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12,何を騒いでいるんだい

 野営の支度も終わり、暇になったチグサはモーショボーで買い取った置物を手に持って眺めていた。

 目の奥がチリチリと違和感を発する。

 何か隠し事のある人を前にした時とは違う違和感は、結局チグサしか分からないから言語化は出来ずに今日まで来ている。


「あんまり見てると疲れるだろうに……」

「まだ平気だよ。アンドレイ、これなんだと思う?」

「チグサが分からない物が俺に分かるか」

「雑だなぁ。一回見てみるくらいしておくれよ」


 何か物を取りに来たらしいアンドレイが棚を漁っているのを横目に、チグサは持っていた置物を握って目を閉じた。

 こういった、他と違う違和感を発するものに出会うのは初めてではない。


 正直に言うと、その気になればこれが何なのかをはっきりさせることも出来るのだろうという予感はしているのだ。

 けれど、チグサはその予感を無視して目が訴える違和感をそのままにしている。


 そのあたりの事をはっきりと言葉にして伝えた相手はアンドレイだけだが、アジサシの団員たちは皆何となく察してそのあたりに触れないようにしているようだった。

 皆優しいなぁ、なんて思いながら目を擦り、チグサは目を開く。


 先ほど一瞬滲むようにぼやけた視界は元通りになっており、手の中の置物を元の箱に戻して外に出る。

 馬車の外では完成した簡易かまどに置かれた鍋から何やら甘い匂いが漂ってきていた。

 木べらを持って鍋の前に立つサシャの横には、待てを食らっているらしいコリンがソワソワと鍋を眺めている。


「団長、事後報告だけど、果実痛んで来てたからジャムにしちゃうね」

「いいよー、サシャに任せる」

「パイにはしないのか?」

「するよ。言うと思って準備してある」


 流石サシャ、と声を揃えて言えば、サシャは笑顔を返してきた。

 そのまま鍋に寄って行こうとするコリンを止め、寄ってくるアンドレイを足止めし、その状態で一切問題なく作業を進めている。


 慣れを感じるその動きをしばらく眺めていると、いつも以上に着込んだレウコスが横に来た。

 第一大陸は温暖だったので薄着で過ごしていたが、第五大陸は特別温暖ではなく、何ならここは標高の高さもあってそれなりに冷え込む。


 チグサは気にならない程度の気温だが、レウコスには少し肌寒く感じられるのだろう。

 手の甲を覆うほどの、少し大きな毛糸編みのカーディガンはいつも着ている物だが、それに加えてひざ掛けまで持ってきている。


「団長、見て」

「うん?……おや、また随分と凝ったものを……」


 チグサの横に座ってひざ掛けの位置を調整し終えたレウコスが手に持っていた物を見せてきたので、素直に受けとってピンと張られた布の上を見る。

 そこには刺繍で花畑が作られており、揺れる馬車の上でよくここまで正確な物が作れるなぁと過去何度も思った気がする関心がもう一回分積み重なった。


「何も考えずに始めたんだけど、これ何にしよう」

「小物……ポーチなんかにしてもいいし、カチューシャとかでもいいかもね。後回しでもいいよ」

「じゃあとりあえず好きなように刺繍だけするわ」

「いいよー」


 とりあえずただ刺繍がしたいだけらしいレウコスに返事をして布を返し、遠くで何やら騒ぐ声が聞こえてきたのでそっちに目を向ける。

 恐らくエリオットとセダムだろうから心配はいらないと思うけれど、一応見てきた方がいいだろう。


「何騒いでんだろ」

「ちょっと見て来るよ」

「はーい」


 レウコスも気付いたようで顔を上げたので、作業してていいよ、と声を掛けてから声の方へ歩いて行く。

 その先にいたのは案の定エリオットとセダムで、二人でなにやらやんややんや言いながら遠くを指さしている。


「何を騒いでいるんだい」

「お、団長。見てみろよあそこ。ガッペングレーの群れだ」

「おや、本当だ」

「寄ってきそうだったから追っ払おうと思ったんだけどよ、逃げねぇから何体か狩るかっつってたんだ」


 指さす先には、確かにそれなりの大きさの動物が群れを成してこちらを見ている。

 ガッペングレーは六つ足の動物で、群れを作り人から離れた場所に生息する。

 この場所で今まで見たことはなかったが、どこかからやって来たのだろうか。


 寒い土地に適応するために厚い脂肪と長い毛を持ち、人から離れて過ごす故に希少価値がある。

 その毛皮は防寒に非常に優れているし、蹄と血が薬の材料になる。

 狩るのであれば、そう悪くない相手だ。確か肉も食べれたはずだし、毒でもない限りサシャはそれを美味しい料理に変えてくれる。


「うん、向こうが逃げて、寄ってこないように……一体か二体か、それくらいだけ狩ろうか」

「了解」


 返事をして、エリオットが剣を抜く。

 それでもなお逃げない群れに、チグサは思わず苦笑いを零した。

 人から離れて生きた結果、人を外敵と認識することを忘れたのだろうか。


 あんまり警戒心が無いとうっかり狩り尽くされてしまうから、出来るだけ寄ってこないで欲しいものだ。

 そんなことを考えている間にエリオットが手際よく群れの一体を狩り、それを受けて群れが逃げ始める。


 逃げるのが遅かったので、もう一体がエリオットに捕まった。

 その後は群れを追うことはせず、セダムが寄って行って狩った二体の解体を始める。

 その血を回収するための瓶をチグサが行っている間に、ある程度作業は進んでいる事だろう。

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