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1,さあ、行こうか

 気持ちの良い晴天の下、複数の人影と二頭の馬が川の畔で穏やかに過ごしていた。

 そのすぐ傍には、一目で馬車だとは分からないほど大きな馬車が止まっている。

 下手な小屋ほどの大きさがあるその馬車は、二階建てに見張り台がついて三階層になっており、今は一階の片側の壁が開いてテーブルのようになっていた。


 開いたテーブルは、外から見ると店のカウンターのように見える。

 そしてそれを肯定するかのように、カウンターの端では看板が揺れていた。

 「アジサシ」と端的に描かれた看板には鳥の絵も描かれており、同じものが馬車の後ろ側、出入り口の横と馬車の前側、御者台の横にもかけられている。



 アジサシ、とは、かなり有名な世界中を旅する旅商人だ。

 「移動型万能店アジサシ」と聞けば、買い物はせずともこの巨大な馬車を一目見ようと人が寄ってくるくらいには、人気も知名度もある。


 最初に移動型万能店、なんて大仰な名前を名乗ったのはほんの戯れだったのだが、思ったよりも浸透してしまったからそれを名乗り続けている。

 大仰な名前が受け入れられてしまったのは、アジサシの面々が言うところの団員、とどのつまりはアジサシの店員たちが、揃いも揃って多芸だったからだ。


 旅商人だ、と言うくせに、下手な冒険者よりも強く、道中出くわした魔物を倒して素材を確保し、それも売り物に追加する。

 素材の確保だけでなく、加工も自分たちで行う。


 訪れた村で困りごとがあれば、大抵のことは解決して次へ行く。

 そんな集団なので、万能店だろうが何だろうが、名乗ればなるほどそうなのかと受け入れられてしまったのだ。


 そんなアジサシの「団長」は、現在馬車の一階の屋根、二階の窓から出られるお気に入りのその場所で、寝転がってのんびり昼寝をしていた。

 普段はキッチリお団子に纏めているブロンドの髪を下ろしたまま、頭の後ろに腕を回して、足は投げ出して完全に気を抜いている。


 「アジサシの団長」をやっている時には見られない姿だが、団員たちからすれば見慣れた姿なので誰も気にせず好きに過ごしていた。

 今はアジサシの休憩時間、次の目的地を定めるまでの、束の間の休息だ。



 アジサシは、世界中のどこにでも行く。

 珍しいものがあると聞けばそこへ行き、新しいものがあると聞けば超特急で寄ってきて、そうして気ままに旅をしているのだ。


 滅多に現れない魔獣や幻獣の出現を予測して動くことも多いので、いつだって慌ただしい。

 だからこそ、こういった平和で何もすることが無い時間は各々好きに羽を伸ばして過ごすのだ。


「おい、チグサ」

「なんだいアンドレイ」


 思うがままに特等席である屋根の上でゴロゴロしていた団長、チグサの元に、二階の窓から声がかけられた。

 目も開けずに返事をすると、声を掛けてきた男が窓枠を越えて屋根の上に座った音がする。


 この男は、アンドレイ。チグサが「アジサシ」と名乗って旅商人を始めた、その最初の頃からずっと共に居る男で、だからかいつの間にか副団長と呼ばれるようになっていた。

 本人にその気はないらしいが、チグサもまぁ、副団長という役を作るのならアンドレイだろうなぁと思っているので否定もしていない。そのせいで、いつのまにやら副団長だ。


 普段は急ぎの用事を持ってくることも多いアンドレイだが、チグサは身体を起こす気はなかった。

 急ぎの用事は基本的に、アジサシの仕事だ。

 仕事の事ならアンドレイはチグサの事を「団長」と呼ぶ。だからこれは、仕事の話ではない。


「第三大陸は、もう雨期明けたよな」

「そうだねぇ」

「……果実の買い付け、行かね?」

「好きだねぇ」


 ふは、と空気を零すように笑って、チグサは身体を起こした。

 そしてその場で胡坐をかいて、アンドレイに向き直る。

 髪を手櫛で纏めながら、同じように胡坐をかいて座っているアンドレイに目を向けた。


「アンドレイが食べたいだけだろう、それ」

「まぁ、そうだけども」

「んはは。まぁ、いいよ。他に何か用事を作ろうか」

「ポーションは?」

「積んでもいい頃だねぇ」


 髪を一つに纏めて、お団子にしたらポケットに突っ込んでおいた布でくるんで、同じくポケットに突っ込んでおいたリボンでそれを纏める。

 あっと言う間にいつも通りのアジサシ団長の姿になったチグサは、屋根の上を端まで移動してカウンターを作業台にしている人影に声を掛けた。


「ギーネ!」

「はいー?」

「行き先が決まったよ、第三大陸」

「はいはい、了解」


 すぐに返ってきた返事を聞いて、チグサは満足そうに笑う。



 それから一夜明けて、アジサシは出発準備を整えた。

 野営の為に広げていた物を全て馬車の中に積み込んで、カウンターはしっかりと閉じて壁にする。

 遊ばせていた二頭の馬を牽引用のハーネスでつなげば、すぐにでも馬車は動き出す。


「さあ、行こうか」


 チグサの一声で、馬車がゆっくりと動き出した。

 徐々に速度が上がっていくのを感じつつ、適当な場所に腰を下ろして窓の外で流れていく風景を眺める。

 第三大陸での用事は、思いつく限りでも幾つかあったが、行けばまた用事が増えるだろう。


 ついでにあれもしよう、これもしよう、と楽しく考えている間に、充分勢いの乗った馬車は地面から離れ、空を進み始めていた。


 移動型万能店に、常識というものは通用しないのである。


 始めまして、もしくは毎度どうもこんにちは、瓶覗です。

 新しく始めたこちらの話ですが、ずっと書いてる世界観の話で、細かい設定とか説明した気になって説明し忘れててる可能性がございます。もしあったらごめんなさい。なるたけ気を付けます。


 それから、ほどほどに長くなる話だとは思うのですが、もし気に入っていただけたら最後までお付き合いいただければなと思います。

 是非お気軽に寄って行ってください。


 そしてブクマとか評価とかいいねとか、貰えると跳んで喜びます。是非お気軽に押していってください。

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