コンテスト
片桐さんの様子がおかしい。
今日は休みなのだが、何処かソワソワしている。
何かあるのだろうか。
さっきからスマホを何度も上から下へスワイプし、再読み込みを繰り返している。
開いている画面は恐らくメール画面だろうか。
「……どうしたんですか?片桐さん。」
「えっ!?いや、何でも……無い……よ?」
妙に歯切れが悪い。
別に隠すほどの事でも無いだろう。
今思い出したが、今日はコンテストの一次審査の結果発表の日だ。
そのコンテストに片桐さんは応募していた。
コンテストで受賞すれば書籍化が確約され、更には賞金も出る。
その結果が今日分かるのだ。
……まぁ、結果は目に見えているのだが。
「ちょっとくらいは落ち着きましょうよ。どうせ落ちてるんですし。」
「えぇ!?分かってるんなら聞かないでよ!ていうかさり気なく酷くない!?」
まぁ、少し悪い事をした気がする。
が、本音だし謝るつもりはない。
まさか片桐さんも手応えがあるとは思っていないだろう。
……私も結果は気になるな。
「で、まだなんですね。」
「うん。」
そう言いながらスワイプしている。
というか何故この人はメールを見ているのだろうか。
「因みに、一次審査はメール通知はありませんよ。」
「えぇ!?」
すると、メールを閉じ、写真フォルダを開き、スクショしていた応募要項等を見直す。
「ほ、本当だ……。」
「ホームページで通知されますよ。一次審査なんですし、運営も山ほどいる通過者に一人一人に通知してられませんよ。」
「確かに……。」
片桐さんは直ぐ様ホームページを確認する。
どんどんスクロールしていく片桐さん。
すると、唐突に手を止めた。
「と、巴ちゃん……。」
「……え!?まさか!?」
片桐さんの元へ駆け寄り、スマホを覗く。
そこには私達が書いた作品の名が確かにあった。
「つ、通過したよ!巴ちゃん!」
「は、はい!」
思わずハイタッチしてしまう。
そして、そこで一つ思い出す。
(違う、喜ぶ所じゃないでしょ。本当ならがっかりしなくちゃ駄目なのに……。)
片桐さんの顔を見る。
案の定、ものすごい喜んでいる。
……まぁ良いか。
別に書籍化が決まった訳でも無い。
まだ一次審査。
どうせ二次審査では落ちるだろう。
取り敢えず私の実力が認められたということでもあるし、素直に喜んでみても良いだろう。
実際、喜んでいる自分もいる。
「じゃあ片桐さん!お祝いしましょう!片桐さんの奢りで!」
「うん!……うん?」
多少戸惑っているが、ごり押ししよう。
バイトを始めてから給料の多くは片桐さんに上げているが、少しは自分の小遣いも確保はしている。
そして、外食する際は互いに金を出そうと話が纏まった。
片桐さんは貯蓄はあるものの収入が無いに等しいので少しは助けになればと思っての事だった。
元々は日頃の食事代や生活費を全て負担しようとも思っていたのだが、片桐さんが頑なに断るので折衷案となった。
「えぇ……。」
「このまま行けば賞金出るんで!良いでしょ!ご馳走さまです!」
流石に高い店に行けるだけの貯蓄は私には無い。
なので、ここは奢ってもらおう。
そして、貯蓄が無くなって賞金も貰えずに働くしか無くなれば夢も諦められるだろう。
そして、この人はゴリ押しに弱い。
「よ、よーし!じゃあ、私が奢ってあげよう!」
「さっすが!」
持ち上げるのも疲れるが、お祝いしたいのも確かだ。
この調子で行けるよう、頑張ろう。
次は二次審査だ。
突破できる気はしないが、出来れば良い。
それに、楽しみにしている自分もいる。
もう、死のうとかしなくても良いかもしれない。
やっぱり今を楽しむのが一番だな。
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