かう時に顔を出せばいいだろう。

 一年後に行ったとしても、彼女はきっと「早かったね」と言うだろうから。

 となると他の用事だが、急ぎは特になかったはずだ。


「じゃあリコリスか?」

「そうだねぇ、ポーション類は……まだあるね」

「この間エキナセア寄ったしな。他にいる薬ってあるか?」

「ギーネ?」

「強いて言うなら軟膏と……止血剤はもう少しあってもいいかな」


 行ったら何かしら用事は出来るだろうから、行ってしまっていいだろう。

 久々に顔を出す、というのも立派な用事になり得るのだし、渡したい素材もある。

 他に何か行く場所の候補も出なかったので、向かう先は確定した。


「よし、なら出発準備だ」

「はーい」


 パンッと手を叩いてチグサが立ち上がり、それを合図にして各々が作業のために動き出した。

 目的地が決まったら、次にすることは当然移動だ。

 次の目的地である「薬屋・リコリス」は第四大陸にあるので、現在地からはそこまで遠いわけでもない。……いや、アジサシの移動力が高すぎて遠いと思っていないだけで、それなりに距離はあるが。


 それでも隣の大陸ということもあり、ほどほどに近いのも確かだ。

 出発準備を終えて馬車に乗り込み、動き出した馬車の中から外を眺める。

 空中を走り出した馬車は、走り始めた場所が高原だったこともありかなり高い位置を進んでいる。


 この高さを進んで行けば、人に見られる心配も無いだろう。

 それでも念のため外海の方へ回って海の上を通り、上空から第四大陸へと入る。

 第四大陸は内海に隣する五までの大陸と、外海に囲まれた六七の大陸を結ぶ大陸だ。もう一つ大きな特徴として、大陸の大部分が森に覆われている。


 数ある森の中でも特に大きな森が、大陸中央にあり大陸の三分の一ほどを覆っている「迷いの森」と呼ばれる森だ。

 呼び名の所以は、森の中に魔力が溜まりすぎていて道案内の魔道具が誤作動を起こし、さらにはその森の魔力の所為で植物の成長が早く、頻繁に道が変わるから。


 魔力の溜まりすぎる土地は、人間には暮らしにくい。

 その溜まりすぎた魔力の所為で魔物や魔獣までやたらと育ち、本来とは違う変化をすることもあるので危険も大きい。

 利点が無い訳では無いが、圧倒的に面倒事が勝つのが迷いの森という場所だ。


 それを、前提として。

 では人が住めないのかと言われると、それも違う。


 勿論無条件で住めるわけではない。

 必要なのは、迷いの森に住む強い魔物、魔獣たちに対抗できるくらいの武力か、そもそも見つからないようにする魔法。

 それがあったとしてもわざわざ住もうと思う者は、恐らく普通の国では暮らしにくい者だ。


 人間が人間として生きていくのなら、人間が集まる場所の方が生きやすい。

 食料にしろ生活必需品にしろ、自力で用意できない物を入手するためには人の集まる街や国に足を運ぶ必要性があるからだ。

 けれど人の集まるところだと面倒事が勝つと言う人も当然いる。


 アジサシの中で言うと、カタリナとエリオットがそれにあたる。

 カタリナは獣人差別があるから生きにくく、エリオットは目の色が特殊で厄介ごとを引き寄せるから生きにくい。


 窓から下を見ると、馬車は迷いの森の上に差し掛かっていた。

 そのまま進んで行くと、森に一部、ぽっかりと穴が開いたかのように木の生えていない場所がある。

 そこが今回の目的地、薬屋リコリスのある土地だ。


 馬車がゆっくりと降りて行き、来訪に気付いたらしい人影が建物から出てくる。

 キラキラと日の光を反射する黒髪と、同じくキラキラ輝く黒色の瞳。

 表情をパッと明るくして止まったアジサシ馬車に駆け寄ってきたその姿はまるで少女のようだ。


「チグサさーん!」

「やぁ、久しぶりだねアオイちゃん」


 迷いの森の中央にある薬屋リコリスの店主、アオイ・キャラウェイ。

 彼女がここに住んでいる理由は、その美しさと有能さからどこかの国に留まると面倒事が押し寄せてくるから、である。

 人間の集団の中で生きるということは、思ったより色々と面倒があるのだ。


 チグサとアオイはほどほどに長い付き合いで、彼女が独立してここに家を建てる以前からの仲である。

 目の奥がチリチリと違和感を発するが、すべて無視してチグサはアオイに笑いかける。

 師弟揃って隠し事が多いのは、一体何の因果なのか。なんて思いつつも表情は変えずにアジサシを開店させ、今回立ち寄った訳を告げた。


「仕入れに来たのもあるんだけれどね、まずはこれ。必要かなと思って」

「これはー……ガッペングレーの血ですか?わぁ、蹄もある」


 薬に関することなので、何も言わずとも伝わったようだ。

 相変わらずすごいものを……と呟いているアオイに笑って、チグサは君に言われたくはないけれどね、とついうっかり声に出した。

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